あいまいもこ
| 分類 | コミュニケーション技法(擬似理論) |
|---|---|
| 主な舞台 | 日本の都市・商業圏 |
| 成立時期(諸説) | 2000年代初頭〜中頃 |
| 推奨シーン | 会議、交渉、雑談の着地 |
| 核心概念 | 曖昧さを“工程”として扱う |
| 関連語 | もこり、あいまい差分、宙づり合意 |
あいまいもこは、説明や境界が曖昧なまま進行する「微視的合意形成」を指す語である。主に日本の都市伝承的な議論文化の中で流通したとされるが、語源は学術文献でも一致していない[1]。
概要[編集]
は、結論を明確化せずに“納得の形だけ先に確保する”ことを目的とするコミュニケーション技法、あるいはそれに似た言説上の概念として用いられる。特に「決めないまま決まった体」に近い状態を、手順化して再現可能にしようとする点が特徴とされる。
語は口語から始まったとされる一方、後年には「微視的合意形成モデル」などの名前で擬似的に整理され、ビジネス書の欄外や地域サークルの議事録テンプレートに引用されることが増えた。ただし、実際に何をもって「あいまいもこ」と呼ぶかは文脈依存であり、同じ発言でも評価が割れるとされる。
この曖昧さこそが“売り”として機能してきた。すなわち、は論点の勝ち負けを減らすのではなく、勝敗の判定時期を後ろ倒しにすることで衝突を先送りする、と説明されることが多い。
用語の構造[編集]
技法としてのは、少なくとも3つの工程から説明されることが多い。第1工程はであり、相手の立場を正確に当てに行かない“前提保留”を置く作業とされる。第2工程はで、ここでは「たぶん」を計算可能な粒度へ分解する、とされる。第3工程のは、曖昧さを責任から切り離す“クッション言語”を挿入する工程として扱われる。
このモデルは当初、千葉県の小規模コワーキングスペースで開発されたとする回顧談が知られている。回顧談によれば、参加者が同じ議題で衝突を繰り返した結果、会議の途中で「曖昧なままでも合意は進む」という現象を観測し、その記録を基に工程化したという[2]。
なお、語の語感は擬音語的であるため、工学系の研究者からは「要するに曖昧さの操作である」と指摘されがちである。一方で、運用側は曖昧さを操作しているのではなく、誤差を誤差として扱っているだけだと反論する。ここが、後述するへつながる論点である。
歴史[編集]
成立の物語(2003年・船橋“議事録氷”事件)[編集]
もっとも語られる起源説では、2003年の春、で行われた「次期共同購買」会議が失敗し、その後の“二次会議”が奇妙な形で成立したとされる。参加者は22名で、遅刻者が3名、議事録係が一度退席していたと記されている。にもかかわらず、終了時刻だけが一致しており、時計の秒針まで含む記録が残った点が後世の研究対象になったとされる[3]。
その記録には、各発言の前後に「○○(たぶん)」という但し書きが何度も挿入され、最後に“決定”ではなく“合意っぽい空気”が形成されたという。回顧者はこの現象を、凍った議事録が溶けた瞬間に似ているとしてと呼び、そこから語感の近いというラベルを付けたとされる。
この説では、2004年に地域誌『湾岸手触り通信』が特集を組み、翌年の2005年に首都圏の小さな研修で「合意の先送り」を説明する例として流通したとする。ただし当時の刊行物が散逸しており、引用は要出典になることがあるとも記されている。
拡散と“数値化”の試み(宙づり合意プロトコル)[編集]
2006年頃、は“定量化”の波に乗って、いくつかのプロトコルに翻訳された。たとえば、東京に本部がある「対話実装研究会(仮称)」では、曖昧さを“測れる”という立場から、合意の進み具合を「発話の保留率」で表す指標を提案したとされる。
この指標では、発言中の曖昧語(たぶん、たしか、場合により、など)の割合を、総語数に対して小数点第2位まで記録したとされる。ある報告では、成功回の会議では保留率が平均0.318、失敗回では0.402だったとされる[4]。ただしサンプル数は13会議とされ、担当者が“手元に残っていた記録だけ”を集めた、と後でこぼしたという。
さらに同研究会は、合意形成を「宙づり」と呼び、結論を下ろさないまま議題を上へずらしていく操作に相当すると説明した。この比喩はネット掲示板で人気を得た一方、形式化されたことで逆に「それなら誰が責任を負うのか」という疑問も生み、議論が二極化したとされる。
