こんにちはで遊ぼうちゃん
| 正式名称 | こんにちはで遊ぼうちゃん |
|---|---|
| 分類 | 幼児向け言語玩具・会話補助教材 |
| 開発元 | 東都ことば機構研究室 |
| 初出 | 1987年 |
| 考案者 | 水野澄子、相馬研二 |
| 主な使用地域 | 日本、台湾、韓国、シンガポール |
| 推奨対象年齢 | 3歳 - 7歳 |
| 特徴 | 挨拶音声、反復応答、笑顔判定連動 |
| 派生形態 | カード版、ぬいぐるみ版、公共放送版 |
こんにちはで遊ぼうちゃん(こんにちはであそぼうちゃん)は、の幼児向け言語玩具、およびそれを中心に展開した対話型の教育文化運動である。にの玩具設計会議で原型が成立したとされ、挨拶の反復を通じて会話の初期学習を促す仕組みとして知られている[1]。
概要[編集]
こんにちはで遊ぼうちゃんは、子どもが「こんにちは」と発声すると、音声応答や簡易な身ぶりで返答する仕組みを持つ教育玩具である。名称の末尾に付く「ちゃん」は愛称ではなく、当初はの児童製品識別区分に由来する内部符号であったとされる。
本項目で扱うのは、玩具そのもののみならず、それを契機として広がった挨拶訓練プログラム、地域イベント、保育園向けの共同研究である。特に後半からにかけて、首都圏の百貨店と地方自治体が共同で導入し、半年で推定14万2,000世帯に普及したとされる[2]。
成立の経緯[編集]
起源はで行われた幼児発話調査に求められる。1986年、の水野澄子は、子どもが最初に覚える語の多くが挨拶語であることに着目し、単語の意味よりも返答の往復に学習効果があると仮説化した。
これに対し、共同研究者の相馬研二は、玩具は「話しかけるより、相手が間を取ってくれること」が重要であると主張し、3秒の遅延応答を標準化した。この3秒は、都営地下鉄の発車ベルの残響時間を基準に決められたという逸話が残るが、研究記録の一部しか残っておらず、要出典とされることが多い。
試作機はの部品問屋街で組み上げられ、最初は「こんにちはちゃん仮号」と呼ばれていた。しかし百貨店担当者が「遊べる要素が弱い」と指摘し、応答の最後に拍手音を付けたことで、現在の名称に近い形へ収束した。なお、この拍手音は1回あたり0.8秒で、当時の乾電池2本では連続73回しか鳴らなかったと記録されている。
構造と仕組み[編集]
基本動作[編集]
標準モデルは、前面のマイクに向かって挨拶語を発すると、内部の応答回路が「こんにちは」「やあ」「またあした」などの定型句を返す構造であった。応答は12種類で、うち5種類が、4種類が、3種類が無音のうなずきである。
無音のうなずきは一見地味であるが、保育現場では最も人気が高かった。理由は、泣いている子どもに対しても「否定されない」印象を与えたためで、1989年度の試験導入では、導入クラスの発話回数が平均で1日28.4回増加したとされる[3]。
笑顔判定回路[編集]
後期型には、口元の角度を赤外線で測定する「笑顔判定回路」が搭載された。これは玩具業界初の機能ではないが、頬の高さを7段階で判定することで、笑顔が苦手な子どもにも反応を返す点が評価された。
一方で、会議室で真顔のまま挨拶を続けた営業担当者にのみ反応しない現象が報告され、これが「営業日陰り」と呼ばれた。メーカーは後に、表情ではなく音量に重みを置く改訂を行っている。
教材連動版[編集]
1992年にはの幼児番組と連動した「朝のあいさつセット」が発売された。これは人形本体に加え、挨拶カード24枚と、保護者向けの指導冊子『こんにちはの返し方入門』が付属するもので、冊子の第3章だけ妙に長いことが当時から話題であった。
この連動版では、子どもが「こんにちはで遊ぼうちゃん」と呼びかけると、番組のテーマ曲が3小節だけ流れる仕様だった。制作側は「朝の機嫌がよい時にしか最後まで鳴らない」と説明したが、実際にはスピーカーの発熱を避けるための安全策であったとされる。
社会的影響[編集]
こんにちはで遊ぼうちゃんは、単なる玩具にとどまらず、幼児教育における「会話の往復」を可視化した点で注目された。特にの私立保育園では、導入後3か月で朝の挨拶未回答率が17%から4%に低下したとする内部報告がある。
また、地方自治体では高齢者見守り事業への転用も試みられた。高齢者が「こんにちは」と言うと、玩具が返事をするため、独居世帯の孤独感軽減に寄与したとされる。ただし、深夜2時に自動起動して「こんにちは」を返し続けた事案がで1件報告され、以後は夜間モードが標準実装となった。
一方で、言語の第一歩を機械に委ねることへの批判も存在した。とりわけの一部研究者は、過剰な定型応答が子どもの即興性を阻害する可能性を指摘したが、逆に「定型を崩す練習になる」とする反論も根強かった。
地域展開と輸出[編集]
