雪面の飛び魚
| 分野 | フィールド・レトリック(滑走民俗) |
|---|---|
| 別名 | スノートレー「飛び魚モード」 |
| 主な使用者 | 北海道ロケ班の口承(とくに大泉洋の文体) |
| 発生条件 | 湿度の高い粉雪+急な膝折り |
| 見た目 | 足元が“跳ね”、雪煙が魚型に広がると語られる |
| 関連装備 | 雪靴(スノートレー) |
| 初出とされる時期 | 1990年代後半のロケ談話(のち用語化) |
(ゆきめんのとびうお)は、(スノートレー)で雪面を滑走する際に観察されるとされる“現象”を指す用語である。関連の談義では、大泉洋のホラ話系ネタとしても知られている[1]。
概要[編集]
は、(スノートレー)を履いた歩行・滑走の最中、雪煙が“飛び魚の輪郭”のように見える現象(あるいは現象に見立てた口上)として用いられる語である[1]。
一見すると自然観察の言葉に見えるが、実際にはのロケ現場で、過酷な移動を“ゲーム化”するために作られた言い換えとして広まったとされる[2]。そのため、定義には揺れがあり、「現象」説と「儀式」説に分かれる。
語の切り口は、雪面という静かな舞台に対して、脚の動きがもたらす“跳躍感”を過剰にドラマ化する点にある。この誇張は大泉洋の語り口と相性がよく、現場では“説明の代わりに起こったことにしてしまう”手法の象徴として扱われることがある[3]。
なお、番組外では登山サークルやロケ小道具担当の間で、歩行補助の話題に飛び魚比喩を混ぜることで場を温める慣行があった、とする証言がある。ただし、用語が独り歩きした結果として誤解も招いたとされる[4]。
用語の成立と「雪靴」文化[編集]
雪面を“滑り面”に変える発想[編集]
は、雪国の移動を成立させる工夫として古くから語られてきたとされる。しかしが用語として成立した経緯は、自然物の研究よりも“ロケの段取り”に寄っている。
番組班の間では、足を取られる不快感が視聴者の没入を切る要因になるため、「現場で起きたロス」を「映像上の快感」に変換する必要があると考えられた。そこで生まれたのが、雪面を魚の跳ねる水面に見立てる比喩である[5]。結果として、雪靴の使用法は“説明書”ではなく“物語の手順書”として整備された。
このとき、雪靴の調整値として「トレー長(前後)をに揃える」「爪先角度をにする」など、やけに具体的な目安が口伝で固定されたという。さらに、跳ねの見栄えを優先して、雪の粒径がの範囲で最も“飛び魚化”すると語られたことがある[6]。
大泉洋の“ホラ話系”語彙としての定着[編集]
の収録現場では、緊張を溶かすために“嘘っぽい比喩”が積極的に使われたとされる。特に大泉洋は、機材や体力の制約を直視する代わりに、制約を怪談の材料へ変換する語りが得意だったと記憶されている[7]。
も、雪靴が上手く滑らない日ほど語られやすかったという。つまり“できない理由”を列挙する代わりに、“できてしまう前提の物語”を先に提示する。視聴者は眉をひそめつつも、現場の臨場感に引っ張られて納得してしまう構造になっていた[8]。
一方で、比喩が強すぎるあまり、雪靴の実用技術と混同される問題も生じたと指摘されている。番組のスタッフ間では、比喩は映像の都合として割り切るべきだという意見もあったが、最終的には“語が人を動かす”という結論が優先されたとされる[9]。
歴史[編集]
「初めて飛んだ日」の伝承[編集]
用語の初出は、番組の雪ロケ前史として語られることが多い。伝承では、ある制作ミーティングで大泉洋が「雪面は水面だ。魚は必ず跳ねる」と述べ、その場で雪靴の試走が行われたという[10]。
このときの条件が細かく記録されており、に風速計がを記録し、撮影隊が最初に見た雪煙は“一瞬だけ魚の尾びれの角度を持った”とされる[11]。もちろん、第三者が後から厳密検証できる類のものではないが、そうした“それっぽい観測”が用語の信憑性を押し上げたと考えられている。
なお、伝承の中には矛盾もある。「尾びれの角度」はだった説とだった説があり、編集者の好みによって数字が微調整されたのではないかという噂も残る[12]。
北海道ロケ班と“儀式化”の拡大[編集]
はやがて、単なる比喩を超えて儀式として扱われるようになった。雪靴を履く直前、脚の回旋を3回だけ行い、最後に“飛び魚の呼吸”としてを作る、という手順が口承で共有されたとされる[13]。
この手順は、滑走の上達というよりも、チームの集中状態を揃える目的だったという。実際、雪靴の装着ミスや足首の違和感が出やすい状況では、全員の動作を同期させる方が事故率が下がるため、結果として合理性が生まれたとも推定されている[14]。
また、制作の都合でロケ日程が圧縮された回では、儀式が“時間短縮の合図”としても機能したとされる。大泉洋が「行ける、今の空気が飛び魚だ」と言った瞬間にスタートが切られ、班の迷いが減ったとする証言がある[15]。ただしこの証言は、当時の議事録が現存しないため、要出典とされることもある。
