富士山条約
| 題名 | 富士山条約 |
|---|---|
| 法令番号 | 12年条約第7号 |
| 種類 | 公法(国土・環境調整条約) |
| 効力 | 現行条約 |
| 主な内容 | 富士山周辺の領域線、通行ルール、環境負荷算定、共同運営体制 |
| 所管 | 富士山調整局 |
| 関連法令 | 富士山環境負荷算定省令、富士登山動線管理告示 |
| 提出区分 | 閣議決定・国会承認(条約形式) |
富士山条約(ふじさんじょうやく、12年条約第7号)は、における富士山周辺の領域・観光・環境の調整を目的とするの条約である[1]。略称は「富士条約」。が所管する。
概要[編集]
は、との間で争われていた「富士山周縁の境界解釈」および「観光導線の優先順位」を、共同で固定するために制定されたの条約である[1]。
本条約は、1999年に表面化したとされる領土問題の沈静化を目的として、富士山の標高帯ごとに“負荷係数”を割り当て、負荷が大きい側がどの施設を先に譲るかを算定する方式を採用した点に特徴がある[2]。とりわけ、第1条の趣旨により、地図上の1ミリをめぐる交渉を、1時間あたりの通行者数(推計値)へと転換したことが評価されたとされる。
条約は、公布後すみやかに実務へ適用され、側の「新設補給所(標高2,310m帯)」と側の「夜間警備用監視塔(標高1,970m帯)」を交換する手続が附則に基づき実施されたとされる[3]。この交換は、住民の体感では“見えない交渉の見える化”であったと報告されている[4]。
構成[編集]
は、全7章23条および附則から構成される。第1章は総則として目的、定義、適用範囲を定める。
第2章は「富士山領域線」の考え方を定め、第3章は登山道・立入規制・通行優先に関する運用を規定する。第4章では環境負荷の算定方法を定め、第5章に共同運営体制と資金分担が置かれる。
第6章には違反した場合の手続と救済の枠組みが規定され、第7章で罰則相当(制裁金・登山枠の停止等)を定める。条約の細部は、政令・省令・告示・通達により具体化され、特にが実務運用の中心として位置づけられた[2]。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
制定は11年末に始まったとされる「富士山測量統一会議」からの流れである。同会議は、測量点「富士北麓No.12(緯度35.36…秒)」と「富士東麓No.41(経度138.57…秒)」の扱いで合意できず、交渉が“地図の誤差”から“住民の生活”へ波及したとされる[5]。
そこで、主導により「負荷係数で線を確定する」という苦肉の案が提示され、第1回合意案では標高帯別係数を“富士山の象徴色”に合わせて彩色し、議論を落ち着かせたと記録されている(この彩色案は、のちに「象徴運用指針」として通達に格上げされた)[6]。
最終的に、1999年に締結されたとされる「山梨県・静岡県の領土問題に関する覚書」を土台に、12年に条約として整備された。条約案は、国会審議で「境界の1ミリが罰則になるのか」という質問が相次ぎ、最終的に“1ミリ→1,000歩相当”へ換算する附則が設けられたとされる[7]。
主な改正[編集]
施行後、想定よりも観光シーズンの混雑が激化したため、14年に第4章が改正され、負荷係数の算定に「夜間滞在指数(NRS:Nighttime Residence Score)」が追加された[8]。
また、18年には、強風時に一部通行が禁止される運用が実態に合わないとの指摘があり、第3条が改正されて「風速毎秒7.3mを基準とする」という細かな閾値が告示により固定された[9]。
さらに、21年の改正では、救済手続の迅速化のため、違反した場合の通知期限が「原則として発覚から30日以内」に短縮された[10]。この“30日”は、会議の参加者が当時たまたま全員が30日分の登山用品を買い込んでいたことに由来する、という逸話が一部で語られている[11]。ただし、この点についてはこの限りでないとの注記がある。
主務官庁[編集]
本条約の所管はであり、富士山調整局が本条約の実施状況を取りまとめるものとされる(条約の規定により、地方公共団体は協力義務を負う)[12]。
は、富士山領域線の運用状況、環境負荷算定の妥当性、登山道の安全措置の実施状況について、政令に基づき年次報告書を作成し、告示により公表するとされる。
また、通達に基づき、およびの共同運営体(後述の第5章に規定)が提出する推計値(通行者数、廃棄量、夜間滞在指数)を審査し、の規定により是正命令を行うことができるとされる[13]。
定義[編集]
第2条では、主要な用語として「富士山領域線」「富士山負荷量」「共同運営区域」「優先通行枠」等を定める。富士山領域線とは、地形図における標高帯境界と、現地計測の補正値を合算して得られる線として定義される[14]。
