おはようとっしー
| 名称 | おはようとっしー |
|---|---|
| 別名 | 朝礼返事型相互挨拶 |
| 分類 | 都市発祥の定型挨拶・準儀礼 |
| 発生地 | 東京都渋谷区神南周辺 |
| 成立 | 1998年ごろ |
| 提唱者 | 戸島徳彦、塚本梨沙ほか |
| 主な使用媒体 | 携帯メール、店内掲示、深夜番組の投稿欄 |
| 流行期 | 2001年 - 2006年 |
| 特徴 | 語尾の伸長と返答の反復 |
おはようとっしーは、の朝の挨拶句を基盤に成立した、短文応答型の参加儀礼である。ごろからを中心に広まったとされ、互いの起床確認と軽い近況報告を兼ねる文化として知られている[1]。
概要[編集]
おはようとっしーは、朝の挨拶「おはよう」に個人名または呼びかけ語を接続した定型句であり、単なる挨拶ではなく、相手の起床・在宅・接触可能性を同時に確認する機能を持つとされる。なお、実際にはに送信されることも多く、生活時間の乱れを可視化する装置として再評価されている[2]。
この表現は、内の小規模な飲食店の常連グループで自然発生したとする説が有力である一方、の番組投稿欄に投稿された誤記が拡散源になったとする異説もある。いずれの説でも、語尾の「っしー」は当時流行した軽い自己卑下のニュアンスを帯びた若者語に由来するとされるが、語源の一部は今なお議論がある[3]。
成立と普及[編集]
最初期の用例は夏、のレンタルビデオ店裏手にあった喫茶店「コメット三号」で確認されたとされる。店主の戸島徳彦が、常連客の一人である塚本梨沙に向けて「おはよう、とっしー」と声をかけたところ、これがそのまま文書化され、店内の連絡ノートで定型句化したという[4]。
その後、系の深夜番組で視聴者投稿として紹介されたことを契機に、語尾を変化させた派生形が相次いだ。「おはようとっしー」「おはよーとっしー」「おはようございますとっしー」などが併存し、にはの定型文辞書に非公式登録された機種も存在したとされる。なお、当時の若者は送信時刻を午前6時台に設定することで、生活感を演出していたとの指摘がある[5]。
用法と構造[編集]
おはようとっしーの基本構造は、「おはよう」+呼びかけ対象名+余韻音節で構成される。学術的には三拍目以降の音の延長が親密度を担保する「半拘束型親和発話」に分類され、相手との距離が近いほど「っしー」が長く引き伸ばされる傾向があるとされる[6]。
一方で、実際の運用では語中に絵文字、顔文字、全角カタカナが挿入されることが多く、特に前後の女子高生文化圏では「おはようとっしぃ☆」のような表記が好まれた。これは単なる装飾ではなく、送信者がその日の機嫌を先回りして宣言する機能を持つと解釈されている。
歴史[編集]
前史[編集]
前史として、末期の商店街における「おはようございます、○○さん」の短縮化が挙げられる。これが後半に、呼びかけ対象の人名をあえて可愛く崩す話法へ移行し、結果として「とっしー」が代表例になったとされる。名称に実在の人物「戸島」が含まれていたため、後年になっても本人が半ば公認の顔役として扱われた[7]。
また、の大規模通信障害の際、地域の固定電話網が遅延したことから「朝は短く、しかし温度を持って伝える」表現が求められたという社会背景がある。このため、おはようとっしーは単なる流行語ではなく、都市生活の接続不全を埋める冗長で優しい技術として理解されている。
流行期[編集]
からにかけて、・・の若年層コミュニティで流行した。特にの夏には、深夜ラジオ番組のエンディングで「では皆さん、おはようとっしー」という決まり文句が採用され、翌朝の投稿数が通常の3.8倍に増加したとされる[8]。
しかし、流行の拡大に伴い、職場メールでの誤用が問題化した。営業部長への「おはようとっしー」が朝礼中に読み上げられ、場が凍結した事件は有名である。のちに系の社内マナー研修資料に、半ば反面教師として掲載されたという。
衰退と再評価[編集]
以降、定型挨拶の主流は短文化・絵文字化へ移行し、おはようとっしーは一時的に古い表現と見なされた。ただし後半になると、レトロな対人確認表現として再評価が進み、や社内チャットで意図的に使う若手社員も現れた。
とりわけの在宅勤務拡大期には、「おはようとっしー」が「起きていますか」「今日は出社しますか」「会議に間に合いますか」を一語で済ませる便利な合図として復権した。ある調査では、在宅勤務者の約12.4%が一度は冗談半分で使用したとされるが、調査設計の詳細は不明である[9]。
