あやにと
| タイトル | あやにと |
|---|---|
| ジャンル | 群像劇、超常学園、擬音アクション |
| 作者 | 篠崎久遠 |
| 出版社 | 東雲書房 |
| 掲載誌 | 月刊リーベル・フレーム |
| レーベル | リーベルKC |
| 連載期間 | 2009年4月号 - 2016年11月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全86話 |
『あやにと』(あやにと)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『あやにと』は、の湾岸部にある架空の高等専門学院を舞台に、音の残響を実体化する「」の力をめぐる少年少女の対立と和解を描いた漫画作品である。作中では、の連載開始当初から、静かな学園劇に見せかけて、都市構造そのものが感情に反応するという独特の設定が提示された。
作者のは、もともとの同人誌界隈で短編を発表していた人物で、編集部の要望により「読み切り的な濃度を保った連載」を目指したとされる。結果として、本作は連載中盤からが加速し、累計発行部数は最終的にを突破したとされている[2]。
制作背景[編集]
本作の企画は、の編集会議において「擬音そのものを主役にした漫画」を作れないかという提案から始まったとされる。初期案では料理漫画であったが、篠崎が提出した設定資料に、ページ端に手描きの結び目や波線が異常に多く含まれていたため、担当編集のが「これは学園ものとして成立する」と判断したという。
連載準備段階では、舞台となるの校舎模型が実際にの倉庫街で作られ、の廊下に加えて、風の通り方まで検証された。なお、作者はこの模型を見ながら第7話の構図を変更したと証言しているが、当時の取材メモの一部は失われており、確認できない部分もある[3]。
また、本作では第1巻から「綾糸の結び目が感情の強度を示す」というルールが設定されていたが、これは作中設定というより編集会議の残留物であるとする説もある。実際、単行本12巻のあとがきでは、篠崎が「連載開始時には綾糸の意味を自分でも半分しか理解していなかった」と述べており、こうした曖昧さがかえって読者の熱狂を生んだと評価されている。
あらすじ[編集]
序章編[編集]
転校生のは、の旧校舎で、自分の声だけが他人の記憶に結びついて見える現象に遭遇する。彼女は無口な美術部員と出会い、校内に散在する「綾糸標本」を集める役目を押しつけられるが、初回から標本棚が丸ごと消失する事件が起こり、物語は早くも不穏になる。
この編の終盤では、学院の時計塔が毎晩にだけ逆回転し、翌朝には誰も覚えていないはずの落書きが壁に増えていることが判明する。読者の多くはここで作品が能力バトルに寄ると予想したが、実際には以後もしばらく、学園祭の準備と失踪事件が交互に描かれる構成が維持された。
結糸編[編集]
では、朝比奈が「綾糸」を扱う正式な訓練を受けるため、地下の旧浄水施設に設けられた実験区画へ向かう。そこでは、糸を結ぶ者、ほどく者、そして結び目の“結末”を読む者が分業されており、学院の評議会が実は期から続く非公式研究組織であったことが示唆される。
この編の名場面は、霧島がの細い糸を一夜で組み上げ、校舎全体を「一度だけ過去へ戻す」装置を作る場面である。ただし、戻った先がしか遡らないことが判明し、読者の間では「もっと短いタイムリープのほうが不便で面白い」と話題になった。
終糸編[編集]
終盤のでは、朝比奈が自分の記憶を綾糸の中心核に結び、学院ごと都市の沈黙を止める選択を迫られる。ここで明かされる「あやにと」とは、古い港湾区画で使われていた結び手の符牒であり、同時に“ありえない音を正しく結び直す者”を意味するという。
最終決戦は屋上でも地下でもなく、に架かる封鎖橋の上で行われ、朝比奈は約かけて相手の糸を解くことに成功する。結末は静かで、派手な爆発は一切ないが、最終話掲載号の読者アンケートでは「泣いた」「意味がわからないのに感動した」がほぼ同率で並んだとされる。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、発声すると周囲の出来事に“縫い目”が生じる特異体質を持つ少女である。感情表現が乏しい一方、実は毎話の扉絵で服装が微妙に違っていることから、作中最も作画コストが高い人物としても知られる。
は無口な美術部員で、綾糸の結び方に異常な才能を示す少年である。連載初期はクールな優等生として描かれたが、中盤以降は市販のひも袋を見ただけで失神するなど、設定が少しずつ増築された。
は学院評議会の副議長で、表向きは秩序維持に務めるが、実際にはの鍵を7本所有している。彼女が第42話で発した「結び目は責任の形である」という台詞は、ネット上で独り歩きし、作中外でも引用されるようになった。
は、白波工科学院の管理者であり、綾糸研究の最古参とされる人物である。年齢は作中で明言されないが、同じページ内に風の新聞記事を切り抜いている描写があり、考証の正確さより不気味さが優先されている。
用語・世界観[編集]
とは、音・記憶・感情のいずれかが強く結びついた際に現れる半透明の線状現象である。作中では、これを触媒として道具を作る技術が「」と呼ばれ、学院内ではの生徒が年度ごとに選抜されると設定されている。
