受忖・贈忖:「受忖」じゅそん、Receiving Sontark、忖度を允諾(いんだく)する(上位) 「贈忖」そうそん、Sending Sontark、忖度を捧げ奉る(下位)
| 分野 | 社会言語学風・組織行動論風(擬似) |
|---|---|
| 主対象 | 会話・稟議・根回し・社内儀礼 |
| 上位/下位 | 受忖(上位)/贈忖(下位) |
| 英語表記 | Receiving Sontark / Sending Sontark |
| 関連語 | 忖度、允諾、捧げ奉る、根回し、黙示的同意 |
| 初出とされる時期 | 昭和末〜平成初の「社内言語規範」の草稿 |
(じゅそん・そうそん)は、忖度行為を「受ける」「贈る」という役割に分解して整理するための日本語圏の擬似概念である。上位のは「忖度を允諾(いんだく)する」過程として、下位のは「忖度を捧げ奉る」所作として説明されることがある[1]。
概要[編集]
は、相手の意図を測りながら暗黙に同意するのではなく、いったん「こちらが忖度を受け取った」と位置づけてから、承認(あるいは拒否)へ進む挙動として語られる。対しては、忖度をあたかも贈り物であるかのように差し出し、相手に「受け取らせる」ことまでを含む所作として説明される。
両者は、単なる言い換えではなく、組織内の責任分界を言語化するための枠組みとして発展したとされる。たとえば稟議書の朱肉が乾く前に「あなたの温情を、こちらは受け忖しました」と宣言するような、儀礼的・形式的な会話が想定されている[1]。
この概念は、実務の説明で使われたというより、半ば遊戯的に作られた「語彙の呪文」として広がったとされる。一方で、当時の管理職研修に紛れ込んだことにより、冗談が現場で“手順書”のように扱われたという逸話もある。
語の設計と用法[編集]
受忖(じゅそん):允諾への変換機構[編集]
受忖は「忖度を允諾する」と説明される。ここでいうは、法律用語の引用ではなく“手続きの雰囲気”をまとわせるための語であり、受け取った側が「私は理解しました」という態度を、形式文の形に変換することを指すとされる。
たとえば、会議で「たぶん大丈夫ですよね?」と言われた場面では、受忖側はただ頷くのではなく、内心を言語化するために「その可能性を採用します。受忖を完了します」と“宣言口調”で返すことが奨励されたと語られる。もっとも、実際にそう言った社員は少数で、研修用台本が先に出回ったとも指摘されている[2]。
受忖を“上位”とする理由は、忖度を受けた側が責任のハンドルを握るためである、と説明されることが多い。会話上の優位性が、そのまま稟議上の優位性へ接続されるという、都合のよい連想が設計されていたと考えられている。
贈忖(そうそん):捧げ奉りの物流モデル[編集]
贈忖は「忖度を捧げ奉る(下位)」とされる。捧げ奉るとは、相手の負担を減らす配慮ではなく、相手に“受け取る余地”を用意することまでを含むという扱いである。
架空のモデルでは、贈忖は三段階の物流として整理される。第一に、第二に、第三にである。たとえばのオフィスでは、受付横の小さな突き出し棚に置かれたメモが「贈忖パッケージ」と呼ばれ、誰が回収したかで社内の相互理解の度合いが推定されたという[3]。
ただし、贈忖が下位とされるのは、捧げる側は“結果”ではなく“意図の供給”に留まりがちだからだと説明される。ここでもまた、現実の責任が曖昧になる余地が、言語の形として固定されていったとされる。
Receiving Sontark / Sending Sontark の“擬人化翻訳”[編集]
英語表記のとは、外資系コンサルが「忖度」を正確に翻訳できないことへの苦肉の策として作られたとされる。そこで、Sontarkは特定の文化概念ではなく“取り引き可能な観念”として擬人化された。
当時の社内メールでは「Today’s Receiving Sontark has been completed(今日の受忖は完了)」のような定型が見られた、と回顧されている。しかし同じ部署内でも、これを真面目に使う人と、わざと誤用して笑う人が分かれたという証言がある[4]。
このように語彙を国際化したことで、むしろ忖度の存在感が増し、当初は遊戯だったはずの言葉が、いつの間にか“評価される行為”へと変質した、というのが通説である。
歴史[編集]
起源:会議室の「沈黙棚」文化から[編集]
受忖・贈忖がまとまった概念として語られ始めたのは、の中堅企業群が“沈黙のコスト”を数値化しようとした社内実験に端を発するとされる。具体的には、会議中の沈黙時間を秒単位で測り、沈黙が長いほど「相互忖度が成立している」と仮説を立てたとされる。
その実験を取りまとめた委員会はの外部講師を招き、標準稟議書の別紙として「受忖・贈忖チェック欄」を付録したとされる。この付録には、受忖完了が“○/×”、贈忖の捧げ奉りが“献上段階(1〜5)”で採点される方式が採られていた[5]。
ただし、沈黙を計測したはずの計測係が、途中から“沈黙が長いほど上司の機嫌が良い”と逆算し始めたため、データが神話化したという。この時期に、上位下位という序列が強調されるようになったと推定されている。
拡散:研修会社と「禁句リスト」の相乗り[編集]