社会への影響[編集]
は、対立を消すというより、対立の“発生点”をずらすことで組織の摩耗を減らしたと評価されることがある。特に、意思決定が頻繁に切り替わる業界では、「完全な合意」ではなく「争点の即時鎮火」を得るための言説として採用された、とする見方がある。
一方で、行政手続きや官民協働の場では、曖昧さが責任逃れに見えるリスクがあるとして、運用ルールを厳密にする試みも行われた。たとえば、内の一部の地域担当では、を“会議の冒頭だけ許可し、終了直前は禁止する”という運用を試したとされる。結果は、当事者の主観評価が高かった一方で、異議申し立ての件数は1.7倍になったという報告がある[5]。
また、教育現場では、正解が一意に定まらない問題(倫理的ジレンマ、設計課題など)での要素を取り入れた、とする語りがある。授業の終わりに“正解を言わずに着地する”練習が行われ、学生が翌週に議論を持ち越す率が上がったとするデータも、確かに存在したらしい。ただしそのデータの一次資料が見つかっていない、とされる。
批判と論争[編集]
批判側は、が本質的には「曖昧さを武器にする言い回しの総称」だと指摘することが多い。特に、説明責任や契約実務では、曖昧語が後で解釈の暴走を生むため、導入は危険であるとされる。法務担当者の間では「それは合意ではなく、合意“風”である」という評価が共有されがちだという[6]。
一方、支持側は、曖昧さを排除すること自体が幻想だと反論する。人は完全に同じ意味で話していない以上、誤差を認め、クッション言語を管理することは合理的だという立場が示される。さらに、は“勝ち負けの判定を遅らせる仕組み”に過ぎず、遅らせた結果として合意が改善することもある、と述べられる。
ただし、論争が収束しない理由も明確に語られている。すなわち、成功の定義が曖昧であるため、保留率が低い会議を「良い会議」と言えるかどうかが揺れてしまうのである。この点では、理論でありながら実測が難しい、という“学問っぽい”矛盾を抱えているとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 相原モトシ『宙づり合意の作法』湾岸手触り通信社, 2007.
- ^ 佐久間レン『微視的合意形成モデルの草案』対話実装研究会紀要, Vol.3 No.2, pp.41-58, 2008.
- ^ 松波ユキ『船橋・議事録氷の発生条件(回顧資料の再構成)』地域文書学雑誌, 第12巻第1号, pp.9-22, 2010.
- ^ M. Thornton『Ambiguity as an Engineering Variable』Journal of Practical Semantics, Vol.18 No.4, pp.301-329, 2012.
- ^ 伊東カズオ『保留率による会議評価の試み』日本コミュニケーション工学会誌, 第7巻第3号, pp.77-90, 2014.
- ^ Lena Gruber『Negotiation Without Closure: A Field Note』International Review of Delayed Decisions, Vol.5 No.1, pp.12-27, 2011.
- ^ 渡辺精一郎『説明責任と曖昧語の距離』行政手続研究, 第21巻第2号, pp.140-156, 2016.
- ^ 河井ミナト『合意“風”の統計学(サンプル数13の真相)』コミュニケーション統計学会報, Vol.2 No.9, pp.55-62, 2018.
- ^ K. Nakatani『Cushion Language and Blame Deferral』Proceedings of the Soft Accountability Workshop, pp.1-8, 2019.
- ^ 山田ハル『あいまいもこ:完全版の読み解き』港湾書房, 2013.(題名が不自然だが現物が流通したとされる)
外部リンク
- 曖昧語管理協会(掲示板アーカイブ)
- 船橋手記庫
- 宙づり合意プロトコル配布所
- 対話実装研究会(資料館)
- 保留率計算ツール置き場