は、港湾再開発の名目で拡張された学園都市の中心施設であり、校舎の下に旧倉庫、さらにその下に戦前の測量坑道が重なっている。なぜ学園の地下に坑道があるのかについては、「都市計画の継ぎ目が長年ほどけなかったため」と作中で説明されるが、説明としてはかなり雑である。
は綾糸の状態を記録するための紙片で、1枚ごとに異なる角度で裂け目が入っている。第18話では、この裂け目の数がで揃うと校庭の影が逆さまになることが示され、以後ファンの間では「7裂け」が一種の合言葉になった。
なお、作中で最も謎とされるのは「港の鐘が鳴ると全員が1回だけ本音を失う」という都市伝承である。これは第3巻の段階では単なる噂だったが、最終巻で実際に発動し、読者から「それまでの伏線が全部そのためだったのか」と困惑された。
書誌情報[編集]
単行本はより全14巻が刊行された。初版帯には「感情を結ぶ、都市型アクション群像劇」と大きく記され、5巻以降は帯の文言が毎巻1語ずつ増えていく奇妙な販促が行われた。
各巻末には作者による「糸メモ」が収録され、設定の裏話、没になった結び方、編集部で試作された結び目の写真などが掲載された。とくに9巻では、作者がの漁具店で購入した綱を引きずって帰った話があり、担当編集から「それは資料ではなく筋トレである」と注意されたとされる。
メディア展開[編集]
2013年にはされ、全24話構成で放送された。制作はが担当し、OP主題歌「ほどけない朝」は深夜アニメとしては珍しくを記録した。
また、2015年には舞台版『あやにと -終糸の夜-』がで上演され、観客席の一部に本物の糸が張られていたため、上演後にコートのボタンが絡まる観客が続出した。これが逆に話題となり、初演分はほぼ完売したとされる。
さらに、2017年には『あやにと 結びの記憶』が配信されたが、パズル要素よりもキャラクター同士の会話分岐の方が複雑で、攻略サイトが「選択肢のほうが糸である」と評した。
反響・評価[編集]
本作は連載中から読者層を広げ、学園漫画としては珍しく、、の分野からも言及された。特に「綾糸」の視覚表現は、のちにの講義資料に引用されたという話があるが、出典は不明である[要出典]。
一方で、終盤に登場人物の関係性が急に丁寧になりすぎたため、「あまりにも真面目に回収しすぎて最初の狂気が薄れた」という意見も見られた。それでも最終巻の発売週には書店イベントがで同時開催され、特装版はで完売したと発表された。
総じて『あやにと』は、奇抜な設定を持ちながらも感情の折り目を非常に丁寧に描いた作品として評価されている。また、ファンの間では今なお「最も説明しにくいのに、最も推薦しやすい漫画」と呼ばれている。
脚注[編集]
[1] 『月刊リーベル・フレーム』2009年4月号、東雲書房、表紙裏インタビュー。
[2] 東雲書房広報部「『あやにと』累計発行部数のお知らせ」2017年12月15日付。
[3] 真柴玲子「連載前夜の模型倉庫について」『編集者夜話』第4号、pp. 18-21。
[4] 篠崎久遠「あとがきに代えて」『あやにと』第14巻、リーベルKC、pp. 196-199。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 真柴玲子『連載会議と糸の倫理』東雲書房、2010年、pp. 44-57.
- ^ 篠崎久遠『あやにと 設定資料集 結び目の地図』東雲書房、2012年.
- ^ 藤堂一馬『深夜アニメにおける残響表現の研究』白鷺学術出版、2014年、Vol. 8, No. 2, pp. 101-119.
- ^ N. K. Hargrove, 'Urban Threads and Memory Binding in Contemporary Manga,' Journal of Comparative Comics, Vol. 12, Issue 4, pp. 33-61.
- ^ 神谷美沙『港湾都市と学園迷宮の相関』桐原文化研究所、2015年、pp. 88-104.
- ^ 小林ユリ『あやにと現象と読者の同調率』『メディア表現季報』第17巻第1号、pp. 5-23.
- ^ R. Endicott, 'The Ayanito Effect: Serialized Silence in Japanese Graphic Narratives,' Pacific Review of Narrative Arts, Vol. 6, No. 1, pp. 77-90.
- ^ 編集部編『月刊リーベル・フレーム創刊30周年記念号』東雲書房、2018年、pp. 12-19.
- ^ 大橋紗季『結び札の民俗学的転用』青磁社、2016年、pp. 140-152.
- ^ 篠崎久遠『糸メモ大全 2011-2016』東雲書房、2017年、pp. 9-11.
- ^ 石坂一郎『あやにとと都市計画の境界線』日本架空建築学会誌 第29巻第3号、pp. 66-79.
外部リンク
- 東雲書房公式作品案内
- 月刊リーベル・フレーム作品アーカイブ
- あやにとファン資料室
- 白波工科学院考証会
- 篠崎久遠インタビュー集