お薬投与カープ
| 読み | おくすりとうよかーぷ |
|---|---|
| 発生国 | 日本 |
| 発生年 | 1957年 |
| 創始者 | 名古屋薬学会・運動療法部の中島ユリオ |
| 競技形式 | チーム対抗・区画投与サーキット |
| 主要技術 | 投薬角度推定(Cure-Angle)と安全手順 |
| オリンピック | |
| オリンピック | オリンピック正式競技(1992年東京構想案) |
お薬投与カープ(おくすりとうよかーぷ、英: O-Kusuri Tōyo Kāp)は、で生まれたのスポーツ競技である[1]。
概要[編集]
お薬投与カープは、において考案された、薬剤管理を模した走行型投擲競技である。選手は“カートリッジ”と呼ばれる安全ラベル付きの球体を所定区画に投げ込み、模擬投薬プロトコルに従って得点を確定させるとされる[1]。
競技の本質は、単に遠くへ投げることではなく、投与手順の順番(例:清拭→投与→記録)を身体動作で再現し、タイムペナルティを最小化する点にある。なお、競技名の「カープ(Carp)」は、古式泳法に由来する「鯉の跳ね=安全な放出」を語源とする説明も多いが、後年には“Care Protocol”の略とする説も併存している[2]。
競技は通常、医療従事者の監修を受ける「訓練用スポーツ」として整備され、選手登録時にはの理解テストが課される。実施者の間では、誤投与を防ぐために視線誘導が重要視され、「目は標的、手は手順」と言い換えられることがある[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
お薬投与カープの起源については、1950年代の名古屋における慢性的な運動不足と薬物療法の自己管理教育の難しさが背景にあったとされる。きっかけは名古屋薬学会運動療法部が主導した「投与動作の反復練習」を目的とする小規模講習であり、参加者の集中が続かないことが問題視された[4]。
その解決として考案されたのが、投擲動作を“手順ゲーム”に変換する方法である。具体的には、1957年にの倉庫街で行われた夜間講習で、床に縦横3mの区画を引き、投げる前に必ず3回うなずく規則を付加したところ、参加者の記録率が平均で31.4%改善したという[5]。この「うなずき」を“カープの跳ね”として模倣する文化が生まれ、後の競技規格へと接続したと説明される。
また、初期の投擲球は本物の薬品を入れない代わりに、薬袋の重さを再現した石膏製カートリッジを使用していたとされる。後年に安全面が精査され、樹脂球+個包装ラベルへ変更された経緯が、競技団体の資料では『手順の再現と人体負荷の低減の両立』として記述されている[6]。
国際的普及[編集]
国際的な普及は、1970年代にのスポーツリハビリ研究者であるマルティン・クラインが「投薬記録の運動学的訓練」に着目したことにより加速したとされる。クラインは名古屋で見学後、1976年に欧州リハビリ学会へ向けた短報を発表し、競技が“プロトコル遵守の学習装置”として機能する可能性を提示した[7]。
その後、1981年に・で開催された模擬医療競技フェスで、英語名として O-Kusuri Tōyo Kāp が初めて表記された。大会要項は“薬学”を前面に出しすぎない配慮がなされ、代わりに「Safety Protocol Sports」と位置付けられた点が、各国の導入を助けたとされる[8]。
1992年にはで開催予定だったとする架空のオリンピック準備委員会(東京開催構想案)において、本競技が「オリンピック正式競技」枠の検討対象になったと報告されている。ただし最終的には、医療連想が強い点と規則の教育的性格が強すぎる点が懸念され、展示競技止まりとなる見立ても多い[9]。この“正式競技に近づいたが届かなかった”という語りが、競技人気の物語性を支えたとも指摘される。
ルール[編集]
お薬投与カープの試合は、内の3つの区画(導入区・投与区・記録区)を順に回り、各区画で定められた動作を完了させながらカートリッジを投げ込む形式で行われる。選手は投擲前に“清拭動作”を1回、投擲後に“記録合図”を2回行わなければならず、欠落すると得点がゼロ扱いになる[10]。
試合時間は前半2分+休憩30秒+後半2分の合計4分とされるが、地域リーグでは延長を“手順遅延”として扱い、追加で45秒のプロトコル整列を行う規則が採用されることもある。勝敗は、投与区への成功投擲数(最大12回)と手順誤りによる減点(1回につき-7点)が合算され、総得点の多いチームが勝利する[11]。
なお、成功投擲の判定は距離ではなく角度と着弾位置の“組み合わせ”に基づく。審判は投擲方向を地面に投影した際の角度誤差が±3.0度以内であるかを確認するため、選手は“Cure-Angle”(投薬角度推定)と呼ばれる自己学習法を用いるとされる[12]。ただし、判定にはレーザー距離計が用いられるとする説と、旧式の巻尺が残るとする説があり、リーグ間で運用が揺れる点がしばしば話題になる。
技術体系[編集]
技術体系は大別して「投擲技術」「手順技術」「視線技術」の3領域で構成されるとされる。投擲技術は、利き腕の回転ではなく、足裏荷重を基準に角度を作る“床圧回転”に基づくとされる。床圧回転では、助走開始からリリースまでの体幹回旋角を22度以内に抑えることが推奨される[13]。
手順技術は“時間ではなく順番”を基準にするとされる。具体的には、清拭動作完了後から投擲までの待機は0.8秒±0.2秒と規定されるが、これを守れない場合でも「合図動作の回数が正しければ救済」されるリーグも存在する。ここに、単なる競技というより教育的プログラムとしての色が残っていると評価される[14]。
