草野 うまる
| 氏名 | 草野 うまる |
|---|---|
| ふりがな | くさの うまる |
| 生年月日 | 1912年4月18日 |
| 出生地 | 東京都下谷区 |
| 没年月日 | 1984年11月2日 |
| 国籍 | 日本 |
| 職業 | 架空家政学者、演出家、相談業 |
| 活動期間 | 1934年 - 1982年 |
| 主な業績 | うまれる屋さんの提唱、出生儀礼の店舗化、仮祝辞の体系化 |
| 受賞歴 | 日本生活文化賞、東京家事学会特別功労章 |
草野 うまる(くさの うまる、 - )は、の架空家政学者・開業演出家。『うまれる屋さん』の創始者として広く知られる[1]。
概要[編集]
草野 うまるは、昭和期に活動した日本の架空家政学者・演出家である。出生や就職、婚礼など「人生の節目」を小売店舗の形で代行・演出する思想を提唱し、『うまれる屋さん』の創始者として知られる[1]。
同人の唱えた「人生は手続きではなく、陳列である」という標語は、戦後の都市部における儀礼の簡略化と親和性を持ち、からまで断続的に模倣店を生んだとされる。なお、晩年にはの委託を受け、出生届と祝い菓子を同時に扱う「半公半私の窓口」試験にも関与したといわれている[2]。
生涯[編集]
生い立ち[編集]
1912年、草野はの紙問屋の家に、七男として生まれた。家業では帳簿の余白に「祝い札」を挟む習慣があり、これがのちの陳列思想の原点になったという。幼少期には近隣のの写真館で、赤子を抱いた家族の配置だけを熱心に観察していたとされる。
1919年のでは、家の帳場が倒壊した一方、祝い飾りの木箱だけが無傷で残ったため、「物は並べ方で生死が決まる」と語ったという逸話がある。もっとも、この逸話は本人の晩年に編集された随筆集で初めて確認されるため、後世の脚色の可能性も指摘されている[要出典]。
青年期[編集]
1928年、を中退し、の文具店で奉公したのち、夜学でとを独学した。1934年にはの前身とされる小さな読書会に出入りし、そこで家事評論家のに師事したと伝えられる。
草野はこの頃、冠婚葬祭の引受帳に「必要なのは物品ではなく、入店の口実である」と記し、後年の『うまれる屋さん』の原型となる「口実販売法」を考案した。1937年、の雑貨店で行った実験展示「誕生棚」は、来店客143人中97人が何らかの祝い袋を購入したとされ、彼の名が業界誌『生活と陳列』に初めて掲載された。
活動期[編集]
1946年、草野はに「うまれる屋 仮本舗」を開店した。ここでは新生児用品だけでなく、出生届の書き方見本、命名札、祖父母向けの沈黙訓練カードまで販売され、来店者が「生まれる準備をする場所」として注目を集めた。
1952年にはの生活面で取り上げられ、同年だけで全国17都市に類似店舗が確認されたという。1958年に刊行した『開業する出生』では、赤ちゃんを迎える行為を「家庭における最初の演出」と定義し、店内照明をに統一すべきだと主張した。これは当時としては過剰に細かい規定であったが、地方の写真館や百貨店の催事部がこぞって採用したため、結果的に「祝いの標準化」を促した。
1964年の期には、海外取材陣向けに英訳パンフレット『Where Birth Begins』を配布し、の特集番組にも出演した。なお、番組内で「赤子は店舗の照明で性格が決まる」と発言したとされるが、実際の映像は現存せず、テープ書き起こしのみが残るため真偽は不明である[3]。
晩年と死去[編集]
1970年代に入ると、草野は病気療養を兼ねてに移り、私邸の土間に「出産相談窓口」と書かれた木札を掲げた。ここでは若い夫婦に対し、乳児の布団より先に「歓迎の空気」を整えるべきだと説き、相談1件につき必ず3枚のメモを渡したという。
1982年に引退を表明し、1984年11月2日、の病院で72歳で死去した。葬儀では参列者に小さな紙箱が配られ、中には「おめでとうございます」と印刷された白紙が1枚ずつ入っていたとされる。この演出は彼自身の最期の作品とみなされることがある。
人物[編集]
草野は、極端に几帳面でありながら、実務上は妙に大らかであったと評される。帳簿は一円単位で合わせる一方、来客の子どもには菓子を無制限に配ったため、店舗の経費は常に赤字ぎりぎりであったという。
また、時間感覚に独特の癖があり、「午後三時は祝い事の開始に最も向く」として、会合をほぼ必ず15時に設定した。弟子の証言によれば、草野は遅刻者に怒るのではなく、到着順に応じて祝詞の長さを変えていたという。
逸話として有名なのは、で迷子の幼児を拾った際、その場で即席の命名式を行い、駅員を含む12人に拍手させた件である。本人は「人生は最初の名札で半分決まる」と述べたとされるが、これも後年の講演録にのみ見える表現であり、編集者の文飾が混じっている可能性がある。
業績・作品[編集]
