おんのここんのこ
| 分類 | 子ども遊び唄(定型句・呼称) |
|---|---|
| 伝承範囲 | 主におよびとされる |
| 成立の契機 | 害獣駆除の掛け声から転化したとする説がある |
| 実施の形態 | 輪唱・かけ声・数遊びの混成形式 |
| 関連用具 | 木札、紙鈴、地面の記号(円・斜線) |
| 研究上の扱い | 音声民俗学と児童文化研究の双方で言及される |
| 最古の言及 | 後半の記録に痕跡があるとされる |
| 特徴 | 韻律は単純だが運用規則が細密とされる |
おんのここんのこ(おんのここんのこ)は、の民俗的な子ども遊び唄として語られる定型句である。発音のゆらぎや小道具の作法まで含めて伝承され、地域差があるとされる[1]。
概要[編集]
は、子どもたちのあいだで唱えられる定型句であり、遊びの進行役が特定の間(ま)で区切って復唱させる形式として知られている[1]。
一見すると滑らかな語呂合わせに見えるが、実際には「言い切る場所」「息継ぎの高さ」「交替の順番」までが“暗黙の規則”として運用されるとされる。このため、音声民俗学では歌詞というより“儀礼的手順”の変種として扱われることがある[2]。
また、遊びの勝敗条件は地域により異なるが、共通しているのは「言葉が終わる前に次の動作へ移らないこと」とされる点である。これにより、単なる手遊び以上に、子ども集団の同期と規範が育まれたのではないかと推定されている[3]。
歴史[編集]
起源:害獣対策の“音響訓練”説[編集]
起源については複数の説があり、そのなかで最も流通しているのが「害獣駆除の掛け声が遊び唄へ転化した」というものである[4]。具体的には、の末期に、畑を荒らす小動物を追い払う際、太鼓や笛だけでは慣れてしまうため、短い語を反復する“音響訓練”が導入されたとする[4]。
この訓練では、1回の合図につき「3拍停止→2拍移動→4拍反復」という手順が定められ、反復語として最初は意味のない音列が使われたとされる。ところが、集団の覚えやすさの観点から、口当たりの良い語としてが採用された、という筋書きである[5]。
なお、後述のように“言い切る前に動くと罰が出る”という遊びの規則が残ったため、駆除の訓練に由来するのではないかと説明されている。ただし、初期資料の実在には疑義があり、「記録はあっても当時の文脈が失われた」とする指摘もある[6]。
近代化:村の教育係と郵便局の関与[編集]
以降、村の教育係が“節度ある呼びかけ”として唱えを整理し、紙の配布や掲示により標準化を試みたとされる[7]。この過程で、同じ地域でも家ごとに違っていた韻の伸ばし方が統一された、という[7]。
また、が関わったという口伝もある。すなわち、配達員が夜間に迷子を防ぐため、一定の旋律で場所を知らせる必要があったことから、語尾の“止め”がはっきりしたが合図として採用された可能性があるとされる[8]。
この主張の根拠として、の周辺において、道路脇の注意札に同様の音節が刻まれていたという逸話が挙げられる[8]。ただし、当該札の年代推定には幅があり、実物が確認できていないため、史料批判の対象となりやすい[9]。
戦後の再編:児童会と“円環フォーマット”[編集]
期以降、児童会のレクリエーションに組み込まれる形で再編されたとされる。とりわけ、グループ内の役割を固定するため、遊びの進行が「円環フォーマット」と呼ばれる配置に統一されたという[10]。
円環フォーマットでは、参加者の足元にチョークで円を描き、その円の直径を“だいたい片足二つ分”に合わせると説明される。さらに、円の外側に斜線を三本引き、唱えるたびに一本ずつ隠していく運用があったとされる[11]。細かいが、ここまで具体な手順が伝わるのは、判定者が視覚的に誤魔化しにくくするためだと考えられている[11]。
ただし、地域や年齢によって手順が変わり、同じでも“罰の種類”が異なることが指摘されている。罰が単なるやり直しではなく「次の順番で目を閉じて一拍遅らせる」など、身体感覚を矯正する要素になっていた例が報告される[12]。
批判と論争[編集]
は、子どもの遊びとしては微笑ましいと見なされる一方で、規範性の強さが問題視された経緯がある。とくに「言い切る前に動くと罰が出る」という運用が、集団の萎縮や過度な同調を招くのではないかという指摘がある[13]。
また、語源が害獣駆除に結びつくという説明については、「根拠の薄い民間推論を研究名目で拡張している」とする批判もある。音声民俗学の側からは、反復の拍節と駆除の掛け声が“偶然一致”する可能性があるため、因果を急ぐべきではないと述べられている[14]。
一方で、現場では、順番待ちや呼吸の統制に役立つとして黙認する向きもあった。実際、の関連会議資料として「児童の協調動作におけるリズム訓練の可能性」が検討されたとする回覧が出回ったが、出典の所在が曖昧であり、のちに回覧自体が差し止められたという[15]。この“資料の行方不明”が、むしろ噂を育てる温床になったとも言われている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯千春『反復語句の地域差と同期行動:子ども唄の音声学的考察』東京音楽学会出版, 2011.
- ^ Margaret A. Thornton『Rhythmic Etiquette in Rural Japan』Oxford Folk Studies, 2014.
- ^ 内田律子『輪唱儀礼の社会機能:明治期の児童遊戯資料から』東北民俗叢書刊行会, 2008.
- ^ 鈴木文右衛門『害獣追い立ての掛け声史(抄)』私家版, 1927.
- ^ 川瀬和真『音響訓練の民間転用—定型句の“意味なき語”をめぐって』日本民俗学会誌, Vol.38, No.2, pp.113-142, 2016.
- ^ Hiroshi Tanaka『Postal Echoes and Night Signaling』Journal of Communal Fieldwork, Vol.9, No.1, pp.22-49, 2019.
- ^ 大島幸吉『円環フォーマットの判定図式』【嘘】図譜研究所, 第1巻第3号, pp.5-18, 1956.
- ^ 田中真紀子『規範的遊びと子どもの沈黙:事例記録から』教育社会学年報, Vol.21, No.4, pp.77-101, 2020.
- ^ 「児童の協調動作におけるリズム訓練の可能性」文部科学省回覧資料(未公刊), 1949.
- ^ 伊勢崎礼『民間伝承の一次史料を追う:出典の所在と改変』国際民俗文献学会, 1997.
外部リンク
- 民間唱句アーカイブ
- 音声民俗学データバンク
- 児童遊戯記録センター
- 地域口伝の地図化プロジェクト
- 輪唱フォーマット研究会