素晴らしき車椅子の旅
| 作品名 | 素晴らしき車椅子の旅 |
|---|---|
| 原題 | The Wonderful Journey by Wheelchair |
| 画像 | (架空)公式ポスター画像 |
| 画像サイズ | 300px |
| 画像解説 | 車輪の軋みを模した書体と、深夜の国道標識が描かれたポスターである。 |
| 監督 | 鵜殿舟 |
| 脚本 | 鯉森駿平 |
| 原作 | 探偵ナイトスクープ特別取材記録(編纂) |
| 原案 | 矢場崎啓人(企画) |
| 製作 | 夢路テレビ制作局 |
| 製作総指揮 | 中原成利 |
| ナレーター | 早瀬門太郎 |
| 出演者 | 高瀬未央、佐久間憲次郎、榛名玲央 |
| 音楽 | 柏木リュウタ |
| 主題歌 | 『段差の向こう』 |
| 撮影 | 伊達京介 |
| 編集 | 白石緑 |
| 制作会社 | 夢路テレビ制作局 |
| 製作会社 | 夢路テレビ製作委員会(架空) |
| 配給 | 東雲映画配給 |
| 公開 | 2016年9月17日 |
| 製作国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
| 製作費 | 2億4300万円 |
| 興行収入 | 11億8200万円 |
| 配給収入 | 6億5100万円 |
| 上映時間 | 112分 |
| 前作 | (なし) |
| 次作 | 『続・素晴らしき車椅子の旅』 |
『素晴らしき車椅子の旅』(すばらしき くるまいすのたび)は、[[2016年]]に公開された[[日本]]の[[テレビバラエティ・ドキュメンタリー映画|テレビバラエティ]]のドキュメンタリー映画である。監督は[[鵜殿舟]]、主演は[[高瀬未央]]。112分で、番組企画を映画化した形として注目され、公開翌年度に大規模なリバイバル上映が行われた[1]。
概要[編集]
『素晴らしき車椅子の旅』は、[[夢路テレビ制作局]]の人気企画を映画化した[[ドキュメンタリー映画]]である。番組「探偵ナイトスクープ」の派生として位置づけられ、車椅子の少女が親戚の家へ一人旅をする設定を、健常者の常識では見落とされがちな“見えない苦労”の連続として記録したとされる。
物語の核は、同行する探偵役が、道の“段差”だけでなく、段取りの“時間差”や、気配りの“誤差”に直面していく点に置かれている。たとえば、終盤で探偵役が「バリアフリーは存在するが、バリアフリー“だと思ってしまう”心は存在しない」と述べる場面は引用されやすい台詞として知られる。ただし同台詞の出所は複数の編集方針があり[要出典]、最終稿ではナレーションのトーンのみが揃えられたとされる。
映画における“旅”は、単なる移動ではなく、交通・行政・家族の距離感を測る指標でもある。監督の[[鵜殿舟]]は、撮影スタッフの待機時間を秒単位で管理し、車椅子の行程を「到達」ではなく「同調」に置き換えたと語られた[2]。
あらすじ[編集]
主人公は、地方都市[[福岡県]][[筑紫野市]]に住む車椅子の少女・[[高瀬未央]]である。未央は、親戚が暮らす別の市域へ向かうことになり、本人の希望で“番組の同行”が条件として組み込まれる。探偵役の[[佐久間憲次郎]]は「見える段差は想像以上に少ない」と最初に結論づけるが、旅はその認識を何度も裏切っていく。
旅の途中、未央は国道沿いの[[久留米市]]近郊で、段差そのものよりも「段差の“先にある待ち時間”」に苦戦する。コンビニの出入口はスロープがあるものの、ベンダー導線の都合で車椅子が回り込むのに平均で18秒遅れるという、当事者の生活リズムに対するズレが積み重なる。探偵役はこのズレを記録しようとするが、記録媒体のバッテリーが途中で落ち、同僚ディレクターが代替の予備電池を[[熊本県]][[玉名市]]の工具店まで取りに走るという“遅れの遅れ”が発生する。
終盤、未央は親戚の家の前で最終調整を行う。訪問の成否は家そのものではなく、郵便受けの高さ、玄関の鍵の位置、そして親戚が外気温に応じて準備する毛布の厚さに左右されると示される。探偵役は、最初に持っていた「助ける側の論理」が、最後には「同調する側の言語」に置換されていく描写がなされ、旅は“成功”よりも“関係の再設計”として着地する。
登場人物[編集]
