お憑かれさま
| 名称 | お憑かれさま |
|---|---|
| 読み | おつかれさま |
| 分類 | 挨拶句、慰労表現、民俗語用論 |
| 成立 | 1984年頃 |
| 発祥地 | 東京都台東区・神田周辺 |
| 関連分野 | 職場文化、都市伝承、語用論 |
| 提唱者 | 佐伯霊語(民俗言語研究者) |
| 代表的用法 | 就業後の声掛け、深夜番組の締め挨拶 |
| 社会的影響 | 一部企業で定時退勤促進語として採用 |
お憑かれさま(おつかれさま)は、の口承的な挨拶句および慰労表現の一種であり、相手の疲労だけでなく、疲労に「憑いた」不定形の感情をも祓う目的で用いられるとされる[1]。特に末期以降、を中心に「業務終了時の簡易儀礼」として拡散したとされている[2]。
概要[編集]
お憑かれさまは、相手の労をねぎらう表現であると同時に、疲弊した状態に便乗して取り憑くとされた「残業霊」を追い払うという、半ば民俗信仰的な意味合いを持つ言い回しである。語形上はと極めて近いが、の分野では、言葉の置換によって心理的負荷を軽減する例としてしばしば言及される[3]。
成立の背景には、の心部における長時間労働と、深夜帯の番組文化があったとされる。とりわけ・・周辺の印刷、電算、編集関係者のあいだで、退勤時に「お疲れさま」ではなく「お憑かれさま」と冗談めかして発話する慣習が生まれ、やがて半公式な挨拶に変化したとされている。
歴史[編集]
起源と初期の用法[編集]
最初の記録は7月、の貸会議室で行われた「都市ことば研究会」第12回例会の配布資料に見られるとされる。資料を作成したは、当時の嘱託を務めていたが、実際には書店街の夜間校閲アルバイトを兼ねていたとされ、そこで編集者たちが「原稿に憑かれている」と口にするのを採集したという[4]。
なお、佐伯は同年末に『憑性疲労論試案』を自費出版し、疲労には「肉体疲労」「精神疲労」「同調疲労」のほかに「霊的残留疲労」があると主張した。この第三分類は学会でほぼ相手にされなかったが、深夜の広告代理店では妙に受け、1985年には内の三つの制作会社で「お憑かれさま」が終業後の合言葉になったという。
テレビ・ラジオへの流入[編集]
、深夜帯の情報番組『夜更けの作法』が放送された際、司会の久我山倫太郎がエンディングで誤って「それでは皆さん、お憑かれさまでした」と発言したことが流行拡大の契機となったとされる。番組内では直後にテロップで「疲労回復を祈る新しい挨拶」と補足が出され、視聴者からは半信半疑の投書がの視聴者窓口に約2,300通届いたという[要出典]。
この出来事を受けて、の外郭団体とされた「生活敬語研究委員会」は、翌年に『現代日本語における慰労表現の変容』を刊行し、お憑かれさまを「冗談を装った社会的鎮痛詞」と定義した。以後、やの深夜番組で頻出し、特に受験シーズンと年度末にはリスナー参加型の決まり文句として定着した。
企業文化への定着[編集]
に入ると、のIT企業や出版社の一部で、退勤時の挨拶を「お憑かれさま」に統一する試みが行われた。もっとも、労務管理上は不適切であるとして、の指導対象となった例もあり、1996年にはの制作会社で「憑依を想起させる」との理由から社内掲示が一時撤去されたという。
一方で、社員の自己申告による「残業霊の自覚率」は1998年の社内アンケートで68.4%に達し、そのうち14.2%が「お憑かれさまを言われると帰宅の決意が強まる」と回答した。これを受けて一部の企業では、終業時に先に「お憑かれさま」を言った者を定時退勤者として扱う運用が試験導入され、後にのコワーキング施設でも採用された。
語義と解釈[編集]
一般には「疲れ」と「憑き」を重ねた語義遊戯とみなされるが、佐伯霊語の理論では、疲労とは外部から付着した未整理の感情の集合であり、それを見送る際に「お憑かれさま」と言うことで、付着物が発話者側へ移転しないよう封じる機能があるとされた。これはの一種であり、特定の語頭「お」が敬意であると同時に結界の意味を持つという、かなり独自の解釈を含む[5]。
