うんみ
| 分野 | 感覚科学(準)・音響心理学(関連) |
|---|---|
| 登場期 | 1990年代(とされる) |
| 提唱者 | 井戸端 うしお(架空の研究者として言及される) |
| 計測対象 | 発声の残響と味の主観評価の相関 |
| 主な論点 | 再現性の不足と擬似相関の問題 |
| 関連語 | うんみ度、うんみ指数 |
| 使用媒体 | 学会誌、喫茶店の常連ノート、討論番組 |
| 中心地 | (観測拠点として言及される) |
うんみ(Unmi)は、で1990年代以降に話題化したとされる「音(ね)と味覚(み)のズレ」を計測するための準学術的概念である。日常会話の文脈ではしばしば比喩として用いられるが、技術史の観点では独自の研究系統を持つと説明されている[1]。
概要[編集]
は、「音(うん)」がもたらす知覚の期待と、「味(み)」として脳内に登録される質感評価の整合を指す概念として整理されている。定義の揺れはあるものの、共通して「ズレ」に注目する点が特徴とされる[1]。
一見するとオノマトペの延長のようにも見えるが、研究史ではが中心となり、発声練習と試食会を接続した“観測実験”から理論化が進められたとされる。ただし、後年には統計処理の条件が恣意的だったのではないかという批判もあり、百科的には「準学術」扱いがなされている[2]。
なお、日常では「うんみが合ってる」「うんみがズレてる」といった用法が、味の評価の言い換えとしても機能したと説明される。この用法はという数値語が普及してから特に増えたとされる[3]。
成立と歴史[編集]
音響喫茶実験と“渋谷の残響”説[編集]
うんみの起源としては、の喫茶店「ミドリ音響喫茶」における試食会が挙げられることが多い。伝承によれば、常連の若手編集者が持ち込んだ卓上スピーカーから再生される母音が、砂糖の甘味評価に影響する可能性を“なんとなく”感じたことが契機とされる[4]。
この喫茶店のマスターは、壁材の吸音特性を毎月1回、測定器ではなく湿度計で管理していたとされる。具体的には、湿度がの週にだけ「音の残り」が強く知覚され、結果として「味が薄いのに満足感がある」ように報告されたという[4]。この逸話が、のちの「うんみ=残響期待−味覚登録」の素朴形に繋がったと推定されている。
もっとも、当時の記録が存在しないため、のちに「渋谷の残響」説は“伝聞”として扱われることが多い。ただ、それでも研究者の一部は、喫茶店の天井高さがに統一されていたという証言を根拠に、残響時間が一定だった可能性を主張したとされる[5]。
うんみ指数の策定と研究組織の分岐[編集]
1996年、は、試食の前に同一音節列(例:「う・ん・み」)を3回反復し、その後で舌上の評価を行う手順を提案したとされる。ここでの指標がであり、音響残響の主観強度をからの段階で記録し、味の満足度を同じく段階化して差分を取る方式が“標準手順”として広まった[6]。
その後、研究は二系統に分岐した。第一の系統は系の計測機関と提携し、同一被験者の再テスト間で差分がどれだけ縮むかを問題視する立場である。第二の系統は、むしろ「ズレが残る」こと自体を価値と見なす立場で、喫茶店の常連文化を学術化しようとした[7]。
この分岐を決定づけた人物として、計算担当の統計官がしばしば言及される。彼は、うんみ指数の計算において“丸め誤差”が相関を押し上げる場合があると注意しつつ、同時に「研究の説得力は小数点以下で生まれる」と冗談めかしていたと記録されている[7]。ただし、この発言が後に“都合のよい丸め”を正当化したのではないかという疑念も生まれたとされる。
社会への浸透と“言葉の味”運動[編集]
2000年代前半、テレビの料理コーナーで「この料理はうんみが良い」といった言い回しが使われ始めたとされる。出演者は味の表現に困った際、味覚そのものではなく「語りの音」によって印象が補強される現象を説明したつもりだったとされる[8]。
一方で、SNS以前の時代には、の編集サークル「味と言葉研究会」が、うんみを“言葉の味”として扱う啓発パンフレットを配布したと伝えられている。パンフレットでは、家庭での実験として「朝の挨拶を同じ抑揚で言う→味の評価を記録する」という手順が推奨され、記録用紙の空欄がマス設計だったという[9]。
この運動は、食レポートの文体を整えた面があったと評価されるが、同時に“言い換え商法”として批判もされた。味の科学として扱われすぎたことで、科学的検証をすり抜ける言葉の権威化が進んだとの指摘がある[2]。
うんみの評価方法[編集]
うんみの評価は、一般に「音刺激」と「味評価」を段階化して結びつけることで成立するとされる。標準手順では、被験者に同一の音節列を発声させ、その直後に甘味・塩味・旨味の三種類のサンプルを提示することが想定される[6]。
は、音の主観強度(0〜10)から味の満足度(0〜10)を引き算し、符号込みの差として記録される。理論上は「ズレが大きいほど、言葉の表情が味の印象を誤誘導している」ことを意味すると説明される[1]。ただし、実測例としては“符号が逆転する”こともあり、ここが後年の反論点となった[10]。
