甲子園の土の行方
| 作品名 | 甲子園の土の行方 |
|---|---|
| 原題 | The Fate of Koshien Soil |
| 画像 | (架空の映画ポスター画像) |
| 画像サイズ | 220px |
| 画像解説 | 甲子園球場の土を思わせる琥珀色の顆粒と、ガラス瓶の列が映し出される。 |
| 監督 | 鴫野マサキ |
| 脚本 | 並木アキラ |
| 原作 | 土の保存実務者メモ(長期取材ノートを基にした再構成) |
| 製作 | 甲子園土保全製作委員会 |
| ナレーター | 篠束リツ |
| 出演者 | 実名の被取材者を主に構成(架空の再現には俳優・村島ユウ、山嶋ヨウタ等を起用) |
| 音楽 | 久住シオン |
| 主題歌 | 「粒の記憶」— 深森レイ |
| 撮影 | 森谷トモヤ |
| 編集 | 清水カナト |
| 制作会社 | スタジオ潮騒映像 |
| 製作会社 | 朝霞映像興業(共同製作) |
| 配給 | 小島配給社 |
| 公開 | 2024年9月14日 |
| 製作国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
| 製作費 | 3億7800万円 |
| 興行収入 | 11億2460万円 |
| 配給収入 | 6億9012万円 |
| 上映時間 | 133分 |
| 前作 | なし |
| 次作 | 『甲子園の風向き』 |
『甲子園の土の行方』(こうしえんのつちのゆくえ)は、2024年に公開された日本のドキュメンタリー映画である。監督は鴫野マサキ、ナレーターは篠束リツ。高校球児が甲子園から持ち帰った土が、競技用・研究用・家庭用としてどのように保管されてきたのかを追跡する長期取材を描いた作品である[1]。
概要[編集]
『甲子園の土の行方』(以下、本作)は、甲子園球場で集められた「土」をめぐる保管文化を、長期取材で再構成したドキュメンタリー映画である。作品タイトルは、単なる“持ち帰り”の噂を、どのような容器・どのようなラベル・どのような温度帯で「生き残らせるか」という実務の問題にすり替えた点に特徴がある。
本作は高校球児が試合後に手渡されたとされる「土の小分け(通称:粒寄せ)」に触れ、その後の保管状況を追跡する。取材班はの倉庫、大学の土壌微生物室、実家の仏壇脇の引き出しまで移動し、土が“時間の指標”として扱われる実態を丹念に記録したとされる[2]。
一方で、土の由来については確証が薄い部分もあり、監督自身が「映像の筋肉は事実よりも記憶に近い」と語ったとも報じられた[3]。このため本作は、観客が「信じたいが検証できない」状態をしばらく保つよう設計されている。
内容[編集]
本作の中心は、取材班が回収した“粒寄せ”の内訳を、容器の種類と保管目的で分類する手順にある。たとえば、最初の8回の取材では「紙封筒」「ガラス瓶」「ジップ袋」「小型金属ケース」「折り畳み陶器鉢」の5系統が見つかったとされ、各系統の“生存率”を観察する尺が組まれている[4]。
具体的には、に住む元高校球児の一人が「土を触った瞬間の湿度が、次の試合の気分に直結する」と述べ、保管温度を冷蔵庫の野菜室ではなく“冷蔵の中でも最も振動の少ない棚”と指定した場面がある。別の被取材者は、土を封筒から取り出した日付を手帳の「試合結果欄」に記入しており、取材班はその整合性を“勝敗より先に回る習慣”として提示した[5]。
ただし本作では、土壌を「球場の土」と断定しない箇所もある。保管者の記憶が混ざることを織り込み、「同じ瓶のラベルが翌年も貼られていた」などの物証に焦点を移す編集が行われたとされる。ここで、観客は“何が本物か”よりも“何が本物として扱われるか”へ視点を誘導される。
取材対象・登場人物[編集]
本作の取材対象には、球児、保護者、土壌研究者、清掃業務担当、民間の保存コンサルタントが含まれる。取材班のリーダーである鴫野マサキは、最初の聞き取りをの甲子園周辺で行い、地元の倉庫組合と連絡を取ったとされる。なお、倉庫組合の窓口名として「西宮粒蔵共同管理会」が登場するが、その実在性には諸説がある[6]。
登場人物のうち、最も頻出するのが“土の棚卸し”を請け負う民間人、村瀬ハルカである。村瀬は「土は乾かすと嘘をつく。だから“乾く前の状態”を残す」として、通気性フィルムと脱臭剤の組み合わせで保管箱を作っていたと描かれる。細部として、脱臭剤の交換は「ちょうど31日ごと」とされるが、取材班はその理由を「匂いの立ち上がりが31日目に揃う」と記録している[7]。
また、再現パートでは俳優の村島ユウが「土のラベルを試合パンフの裏に貼り直した」場面を演じる。実写としての手触りが強調されるため、ドキュメンタリーの冷静さがあえて崩されていると批評されることがある[8]。
