いい匂い系女子
| 分類 | 若者文化、外見美学、嗅覚演出 |
|---|---|
| 成立 | 1970年代末 |
| 発祥地 | 東京都渋谷区 |
| 提唱者 | 田沼薫子、北見匠一郎ほか |
| 関連機関 | 日本香粧学会、首都圏芳香研究会 |
| 象徴色 | 生成り、淡桃色、薄灰 |
| 代表的手法 | 三層残香理論 |
| 流行の頂点 | 2006年 - 2014年 |
| 主な議論 | 自然体の演出と過剰な人工性 |
いい匂い系女子(いいにおいけいじょし)は、主にの若年女性文化において、香水や整髪料の使い分けによって「近づくとふわりと香る」印象を意図的に設計した女性像を指す俗称である。起源はので発生した芳香管理の私塾にさかのぼるとされ、の周辺でも長らく半ば研究対象として扱われてきた[1]。
概要[編集]
いい匂い系女子は、単に香りをまとう女性を指すのではなく、移動後30分から2時間のあいだに周囲へ残る残香の質を重視する文化現象である。特に沿線の通勤・通学圏で支持され、や周辺の百貨店化粧品売場を中心に独自の消費圏を形成したとされる。
この概念は、見た目の清潔感よりも「嗅いだ瞬間に相手が安心する」ことを美的価値として再定義した点で特徴的である。一方で、香りの設計が高度化するにつれ、同じ系統の柔軟剤とヘアミストを重ねることで逆に人工的な印象が強まり、2009年ごろにはが「香気疲労」の注意喚起を出したという[要出典]。
歴史[編集]
萌芽期[編集]
起源は、神宮前の雑居ビル3階に開設された私設サロン「香りの夜学」に求められる。主宰した田沼薫子は、当時系の販促講座で補助教材を作成していた人物で、同サロンで「第一印象は視覚より先に呼気圏で決まる」と主張した。参加者17名のうち11名が後に化粧品業界へ進んだため、業界史ではしばしば「渋谷17名事件」と呼ばれる。
この時期のいい匂い系女子は、髪に系リンスを用い、制服の袖口に石鹸香の白粉を薄く移す程度であった。なお、当時の記録には「電車内で半径40センチ以内にのみ香りが留まるのが理想」と書かれており、現在の過剰な拡散型演出とは対照的である。
制度化と流行化[編集]
にはの百貨店主催で「好感香気測定会」が始まり、ここで北見匠一郎が提唱したが広まった。これは、トップノートを駅の改札、ミドルノートを会議室、ラストノートを帰宅後のマフラーに対応させるというもので、実務的すぎる比喩が受けたという。
に入ると、携帯電話の普及により「近距離での会話」が増えたことから、香りの重要性が再評価された。とりわけの雑誌『月刊フローラル都市生活』が特集した「いい匂い系女子100人調査」は推定閲覧部数48万部を記録し、記事中の平均年齢24.8歳、平均所持香水本数3.7本という細かな数字が後世まで引用された。
社会現象化[編集]
になると、のスタンプ文化やの拡散により、「写真では伝わらないが会うと分かる魅力」として人気が固定化した。特にのサロン「ミスト・クラフト原宿」では、来店客の68%が「自分は無臭と思われたい」と回答し、そのうち約半数が実際には香水を3種類以上重ねていたとされる。
この時期、香りは恋愛戦略だけでなく就職活動にも応用され、では「ES提出の2日前から柑橘系は避ける」「最終面接では石鹸香を2プッシュ以内にする」といった細目が教えられた。こうした動きは、清潔感の演出を超えて、嗅覚を介した自己ブランディングの体系化として評価された。
特徴[編集]
いい匂い系女子の特徴は、単なる香水の使用ではなく、衣類、髪、ハンドクリーム、部屋干し用洗剤の選択までを一体化させる点にある。研究者の間ではこれを「生活導線の芳香整合」と呼び、朝の準備時間のうち平均19分が香り関連に割かれていると推定されている。
また、香りの強さそのものよりも、通り過ぎた後に1呼吸遅れて感じられる残香が重視される。これはの混雑率が高い時間帯ほど評価が上がるという逆説的傾向を生み、2012年には沿線で「すれ違い好感度」が一部企業の研修指標に採用された。
一方で、2008年以降は柔軟剤市場の競争激化により、香りが「本人の人格」より「住居の洗濯機性能」に依存するようになったとの批判もある。とくにとされる一部資料では、当時の人気層の43%が同一銘柄の柔軟剤を使用していたとされ、均質化が進んだことが指摘されている。
批判と論争[編集]
いい匂い系女子は好意的に語られる一方、香りの規範が女性にのみ過度な調整を求めるとして批判された。とくにのでは、「自然体を装うために自然を作る矛盾」が論じられ、香りの演出が新たな同調圧力になっているとされた。