視線技術は、投与区のマーカーではなく記録区の旗(記録合図)を先に見て、投擲は“見た旗の位置”へ身体を合わせる方法として知られる。一方で、視線をマーカーに固定する流派も根強く、「目は標的、手は手順」論争が絶えないとされる。
用具[編集]
用具は、主に安全ラベル付きカートリッジ、区画のマーカー、審判用判定具からなる。カートリッジは直径10cmの樹脂球で、表面に患者識別を想起させる“擬似ラベル”が印刷される。ただし本物の医薬品に似せない配慮として、成分名のような表記は避けられていると説明される[15]。
区画のマーカーは床埋め込みの反射テープで、着弾時に反射強度が一定以上であれば成功判定に寄与する。記録区の旗は高さ1.2mのポールに取り付けられ、合図動作のタイミング確認に用いられる。審判はペン型の距離測定器を携行し、角度誤差を±3.0度以内とする基準で運用するとされる[16]。
選手の装備としては、滑り止め付きの手袋と、手順誤りの際に即座に振動する“プロトコルバンド”が一部で普及している。試合中にバンドが振動した場合でも罰則が軽減される場合があり、競技団体は「不正対策ではなく学習支援」として説明している。なお、旧世代のリーグでは鉛筆形の計測具が残っているとも報じられ、地域ごとの差異が面白みになっている[17]。
主な大会[編集]
主な大会として、国内ではを起点とする「プロトコル杯(Protocol Cup)」が代表的である。プロトコル杯は毎年7月上旬に開催され、初参加チームには“清拭動作講習”が義務付けられる。優勝賞金は現金ではなく、翌年の審判育成枠が配分される仕組みであるという点が特徴とされる[18]。
国際大会としては、の「Safety Protocol World League」があり、予選は3分×3ラウンド、決勝は4分×2ラウンドとされる。各ラウンドの総投擲回数は合計24回までとされ、疲労で手順が乱れるチームが落ちる傾向があると報告されている[19]。
また、メディア向けの特別大会として「12分間・手順逆走チャレンジ」が存在するとされる。これは“通常順序を逆にしても点が付く”救済競技であり、練習熱が過熱した時期に急に流行したと語られる。ただし、救済が過ぎると本来の学習目的が薄れるとして、選手会からは一部反対の声もあったとされる。
競技団体[編集]
競技の統括団体としては、国際的には(IFSS)が知られている。IFSSは投擲の角度規定や、プロトコルバンドの許容仕様(振動強度、素材、故障時挙動)を統一する役割を担うとされる[20]。
国内では色を帯びた「日本お薬投与カープ協会」が運営し、競技者の安全教育カリキュラムを認定している。協会は“医療関連企業とのタイアップ”にも慎重であり、スポンサー名は試合票に記載しない運用が一般的とされる。ただし、協会公式ブログにおいて「スポンサー非掲示は教育効果の毀損を防ぐため」と説明された一方、旧資料では企業名が併記されていたともされ、時期により方針が変わった可能性が指摘されている[21]。
審判養成は「Cure Protocol Judge」制度があり、筆記試験は60問・合格点は72/100とされる。さらに実技試験では、角度誤差を±3.0度以内に換算して説明する口頭課題があるとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 中島ユリオ『投薬動作の運動療法的再現:名古屋試験講習報告』名古屋薬学会出版部, 1959年.
- ^ Martina Keller『Protocol Sports and Compliance Learning』Vol.2, pp.33-51, Helvetica Medical Review, 1980年.
- ^ クライン, マルティン『投与記録の身体学:角度誤差の学習モデル』第4巻第1号, pp.11-29, 欧州リハビリ学会紀要, 1977年.
- ^ 日本お薬投与カープ協会『競技規則の変遷と安全運用(1957-1991年)』第3版, pp.201-244, 日本協会出版, 1992年.
- ^ IFSS『Safety Protocol World League Official Handbook』Vol.1, pp.5-18, International Federation of Safety Procedure Sports, 1996年.
- ^ 佐伯まどか『清拭動作はなぜ3回なのか:儀礼と反復のスポーツ化』pp.77-98, 東京学術出版, 2001年.
- ^ Müller & Tanaka『Laser判定運用の差異とチームパフォーマンス』Vol.9, No.3, pp.140-168, Journal of Procedural Athletics, 2008年.
- ^ 『オリンピック正式競技候補の条件:教育型スポーツの扱い』第12巻第2号, pp.1-22, 国際スポーツ行政研究会, 1993年.
- ^ Ramos, Luis『The Semantics of “Carp” in Protocol Games』pp.55-63, Sport Linguistics Quarterly, 2012年.
- ^ (微妙にタイトルが異なる文献)山口正人『お薬投与カープ入門:安全手順と記録フラグ』pp.3-20, 名古屋印刷所, 1962年.
外部リンク
- IFSS公式資料アーカイブ
- 日本お薬投与カープ協会:安全教育モジュール
- Protocol Cup 運営委員会ノート
- Safety Protocol World League 試合記録館
- Cure-Angle 研究チュートリアル