飛んで火に入る夏のワックMC達
| 名称 | 飛んで火に入る夏のワックMC達 |
|---|---|
| 別名 | 夏ワック、火入れMC、飛び込み口上派 |
| 発祥 | 1987年頃 |
| 発祥地 | 東京都新宿区・高田馬場周辺 |
| 主な担い手 | ライブハウスMC、屋台出身の口上師、深夜ラジオ愛好家 |
| 特徴 | 自虐的煽り、季語の乱用、観客参加型の即興合戦 |
| 影響 | クラブ文化、屋台宣伝文句、地方祭礼の口上 |
| 代表イベント | 第7回火入れサマー・バトル(1994年) |
| 保護団体 | 日本口上保存会(後に解散) |
飛んで火に入る夏のワックMC達(とんでひにいるなつのワックMCたち)は、の夏季に発生したとされる系の口上集団、およびその周辺文化を指す語である。の小規模なライブハウス文化から派生したとされ、独特の「自滅的な煽り」と「過剰な比喩」で知られている[1]。
概要[編集]
飛んで火に入る夏のワックMC達は、末に内の深夜イベントを中心に現れた、半ば即興、半ば儀礼的な口上の流派である。一般には、相手の失敗を煽るだけでなく、自らも率先して不利な状況へ飛び込むことを美徳とした点が特異であるとされる[2]。
名称の由来については、の一節をもじったという説が広く流通している一方で、実際にはの中古喫茶店「ワック・ハウス」で用いられた看板文句「WACK MC なら火に入れ」が転訛したものとする説が有力である。ただし、後者は当時の領収書が2枚しか残っていないため、研究者の間では半ば伝承として扱われている[3]。
成立史[編集]
高田馬場期[編集]
発端とされるのは夏、近くの地下店舗で行われた「冷房故障即興会」である。参加者の一人であった渡会晋三は、相手のライムに応じる代わりに、汗だくの客席へ自分から降りていくという奇妙な挙動を見せたため、観客がこれを「飛び込み」と呼んだ[4]。
この頃のMC達は、マイクを持つ者ほど先に窮地へ入るべきだと主張しており、ワンバースごとに店内の照明が落とされる演出が定着した。なお、当時の機材は製の業務用アンプを改造したものが多く、夏場は約42分で過熱停止していたという記録がある。
屋台化と祭礼化[編集]
頃から、流派はの海沿いイベントや、の仮設屋台へと拡散した。屋台では「注文を取る口上」と「相手を煽るバトル」が結びつき、焼きそば1皿の売上がMCの勝敗で左右されるという奇習が生まれた。
この変化を主導したのは、元露店商の久我部ミツルである。彼は「売り文句とは、客に火傷をさせない程度に熱いべきである」と述べ、夏祭りの定型句を3割ほど改変したとされる。これが後の「季語ラップ」へ直結したという見方がある。
テレビ露出と沈静化[編集]
の深夜番組『』で特集されたことで一気に知名度が上がったが、同番組の放送事故により「ワックMC」という語が「WAC MC」と誤記され、数か月間は軍事系の造語と誤解された。番組内で披露された「冷やし中華に飛び込む比喩」は視聴者アンケートで83%が理解不能と答えたが、業界関係者の評価は高かった。
もっとも、以降は本流のMCバトルが映像技術と共に洗練され、夏のワックMC達は「過剰に自滅的すぎる」として主流から外れた。それでも地方の納涼祭では、今なお開会宣言として簡略版が用いられることがある。
特徴[編集]
最大の特徴は、相手を論破するより先に自分の立場をわざと悪く見せる「逆自己損耗」技法にある。たとえば、相手の服装を揶揄する代わりに「こちらはの扇風機に敗北した顔で来た」と宣言し、場を和ませてから一気に煽りへ転じるのである。
また、彼らはという季節を単なる背景ではなく、対戦相手として扱う。気温、蝉、入道雲、麦茶の温度差までをディス対象にすることで、観客に「勝手に炎上している」印象を与える。これにより、通常の文化よりも、むしろや駅前の呼び込みに近い性格を持つと評されることがある。
主な人物[編集]
渡会晋三[編集]
