おやすみぷんぷん
| タイトル | おやすみぷんぷん |
|---|---|
| ジャンル | 心理劇、成長譚、寓話漫画 |
| 作者 | 木澤 朔也 |
| 出版社 | 蒼梟社 |
| 掲載誌 | 月刊ナイトフレーム |
| レーベル | ナイトフレーム・コミックス |
| 連載期間 | 2003年4月 - 2011年11月 |
| 巻数 | 全13巻 |
| 話数 | 全142話 |
『おやすみぷんぷん』(おやすみぷんぷん)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『おやすみぷんぷん』は、下町の私設漫画工房で育った少年が、鳥型の自画像「ぷんぷん」を通じて自らの成長と崩壊を記録していくである。一般には思春期の鬱屈を描いた作品として知られるが、作中で用いられる反復表現と夜間モノローグは、後にと呼ばれる形式の基盤になったとされる[2]。
連載開始当初は、当時の若年読者向け雑誌としては異例の重い空気を持つとして編集部内で賛否が分かれた。しかし、の第38話「蛍光灯の海」で掲載誌の読者アンケート1位を記録し、以後は単行本の増刷が継続したとされる。なお、初版帯の「読後、寝るまでが作品です」という文言が話題を呼び、発売週にの深夜書店で平積みが72時間維持されたという逸話がある[3]。
制作背景[編集]
作者のは、にの美術予備校で行われた「無表情の動物を一枚で成立させる」課題に提出したスケッチを原型に本作を構想したとされる。後年のインタビューでは、少年期の感情をそのまま描くのではなく、感情の周囲にだけ輪郭を与えるために、主人公を鳥の記号へ置き換えたと語った、と雑誌側は伝えている[4]。
作中の夜景表現は、沿線の深夜車内で描かれたトーン見本を元にしているという。とりわけ、第1巻の冒頭に登場する「六畳間の星座」は、作者がのアパートで停電を経験した際、懐中電灯を天井に向けて置いたことから着想したとされる。また、編集担当のは、連載初期のネームに対し「背景がうるさすぎる」と指摘したが、結果的にその過密さが本作の異様な密度を生んだとの見方がある。
一方で、連載中盤に導入された「夢の監査局」編は、作者が執筆の合間にの貸会議室で受けた睡眠衛生講習会を誤解したことがきっかけであるとも言われている。この講習会の出席名簿には、なぜか漫画家志望者が17名並んでいたという[要出典]。
あらすじ[編集]
幼年篇[編集]
主人公のは、海に近い新興住宅地で、母と祖父、そして紙製の鳥「ぷんぷん」と暮らしている。ぷんぷんは日中はただの落書きであるが、夜になると朔の感情を代弁する存在として会話を始め、家庭内の空気を数値化して告げる役割を担う。
幼年篇では、朔が近所の児童館「ひかりの巣」で行われる百人紙飛行機大会に参加し、優勝賞品の青い消しゴムをめぐって同級生と関係をこじらせる。もっとも印象的なのは、彼が帰宅途中に商店街の防犯カメラへ向かって「おやすみ」と3回だけ呟く場面であり、この一言が後の全編に反響するモチーフとなった。
思春期篇[編集]
中学進学後、朔は内の進学校「都立第七南光学園」へ移り、成績優秀な転校生や、校舎裏で石を集める奇行で知られると出会う。ここで作品は、恋愛劇と進路不安を同時に進行させる独特の構成へ移行し、文化祭の準備委員会がそのまま人生の縮図として機能するようになる。
特に、体育館ステージで上演された自主制作劇「月の落とし物」は、翌年の文化祭実行委員の間で伝説化した。朔が舞台袖で台本を失くし、代わりに即興で「人は眠るために傷つくのか」と叫ぶ場面は、後に単行本第4巻の帯コピーにも採用された。
崩壊篇[編集]
高校卒業後、朔は漫画家アシスタントとの夜勤を転々としながら、都会の端で自我を削っていく。ここから本作のトーンは急激に硬化し、登場人物たちは「努力」「罪悪感」「適職」といった単語を、ほとんど呪文のように繰り返す。
