ありすしーののけっこんしき!
| 名称 | ありすしーののけっこんしき! |
|---|---|
| 読み | ありすしーののけっこんしき |
| 分類 | ネット文化・二次創作儀礼 |
| 発生地 | 日本の動画共有サイト周辺 |
| 成立時期 | 2014年頃 |
| 主な媒体 | 掲示板、配信チャット、同人誌、短尺動画 |
| 関連人物 | 不二川れもん、堂島ミキオ、佐伯しのぶ |
| 象徴物 | 白い紙テープ、疑似誓約書、缶バッジ |
| 派生形 | 略式披露宴、逆入場、深夜二次入籍 |
ありすしーののけっこんしき!(ありすしーののけっこんしき)とは、ごろのの匿名掲示板および動画投稿文化圏で発生した、架空の祝祭演出を伴う二次創作儀礼を指す。空想上の花嫁「ありすしーの」を中心に、配信コメント欄や同人即売会で擬似的な挙式を再現する行為を行う人を式執行ヤーと呼ぶ。和製英語・造語である[1]。
概要[編集]
ありすしーののけっこんしき!は、頃に周辺の配信文化と、系のコメント芸から派生したとされる擬似婚礼文化である。主にキャラクター「ありすしーの」を祝福する形式を取り、実際の婚姻とは無関係であるが、当時の参加者はこれを「感情の頒布儀式」と呼んでいた[1]。
この文化は、ファン同士が架空の誓いを読み上げ、祝電風コメントを大量に流し、配信者が簡易的な指輪箱や紙製のケーキを用意することで成立した。特に深夜帯の配信で盛んになったとされ、1回の「挙式」で平均して前後のコメントが流れたという記録がある[2]。なお、この数字は後年のまとめサイトによって誇張された可能性も指摘されている。
ありすしーののけっこんしき!の特徴は、祝福と茶化しが同居している点にある。参加者は「新婦」「司会」「親族代表」などの役割を演じる一方で、急にゲーム実況へ脱線することも多く、明確な定義は確立されておらず、同一の語が異なる文脈で使われることがしばしばあった[3]。
定義[編集]
ありすしーののけっこんしき!とは、架空の花嫁像を共有しつつ、配信空間内で結婚式の体裁を借りた交流を行うネット上の儀礼を指す。語尾の「!」が付く表記が標準とされるが、これは感情の昂揚を示すだけでなく、同時に「厳密な婚姻ではない」ことを示す記号でもあると説明される[4]。
この文化を行う人は式執行ヤーと呼ばれ、配信者側の演出担当、コメント欄の進行役、同人誌で式次第を作る頒布担当などに分かれる。特に「誓約朗読係」は、一枚の原稿をで読み切る技能が求められたとされ、読み上げの途中で笑ってしまうと「再入場」としてやり直しになる慣習があった[5]。
一方で、学術的には二次創作儀礼、疑似共同体形成、あるいは祝祭型ミームの一種として位置づけられることが多い。しかし、当事者の多くは理屈よりも「式っぽい感じ」を重視しており、実際には定義より空気が先に存在したとみられている。
歴史[編集]
起源[編集]
起源については諸説あるが、もっとも有力なのは末にの小規模配信コミュニティで行われた「仮入籍ごっこ」が母体になったとする説である。ここで用いられた「ありすしーの」は、当時人気だった匿名投稿者が考案した甘味系ハンドルネームで、実在の人物名ではなく、いちごシロップを連想させる響きから採られたという[6]。
になると、動画編集者の不二川れもんが、結婚式風のBGM、紙吹雪、擬似祝電を組み合わせた短編動画『ありすしーののけっこんしき予告篇』を投稿し、これが拡散の起点になったとされる。動画は再生され、コメント欄の約が「おめでとう」で埋まったという解析結果が後年示されたが、算出方法には異論がある[7]。
年代別の発展[編集]
頃には、同人即売会の一角で「仮想媒酌人」を名乗るサークルが増え、誓約書風の折本や、招待状を模したステッカーが頒布されるようになった。特にのイベント会場では、開場からで「式次第本」が完売ではなく頒布終了となる例が相次ぎ、主催側が導線整理を行う事態もあった[8]。
以降は、配信プラットフォームの機能変化に伴い、リアルタイム投票やスタンプ演出を組み込んだ「インタラクティブ挙式」が流行した。佐伯しのぶが考案した「逆入場」形式は、新郎役が先に退出し、花嫁役が後からコメント欄を支配する構成で、これが「感情の主導権を奪う儀礼」として若年層に受けたとされる[9]。
前後には、短尺動画文化との結合が進み、15秒以内で誓い・指輪交換・投げキッスまでを完了する「超圧縮式」が登場した。これにより、式の長文化に疲れた参加者が再び流入した一方で、儀礼性が薄れたとして古参から批判も受けた。
インターネット普及後[編集]
インターネットの発達に伴い、ありすしーののけっこんしき!は掲示板のネタから多層的な参加型文化へと変化した。とくに以降、配信者が自宅から簡易式場を再現する例が増え、背景布、LEDキャンドル、100円ショップ製のリングピローが半ば定型化した[10]。
また、海外在住の視聴者が自動翻訳を通じて参加したことで、英語圏でも「Aliceino Ceremony」として知られるようになった。ただし、翻訳機が「けっこんしき」を一貫して「marriage festival」と訳したため、現地では宗教行事と誤認するケースもあったという。
特性・分類[編集]
ありすしーののけっこんしき!には、いくつかの典型的な形式がある。第一に、コメント欄主体で進行する「文字列挙式」であり、祝辞、定型句、AA風の図形が高速で流れる。第二に、配信者が小道具を使って進める「映像挙式」で、紙製のケーキや偽装リングが用いられる。第三に、同人誌やZINEを用いて式次第を事前配布する「頒布型挙式」である[11]。
学者筋の整理では、これらは「儀礼再演型」「観測者参加型」「誤入場誘導型」の3類型に分かれるとされる。特に誤入場誘導型は、視聴者が通常の雑談配信だと思って入室した後、突然誓約の読み上げに巻き込まれる形式で、最も中毒性が高いとされている。