富士山負荷量は、当該標高帯で発生したと推定される人流・廃棄・騒音を、環境負荷算定の方法により換算した数値をいうとされる。条約の規定により、換算係数は“当該年の降水量(前年同月比)”で補正されるため、同じ道でも数値が揺れる仕組みになっているとされる[15]。
なお、第2条第3項では、富士山領域線に基づき優先通行枠を付与する場合、「優先通行枠は、原則として当該週の先行予約残枠の3.2倍まで」と規定しており、細かい上限が実務で話題となった[16]。この数字は“3.2”がなぜか水道メーターの規格値に似ていたことから採用されたと説明されているが、その出典については複数の異説がある。
罰則[編集]
第7章では罰則相当として、違反した場合の制裁金および運用停止措置が規定される。第19条では、「共同運営区域において、政令で定める掲示を怠り、かつ適用される立入規制に反した者」に対し、違反1件につき「100万円又は負荷量換算で当該年の第4四半期負担金の1/20のいずれか高い額」を科すとされる[17]。
また、第20条では、義務を課すに当たり「虚偽の推計値を提出した場合」は、罰則に加え、当該年度の優先通行枠の付与を停止すると定める。禁止される行為としては、通行者数の過少申告、夜間滞在指数の恣意的な切り下げ等が列挙される。
ただし、第21条では「天候上の理由により安全確保のために通行を変更した場合」についてはこの限りでない。なお、条約の趣旨に照らし、救済手続として是正計画の提出が許されるとされるが、計画の提出期限はの規定により30日とされ、延長は通達で例外的に認められるとされる[18]。
問題点・批判[編集]
には、数値換算に依存することで現場の感覚と乖離するのではないかという批判がある。負荷係数が“降水量補正”で動くため、同じ行為でも別の年度では結果が変わり、地方議会で「気象が罰則を左右するのか」と疑問が呈されたとされる[19]。
また、観光事業者側からは、優先通行枠が制度化されたことで、団体旅行の調整が過度に事務化したとの指摘がある。第3条の運用に基づき、予約枠の調整に必要な申請書類が増加し、現場では“紙の重さが富士の風を止める”という冗談まで流通したと報告されている[20]。
一方で、条約の規定により環境負荷が数値化されたことは、環境団体からは評価されたとする見解もある。例えば、による廃棄物集計が継続され、自治体ごとの回収効率が可視化されたことが成果とされた。ただし、この評価には「一部の数値が監査で差し替えられた可能性」をめぐる要出典の疑念も残ったとされる[21]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 富士山調整局『富士山条約逐条解説(改正第3版)』環境政策研究会, 2014.
- ^ 山川玲子『負荷係数による領域調整の制度設計』環境法制研究, Vol.18, No.2, pp.41-66, 2009.
- ^ Katherine M. Thornton『Numerical Bordering in Environmental Treaties』Journal of Cartographic Governance, Vol.12, No.1, pp.5-33, 2011.
- ^ 佐伯文也『夜間滞在指数(NRS)の算定と監査』観光計量学会誌, 第6巻第3号, pp.77-102, 2013.
- ^ 【架空】“富士山測量統一会議”記録編集委員会『富士山測量統一会議の議事録要旨』測図出版, 2000.
- ^ 藤田和義『通行優先枠と救済手続の整合性』国土調整法レビュー, Vol.5, No.4, pp.211-240, 2012.
- ^ Lars P. Johansson『Weather-Adjusted Compliance in Public Agreements』International Journal of Environmental Compliance, Vol.9, No.2, pp.88-119, 2016.
- ^ 高村秀一『富士条約の罰則設計:制裁金と枠停止』制裁法学論集, 第3巻第1号, pp.1-29, 2006.
- ^ 村上さゆり『掲示義務の実効性と現場運用』地方自治実務叢書, pp.305-332, 2018.
- ^ 伊藤亮『“3.2”上限の由来と制度信頼』法制度資料館報, 第11号, pp.49-58, 2020.
外部リンク
- 富士山条約データポータル
- 富士山負荷算定サンプル集
- 山梨・静岡共同運営Q&A
- 環境省 富士山調整局 速報
- 富士登山動線管理アーカイブ