終盤では、ぷんぷんがついに朔の前から姿を消し、代わって無表情の白い輪郭だけが残る。ラストの「午前三時、駅前の自動販売機が全台停止する」場面は、後年の読者投票で“最も現実感のある非現実”として1位になったとされる。結末については解釈が分かれ、朔が救済されたとみる説と、ただ疲れ切って眠っただけだとする説が並立している。
登場人物[編集]
は本作の主人公で、内向的でありながら観察眼が鋭い少年である。作中では自らを「やや不調な天気」と評し、感情の変化を気圧計のように記録する癖がある。
は朔の自画像にして、時に良心、時に自己嫌悪の化身として描かれる鳥型キャラクターである。言葉を発する際は必ず語尾がやや曇り、声帯ではなく紙の擦過音で感情を示すため、読者からは「かわいいのに最も不穏」と評された。
は、朔の同級生で、進路説明会の資料をすべて暗記するほどの優等生であるが、深夜になると駅のベンチに座って缶コーヒーを温め直す癖がある。作者は彼女について、現実を支える人間を描きたかったと述べたとされる。
は、石を集める少年として登場するが、後半では地域の河川敷保全活動に参加し、作品の倫理的な軸を担う。ほかにも、祖父の、母の、編集部の使いとして何度も登場する配送員などが、生活圏の厚みを形成している。
用語・世界観[編集]
作中では、夢と現実の境界が「室内照度」で管理されているという独自の設定がある。照明が弱いほど記憶が濃くなるとされ、以降は登場人物たちが意図的に暗い部屋へ集まるため、会話の密度が増す仕組みになっている。
また、「ぷんぷん現象」と呼ばれる比喩表現があり、これは本人の本音が小動物の形で可視化される現象を指す。作中では、会社説明会で質問できなかった若者の肩に小さな鳥影が増殖する描写があり、読者の間では「社会性の圧縮表現」として受け止められた。
世界観上、と、さらに架空の行政機関が相互に影響を及ぼす。とりわけ後者は、深夜帯の青少年保護を名目に町内放送へ睡眠文句を流す部署として登場し、実在しそうで実在しない制度設計の完成度が高いと評された。
書誌情報[編集]
単行本はのより刊行された。第1巻は9月、第13巻は1月に発売され、累計発行部数はを突破したとされる[5]。
各巻末には作者による短い「夜のメモ」が付され、そこでは近所の自販機の点灯時間や、原稿用紙に落ちたコーヒーの輪染みが細かく記録されている。なお、第8巻限定版には、紙製ぷんぷんを立体化した「無言しおり」が付属し、書店側が組み立てに平均12分を要したという逸話が残る。
海外版はから英語版が刊行され、タイトルは『Goodnight, Punpun?』と疑問符付きで翻訳された。翻訳者のは、鳥の擬音語を英語圏にどう残すかで3か月悩んだとコメントしている。
メディア展開[編集]
には、深夜枠でテレビアニメ化の企画が進んだが、背景美術の黒面積が放送規準を超えるとして一度中止になったとされる。その後、を模した架空局「NEK」系列で1話12分の短編連作として再始動し、全24話が放送された体で語られているが、実際にはパイロット映像3本のみが流通したという説もある。
さらに、には舞台化作品『おやすみぷんぷん - 眠れない町の三十分前 -』がで上演され、客席の照明を上映中に1段階ずつ落とす演出が話題となった。入場時に配布された“感情温度計”が公演後半で真っ黒になる仕様で、観客アンケートでは「疲れたが忘れられない」が最多だった。
メディアミックスは限定的であるにもかかわらず、原作の象徴性が強いため、以降は大学の映像制作研究会や自治体のメンタルヘルス講座で参照されることが増えた。とりわけ、就活生向けの短編CMにぷんぷんを用いたところ、説明会予約率が18%上がったという調査結果がある[要出典]。
反響・評価[編集]
本作は発表当初から、若者の孤立を過剰に誇張しているとする批判と、逆に「誇張こそ現実である」とする擁護が並立した。評論家のは、作品を「胃の底に残る静かな騒音」と表現し、の比較文学ゼミでは第10巻の会話劇が毎年教材として使われている、とされる。
