おいしい牛乳
| 名称 | おいしい牛乳 |
|---|---|
| 別名 | 香封熟成ミルク、甘香乳(かんこうにゅう) |
| 発祥国 | 日本 |
| 地域 | 十勝沿岸(と周辺の工房群) |
| 種類 | 発酵乳仕立て・冷却熟成飲食 |
| 主な材料 | 牛乳、発酵乳塩、微量の酵母香液、香り封入用の澱粉膜 |
| 派生料理 | おいしい牛乳プリン、香封乳スープ、白砂糖不要の甘香ラッシー |
おいしい牛乳(おいしいぎゅうにゅう)は、をしたのである[1]。
概要[編集]
は、一般に「飲むデザート」を志向した乳加工料理として位置づけられている。見た目は単なる牛乳に近いが、香りの立ち上がりを工程で調整する点が特徴とされる。
発酵乳塩の粒子を“香りの逃げ道”に見立て、低温熟成中に香りを薄い膜へ封じ込める技法が用いられるとされる。なお、この膜が口腔内でわずかに溶けることで、通常の乳より「後から甘く感じる」現象が起こると説明される[1]。
語源/名称[編集]
「おいしい牛乳」という名称は、の乳製品組合が行った官製ポスター企画「味覚点検運動」に由来するとされる。企画では、同じ工場で同じ配合の乳を作ったはずなのに、試食者が“今日はおいしい”とだけ言い出す日が続いたことで、担当者が「原因は味ではなく、言葉のリズムでは?」と記録したのが始まりとされる[2]。
さらに、別名の「香封熟成ミルク」は、熟成タンクの蓋に設けられた微細な通気路(香り封入孔)から派生した技術語であるとされる。なお、業界では「おいしい」が品質等級ではなく、官能評価の“旗印”として運用されている点がしばしば強調される[3]。
歴史(時代別)[編集]
創成期(明治末〜大正)[編集]
で乳の長距離輸送が問題化した時期、近郊の小規模工房が「味の劣化」を炭酸ではなく塩分調整で抑えようとしたのが起点とされる。伝承によれば、当時の技術者・が“舌の塩感度”を基準にし、乳へ極微量の発酵乳塩を混ぜる実験を行ったという[4]。
ただし、最初のレシピは香りが暴れすぎ、試食会で「牛乳が突然に花屋の匂いになった」と記録された。ここで工房は、香りの逃げ道を塞ぐため澱粉膜を導入し、膜厚を0.03ミリメートル単位で変える調整が始まったといわれる。なお、この数字が何度も現れることから、後世の記録の脚色ではないかとする指摘もある[5]。
戦後の普及期(昭和20年代〜30年代)[編集]
戦後、食料増産の号令の下、(当時の正式名称は『乳加工振興局 訓令第12号』)が、乳製品の“定番化”を目的に規格書を整備した。そこで採用された官能評価の基準が「おいしい」を名乗る条件として定着したとされる[6]。
特に昭和33年に、で開催された「冷却熟成ベンチテスト大会」で、おいしい牛乳は“飲み終えた後の香りが5分持続する”ことを目標に設定した。一般に、持続時間は測定器ではなく人の感覚で判定されたため、結果が日ごとにブレたとされるが、それが逆に商品名の神秘性を支えたとも説明される。
現代(平成〜令和)[編集]
現在では、家庭用の小型熟成カートリッジが流通し、冷蔵庫の中で“香り封入孔”を再現できるとされている。家電企業はそれを「おいしい牛乳メーカー」として売り出したが、実際にはカートリッジの“膜生成”が肝になるため、牛乳の種類や温度管理が重要とされる[7]。
また、の観光施策と結びつき、十勝沿岸の直売所では、季節ごとに発酵乳塩の配合比率を変えて提供していると報じられる。具体的には、春は香りを軽くし、秋は“余韻の鈍さ”を狙うという。しかし、科学的妥当性については学術的な検証が十分ではないとする声もある[8]。
種類・分類[編集]
は、工程と仕上がりの性格によりいくつかに分類される。もっとも一般的なのは、熟成中に発酵乳塩を安定化させ、香りの立ち上がりを穏やかにする「静香(しずか)タイプ」である。
次に、香り封入孔の通気量を増やし、口に含んだ直後の香りを強調する「爆香(ばくこう)タイプ」がある。ほかに、澱粉膜を薄くして飲み口を軽くした「薄膜(うすまく)タイプ」、逆に膜を厚くして冷えたままでも甘く感じる「厚膜(あつまく)タイプ」が用いられることもある。なお、流通現場では味より“名称の覚えやすさ”を重視する傾向が指摘されている[9]。
材料[編集]
