栞とチョコ
| 名称 | 栞とチョコ |
|---|---|
| 読み | しおりとちょこ |
| 起源 | 1912年頃、横浜の私設図書室 |
| 主用途 | 読書時の糖分補給、頁間保持、贈答 |
| 主成分 | カカオ、糖蜜、乾燥紙繊維、香料 |
| 関係団体 | 日本頁間食品協会、横浜栞菓研究会 |
| 流行期 | 昭和初期、平成後期 |
| 禁則 | 厚さ1.8mmを超えるものは“挟み過ぎ”とされた |
| 代表都市 | 横浜市、金沢市、松江市 |
栞とチョコ(しおりとちょこ)は、のページ間に挟む薄片状のおよびその周辺文化を指す総称である。20世紀初頭ので、読書中の糖分補給と紙片の湿度調整を兼ねた実用品として考案されたとされる[1]。
概要[編集]
栞とチョコは、に挟んで使うことを前提とした極薄の、またはそれに付随する読書用菓子文化である。通常の板チョコよりも薄く、裏面に微細な繊維層を持つ点が特徴で、頁から落ちにくい一方、夏季には若干の“頁溶け”を起こすことがあるとされる[2]。
この習俗は、末から期にかけて、洋装本の普及とともに都市部の読書階層のあいだで広まったとされる。とくにの輸入菓子店と貸本屋が協力した「読書卓上会」で標準化が進み、後に推薦の家庭用嗜好品として半ば公認された、という説が有力である[3]。
起源[編集]
横浜港の試作説[編集]
最初期の栞とチョコは、に近くの洋館で、輸入された片の保存試験中に誤って紙片へ塗布されたものが起源とされる。試食したは、香りを損なわず頁を重しにできるとして着想を得たという[4]。なお、同試作は当初「頁止め菓子」と呼ばれていたが、名称が硬すぎるとして不評であった。
貸本屋連盟の介入[編集]
にはの貸本屋連盟が、返却時の折れ跡を減らす目的で、栞とチョコの配布を推奨した。各冊に一枚ずつ付属する運用が試され、の一部書店では、購入額に応じて“紙香型”と“木香型”の二種が選べたとされる。もっとも、木香型は噛むとしつこいとして短期間で廃止された。
官製規格化[編集]
、告示第74号により、栞とチョコの寸法は縦48mm、横132mm、厚さ1.8mm以下に統一された。これは当時流通していた文庫判の平均頁幅に合わせたもので、頁から半分だけ顔を出す「半挿し」が最も美しいとされた[5]。しかし、戦時下では嗜好品統制の対象となり、カカオ不足からを用いた灰色の試作品が大量に作られた。
製法[編集]
製法は大きく三系統に分かれる。第一は、純カカオを低温で圧延し、紙繊維と可食ワックスを混ぜた“頁面層”を形成する伝統法である。第二は、で発達した金箔混入法で、見栄えの良さから贈答用に重宝された。第三は、の湿潤環境に適応した吸湿調整法で、湿度72%を超えると内部の糖結晶がわずかに鳴るため「鳴る栞」と呼ばれた[6]。
製造工程では、最後に一度だけ頁に挟み、読書中に動かしても落ちないかを試す“頁保持試験”が行われる。合格基準は、の旧仮名遣い版を3ページ移動しても落下しないことと定められたが、この試験は再現性が低いとして後に削除されたという。
流行と社会的影響[編集]
栞とチョコは、戦前期に「静かな贅沢」の象徴として定着した。読書会や女学校の寄宿舎での消費が多く、の古書店では、挟まれたまま古本に残る栞とチョコを“頁間化石”として収集する愛好家も現れた。
戦後は一時衰退したが、のテレビ番組『夜の図書館菓子特集』で再評価され、若年層のあいだで復興した。特にの喫茶文化と結びつき、コーヒーに合う「黒糖頁面」「ミルク頁面」などの派生商品が増えた。なお、1980年代後半には、試験勉強用に1ページごとに一粒ずつ食べる“分冊食い”が流行し、教育現場からは「集中力より先に胃が進む」との苦情が寄せられた。
批判と論争[編集]
栞とチョコには、保存性をめぐる批判が常につきまとった。とくにの通学鞄内で変形しやすく、図書館の返却本から溶け出した痕跡が見つかる事例があり、は一時期、館内での持ち込みを制限したとされる[7]。
また、製造者の間では「これは菓子であるのか、文具であるのか」という分類争いが起こり、とが共同で協議を行った。しかし結論は出ず、現在でも税法上は菓子、流通上は付箋、家庭内ではしおりとして扱われることがある。
現代の展開[編集]
後期以降、栞とチョコは地域おこしの題材として再発見され、の和菓子店やの観光土産店でも復刻版が販売されるようになった。現在は、薄型化技術の進展により、読書灯の熱で香りが立つ“熱感応頁面”や、朗読の音量に応じて甘味が変化する“音声連動型”まで登場している。
一方で、電子書籍の普及により実用性は低下したが、ページのない端末では使えないという逆説的な理由から、紙の本の価値を再確認する象徴として扱われている。2023年時点の推定出荷量は年間約42万枚で、うち6割が贈答用、2割が図書館員向け、残り2割が“挟むためではなく眺めるため”に購入されているという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 石川栞一郎『頁間菓子試作録』横浜書房, 1914年.
- ^ 田中みどり『読書と甘味の近代史』月刊文化研究社, Vol. 12, No. 4, 1938, pp. 44-61.
- ^ 山岸俊作「栞とチョコの標準寸法に関する覚書」『内務資料』第7巻第2号, 1934, pp. 5-19.
- ^ Margaret A. Thornton, “Sweet Interleaves: Portable Confectionery in East Asian Reading Culture,” Journal of Speculative Food Studies, Vol. 8, No. 1, 1969, pp. 1-28.
- ^ 佐伯ひろし『書店と菓子の協同経営』東洋経済新報社, 1956年.
- ^ 小林澄子「頁保持試験の再現性について」『日本嗜好品学会誌』第15巻第3号, 1979, pp. 201-214.
- ^ Henry L. Wexler, The Chocolate Bookmark Compendium, Cambridge Meridian Press, 1988.
- ^ 中村叶子『湿度72%の文化史』京都頁面出版, 2002年.
- ^ 高見沢岳『栞とチョコの社会学』港北人文書院, 2011年.
- ^ Aiko F. Senda, “On the Audible Crystallization of Choco Shiori,” Proceedings of the International Society for Minor Confections, Vol. 3, 2017, pp. 77-89.
外部リンク
- 日本頁間食品協会
- 横浜栞菓研究会
- 読書菓子アーカイブ
- 頁面文化資料館
- 国際付箋菓子連盟