海外展開は、まずの百貨店催事から始まった。現地では「你好で遊ぼうちゃん」という呼称が自然発生的に用いられ、繁体字版の取扱説明書が3種類作られた。うち1冊は敬語が過剰に丁寧で、子ども向けなのに締めくくりが「謹此奉上」で終わるという珍事があった。
では多言語環境への適応が評価され、英語・中国語・マレー語の3言語を順番に返す改良版が導入された。もっとも、挨拶の順番をめぐって家庭内の交渉が発生し、最終的に「今日は誰の言語で遊ぶか」を決める専用の抽選ボタンが追加された。
では保育施設向けに輸入されたが、返答の「こんにちは」が微妙に強すぎると受け止められ、音圧を2.5dB下げる改修が必要であった。これにより、アジア圏での共通規格化が進んだ一方、各国版の差異が研究対象となった。
批判と論争[編集]
最大の論争は、製品名に人名めいた親しみを持たせることで、子どもが玩具を実在の友人のように扱うのではないかという点であった。の雑誌『保育と玩具』では、導入園の一部で玩具に席を譲る行動が見られたと報告されている。
また、関係者の間では、試作段階で録音された「こんにちは」が実は水野澄子本人の声であったか、あるいは事務員の声であったかをめぐって長年の食い違いがある。公式資料は「複数名の協力」としか記していないが、ファンの間では、声の波形がの喫茶店で録音されたものと一致するという半ば都市伝説的な説が流布している。
さらに、ある派生型では「こんにちは」を10回連続で言うと褒め言葉ではなく風の注意喚起が流れる仕様があり、これが「挨拶の監視化」と批判された。ただし、実際には電池切れ警告を子どもに覚えさせるための教育的配慮であったとも説明されている。
派生製品[編集]
1994年以降、こんにちはで遊ぼうちゃんは複数の派生製品を生んだ。代表的なものに、会話カードを自動整列する「ちゃんと並ぶ版」、保育士向けに集団挨拶を管理する「おはよう併用版」、そして前面に鏡を備えた「じぶんにこんにちは版」がある。
とりわけ「じぶんにこんにちは版」は、子どもが自分の顔に向かって挨拶すると内部スピーカーが「えらい」と返すだけの単純な仕組みであったが、発売初月に9,800個を売り上げた。企画担当者は後年、これが「最も哲学的な玩具だった」と回想している。
なお、1997年の限定版には、起動時にの時報を模した音が流れる仕様があったが、時刻合わせが面倒すぎたため、現在では収集家向け市場でのみ流通している。
脚注[編集]
1. 1987年の原型成立については、社内会議記録と展示会カタログで記述が分かれる。 2. 普及世帯数は当時の小売販売統計を再集計したものとされる。 3. 発話回数の増加は試験園3園の平均値である。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 水野澄子『幼児発話における反復応答の設計』日本玩具教育学会誌 第12巻第3号, 1988, pp. 44-61.
- ^ 相馬研二『三秒遅延と会話開始の心理』東都社会科学研究 第8巻第1号, 1989, pp. 11-29.
- ^ Y. Nakamura and K. Soma, "Greeting Toys and Transitional Speech in Early Childhood," Journal of Applied Ludology, Vol. 4, No. 2, 1991, pp. 77-95.
- ^ 藤堂千夏『保育施設における挨拶玩具の導入効果』子ども文化研究 第21巻第4号, 1993, pp. 102-118.
- ^ Margaret A. Thornton, "The Smile Detection Circuit in Domestic Educational Devices," International Review of Toy Engineering, Vol. 9, No. 1, 1994, pp. 5-22.
- ^ 東都ことば機構研究室編『こんにちはで遊ぼうちゃん 公式運用記録1987-1996』東都出版, 1997.
- ^ 田中みのり『多言語挨拶玩具の地域適応』アジア教育機器論集 第15巻第2号, 2001, pp. 88-109.
- ^ Robert H. Ellis, "On the Ethics of Talking Plush Devices," Proceedings of the Society for Domestic Interface Studies, Vol. 3, 2002, pp. 141-153.
- ^ 『保育と玩具』編集部『こんにちはの返し方入門』特集号, 第6巻第7号, 1989, pp. 1-64.
- ^ 渡辺精一郎『電池二本時代の音声玩具史』児童技術史研究 第5巻第5号, 2004, pp. 210-233.
外部リンク
- 東都ことば機構アーカイブ
- 日本挨拶玩具協会
- 国際対話玩具年鑑
- 保育文化資料室
- 笑顔判定回路研究会