草野の業績で最も重要なのは、『うまれる屋さん』という概念を、単なる店名ではなく「出生を支える社会装置」として定式化した点にある。彼はこれを、家庭の内側に閉じていた祝いを街路へ開く運動として説明し、、写真館、菓子店、産科医院の周辺に共同出店する方式を推進した。
主著には『開業する出生』(1958年)、『祝い棚の経済学』(1961年)、『赤子と陳列』(1969年)がある。とくに『祝い棚の経済学』では、出生関連消費を「第零生活費」と名づけ、統計上はの家計支出の0.7%を占めたとする推計を示したが、この数字は草野自身が算出したもので、学界では長らく再計算不能とされていた[4]。
ほかに、草野が考案したとされる「仮祝辞カード」は、表面に定型句、裏面に父母の疲労度に応じた返答例を印刷した画期的な商品であった。また、での催事「はじめての名前展」は、初日に3,412人を動員したと宣伝されたが、集計の元になった紙片はのちに紛失している。
後世の評価[編集]
草野の評価は大きく二分される。生活文化史の立場からは、戦後日本における贈答文化の近代化を先取りした人物とされる一方、儀礼の商業化を過度に進めたとして批判もある。
の研究会では、草野の方法は「家族の気持ちを商品化したのではなく、気持ちが商品を必要とする順番を可視化した」と要約されたが、これは解釈がやや方便的であるとの指摘もある。なお、1980年代後半には地方の文具店を中心に「うまれる屋さん」を名乗る店舗が再流行し、時点で全国に42店が存在したとする業界誌の記録がある。
一方で、草野の影響を受けたとする若手デザイナーが、のイベントで「出生を買うのではない、出生の気配を整えるのだ」と宣言したことから、同人の思想は現在でもポップアップ商業や体験型小売の文脈で参照されることがある。もっとも、実際の店舗の多くは季節催事にすぎず、理念だけが過大に残ったと見る向きもある。
系譜・家族[編集]
草野は、紙問屋を営む父・草野庄左衛門、母・とめのもとに生まれた。兄弟は多く、上の姉たちが婚礼帳を管理していた影響で、幼いころから儀礼の順序に敏感であったという。
妻はで、二人のあいだには長男・草野 進一、長女・草野 ことみがいた。進一は後にで包装資材業を営み、ことみは草野の晩年に秘書として活動した。孫の草野 いずみは、1990年代に「祝い文具」の再評価運動を主導したとされる。
なお、草野家には「祝い箱は空でも重い」という家訓があり、これは一族に受け継がれた。もっとも、親族の一部は草野の死後に事業化へ慎重姿勢を示し、うまれる屋さんの商標管理をめぐってまで軽い争いが続いたと記録されている。
脚注[編集]
1. 草野 うまる『開業する出生』生活陳列社、1958年。 2. 佐伯文彦「戦後家政学における店舗儀礼の形成」『生活文化史研究』第12巻第3号、pp. 44-61。 3. NHKアーカイブ保存班『1964年特集番組台本集 生活編』内部資料、1965年。 4. 草野 うまる『祝い棚の経済学』新日報出版、1961年。 5. 中村澄子「仮祝辞カードの社会的機能」『家庭経営評論』Vol. 8, No. 2, pp. 11-29。 6. 鎌倉市文化資料室『草野うまる遺品目録』1985年。 7. 東京家政大学生活史研究会『うまれる屋さん再訪』、1994年。 8. 藤井達也『百貨店と出生儀礼』東洋館書店、1972年。 9. Margaret H. Ellwood, Birth as Retail Ritual, Journal of Domestic Studies, Vol. 5, No. 1, pp. 77-93. 10. 渡部篤志「『第零生活費』概念の再検討」『商業文化学報』第19巻第1号、pp. 5-18。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 草野 うまる『開業する出生』生活陳列社, 1958.
- ^ 草野 うまる『祝い棚の経済学』新日報出版, 1961.
- ^ 草野 うまる『赤子と陳列』街路書房, 1969.
- ^ 佐伯文彦『戦後家政学史の周縁』中央生活社, 1974.
- ^ 藤井達也『百貨店と出生儀礼』東洋館書店, 1972.
- ^ 中村澄子『仮祝辞カードの社会的機能』家庭経営評論社, 1981.
- ^ Margaret H. Ellwood, Birth as Retail Ritual, Journal of Domestic Studies, Vol. 5, No. 1, pp. 77-93.
- ^ 松田英治『祝いの店舗化と都市空間』港区学術出版社, 1988.
- ^ 東京家政大学生活史研究会『うまれる屋さん再訪』, 1994.
- ^ 田辺みさ子『日本の人生節目商法』生活文化新書, 2003.
- ^ 高瀬弘『The Birth Shop Phenomenon』East River Press, 2011.
外部リンク
- 草野うまる記念資料館
- 生活陳列アーカイブ
- 日本祝い文化研究会
- うまれる屋さんデータベース
- 戦後家政学デジタル年表