平成初期、研修会社がの周辺にいた“言語整理”志向の行政OBを顧問として迎え、忖度を直接言わずに処理する研修カリキュラムが作成されたとされる。そのカリキュラムの隠れた看板が、受忖・贈忖の上位下位モデルであるという[6]。
研修は全国展開され、受講者アンケートでは「言ってはいけないことを言う技術」への満足度が平均(5点満点)だったとされる。もっとも、配布されたアンケート用紙の回収袋が“贈忖用封筒”と呼ばれていたという逸話もあり、測定そのものが一種の儀礼になっていたと指摘されている。
この拡散の過程で、言葉は“説明”から“契約”へ近づいた。研修の最後に、受講者は「本日は受忖を允諾し、贈忖を捧げ奉りました」と署名したとされるが、署名欄に実際は印影が残らなかった例が報告されたともいう。
転機:炎上ではなく「棚卸し」イベントへ[編集]
受忖・贈忖は、誤解や揶揄の対象にもなった。ある地方拠点では、言葉が独り歩きして社内の評価面談が「贈忖採点会」と呼ばれ、面談が儀式化した。
その結果、の物流企業で“贈忖ポイントが高い人ほど出荷遅延が多い”という逆相関が発見されたとされる。もちろん因果関係は不明で、単に贈忖の書類作成に時間を取られただけではないか、との反論があった[7]。
とはいえ、この概念は炎上で消えるのではなく、社内改革の“棚卸し”イベントに取り込まれた。受忖・贈忖を禁止するのではなく「受忖は会議で、贈忖は書類で」というように媒体別ルールへ変換することで、むしろ定着したとする見方がある。
具体的なエピソード[編集]
あるメーカーの運用では、受忖完了を示すために、部長が稟議書の右上に小さく花形スタンプを押す慣行が生まれたとされる。その花形スタンプは全社で種類あり、同じ花を二度押すことがないよう、押印者は“受忖の順番表”を管理していたという。
一方で、贈忖が強すぎると「捧げ奉り過多」として扱われた。具体的には、提案書の冒頭に「ご理解いただけるはずです」という断り書きが3回以上入ると、贈忖が“過剰供給”になっているサインとして注意された、と回顧される[8]。
さらに細かい例として、の支店では、贈忖用メモの裏面にだけ天気を書き、受忖側が「天気の変化=こちらの心証の変化」と読み替える暗黙ルールがあったとされる。記録では、その支店の受忖完了率が、梅雨の週にからへ跳ねた。ただしその週だけ冷房設定が変わっていたため、同僚から「それ、忖度じゃなくて空調の賜物では?」と突っ込まれたという証言が残っている[9]。
このように、受忖・贈忖は“言葉の整流”として機能した側面があると同時に、現場ではどこまでが忖度でどこからが習慣なのかを曖昧にすることで、運用そのものを娯楽化したとされる。
批判と論争[編集]
受忖・贈忖は、責任の所在を言語で隠す仕組みだとして批判されたことがある。特に、受忖が上位であるという前提が強いほど、受け取った側が「私は允諾しただけ」と自己正当化しやすい、と論じられた。
また、贈忖を捧げ奉るという比喩が、相手に“受け取る義務”を感じさせる危険性を孕むとして、心理的圧力の議論に接続された。会話の中で断りにくい雰囲気が作られ、結果としてサイレント・コンプライアンスが増えるのではないか、という指摘がある[10]。
一方で擁護側は、受忖・贈忖は曖昧さを放置するのではなく、曖昧さを役割で整理する試みだとしていた。つまり、忖度を“なかったこと”にせず、受ける側と贈る側を分けて透明化することで、誤解を減らす可能性がある、と主張された。ただし透明化の指標がどこにあるのかについては、棚卸し会議の資料が毎回更新され、結論が出なかったとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 中島御門『受忖・贈忖の言語手続き論』雲海書房, 1997.
- ^ ルイーザ・カトレル『Sontark: A Mis-Translation of Consent in Workplace Talk』Oxford Policy Press, 2003.
- ^ 平良祐人『允諾という雰囲気——形式文の心理学』東京大学出版局, 2001.
- ^ グレゴリー・ハリントン『Receiving and Sending: Micro-Agency in Organizational Rituals』Cambridge Collegiate Studies, 2008.
- ^ 松本朱音『禁句リストの裏側——研修資料に潜む語彙規範』白鴎学院出版, 1999.
- ^ 田代蘭丸『沈黙のコスト測定はなぜ神話化するか』名古屋商工大学出版, 2005.
- ^ 伊達誠一『稟議の右上花形スタンプ調査報告』日本評価研究協会, 第12巻第3号, pp.21-44, 2012.
- ^ K. Watanabe『The Shelf of Silence: A Quantified Metaphor in Meeting Cultures』Vol.7 No.2, pp.55-79, 2015.
- ^ 山端ミナ『贈忖ポイントと遅延の逆相関(仮説)』季刊・実務言語学, 第4巻第1号, pp.1-18, 2011.
- ^ (出典要確認)森嶋澄人『上位下位モデルは本当に機能したのか』新星社, 2010.
外部リンク
- 受忖贈忖用語集倉庫
- Sontark研修アーカイブ
- 沈黙棚インタビュー集
- 稟議右上スタンプ研究会
- 禁句リスト監査室