社会的影響[編集]
おはようとっしーは、朝の挨拶を個人化する文化の先駆けとして、の対人距離表現に小さな変化を与えたと評価されている。特に、同表現の普及後、学校の連絡帳やサークルの出欠確認において、単なる「おはよう」よりも相手の名前を入れた呼びかけが増えたとする調査がある[10]。
また、内の一部の飲食店では、常連客同士が朝の来店時にこの挨拶を交わすことで、追加のトーストや味噌汁が「とっしー盛り」と呼ばれる慣行が生まれた。これは公式サービスではなく店側の善意によるものとされるが、後に口コミで制度化しかけ、軽い論争を呼んだ。
さらに、企業研修の分野では「挨拶の温度を可視化する例」として教材化され、の外郭団体が作成したコミュニケーション改善冊子に類似例が掲載されたとされる。ただし、冊子名と配布実態については要出典とされている。
批判と論争[編集]
批判の中心は、名称に固有名を含むため、受け手を選ぶ点にある。特に「とっしー」が特定個人の幼少期あだ名と重なった場合、親密さのつもりが急激な圧迫感として受け止められることがあり、にはの文化論ゼミで「呼称暴力」の一例として取り上げられた。
一方で、語尾の「っしー」が軽薄であるとして嫌う層も存在し、圏では「おはようとっしー」に対し「おはようさんですわ」という対抗表現が生まれたとされる。しかし実際には、両者の勢力は拮抗しておらず、あくまでネット上の検証困難な伝承に近い。
遺産[編集]
おはようとっしーは現在、日常会話における「挨拶の二度手間を一度で済ませる表現」として、言語学・民俗学・労務管理の交差点で研究されている。特にの領域では、同表現を用いた短編映像作品がの深夜部門で上映されたという記録があるが、上映時間が午前2時11分であったため観客の半数が内容を覚えていない。
また、個人ブログや掲示板では「起床報告の文化史」を語る際の象徴語として定着している。近年ではAIアシスタントへの呼びかけ語として模倣されることもあるが、文脈を誤ると単に妙に元気な通知文になるため、使用には注意が必要である。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 戸島徳彦『朝のことばと都市の温度差』青林社, 2007.
- ^ 塚本梨沙「呼びかけ語尾における親密度の演出」『日本言語文化研究』Vol.12, No.3, pp. 44-61, 2009.
- ^ Michael R. Bennett, "Greeting Prefixes in Post-Analog Urban Japan," Journal of Sociolinguistic Studies, Vol. 18, No. 2, pp. 101-129, 2011.
- ^ 藤井真里『携帯メールの礼儀作法史』霞文庫, 2012.
- ^ Katherine L. Moore, "The Noon-By-Morning Paradox of Japanese Nickname Salutations," Contemporary Asian Linguistics, Vol. 7, No. 1, pp. 5-26, 2014.
- ^ 山崎健一「渋谷における半拘束型親和発話の成立」『都市文化論集』第9巻第4号, pp. 88-97, 2008.
- ^ 高橋怜『おはようとっしー現象の社会史』みなと出版, 2016.
- ^ 中村和也「深夜ラジオ投稿欄にみる朝型表現の逆流」『放送文化研究』第21巻第2号, pp. 17-34, 2015.
- ^ Elizabeth J. Howe, "From Toast to Tosshi: Ritual Greetings in Late 20th Century Tokyo," East Asian Everyday Language Review, Vol. 4, No. 4, pp. 210-233, 2018.
- ^ 『朝礼の心理学――元気の押し売りとその周辺』、日本社会会話学会編、東都書房, 2020.
外部リンク
- 日本朝挨拶学会
- 渋谷口語文化アーカイブ
- 東京都市言語史センター
- 深夜発話保存委員会
- おはようとっしー研究会