また、内の私立大学で行われた調査では、学生の31.4%が「いい匂いだと感じた相手に対し、実際の好感度以上に親近感を持った」と答えた一方、19.2%は「近距離で香りの系統が分かりすぎると急に現実感が増す」と回答した。これにより、嗅覚演出は有効であるが、成功しすぎると逆に人物像が具体化しすぎるという問題が明らかになった。
さらにには、を名乗る匿名団体が「香りの自己同一性」に関する注意文を配布し、職場での香りの自己申告制度を提案した。しかし、実際には参加者の多くが自分の使用香料を把握しておらず、制度は3週間で自然消滅したとされる。
関連文化[編集]
男子側の受容[編集]
対になる概念として「いい匂い系男子」がごろから現れたが、こちらは香りよりも整髪料と洗濯の完成度が重視され、女性側の基準を模倣したものとみなされた。なお、のカフェで行われた非公式アンケートでは、恋愛対象としての支持率より「隣に座っても不快でない率」が重要視され、73.6%という妙に細かい数字が独り歩きした。
メディア化[編集]
の深夜ドラマ『残香の彼女』では、主人公が香りで人間関係を修復する設定が話題となり、最終回の視聴率は8.4%と控えめだったが、香り監修にとして知られる中村玲央が参加したことで業界紙に大きく取り上げられた。以後、ドラマや漫画で「無臭の美学」と対置される形で描かれることが増えた。
脚注[編集]
[1] 田沼薫子『都市香気文化の形成』香道出版、1992年。 [2] 北見匠一郎「三層残香理論の実践的応用」『日本香粧学会誌』Vol. 18, No. 2, pp. 41-59, 2001年。 [3] 中村玲央『呼吸圏デザイン入門』青環社、2008年。 [4] 渋谷芳香研究会編『渋谷17名事件資料集』渋谷文化資料室、1997年。 [5] Margaret A. Thornton, "Scent and Social Proximity in Urban Japan", Journal of Applied Aroma Studies, Vol. 7, Issue 4, pp. 201-233, 2014. [6] 斎藤みどり「好感香気測定会の統計学的検証」『生活文化研究』第12巻第1号、pp. 77-95、2005年。 [7] 渡辺精一郎『柔軟剤社会論』中央都市出版社、2016年。 [8] Eleanor P. Webb, "The Politics of Pleasant Smell", London Review of Sensory Culture, Vol. 3, No. 1, pp. 12-28, 2018. [9] 香粧倫理委員会『香りの自己同一性に関する暫定報告』内部資料、2020年。 [10] 『月刊フローラル都市生活』編集部「いい匂い系女子100人調査」第24巻第9号、2004年。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田沼薫子『都市香気文化の形成』香道出版, 1992年.
- ^ 北見匠一郎「三層残香理論の実践的応用」『日本香粧学会誌』Vol. 18, No. 2, pp. 41-59, 2001年.
- ^ 中村玲央『呼吸圏デザイン入門』青環社, 2008年.
- ^ 渋谷芳香研究会編『渋谷17名事件資料集』渋谷文化資料室, 1997年.
- ^ 斎藤みどり「好感香気測定会の統計学的検証」『生活文化研究』第12巻第1号, pp. 77-95, 2005年.
- ^ 渡辺精一郎『柔軟剤社会論』中央都市出版社, 2016年.
- ^ Margaret A. Thornton, "Scent and Social Proximity in Urban Japan", Journal of Applied Aroma Studies, Vol. 7, Issue 4, pp. 201-233, 2014.
- ^ Eleanor P. Webb, "The Politics of Pleasant Smell", London Review of Sensory Culture, Vol. 3, No. 1, pp. 12-28, 2018.
- ^ 香粧倫理委員会『香りの自己同一性に関する暫定報告』内部資料, 2020年.
- ^ 『月刊フローラル都市生活』編集部「いい匂い系女子100人調査」第24巻第9号, 2004年.
外部リンク
- 日本香粧学会アーカイブ
- 渋谷文化資料室デジタル館
- 首都圏芳香研究会年報
- 生活香気研究フォーラム
- 表参道嗅覚デザイン協議会