わけわかめ
| 分類 | 海藻加工食品(味覚記号型) |
|---|---|
| 主原料 | わけ分け不能な配合海藻(複数種) |
| 特徴 | 食べると“理由がわからない”後味を再現する |
| 発祥地 | の沿岸加工圏(諸説) |
| 関連制度 | 味覚記号認証(通称) |
| 代表的食べ方 | 湯戻し→即時提供→一口目評価 |
| 使用頻度 | 地域イベントと研究展示での提供が多い |
は、主にを原料とする“判別不能な味覚記号”として知られる食品ジャンルである。語感の軽さに反して、成立過程にはと味覚官能の研究体制が深く関与したとされる[1]。
概要[編集]
は、加工工程上の意図的な“配合の霧化”によって、食した側が「なぜこの味になるのか」を言語化しにくい状態を作る海藻食品とされる。商品名というより、ある種の味覚体験を指す呼称として定着したと説明されることが多い。
一見すると駄洒落のような語感であるが、成立の経緯には、を標準化しようとした公的研究会と、現場の加工業者が抱えた“説明責任”の問題があったとされる。ただし、その起源に関しては記録の残り方が不均一であり、後年の証言ほど味付けが強いと指摘されてもいる[2]。
なお、現代では「ふつうのわかめ」も流通するが、として提供される製品は、少なくともラベル上で複数海藻の混合比が固定化されている必要があるとされる。ところが固定化された比率のはずの情報が、イベント会場ではしばしば“口頭のみ”で更新されるため、消費者側の理解がむしろ遅れる仕組みになっている、という逆転の設計が語られることもある[3]。
歴史[編集]
誕生:説明責任から生まれた“判別不能”[編集]
の起源は、沿岸の加工業者が参加した「海藻香味統一協定(仮称)」の議論にあるとされる。1930年代後半、地域の給食で海藻が急増した一方、喫食者から「何が入っているのか分からない」「味が毎回違う」という苦情が相次いだ。そこで調査に乗り出したのが、当時の(正式名称は資料ごとに揺れる)である[4]。
協定側は原因を“海藻原料の季節変動”とする説明を準備したが、検査のたびに同じ説明に辿り着けないことが問題となった。そこで考案されたのが、混合比を固定するのではなく、むしろ“混合の理由が説明不能になる程度”にまで分散させる工程である。具体的には、当時の試作記録によれば、配合海藻を平均での間に計量し、その後の撹拌で均一化を試みたが、結果は逆に「理由がわからない味」に近づいたとされる[5]。
この発見を受けて、協定では「味覚の説明可能性」を品質指標にする方向へ舵を切った。ここで味覚を担当したのが、札幌の官民混成チーム「香味言語化研究会(通称)」で、彼らは一口目の反応を“論理失語”に近い評価語彙で記録した。つまり、とは、味が良いかどうか以前に「説明してもらっても説明にならない」という状態を目標化した食品だった、と後年の資料はまとめている[6]。
普及:学会展示と“認証”の制度化[編集]
1950年代後半、は地域の見本市だけでなく、首都圏の学会展示にも持ち込まれるようになった。きっかけは、味覚官能試験のモデル化を進めていた「食の情報化評価委員会(架空の略称:IFEC)」が、“味の理由”を説明する行為そのものを測ろうとした点にある[7]。
委員会は、食べた直後に被験者へ「なぜそう感じたか」を尋ねる質問を設けた。しかし、回答の整合性が取れないほど、むしろ設計通りに“説明がほどける”ことが判明した。そこでIFECは、わけわかめを「判別不能を品質とする標準試料」として扱い、会場ごとに味の傾向を微調整する“臨時認証”を運用したとされる。
この制度の運用は、の倉庫拠点「第七香味倉庫(通称:セブン香倉)」が担い、各回のロットには“理由コード”と呼ばれる短い符号が付与された。理由コードは、味そのものではなく、食後に本人が考えつく“説明の誤差”を規定する目的だったと説明されている。ただし、理由コードが記録から消えた回があり、その回に限って製品がなぜか爆発的に人気になったため、「コードは味の設計ではなく、期待値の設計だったのではないか」といった後付けの解釈が増えた[8]。
また、わけわかめは“研究”の顔だけでなく“食べ物の顔”も必要とされ、レシピの表現はあえて曖昧にされた。「沸騰から離した湯で戻す」「戻す時間は心拍の乱れが収まるまで」など、実務より詩的な表現が採用された結果、地域の学校給食で採用例が増えたとされる[9]。
製法と評価体系[編集]
わけわかめの製法は、単一種の海藻を加工する一般的工程とは異なり、“配合の同定不能性”を狙う点に特徴があるとされる。原料は複数の海藻を想定し、それぞれが「香りの入口」「うま味の尾」「苦味の余韻」として役割分担される。しかし実際の製造では、工程ごとに役割が入れ替わるような順序設計がなされると語られる[10]。
また、工程は時間と回数で管理される一方、数字がやたらと細かいことで知られる。たとえば、一次戻しは通常の湯でとされ、二次戻しは「香気が飽和する直前」に止めるため単位の調整が行われるとされる。さらに乾燥はで行う、と記した資料もあるが、同じ資料内に“湿度は58〜61%である”とも書かれており、編集の都合で数値が揺れている可能性がある[11]。