高瀬未央(たかせ みお):車椅子で生活する少女であり、自分のペースを守ることを最優先にして行動する。旅の序盤では“親戚を驚かせる”ことに夢中だが、途中からは探偵役に対して「驚かせないで」と明確に言う場面がある。なお、その発言の字幕は劇場版では微妙に異なり、テレビ版のテロップとの整合性が議論されたとされる[3]。
佐久間憲次郎(さくま けんじろう):探偵役。最初は健常者視点の合理性で行動するが、車椅子の速度と視線の高さの差から、判断が遅れることを体感する。終盤で“言葉”の選び方が変わり、同じ質問でも重みが異なるように聞こえる描写が、俳優の間(ま)として高く評価された。
榛名玲央(はるな れおう):現場ディレクター。行程表を秒単位で作るが、秒は“正しい順序”を保証しないことを、撮影の事故や手配の遅延を通じて学ぶ人物である。彼女が最後に差し出すのは、道具ではなく「地図の見方」だとされる。
キャスト[編集]
高瀬未央を演じたのは[[高瀬未央|高瀬未央]]ではなく、同名の女優・[[高瀬未央]](架空)であると劇中資料に記されている。彼女は未央の沈黙を“尺”ではなく“呼吸”に合わせて撮影するよう演技指導を受けたとされ、クライマックスの玄関前シーンでは複数テイクで同一の間合いが保たれた[4]。
佐久間憲次郎役の[[佐久間憲次郎|佐久間憲次郎]]は、表情よりも手の位置の変化で成長を見せる演技で知られる。彼の名演は、撮影班が車椅子の車輪の角度を基準に“手持ちカメラの揺れ”を同期させたことによって強調されたとされる。
榛名玲央役の[[榛名玲央|榛名玲央]]は、現場の段取りを言語化する役として登場するが、本人のインタビューでは「私は説明していない。説明ができない場を繋いだだけ」と述べたと伝えられている[5]。
スタッフ[編集]
監督の[[鵜殿舟]]は、移動の映像を“景色”ではなく“負荷”として捉える方針をとった。撮影では、車椅子が進む方向の“逆側”からも必ず撮るよう指示が出され、健常者の視聴者が無意識に通り過ぎる情報(角度、音、匂い)を残すことが目的とされた[6]。
脚本の[[鯉森駿平]]は、会話の説明を減らし、代わりに通知音や床の硬さの描写を台詞外で補ったとされる。編集の[[白石緑]]は、未央が待つ時間を切らずに“長いまま見せる”方針を貫いたため、試写段階で観客が一度離席したという記録が残っている[要出典]。
音楽の[[柏木リュウタ]]は、主題歌『段差の向こう』のサビにわずかに金属音を混ぜ、車輪の微細な摩擦音と共鳴する構成を採用したとされる。なお、金属音の素材がどこから採取されたかについては複数の説がある。
製作[編集]
企画の発端は、[[夢路テレビ製作委員会(架空)]]が“旅番組の感動”を安易に消費することへの批判を受けたことにあるとされる。制作側は、当事者を“感動の装置”にしないため、事前に接遇マニュアルを作らない方針を採った。一方で、現場の混乱を抑えるために、行政手続きだけは詳細に組み立てた。具体的には、移動先周辺の案内所へ問い合わせを行い、車椅子の動線確認に合計で[[37]]回の電話と[[12]]回の現地下見を要したとされる。
舞台となる地名には実在の町が多い。たとえば、旅の途中に挟まれる休憩ポイントは[[大牟田市]]の小さな公園であり、ベンチの高さが映像上で判別できるようスケールメモを置いたとされる。また、親戚の家の周辺は架空の“旧駅前団地”として再構成されているが、外観は実在の建物群をモデルにしたと噂された。
“見えない苦労”を描くため、制作陣は車椅子の使用者が言語化しにくい困難を記録する目的で、撮影日ごとに「音」「待ち」「鍵」「段差の影」「天候の癖」の5カテゴリを設けた。結果として、最も素材が集まったのは天候だったとされる。撮影当日の小雨は、傘の角度によって路面の反射が変わり、カメラが自動露出で迷う原因になったが、その迷いが結果的に“苦労の質感”として残ったと編集で判断された[7]。
なお、作品のタイトルにある「素晴らしき」は、未央が現場スタッフに向けて一度だけ使った言葉から取られたとされる。ただし、その言葉が誰の発話かについて、スタッフ間で記録が食い違ったとされる(同日二度の音声サンプルが残っている)。
興行と反響[編集]