用語の商標化未遂とネット民の自走[編集]
一方で、は人気用語になった結果、いわゆる“誰でも使える言葉”として拡散した。ロケ小道具会社の一部では、雪靴の販売促進に用語を転用しようとした動きがあったとされる[16]。
仮に登録されていた場合、関連団体の名称と結びつきやすく、語の意味が固定化されるはずだった。しかし番組側は「比喩は流動的であるべきだ」として動きを慎重にしたとされ、結果として商標化は未遂に終わったという[17]。
その後はネット民が独自に解釈を重ね、雪面の“飛び魚度”を競うような投稿が増えたとされる。中には、動画のフレームをに換算し、煙の形が魚っぽいかを点数化する試みもあったらしい。もっとも、こうした点数の基準は投稿者ごとに異なり、学術的根拠は示されていないと指摘されている[18]。
現象の特徴(と言い張られるもの)[編集]
で語られる“特徴”は、観察者の主観に強く依存するとされる。具体的には、雪靴の踏み込み後に発生する雪煙が、横方向に扇状へ広がると同時に、中央に細い“背びれ”のような筋が残る、という描写が典型である[19]。
また、現象の発生には「跳ねの導火線」が必要だとされる。たとえば、歩行の途中で一度だけ膝を強く折り、その直後に体重移動をだけ先送りする、と説明されることがある[20]。さらに言えば、視聴者の“笑い”が大きいほど発生確率が上がる、という因果まで持ち出されることがあり、現象論というより儀礼論に近い。
このため、現象は“再現可能”ではあるが、再現に必要なのは物理条件だけではないとされる。語り手のテンポや、言葉の最後を引き伸ばす間(ま)が重要だ、とする説もある[21]。一部では、編集の際に効果音が重ねられることで“魚っぽく”聞こえる点を根拠に、音響誘導の可能性が議論されたとされる。
ただし、こうした説明は自然科学的検証を目的としたものではなく、あくまでロケ現場の言語が生んだ“体感のレンズ”として理解されるべきだ、という見解もある[22]。
批判と論争[編集]
用語が広まった結果、雪靴の安全性に関する誤解が生じた、とする指摘がある。雪靴は適切な装着と歩行技術が前提であり、を“現象が起きるまで我慢すればよい”という態度で扱うと転倒リスクが増える可能性があるとされる[23]。
また、テレビ表現の文脈としての比喩が、現場の一般観光客にとっては“本当に魚が跳ぶ現象”に見えたケースがあり、SNS上で懐疑的な反応が出たとされる。とくに、雪靴の実用記事と混在したタイミングでは、誤情報として注意喚起が出たという[24]。
さらに、数字の確度に関する論争もある。前述のやといった値が、実測ではなく編集の後付けではないかという疑いが出た。編集者が“それっぽい値”を選んだ可能性が示唆され、要出典として扱われた[25]。
一方で擁護する声としては、は安全を損ねるための言葉ではなく、むしろ恐怖心を笑いに変えるための“心理的保険”であるという主張がある。現場の緊張を下げる効果があったなら、表現技法の一種として評価すべきだとされる[26]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 井狩ヨシマサ『雪靴の言語学:現場語彙と身体』北極書房, 2008.
- ^ マリエ・ベランガル『Metaphor in Extreme Fieldwork』University of Northern Lens Press, 2014.
- ^ 鈴角アキラ『ロケ談話の編集技法—“観測”と“誇張”の間』映像制作研究会紀要, Vol.18 No.2, 2011. pp. 44-63.
- ^ 田脇シオン『雪煙造形の主観点数化』霜雪観測年報, 第27巻第1号, 2016. pp. 12-29.
- ^ Graham Whitmire『Sound-Induced Belief in Broadcast Media』Journal of Faux-Nature Communication, Vol.6 No.3, 2017. pp. 101-119.
- ^ 高瀬ミナト『北海道ロケ班の安全文化と笑い』札幌フィールドワーク研究所, 2020.
- ^ 内海ルイ『ホラ話系語彙の構文—間(ま)と語尾の心理効果』日本放送言語学会論文集, 第33巻第4号, 2019. pp. 201-223.
- ^ 山形ユズ『スノートレー調整表の“見せ方”』小道具学雑誌, Vol.9 No.1, 2013. pp. 5-18.
- ^ 《参考》『水曜どうでしょう辞典(仮題)』どうでしょう出版社, 2005.
- ^ 大西ガクト『冷たい現象の語り口—雪面と魚の比喩連鎖』国際メディア儀礼学会誌, Vol.2 No.7, 2021. pp. 77-92.
外部リンク
- 雪煙言語アーカイブ
- スノートレー・ユーザーズノート
- 放送比喩研究所(非公式)
- 北海道ロケ班の口承データベース
- 間(ま)測定実験室