製作背景[編集]
本作の企画は、監督鴫野マサキがで取材していた際に聞いた一言、「土だけは置いていくと、負けが先に来る」に端を発するとされる。取材にあたっては、土を“物”ではなく“手続き”として扱う研究者に近い視点が採用された[9]。
製作委員会は「甲子園土保全製作委員会」であり、関連団体としてスポーツ文化振興をうたう「関西記憶技術研究室」や、映像保存の事業を行う「テラ光学記録社」などが連なると説明される。ここでは、土が湿気と温度に左右される点から、映像フィルムと同じ比喩が使われたとされるが、同社の公式資料には細部が一部欠けているとの指摘もある[10]。
なお、取材の倫理面では、球場からの持ち帰りが適法かどうかをめぐる議論が製作中に発生し、脚本の並木アキラが「“持ち帰った”と断言しない構文」を増やす編集を行ったとされる。結果として、本作には断定の少ない台詞回しが多用され、観客の疑念を温存する構造になっている。
公開と反響[編集]
本作は2024年9月14日に公開され、公開初週の動員は全国で約19万4000人、観客満足度は5点満点で4.3と報じられた。特に、ドキュメンタリー特有の“沈黙の長回し”が、土の粒の映像に合わせて設計されている点がSNSで話題となった[11]。
一方で、観客からは「土の保管がまるで家系図みたいだった」という声が寄せられたとされる。また、保管箱の説明で「遮光は第3層まで」といった数え方が出てきたことから、視聴者の一部が“模型の作法”として熱心に再現したという。なお監督はインタビューで「再現する人はやがて土より手順を好きになる」と語ったとされる[12]。
批評面では、本作が球場の神秘性を“実務化”した点を評価する声がある反面、「土の来歴が曖昧なまま神話だけが強まった」との指摘もあったとされる。もっとも、作品の意図が“検証ではなく追体験”にあるため、そうした反応も一定の成功として受け止められたと報じられている。
受賞[編集]
本作は、第38回日本映像記録賞でドキュメンタリー部門の優秀賞を受賞したとされる。授賞理由は「物質と記憶の境界に、観客が自分の検証欲を見つける構造を構築したこと」と要約された[13]。
また、審査員の一人である映像史研究者・橋本オサムは「“土の行方”は比喩ではなく、倫理と手続きの行方でもある」とコメントしたと報じられた。なお、この発言は受賞会場の公式記録には載っていないとして、のちに“要出典”に相当する疑義が一部で出回った[14]。
受賞時期には、土の保管文化を扱う関連展示がで開催され、本作の監督ノートとされる資料が展示された。資料には「温度管理の目標値:16〜18℃」といった温度帯が記載されていたが、展示解説では単位の定義が曖昧であると指摘された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 鴫野マサキ『土の比喩は手順になる—『甲子園の土の行方』制作日誌』朝霞映像興業, 2024.
- ^ 並木アキラ『検証しない編集—ドキュメンタリー文法の再設計』小島出版, 2023.
- ^ 篠束リツ『ナレーションは矛盾を抱える』講談澪音文化研究所, 2022.
- ^ 森谷トモヤ『低照度撮影の現場—琥珀色の粒を映す方法』Vol. 12第4号, テラ光学記録社刊, 2021.
- ^ 村瀬ハルカ『保管箱の哲学:温度・遮光・振動の三原則』第2巻第1号, 関西記憶技術研究室, 2020.
- ^ 橋本オサム『物質と記憶の境界線:スポーツ儀礼のミクロ分析』日本映像記録学会紀要, Vol. 38 No. 2, 2024.
- ^ International Journal of Archive Atmosphere『The Bottled Past: Soil-like Artifacts in Sports Rituals』pp. 114-139, Vol. 7, No. 1, 2022.
- ^ Koshien Field Museum『Curation Practices for Small Samples』pp. 56-73, 2021.
- ^ 小林ユウト『映画興行と地域神話の相関—関西圏の事例』第19巻第3号, 文化統計出版社, 2024.
- ^ テラ光学記録社編集『保存映像のための比喩工学』第1巻第1号, テラ光学記録社, 2019.
外部リンク
- 甲子園土保全製作委員会 公式ポータル
- 小島配給社 映画情報ページ
- スタジオ潮騒映像 研究アーカイブ
- 日本映像記録賞 オフィシャル
- 関西記憶技術研究室 展示レポート