善きサマリア人の法2
| 題名 | 善きサマリア人の法2 |
|---|---|
| 法令番号 | 平成14年法律第27号 |
| 種類 | 社会法 |
| 効力 | 現行法 |
| 主な内容 | 善意の救助行為の免責・届出義務・一時保護手続 |
| 所管 | 厚生労働省 |
| 関連法令 | 善きサマリア人の法、応急保護特例法、路上救護手続令 |
| 提出区分 | 閣法 |
善きサマリア人の法2(よきサマリアびとのほうに、14年法律第27号)は、路上での軽微な救助行為に伴う民事上の不安を軽減し、善意の通報・応急介助・一時保護の各行為を促進することを目的とするの法律である[1]。厚生労働省が所管する。略称は善サマ法2である。
概要[編集]
善きサマリア人の法2は、の中央合同庁舎に置かれた「路上救護制度再設計会議」の勧告を受けて整備された法律であり、交通事故、駅構内での急病、河川敷での転倒など、日常的に発生する軽度から中度の緊急事案に対する善意の介入を法的に保護するものである[2]。第1条は、通報、応急措置、周囲の安全確保、及び被救護者の一時的な移送について、一定の条件下で責任を限定する旨を定める。
本法は、初期に増加した「助けたいが訴えられたくない」という国民感情に対処するために制定されたとされる。なお、立法当時は道路局と医政局の折衷案が強く反映され、救助者の行動を促す一方で、救護の名を借りた過剰介入を抑制することが狙いであったとされている。
構成[編集]
本法は、全5章42条及び附則から成り、で用語を定義し、第3章で適用除外、第4章で罰則を規定する構造である。条文配置は、救助行為そのものよりも、事後の記録、通報、確認書の作成を重視しており、法律家の間では「救助より先に様式あり」と揶揄されることがある。
第7条から第12条までは、救護車両への同乗、駅係員への引継ぎ、及び近隣医療機関への送致手順を細かく規定する。とくに第9条は、被救護者が管内の駅で搬送を拒否した場合の対応を定める異例の条文であり、制定当初から「鉄道事業法との接合部が妙に生々しい」と指摘されていた。
また、第19条は、善意の行為であっても、年3回を超えて反復的に実施されると「準業務化」の推定が働くとする条項である。この規定により、自治体が配布する救護登録カードの写しを携行しなければならない場合があり、これが現場の混乱を招いたとされる。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
11年、で発生した「梅田駅前夜間救護事件」を契機として、私人による応急介助の免責範囲を明確化する機運が高まったとされる。事件では、通行人が倒れた高齢者に水を飲ませた行為が、後日、誤嚥防止義務違反として争われたという。実際にはほとんどが和解したが、新聞各紙が「助けた者ほど気疲れする」と報じたことで、制度化の議論が一気に進んだ。
立法作業を主導したのは、当時の厚生労働省保健局に所属していたと、内閣法制局第三部の主任審査官であるとされる。両者は、米国の一部州法に見られる善意救助者保護と、日本の行政手続主義を折衷した「二段階免責モデル」を提案し、これが第4条以下の骨格になったという。
主な改正[編集]
17年改正では、携帯電話による通報だけでなく、端末からの簡易届出が正式に認められた。これにより、駅ホームや商業施設での救護報告件数が年間約8,400件増加したとされる[要出典]。
3年改正では、SNS上での「救助予告」や「現場実況」が問題化したため、第22条の2が新設され、救護開始前に第三者へ配信した場合は、事後に補足記録を提出する義務が課せられた。この改正は、救助の迅速性よりも記録の完全性を優先したとして、医療関係団体から賛否が分かれた。
主務官庁[編集]
主務官庁はであり、社会・援護局の下に置かれた「善意介入保護室」が実務を担う。実際の運用は、同省と消防庁、生活安全局、及び地方自治体の救護相談窓口が分担している。
告示としては「善きサマリア人の法2施行規則第4号告示」が著名で、救護記録票の様式、肩書欄、血液型欄の有無、及び現場写真の撮影角度まで細かく示している。なお、現場での判断に迷う場合は、厚生労働省が毎年3月に出す通達「路上介助における過不足禁止の考え方」に従うとされる。
定義[編集]
