おいでおいで まさおみちゃん
| 名称 | おいでおいで まさおみちゃん |
|---|---|
| 別名 | まさおみ呼び込み遊戯 |
| 分類 | 児童遊戯・商店街振興歌 |
| 起源 | 1984年ごろ |
| 発祥地 | 東京都墨田区向島周辺 |
| 考案者 | 渡辺正臣 |
| 流行期 | 1986年-1992年 |
| 主な使用場面 | 商店街、幼稚園、地域祭礼 |
| 記録媒体 | カセットテープ、紙芝居、地域広報誌 |
| 特徴 | 手招き動作と反復唱和 |
おいでおいで まさおみちゃんは、末期ので流行したとされる、幼児向け呼び込み歌と簡易指差し遊戯を組み合わせた地域参加型の遊びである。主に商店街の集客と保育現場の情操教育を両立させる目的で広まったとされ、のちにの子ども文化を象徴する語として引用された[1]。
概要[編集]
おいでおいで まさおみちゃんは、手を前方に小刻みに振りながら特定の人物名を反復することで、周囲の注意を集めるとされるである。歌唱というよりは呼び込みに近く、の福引き、の帰り支度、の導線整理など、用途が極めて広いことが特徴とされている。
発祥については諸説あるが、もっとも広く知られているのは、の玩具問屋街で、販促用の掛け声が子ども向けに転用されたとする説である。なお、初期の録音版には「まさおみちゃん」の語尾に0.7拍ほどの妙な間があり、この間が子どもに異常な中毒性を生んだとする指摘がある[要出典]。
歴史[編集]
成立期[編集]
1984年、の文具卸「東栄遊具商会」の倉庫整理係であった渡辺正臣が、店先の呼び込みを子ども向けに簡略化したのが始まりとされる。彼はもともと志望であったが、の夜間講習に出入りするうち、手遊び歌と販促文句を結合させる着想を得たという。
初期版は「おいでおいで、まさおみさん」であったが、近隣の子どもが発音しにくかったため、数週間で「まさおみちゃん」に改変された。1985年2月にはで試験的に導入され、園児37名中31名が3日以内に語尾を真似したと記録されている。
拡散と定着[編集]
1986年から1988年にかけて、の地域番組『下町こども通信』で断続的に紹介され、都内各地へ広がった。とくにの納涼行事で使用された際、呼ばれた子どもが本当に前へ出てくるため、整列の手段として極めて優秀であることが認識された。
1989年には、がこの遊戯を「反復呼称型参加儀礼」と位置づけ、都内18園・園児合計1,204名を対象に調査を行った。その結果、参加後の平均着席時間が14秒短縮したとされ、教育現場でも一部採用された。ただし、同年夏のの夕涼み会では、あまりに連呼しすぎたため、隣接する露店のスピーカーと混線し、「焼きそば」と「まさおみちゃん」が同じ拍で聞こえる事故が発生した。
衰退と再評価[編集]
1990年代後半になると、児童遊戯の定番がテレビアニメ由来のコールアンドレスポンスへ移行したため、実演機会は減少した。もっとも、の1997年調査では、50代以上の商店主のうち12.8%が「空で歌える」と回答しており、完全な消滅には至っていない。
2008年頃からは、上で「昭和の謎遊戯」として断片的に再発見され、2021年にはの商店街振興イベントで復元上演が行われた。復元版では、当時の録音テープをもとにテンポがBPM92へ統一されたが、古参参加者の一部は「本来はもっと粘る」と主張した。
特徴[編集]
本遊戯の最大の特徴は、呼びかける側が両手を胸元から外へ開き、対象者を招き入れるような動作を繰り返す点にある。これにより、歌詞の意味を理解しない幼児でも直感的に参加できるとされる。
また、掛け声の末尾が「ちゃん」で終わることから、権威的な命令ではなく、あくまで親密な誘いとして受け取られる傾向が強い。この性質は、の分野では「低圧参加誘導」と呼ばれ、後年の集団遊び設計に影響を与えた。
一方で、呼称対象が実在の人物名であるため、演者の身近な友人や親族を勝手に巻き込んだ形になりやすく、家庭内で軽い混乱を生んだ事例も複数報告されている。1987年のの家庭調査では、祖父の名が偶然「正臣」であった家の子どもが3週間ほど遊びを拒否したという。
社会的影響[編集]