なお、式の進行中に流されるBGMは、風シンセポップ、教会風オルガン、あるいは著作権回避のための自作ループ音源が多い。2021年の調査では、全体のが「音楽の途中で笑いをこらえた経験がある」と回答しており、演出の不完全さ自体が魅力になっていることが示唆された[12]。
日本におけるありすしーののけっこんしき![編集]
日本では、ありすしーののけっこんしき!は主にの動画コミュニティから広がったが、のちに、、などでも独自のローカル流儀が形成された。たとえば名古屋圏では「末永い味噌のご縁」を必ず誓う文言が付加され、札幌では寒さ対策として実際の毛布を祭壇代わりに使う文化が生まれたという[13]。
には、のイベントスペースで「公開仮婚礼」と称するオフ会が開かれ、来場者のうちが初参加だったと報告された。主催者はへの事前説明も行ったとされるが、担当者は内容を理解しきれず、「コスプレイベントの一種」として処理したという逸話が残る。
また、大学の文化祭でも模倣が見られた。あるの放送研究会では、祝辞の代わりに研究発表を読み上げる「論文誓約式」が流行し、結果として新入生の定着率が前年より上がったとされる。ただし、これは式そのものより勧誘の巧妙さによるという見方もある。
世界各国での展開[編集]
世界各国での展開は、主に翻訳字幕と二次配信を通じて進んだ。韓国では「알리스시노 결혼식」として、ファンダム文化の一部に取り込まれ、応援上映に近い熱量で参加する形式が定着した。台湾では、祝電コメントの代わりにスタンプ画像を大量に貼る「印章式」が発展したという[14]。
欧米圏では、上のリアクション動画を通じて知られるようになったが、当初は日本独自の奇祭として消費される傾向が強かった。特にでは、アジア系カルチャー研究会が「post-ship wedding ritual」として紹介し、学部生のレポートテーマに選ばれた例が複数確認されている。
なお、ブラジルではサンバ風BGMと組み合わせた「踊る誓約式」が派生し、式の途中で必ず2回回転するルールが設けられた。これにより、原型から大きく逸脱したものの、式執行ヤー同士の国際交流はむしろ活発になったとされる。
ありすしーののけっこんしき!を取り巻く問題[編集]
ありすしーののけっこんしき!には、著作権と表現規制をめぐる問題がしばしば伴った。まず、式で使用されるBGMや祝電画像の無断利用が問題視され、2016年以降、配信者向けに「自作音源推奨ガイド」が配布された。もっとも、実際にはガイドの中が「著作権に触れない範囲でそれっぽくする方法」に費やされていたため、逆に濃度が高いと評された[15]。
また、結婚を連想させる演出が、若年視聴者に対して過度な同調圧力を生むとの批判もあった。ある研究者は、式の参加者が「祝福しなければ空気を壊す」という心理に陥りやすいと指摘しているが、式執行ヤー側は「そもそも空気が本体である」と反論した[16]。
さらに、頃には、生成画像技術を用いた偽の記念写真が出回り、実在しない披露宴の記録がアーカイブ化される事例が発生した。これに対し、保存派は「虚構でも共同体を支えたなら記録価値がある」と主張し、改ざん派は「最初から全部虚構である」と開き直ったため、議論は収束しなかった。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 不二川れもん『ありすしーの現象論——配信空間における擬似挙式の成立』デジタルサブカル研究会, 2018, pp. 41-66.
- ^ 堂島ミキオ『コメント欄における祝福語の反復と儀礼化』情報文化学叢書, Vol. 12, No. 3, 2019, pp. 112-139.
- ^ 佐伯しのぶ『逆入場の美学——ネット婚礼演出の変遷』東亜メディア評論, 第7巻第2号, 2020, pp. 5-28.
- ^ M. A. Thornton, “Ritualized Shipping in Japanese Livestream Culture,” Journal of Online Folklore, Vol. 8, No. 1, 2021, pp. 77-103.
- ^ 河合玲子『頒布型挙式の社会学』東京民俗出版, 2021, pp. 9-54.
- ^ Hiroshi Endo, “Aliceino and the Semiotic Wedding,” Media Anthropology Review, Vol. 15, No. 4, 2022, pp. 201-229.
- ^ 中野悠介『式次第本の流通と即売会動線』同人文化研究, 第4号, 2020, pp. 88-111.
- ^ S. Watanabe, “When a Chatroom Marries Itself,” Proceedings of the 14th International Conference on Participatory Internet Culture, 2023, pp. 14-19.
- ^ 古川真帆『祝電コメントの量的分析——3,200件仮説の検討』ネット言語学会誌, 第19巻第1号, 2024, pp. 1-33.
- ^ Elena Sato, “The Bridal Loop: Meme Persistence in East Asian Fan Spaces,” Cultural Network Studies, Vol. 3, No. 2, 2024, pp. 55-80.
外部リンク
- 架空文化総覧 デジタル民俗編
- 配信儀礼アーカイブス
- 式執行ヤー年鑑
- 秋葉原ネット風俗研究所
- 祝祭ミーム保存委員会