公開初週は全国[[38]]館で上映され、公開2日目に観客動員が跳ね上がったと報じられた。興行収入は累計で11億8200万円に達したとされ、ドキュメンタリー映画としては異例の規模だった。作品の評価は割れつつも、特に“健常者側の学び方”が丁寧だという意見が多かった。
一方で批評家からは、苦労を視聴者の涙に変換する危険性があるという指摘も出た。映像が“正しく見せる”ほど、当事者の言葉が回収されてしまうのではないかという論点である。これに対し、監督の[[鵜殿舟]]は「感動の回収ではなく、観察の継続を促したかった」とコメントしたとされるが、インタビューの出典については報道機関によって記述が異なっている。
その後、公開翌年度にリバイバル上映が行われ、会場では短縮版の解説映像が流された。解説映像では、玄関前の“最後の1メートル”が最も見逃されることが示されたとされる。さらに、劇場からのアンケートでは「自分の視点を疑うようになった」と回答した割合が[[24.6]]%だったと報告された。数値の根拠は公開されていないものの、媒体ごとの表現差があることが指摘されている[8]。
反響(批評)[編集]
映画レビューでは、探偵役が最初に発する“正しそうな言葉”が後半で反転する構造が評価された。たとえば、序盤で探偵役が「補助は手続きで整う」と言い切った場面が、終盤では「手続きが整うより先に、当事者が整う必要がある」と変化していく点が論じられた。
また、音響面でも評価が集まり、[[柏木リュウタ]]による主題歌の導入が、車輪の摩擦音と同じ周波数帯を狙っていると分析された[9]。ただし、実測値の提示がないため、技術誌側では“推定”の域を出ないとされる。
一部の論者は、作品が“移動の困難”を中心に据えるあまり、地域の支援体制を単純化したと主張した。反対に支援者側からは、単純化ではなく、支援の不足が“ドラマとして可視化される瞬間”を狙ったのだと擁護する声もある。
関連商品[編集]
映像ソフト化は、公開から約10か月後に行われた。DVDにはメイキングのほか、未央の待ち時間を延長して再生する“観察モード”が付属したとされる。さらに、限定版には撮影用の行程表を模した紙冊子が同梱されたが、配布された行程表のページ順が通常版と逆になっていたため、混乱が発生したという。
音楽面ではサウンドトラックがリリースされ、収録曲のうち『段差の向こう』のロングバージョンが“金属音付き”である点が話題になった。なお、劇中で使用された小雨の環境音が別トラックとして収録されているが、名称は『雨、しかし歩幅の違い』とされている[10]。
また、イベントとして映画公開記念の“段差計測ワークショップ”が開かれ、参加者は玄関やスロープを実測する。しかし、測定器の精度が十分でなく、結局「計測の数値よりも問い直す姿勢が重要だった」とまとめられた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 鯉森駿平『映画脚本の時間編集論』夢路出版, 2017.
- ^ 中原成利『テレビ企画の映画化と倫理』東雲書房, 2018.
- ^ 早瀬門太郎『ナレーションの“沈黙”を測る』第零音響研究所, 2016.
- ^ 伊達京介『撮影は速度ではなく負荷を追う』映像工房, 2019.
- ^ 柏木リュウタ『金属音の作曲法:環境音を音楽にする』Vol.3, 音楽記録社, 2020.
- ^ 白石緑『編集の誤差:待ち時間を切らない技術』pp.112-131, 編集芸術社, 2018.
- ^ Ujido Fun『On Synchronicity in Mobility Documentaries』Vol.14 No.2, Journal of Field Cinema, 2017.
- ^ Sakuma Kenjiro『The Detective’s Gaze and the Wheel’s Geometry』pp.44-67, International Review of Assistive Media, 2019.
- ^ 高瀬未央『旅の当事者性:距離より“調子”』筑紫大学出版局, 2021.
- ^ 鵜殿舟『素晴らしき車椅子の旅の真実の作り方』夢路テレビ制作局(本書は一部誤植が多いとされる), 2016.
外部リンク
- 夢路テレビ公式シネマアーカイブ
- 東雲映画配給作品紹介
- 段差の向こう(主題歌)特設ページ
- フィールド撮影メモ(編集部日誌)
- アクセシブル視聴ガイド(劇場配布資料)