おいでおいで まさおみちゃんは、単なる遊びにとどまらず、地域商業の接客文化にも影響したとされる。1980年代後半の事業では、福引き会場への誘導文句として「おいでおいで」の二連呼が採用され、来街者数が前年比で平均7.4%増加したという報告がある。
教育現場では、集団移動の際の合図として応用されたほか、言葉遊びの教材としても扱われた。特にの内部資料『幼児音韻と参加意思形成に関する覚え書き』では、反復語が自発的な整列行動を促進する例として、本遊戯が4回引用されている。
もっとも、社会学者の間では、個人名を反復することで場の同調圧力を高める点に注意が必要であるとの見解もあり、1991年にはの研究者が「愛嬌の形式を借りた半ば制度化された呼び込み」と評した。これは後年のイベントMC論にも影響したとされる。
批判と論争[編集]
批判の中心は、実在人物の名を遊戯化することの適否である。渡辺正臣本人は1988年の聞き取りで「子どもが笑うならそれでいい」と述べたとされるが、同名の親族がで小規模な抗議文を出したという記録もある。
また、唱和の回数をめぐっても対立があった。初期版では「おいでおいで」を4回繰り返したのに対し、改訂版では2回に短縮され、伝統派からは「間合いが死んだ」と批判された。逆に保育現場からは「長すぎると園児が全員どこかへ行ってしまう」との実務的反論もあった。
なお、1990年にで放送予定だった特集が、最後の1分で別番組に差し替えられた件については、当時の担当ディレクターが「タイトルに妙な現実味がありすぎた」と回想している。
派生文化[編集]
本遊戯は、いくつかの派生形を生んだ。代表的なものに、迷子児童向けの「おいでおいで たけしさん」、盆踊り用の「おいでおいで ゆかり音頭」、商業施設向けの「おいでおいで まさおみちゃんリテール版」などがある。
とりわけ1992年にの大型遊園地で導入された「まさおみちゃん・ジャンプモード」は、足踏みを加えることで入場ゲート前の滞留を防ぐ効果があったとされるが、実際には子どもより保護者が熱中し、係員が追いつけなくなったという。これが後の「保護者参加型動線設計」の原型になったとする説もある。
また、2000年代にはインターネット掲示板上で、語尾を差し替える二次創作が流行した。なかでも「おいでおいで まさおみちゃん 202X版」は、毎回まさおみちゃんの職業設定が変わるため、半ばオーディオドラマのように消費された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺久美子『下町児童遊戯の反復構造』東京民俗出版, 1993年.
- ^ 日本幼児文化研究会『幼児音韻と参加意思形成に関する覚え書き』第12巻第4号, 1989年, pp. 41-58.
- ^ S. Tanaka, “Chant-Based Merchandising in Postwar Tokyo,” Journal of Urban Folklore, Vol. 18, No. 2, 1995, pp. 77-96.
- ^ 佐藤正彦『商店街の声と子どもの足音』地域文化社, 2001年.
- ^ M. Thornton, “Repetitive Call-and-Response Games in East Asian Communities,” Child Play Studies Quarterly, Vol. 7, No. 1, 2006, pp. 11-29.
- ^ 『東京都立民俗資料館年報 1997』東京都立民俗資料館, 1998年, pp. 113-117.
- ^ 小林澄子『昭和末期の呼び込みと保育の接点』保育学会出版部, 1988年.
- ^ Harold J. Wexler, “The Little-Brother Effect in Neighborhood Songs,” Asian Popular Rituals Review, Vol. 3, No. 4, 2010, pp. 202-219.
- ^ 墨田区地域文化史編纂委員会『向島玩具問屋街史』第3巻第2号, 1990年, pp. 5-19.
- ^ 木村あきら『まさおみちゃん現象の社会言語学的研究』新曜社, 2014年.
外部リンク
- 東京都立民俗資料館デジタルアーカイブ
- 墨田区地域文化センター
- 日本幼児文化研究会
- 下町遊戯復元プロジェクト
- 商店街歌謡資料室