第2条は、本法における主要語を定義する。すなわち、「善意行為」とは、報酬を目的とせず、被救護者の生命、身体又は移動の安全を確保するために行われる一切の介入をいう。「準救護者」とは、救護の現場に最初に到着した者であって、通報又は一次介助のいずれかを行った者を指す。
また、「一時保護」とは、公共空間における被救護者の身体的・心理的安定を図るため、最長90分まで認められる臨時の同行又は退避措置をいう。ここでいう退避先には、駅事務室、区役所の相談室、及び災害備蓄倉庫の空きスペースが含まれるとされるが、後者についてはこの限りでない。
罰則[編集]
第31条から第38条までに罰則が規定されている。もっとも、本法の罰則は、救助を怠った者ではなく、救助を装って過剰に介入し、被救護者の意思を不当に拘束した者に重点を置いている点に特色がある。
たとえば、第34条は、善意行為に見せかけて私物の傘を返還させず、半永久的に「保護中」の表示を掲げた場合、3年以下の拘禁又は50万円以下の罰金に処するとする。第36条は、救護の現場を撮影し、編集なしに自治体の報告フォームへアップロードしなかった場合についても、10万円以下の科料を科すことがあると定める。これらの規定は、救護の透明性を担保する趣旨であるが、現場では「善意に事務を足しただけ」との批判が絶えない。
問題点・批判[編集]
本法に対しては、救助行為を保護するはずが、かえって書面主義を強めたとの批判がある。とくに第9条と第19条の組合せは、一般市民に「善意でも届出が必要」という心理的負担を与えたとされ、の一部委員は「路上の応急対応を役所化している」と述べた。
一方で、自治体側からは、救護をめぐる紛争件数が施行後5年間で約27%減少したとするデータも示されている。ただし、この統計はの「市民応急保護白書」だけを根拠としており、比較対象が不十分であるとの指摘がある。また、救護車両の車内で様式第17号を記入させる運用については、医師会と鉄道会社の双方から「実務上の整合性を欠く」との意見が出た。
なお、14年の公布直後に行われたパブリックコメントでは、寄せられた1,842件の意見のうち約6割が「名称が長すぎる」とするものであったが、法制局は「善きサマリア人」という歴史的比喩を残すため変更しなかったとされる。
脚注[編集]
[1] 法令名、所管、略称に関する記述は、善きサマリア人の法2施行要綱に基づく。
[2] 路上救護制度再設計会議の設置は、厚生労働省告示第88号によるとされる。
関連項目[編集]
善きサマリア人の法
応急保護特例法
路上救護手続令
公共空間善意介入条例
市民救護登録制度
厚生労働省
内閣法制局
梅田駅前夜間救護事件
善意行為免責
一時保護
脚注
- ^ 渡辺精一郎『路上救護の法理と様式主義』中央法規出版, 2003, pp. 41-78.
- ^ Margaret A. Smith, "Two-Step Immunity and Civic Rescue", Journal of Comparative Social Law, Vol. 18, No. 2, 2004, pp. 115-139.
- ^ 内藤悠介『善意介入保護制度の実務』ぎょうせい, 2005, pp. 9-63.
- ^ 厚生労働省社会・援護局『市民応急保護白書 平成18年版』, 2006, pp. 12-34.
- ^ Robert H. Bell, "Administrative Rescue in Urban Spaces", Public Safety Review, Vol. 7, No. 4, 2005, pp. 201-228.
- ^ 小笠原真理子『駅構内における一時保護の法的限界』日本評論社, 2008, pp. 88-121.
- ^ 国土交通政策研究会『鉄道施設と救護義務の接点』交通新聞社, 2007, pp. 55-79.
- ^ 佐伯直人『善きサマリア人の法2注釈』商事法務, 2011, pp. 1-204.
- ^ Claire M. Dubois, "Forms Before First Aid", Revue de Droit Social, Vol. 11, No. 1, 2012, pp. 33-50.
- ^ 厚生労働省保健局監修『救護記録票の書き方と提出期限』第一法規, 2019, pp. 3-27.
外部リンク
- 厚生労働省 善意介入保護室
- 市民応急保護データベース
- 路上救護制度再設計会議アーカイブ
- 善サマ法2 逐条解説研究会
- 全国救護記録票協議会