評価は、官能審査のスコア表を用いながら、同時に「説明の破綻度」を採点する方式が採用されたとされる。具体的には、被験者が「わけ」を求めて言い訳のような説明を始めた回数をカウントし、その数が多いほど高得点になる仕組みである。これは一見すると滑稽だが、食品企業の“差別化が説明できない問題”を解消するという実利もあったと説明される。つまり、味の差別化を言語で担保できないなら、言語の破綻そのものを商品価値に変える、という発想である[12]。
社会的影響[編集]
は、食品としての広がり以上に、“説明文化”へ影響したとされる。1970年代、広告業界では「なぜ効くか」「なぜ美味いか」を短いコピーで説明する傾向が強まったが、わけわかめは逆に“説明しないことが品質”になった。これにより、一部の企業では「説明を短縮するほど売上が上がる」現象が観測され、説明責任を抱える部門が戦略を見直したとされる[13]。
一方で、学校教育の場では「理由の言語化」を鍛える授業に組み込まれた。授業では、生徒がわけわかめを食べたあとに“なぜそう感じたか”を文章化する。ただし、模範解答は存在しない。理由がわからない体験を、文章の構造で埋める練習として扱ったという。地方紙の寄稿欄では「わけわかめは、答案の形を教える」という辛口の評も見られた[14]。
さらに、行政側では“味覚の個人差”を説明する際の資料として、わけわかめの逸話が多用された。特に内の消費者相談窓口では、「クレームの理由が説明可能か否か」を分類する業務フローに、わけわかめ由来の比喩が導入されたとされる。しかし実務で採用されていたのは比喩だけで、食品としての運用は限定的だったため、外形的には成功しているのに中身は伴わない政策だと批判されたこともある[15]。
批判と論争[編集]
批判では、わけわかめが“説明不能を価値化しただけ”ではないかという点が争点になった。学術系では、味覚官能の採点が恣意的であるとして、「判別不能に点数を与える設計は、統計的妥当性を損なう」との指摘が出たとされる[16]。
また、安全性の観点からも議論が起きた。海藻加工食品である以上、乾燥や保存条件は重要であるが、わけわかめはロットごとの運用が“理由コード”と呼ばれる内部運用に左右される、と報告されたことがある。そのため、外部監査では「コードの参照ができない」という理由で資料提出が遅れた回があり、監査部門から“測定の透明性不足”とされた[17]。
さらに、笑えるほど厄介な論争として「命名の倫理」が挙げられる。国語教育の関係者からは、という語が“わけがわからない”を肯定するように響き、説明責任を避ける態度を助長するのではないか、という意見が出た。一方、現場の業者側は「曖昧さを楽しむ文化も必要である」と反論し、論争は長期化したとされる[18]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山縁湧太『判別不能を品質にする海藻加工の系譜』海藻学会出版, 1962.
- ^ デルフィン・クラウチ『Taste Ascription and Unstable Explanations』Journal of Food Semantics, Vol. 12 No. 3, pp. 41-69, 1971.
- ^ 佐波崎理紗『香味言語化研究会の記録:なぜ答えが壊れるのか』北海道栄養出版社, 1983.
- ^ 清野鷹臣『海藻香味統一協定の裏面史』農水品質叢書, 第7巻第2号, pp. 10-88, 1959.
- ^ Reginald H. Weller『Sensory Scoring Beyond Palatability』International Review of Sensory Studies, Vol. 4 Issue 1, pp. 201-238, 1988.
- ^ 坂間朱音『理由コード運用の実務と誤差設計』味覚検査技術論集, 第3巻第9号, pp. 77-105, 1994.
- ^ 朽木戸蔵『説明を短縮するマーケティングの観測報告』広告科学年報, 第15巻第1号, pp. 1-29, 2002.
- ^ キムラ・エドガー『海藻加工行政資料における比喩の役割』公共食政策研究, Vol. 9 No. 4, pp. 33-58, 2010.
- ^ 松永むつみ『わけわかめ論争:倫理と統計のあいだ』国語と食品の交差研究会, 2016.
- ^ E. L. Hart『Ambiguity as Commodity: A Case Study of “Wakewakame”』Food Systems Review, Vol. 18 No. 2, pp. 9-52, 2020.
外部リンク
- 海藻香味アーカイブ
- 味覚官能データバンク
- 理由コード非公開メモリアル
- 香味言語化研究会サイト
- わけわかめ体験展示ギャラリー