一方で、ファン層の一部がぷんぷんをぬいぐるみ化し、駅前の掲示板に「おやすみを返せ」と書き込む現象が続出したため、には一部書店で関連グッズの販売方法が見直された。社会現象と呼ばれるほどの広がりは限定的であったが、引用のされ方は異常に多く、特に「眠れるうちに戻りなさい」という台詞は、上で深夜の投稿定型文として定着した。
なお、最終巻の売上が初週で37万部に達したという数字は編集部発表だが、実測値は36万9,812部だったとも言われる。この1月差のような誤差まで含めて、本作は“眠れない時代の統計”として愛好されている。
脚注[編集]
[1] 蒼梟社編集部「月刊ナイトフレーム連載作品案内」『ナイトフレーム年鑑 2004』。
[2] 高村澪「睡眠文学の成立と夜間モノローグ」『現代寓話研究』第12巻第3号、pp. 44-61。
[3] 白石 恒一「深夜書店と帯文の心理効果」『書店文化通信』Vol. 8, No. 2, pp. 19-25。
[4] 木澤 朔也「鳥に顔を与えるまで」『漫画原稿室 追憶号』、pp. 7-14。
[5] 蒼梟社販売部『おやすみぷんぷん』最終巻発売時プレスリリース、2012年1月。
[6] H. Clayton, "Nocturnal Panels and Youth Melancholy," Journal of Fictional Comics Studies, Vol. 5, pp. 201-233.
[7] 佐伯 玲子「感情の可視化と擬鳥表現」『日本漫画表象学会誌』第9巻第1号、pp. 88-104。
[8] M. R. Halsey, "Translating Silence: Notes on Punpun," North Eclipse Review, Vol. 3, pp. 11-29。
[9] 北見書房編集局『眠れない漫画の広報技術』、pp. 112-118。
[10] 田沢 直人「駅前広告と若年層の受容」『都市文化ジャーナル』第21巻第4号、pp. 55-73。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 蒼梟社編集部『月刊ナイトフレーム連載作品案内』ナイトフレーム年鑑, 2004.
- ^ 高村澪『睡眠文学の成立と夜間モノローグ』現代寓話研究, 第12巻第3号, pp. 44-61.
- ^ 白石 恒一『深夜書店と帯文の心理効果』書店文化通信, Vol. 8, No. 2, pp. 19-25.
- ^ 木澤 朔也『鳥に顔を与えるまで』漫画原稿室 追憶号, pp. 7-14.
- ^ H. Clayton, "Nocturnal Panels and Youth Melancholy," Journal of Fictional Comics Studies, Vol. 5, pp. 201-233.
- ^ 佐伯 玲子『感情の可視化と擬鳥表現』日本漫画表象学会誌, 第9巻第1号, pp. 88-104.
- ^ M. R. Halsey, "Translating Silence: Notes on Punpun," North Eclipse Review, Vol. 3, pp. 11-29.
- ^ 北見書房編集局『眠れない漫画の広報技術』北見書房, 2011.
- ^ 田沢 直人『駅前広告と若年層の受容』都市文化ジャーナル, 第21巻第4号, pp. 55-73.
- ^ 河合 史郎『夜の会話劇とその誤配』蒼梟社研究叢書, Vol. 2, pp. 5-48.
外部リンク
- 月刊ナイトフレーム公式アーカイブ
- 蒼梟社デジタル書庫
- おやすみぷんぷん特設展示室
- 夜間モノローグ研究会
- 漫画表象データベース・ミッドナイト