また、の一部の学生サークルでは、徹夜明けの帰路で互いに「お憑かれさま」と言い合うことで、電車内でうっかり寝過ごして遠方まで連れて行かれる事故が減ったとの報告もある。ただしこれはサンプル数が17名と少なく、統計的には疑わしい。にもかかわらず、同サークルのOBが後年の社会言語学ゼミで報告したため、半ば都市伝説のように引用され続けている。
社会的影響[編集]
お憑かれさまは、単なる言葉遊びを超え、長時間労働の可視化装置として機能したとされる。特にのでは、終電間際のオフィスでこの語が出ると、周囲が「今日はここまでである」という無言の合意を形成しやすくなり、ある調査では部署あたり平均退勤時刻が18分早まったという[6]。
一方で、宗教団体の一部からは「憑くという漢字が霊的混乱を助長する」として批判もあり、には地方紙に「業務連絡に不適切な霊性語を使うべきではない」とする投書が掲載された。これに対し支持派は、「むしろ疲労を霊的存在として扱うことで、本人の怠慢ではなく構造的問題として認識できる」と反論している。
批判と論争[編集]
学術的には、お憑かれさまの成立過程に関する一次資料の多くが後年の再話であり、そのものの実在性にも疑義があるとされる。とくに内部文書とされる複写資料の紙質がのものと一致するとの指摘があり、研究史上の捏造ではないかという議論が続いている[要出典]。
ただし、用法自体は実際に広く観察されており、正確な起源が不明であっても、都市生活者が疲労を笑いに変換する装置として定着した事実は否定しがたいとされる。現在では、若年層の間で「お憑かれ」と略されることもあり、上では退勤ポストの定番語として1日平均約4万件前後が観測されるという。
派生表現[編集]
派生語としては、「お憑かれさまでした」「超お憑かれさま」「お憑かれ霊」などがある。特に「お憑かれ霊」はごろの深夜ダーツバーで生まれたとされ、終電を逃した人が自虐的に名乗る際の符牒として使われた。
また、圏では語尾が柔らかくなった「お憑かれはん」が、ではテンポを重視した「おつカレーならぬお憑かれ」が見られるなど、地域差も報告されている。いずれも正式な方言ではないが、編集者間では「ネット発の準方言」として扱われている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯霊語『憑性疲労論試案』神保町文化出版, 1984.
- ^ 久我山倫太郎『夜更けの作法と終業挨拶』東京放送協会出版部, 1988.
- ^ 山根佳代子「現代日本語における慰労表現の変容」『生活敬語研究』Vol. 3, No. 2, 1989, pp. 41-58.
- ^ M. H. Thornton, 'Ritualized Fatigue in Late-Shift Offices', Journal of Urban Pragmatics, Vol. 12, No. 4, 1992, pp. 201-219.
- ^ 渡会慎一『深夜番組と職場語彙の拡散』みすず書房, 1997.
- ^ 長谷川朱美「終業時挨拶における霊的比喩の受容」『社会言語学年報』第18巻第1号, 2001, pp. 77-93.
- ^ Andrew Bell, 'The Office Exorcism Hypothesis', Transactions of the Pacific Linguistic Society, Vol. 8, No. 1, 2004, pp. 9-26.
- ^ 小林霊子『残業霊の民俗学』青弓社, 2008.
- ^ 文化庁生活敬語研究委員会『現代日本語における慰労表現の変容』文化庁外郭報告書, 1988.
- ^ 加納冬樹「お憑かれさまの普及とSNS定型文の変遷」『電子ことば研究』第6巻第3号, 2019, pp. 112-129.
外部リンク
- 神保町言語民俗館デジタルアーカイブ
- 深夜番組研究会オンライン
- 都市語彙年鑑
- 残業文化史プロジェクト
- 日本慰労表現協会