なお、実験環境の変動要因として、カップの材質(磁器/紙コップ)、スプーンの材(ステンレス/木製)、BGMのテンポ(BPMに換算して〜)が挙げられたことがある。これらが統制されないと、うんみ指数が“気分指数”に近づくとされるが、逆にそれを狙っていた研究者もいたと記録されている[7]。
代表的な事例[編集]
うんみの代表例として最も有名なのは、醤油ラーメンの試食における「麺のすべり音」事例である。ある報告では、麺を持ち上げたときの擦過音をだけ録音し、その再生直後に試食すると、うんみ度が平均でに跳ね上がったとされた[11]。
この手法は料理の作法に紐づくため、家庭での再現が試みられた。具体的には、の家庭料理教室では、鍋のふたを閉める音のタイミングを固定し、味噌の香り評価が上がったとする小規模な報告があった[12]。ただし、教室側は“数値は目安”としており、うんみ指数の計算条件が本文と異なる可能性があったとされる(この点はのちの議論で指摘された)。
また、映画館の“ポップコーンイベント”でもうんみが話題になった。上映直前に同じ短文(「いただきます」)を十数人で揃えて発声したところ、塩味の評価が統計的に有意に上がったとする報告がある。一方で、映画のジャンルがサンプルの味の期待を左右したのではないかという反証も出ており、学会では「うんみは味覚というより社会的同期の指標かもしれない」と議論された[10]。
批判と論争[編集]
うんみ概念には、擬似相関・条件の恣意性・再現性不足という古典的な問題が集中的に指摘されている。特に、うんみ指数を算出する際に、被験者が「うんみが合っている」と聞かされていた場合、味評価が改善される可能性があるとされる[2]。
また、丸め処理の影響を巡って、統計官の手順が“研究の説得力”を優先した可能性が論じられた。ある検証では、同じデータがまで扱われると相関係数がからへ落ちたと報告されている[13]。この差が偶然なのか、設計由来なのかは結論が出ていないとされる。
さらに、言葉の比喩としてのうんみは広く受け入れられたが、準学術として扱うことへの抵抗も強い。支持者は「定義が揺れているからこそ生活に適用できる」と主張したのに対し、批判者は「生活適用なら科学を名乗るべきでない」と反論したと記録される。ここに、うんみが“便利な言い換え”へ吸収されていく過程が絡んだと分析されている[14]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 井戸端 うしお「音と味のズレを測る試み――うんみ指数の提案」『感覚綴り学会誌』第12巻第3号, pp. 41-58, 1997.
- ^ 城守 いすみ「渋谷の残響はなぜ甘いのか」『喫茶実験記録集』第5集, pp. 9-22, 2001.
- ^ 菱沼 リク「丸めが相関を救うとき――うんみ度計算の再点検」『統計の小径』Vol.8 No.1, pp. 77-93, 2003.
- ^ 中里 みなと「“うんみ”と言語の期待効果」『食と言葉研究』第2巻第2号, pp. 12-29, 2005.
- ^ Margaret A. Thornton, “Sound-Expectation Discrepancy in Taste Judgments,” Journal of Auditory Gastronomy, Vol.14, No.4, pp. 201-219, 2006.
- ^ 佐久間 りょう「料理番組における比喩語の拡散様式――うんみのテレビ伝播」『メディア文体学研究』第9巻第1号, pp. 33-49, 2008.
- ^ Y. Tanaka, “Synchrony as a Proxy for Sensory Integration: The Unmi Case,” Proceedings of the International Symposium on Quasi-Sensory Metrics, pp. 88-96, 2009.
- ^ 松本 さゆら「言葉の味運動と生活実験の設計思想」『京都編集文化論叢』第7巻第3号, pp. 101-128, 2011.
- ^ 『ミドリ音響喫茶アーカイブ(写本)』編纂委員会, ミドリ音響喫茶, 1996.
- ^ Dr. Evan H. Crowley, “The Echo-Salt Paradox: When Maudlin Metrics Pretend to be Science,” Journal of Nearly-Scientific Studies, Vol.3, No.9, pp. 1-14, 2012.
- ^ 林田 しおり「再現性への距離――うんみ度が揺れる条件」『実験心理の羅針盤』第21巻第4号, pp. 210-235, 2014.
外部リンク
- うんみ度測定ガイド(仮)
- 渋谷の残響フォーラム
- 喫茶実験アーカイブ
- 味と言葉研究会レポート集
- 準学術指標カタログ