主な材料は牛乳、発酵乳塩、微量の酵母香液、香り封入用の澱粉膜である。発酵乳塩は、塩そのものではなく“熟成を語りやすくする触媒”として扱われ、配合比は製法ごとに異なるとされる。
酵母香液は、一般に香りの方向性を揃えるために用いられる。あるレシピでは、酵母香液を1回のロットでわずか0.7ミリリットルだけ加えるとされ、これが「入れすぎると牛乳が説教臭くなる」原因だと説明される[10]。一方で、別の工房はこの数値は後付けだとして、実測はもっとばらつくと述べている。
澱粉膜については、現場の言い伝えとして「膜厚が0.04ミリメートルを超えると、冷やした時に甘みが後ろへ回る」とされる。なお、膜厚を測定するには特殊な顕微計が必要とされるため、家庭では誤差が大きいとされる。
食べ方[編集]
食べ方としては、一般に冷蔵保存のまま軽く撹拌し、飲む直前に“口に含む角度”を一定にする方法が推奨される。これは香り封入孔の溶解挙動が、気泡と舌の位置関係に影響されると説明されるからである[11]。
また、温める場合は電子レンジではなく、で60秒だけ湯煎する方式が広く使われる。現場の作り手は「加熱は一瞬で終わらせ、香りを蒸気へ逃がさないのがコツ」と述べるが、なぜ60秒なのかは工房ごとに“気分の記録”が異なるとされる。
デザートとしては、のように膜をゼラチンで固定し、食感の余韻を調整する派生がある。
文化[編集]
は、地域の食文化として「朝の礼拝飲料」と呼ばれることがある。これは、直売所で販売開始の合図にあわせて一斉に試飲する習慣が生まれたことに由来するとされる。
観光面では、十勝沿岸の小学校が総合学習の一環として発酵乳塩の“香り比率”を調べる活動を行うと報告されている。学習では、児童が乳を傾ける角度を変え、香りの立ち上がりの差を記録する。なお、自治体の資料では“角度は平均34度が好ましい”とされるが、なぜ34度なのかは当時の温度計の目盛りがその数字だったためだとする逸話が残っている[12]。
一方で、全国的には「乳に言葉が宿る」ような比喩で語られることもあり、栄養学の議論とは別軸に置かれる傾向があると批評される。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐藤みどり『香り封入孔の設計原理:乳加工の官能工学』酪農文化研究社, 2014.
- ^ Watanabe Seiiichiro『低温熟成における塩感度と後味相関(第1報)』Journal of Fermented Dairy, Vol.12 No.3, 1931, pp.41-58.
- ^ 【農林水産省 乳加工振興局】『訓令第12号:乳仕立て料理の品質表示ガイドライン』大蔵官報局, 1958.
- ^ 加藤誠一『北海道乳産業の規格化と“おいしい”という語』北海道食文化史叢書, 2002.
- ^ Hannah R. Thornton『Aromatization Kinetics in Cold-Matured Milk Films』International Journal of Dairy Phenomenology, Vol.7 No.1, 1989, pp.9-27.
- ^ 鈴木春彦『澱粉膜の厚み測定と官能差の統計(架空補遺を含む)』乳技術学会誌, 第24巻第2号, 1966, pp.112-130.
- ^ 田中里奈『家庭用熟成カートリッジの誤差評価:香封ミルク再現性』家電・食品融合研究会, 2020.
- ^ Kobayashi Jiro『Taste Branding and Shelf-Order Rituals in Regional Milk Shops』Proceedings of the Symposium on Food Naming, Vol.3, 2011, pp.77-94.
- ^ 渡辺精一郎『爆香タイプの通気設計(未査読ノート)』十勝工房編纂, 1940.
- ^ 清水玲『味覚点検運動:味ではなくリズムだったのか』現代食語研究, 第18号, 2017, pp.5-19.
外部リンク
- 香封熟成ミルク資料館
- 十勝沿岸 直売所アーカイブ
- 乳加工振興局 データベース(閲覧制限あり)
- 官能工学ラボ ノート公開ページ
- 澱粉膜 測定キット 使い方掲示板