初期の代表者とされる人物で、通称「火入れのシンゾー」である。彼はの第2回大会で、対戦相手の名前を8回も言い間違えたうえで勝利し、以後「誤読は最大の攻撃」という格言を残したとされる。
久我部ミツル[編集]
屋台化の立役者であり、司会者としても知られる。彼はマイクの先端に小型の提灯を巻きつける演出を考案したが、毎回発熱しすぎるため、3大会で禁止された。
早乙女リリカ[編集]
後半に現れた女性MCで、夏ワックを「炎上ではなく火力管理の学問」と定義し直した人物である。彼女のフレーズ「扇子は第三の肺である」は、後に養成所の教材に採用されたという[要出典]。
社会的影響[編集]
夏ワックは、地元商店街の呼び込み文化に強い影響を与えた。特にの海水浴場周辺では、かき氷の注文時に客が一言ラップを返す慣習が一部で定着し、2011年には約27店舗が「応答可能店」として独自表示を掲げた。
さらに、の一部では、国語表現の授業で「比喩を使って暑さを説明する」練習に応用され、夏休み前の作文課題に「きみの街のワック度を測れ」という奇妙な題名が採用された学校もあった。もっとも、保護者説明会での理解は芳しくなく、記録に残る限りでは37分で議題が逸れたとされる。
批判と論争[編集]
批判の中心は、過度の自己破壊的演出が若年層に「勝つためにはまず自分が燃えるべき」という誤学習を与えるのではないか、という点であった。また、夏祭りの屋台で用いられた一部の煽り文句が客引き規制と衝突し、から注意喚起が出たとする記録も残る。
一方で、支持者は「炎上を笑いに転じる練度が高い」「暑さへの共同体的抵抗として読める」と擁護した。なお、1998年に行われたシンポジウムでは、登壇者の半数以上が途中で水分補給に向かい、議論が成立しなかったことが知られている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐藤栄一『夏季即興口上の形成史』東都文化出版社, 2003.
- ^ Margaret H. Lowell, "Wack MC Performance and Urban Heat," Journal of Transcultural Rhythm Studies, Vol. 12, No. 3, 2008, pp. 44-69.
- ^ 久我部ミツル『屋台と韻律: 露店宣伝の口上変遷』港湾新書, 1998.
- ^ 田島和夫「高田馬場地下イベントと夏季バトルの発生」『都市芸能研究』第18巻第2号, 2011, pp. 101-128.
- ^ Eleanor P. Finch, "Self-Sabotage as Aesthetic in Seasonal MC Culture," American Review of Performance Folklore, Vol. 7, No. 1, 2005, pp. 13-31.
- ^ 鈴木妙子『季語ラップ入門』南風社, 2014.
- ^ 渡会晋三「私と火入れの夏」『月刊マイクと扇子』第4巻第7号, 1996, pp. 8-19.
- ^ Hiroto Kamimura, "Commercial Chants and Battle Improvisation in East Asian Street Markets," Pacific Urban Sound Quarterly, Vol. 9, No. 2, 2016, pp. 77-95.
- ^ 日本口上保存会編『火に入る者たちの記録』白鷺書房, 2001.
- ^ 小泉真理『ワックMC大全 暑さに勝たないための技法』青磁出版, 2009.
- ^ 中村亮介「WAC MC表記誤認事件の文化史的意義」『放送事故学報』第3巻第1号, 1999, pp. 55-60.
外部リンク
- 日本口上保存会アーカイブ
- 火入れサマー・バトル記録室
- 新宿深夜文化資料館
- 季語ラップ研究フォーラム
- 高田馬場ライブハウス史料室