ウォールクラッシュ
| 読み | うぉーるくらっしゅ |
|---|---|
| 発生国 | 日本 |
| 発生年 | 1993年 |
| 創始者 | 澄原(すみはら)ユウジ |
| 競技形式 | 壁面ステップ・垂直壁飛び乗り・2段飛翔の得点制 |
| 主要技術 | 粘着スーツによる減速制御と、2段目の角度固定 |
| オリンピック | |
| 主要大会 | 関東外壁リーグ / 世界壁衝突選手権 |
ウォールクラッシュ(うぉーるくらっしゅ、英: Wall Crash)は、のスタジアム外壁で生まれたのスポーツ競技である[1]。競技者はを貼り付けたスーツを着用し、垂直の壁を踏み台として飛び乗ったのち、規定の「2段飛翔」で高さに応じたスコアを得る[2]。
概要[編集]
は、垂直の外壁に対して踏み台となる段差(通称「グリップ段」)から跳躍し、壁面へ接触したのちに規定の「2段飛翔」を完遂することで得点化するスポーツ競技である。
競技者は専用の系粘着を用いたスーツを着用し、壁との接触を「失速」ではなく「制動」として扱う技術が評価される。TBS系バラエティ番組で紹介された演技ルールが競技化された、という逸話があり、審判手帳には“ステップ→壁接触→2段目”の順序が図解で残されているとされる[3]。
競技は一見派手でありながら、実際には壁面接触の瞬間と、2段目の飛距離が連動するため、身体の“勢い”より“制御”を競う設計思想が特徴とされる。なお本競技は、審判が得点板ではなく、壁側に埋め込まれたセンサー列の読み取りを主とすることが多いとも言及される[4]。
歴史[編集]
起源:『外壁安全実験』から『外壁芸能競技』へ[編集]
1993年、東京都台東区の企業体育施設で、建物点検員の安全訓練を目的とする簡易落下対策の研究が行われた。この研究班は、壁に貼り付く繊維層の“剥離のしやすさ”を利用し、落下時の制動時間を測る計画を立てたとされる[5]。ただし現場での試験はなぜか“踏み台で壁へ突っ込む遊び”として広まり、訓練日誌には「次の班は成功率だけでなく笑いも測ってほしい」との走り書きが残ったとされる。
その訓練日誌の末尾に登場する名が、創始者とされる澄原ユウジである。澄原は壁接触の良し悪しを、テープ面の微細な繊維戻り量で判定できると主張し、試合形式の原型をまとめたという[6]。このとき採用された“2段目は角度固定”の発想が、のちの得点ルールへ直結したとされる。
国際的普及:『壁衝突連盟』の成立と規格戦争[編集]
2001年、外壁競技の地域大会が増加したことで、審判基準の統一が課題となった。そこでの前身団体が、センサー仕様(壁埋め込み列のピッチ)と、スーツ粘着の“剥離抵抗クラス”を規定した[7]。ところが他国の代表は「剥離抵抗は選手の身体差が出すぎる」と主張し、同年の会議は“数値の取り合い”で紛糾したとも伝えられる。
さらに2007年には、競技がメディア映えしたことから、北米と欧州で“見せる練習会”が先行して広がり、得点換算表が乱立した。結果として2010年、世界組織は「高さよりも2段目の軌道整合を重視する」方式へ段階移行したとされる。ただしこの移行が逆に“派手さ”を削ったとして、観客投票制度を巡る論争が生じたとも記録されている[8]。
ルール[編集]
試合は屋内または屋外のを使用し、壁面には複数の高さ帯(通称「リニア帯」)が配置される。選手はスタート位置の「グリップ段」から踏み込み、壁へ接触した後、規定の「2段飛翔」を完遂する。壁接触までの動作だけでは得点にならず、必ず2段目の軌道が成立して初めて得点が確定する[9]。
試合時間は公式戦では合計20分(前半10分・後半10分)とされる。1人あたりの試技回数は6回、棄権がなければ原則として全試技を実施するが、壁側センサーの故障があった場合のみ試技が再配分される[10]。勝敗は総得点制であり、同点の場合は「2段目の角度偏差が小さい選手」が上位になる。角度偏差は度ではなく“偏差係数(D値)”で表示され、公式には小数第3位まで算出されるとされる[11]。
また、失格条件は意外に細かい。たとえば、壁に接触した際にスーツ粘着面が規定サイズ(直径17.2cm相当)を越えてはみ出した場合は減点ではなく警告扱いとなり、2回目で失格となるとされる[12]。この規定は、見た目より安全配慮が目的だったとする説明がある一方で、メディア映えに配慮した恣意性があるとも批判されている。
技術体系[編集]
ウォールクラッシュの技術体系は、大きく「踏み台制御」「壁接触制動」「2段飛翔整合」の3要素に分類される。踏み台制御は、離地直前の上体角を固定し、接触時の衝撃を壁面のセンサー帯へ均一に伝える技術である。
壁接触制動は、粘着スーツの“剥離タイミング”を調整するもので、接触直後に速度を落としすぎると2段目が失速し、落とさなさすぎると壁へ張り付きすぎて弾かれる。競技者の間では「剥離の呼吸を合わせる」と表現され、練習メニューには壁接触のみを30回反復する“無得点ドリル”が組み込まれることがある[13]。
2段飛翔整合は、壁から離れる角度と、2段目での“落下回収”を同時に成立させる技術であり、角度偏差係数D値が低い選手ほど高得点になるとされる。なお、競技者の体格差がD値に影響するため、フィジカル強化だけでなく、筋電図を使った“タイミング学習”が行われると報じられている[14]。
用具[編集]
用具は大別すると、スーツ、補助テープ、壁面計測装置である。スーツは粘着繊維層を内蔵し、系の“繰り返し貼付”を想定した素材構成が採用されるとされる。繊維層の厚みは0.6〜0.9mmの範囲に規定され、公式にはロット管理のためにロット番号が試合前に記録される[15]。
補助テープは、脚部に装着して踏み台での滑りを防ぐ役割を持つが、使用箇所が厳密に指定される。たとえば膝下から3cm以内の帯に限定され、そこを越えると“接触面の拡張”とみなされ減点となる。さらに壁側センサーは、東京都江東区にある試験施設で校正が行われるとされるが、その校正データの再現性が低いという指摘もある[16]。
壁面には高さ帯のほか、微細な凹凸(通称「クラッシュグリッド」)があり、接触の位置が得点化される。この凹凸は競技開始直前に変更できないとされるが、地方開催では“目立ちを良くするための調整”が行われた例もあるとされ、競技団体が注意喚起を出した経緯がある。
主な大会[編集]
主な大会は、地域リーグと国際選手権の2系統で構成される。日本国内ではが毎年春に開催され、屋内施設での短時間進行のため、メディア露出が多いとされる。得点方式が細かく、観客には“2段目が見えない”という苦情も出やすい一方、選手の技術差が出る大会として知られる。
国際大会としては、世界規格によるがあり、予選と準決勝は同じ壁面、決勝だけ壁面の粘着反発係数が調整されるとされる。選手は決勝前に“反発係数の当て勘”を行う練習をするが、これが迷信として扱われることもある[17]。なお、優勝者には「クラッシュ王座メダル」が授与され、メダルの裏面には高さ帯の数式が刻まれていると報告されている。
ほか、番組連動型のイベントとして“メディア特別予選”が設けられる場合がある。ここでは派手な演技のため、壁接触の演出加点が試験的に導入されることがあるが、翌年に必ず廃止されるという。これは競技本来の制御重視と衝突するためだと説明される。
競技団体[編集]
競技の統括はが担当し、加盟国の審判講習と壁面規格の認証を行うとされる。同連盟は、規格の統一に向けて「D値換算表」の改訂を定期的に行い、選手やメーカーに通知するとしている[18]。
国内では前述のが、選手登録とスーツ素材の検査を担当する。検査は、試合前に粘着層の“剥離抵抗クラス”を測定する方式が採用され、規定を満たさない装備は試合に持ち込めないとされる。
なお、団体の組織運営には批判も伴うとされる。たとえば審判の交代が遅れると、試合中に壁センサーの校正が行われる可能性があり、その運用が“選手に不利にならないように見えて不透明”だという指摘がある。ただし連盟側は「校正は安全のためであり、得点操作を目的としていない」と回答しているとされる[19]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 澄原ユウジ『壁面制動の数理:ウォールクラッシュ入門』伽藍書房, 1995.
- ^ 高比良真琴『外壁競技の安全設計とセンサー校正』日本体育機器学会誌, Vol.12 No.3, pp.44-63, 2002.
- ^ M. Rendel『Two-Stage Flight Dynamics in Vertical Wall Contact Sports』International Journal of Applied Biomechanics, Vol.27 No.1, pp.101-132, 2009.
- ^ 佐久間カイ『粘着スーツの剥離タイミング最適化』東京粘着工学紀要, 第6巻第2号, pp.1-18, 2011.
- ^ J. Lattimer『Broadcast-Driven Scoring Systems: The Case of Wall Crash』Journal of Sports Media Studies, Vol.5 No.4, pp.210-239, 2014.
- ^ 日本壁衝突連盟『公式審判手帳(暫定版)』, 2010.
- ^ 国際壁衝突連盟『D値換算表改訂履歴(公開版)』国際規格資料室, 2018.
- ^ 松川レオン『メディア特別予選はなぜ毎年廃止されるのか』スポーツ社会学研究, 第19巻第1号, pp.77-96, 2020.
- ^ B. Kline『Adhesive Surface Sports: Regulations and Controversies』Sport Regulations Review, Vol.33, pp.55-88, 2022.
- ^ ウォールクラッシュ総合年鑑編集委員会『世界壁衝突選手権記録集(2000-2024)』壁衝突年鑑社, 2024.
外部リンク
- 国際壁衝突連盟公式アーカイブ
- 日本壁衝突連盟 技術資料室
- クラッシュグリッド研究会
- 外壁リーグ 試合記録DB
- 審判講習カレンダー