ぐりとぐらと、中曽根康弘
| タイトル | 『ぐりとぐらと、中曽根康弘』 |
|---|---|
| ジャンル | 食卓冒険×政治風刺(児童寓話パロディ) |
| 作者 | 渡瀬 はるひ |
| 出版社 | 湯気書房 |
| 掲載誌 | 週刊ほこほこ新聞 夢特集 |
| レーベル | おかわり絵本レーベル |
| 連載期間 | - |
| 巻数 | 全12巻 |
| 話数 | 全136話 |
『ぐりとぐらと、中曽根康弘』(ぐりとぐらと なかそねやすひろ)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『ぐりとぐらと、中曽根康弘』は、主人公の“二匹のネズミ”が「おいしい未来」を配給するはずが、なぜかの演説口調で物語が加速していく、児童寓話風の政治風刺漫画である[1]。
作中では、パンくずではなく「政策の粉末」が地面に散らされ、雨音の代わりに“政策ラジオ体操”が鳴る。連載初期の読者投稿には「これ、給食の時間に本当にあったやつ?」といった錯覚が多く、編集部は「誤解歓迎」を方針に掲げたとされる[2]。
なお、作品の核は食卓の明るさであるが、同時に“言葉が現実を炊き上げる”という装置論が随所に仕込まれている点が特徴とされる。後述するように、その起点はが社内で実施した「炊事的コミュニケーション・シミュレーション」にあるとされる[3]。
制作背景[編集]
企画はの編集会議で、司会役のが「童話は子どもを守るが、子どもを守るには“国の湿度”が必要」と発言したことから始まったとされる[4]。ここでいう湿度とは、比喩でありつつも、実際に同社がの倉庫で保管していた紙の含水率(当時)を指していたともいわれる[5]。
当時、は購読者層の拡大に悩んでおり、児童向けと大人向けの“同じ机”を共有できる連載が求められていた。そこで編集部は、童話的な食の情景に、なぜか政治家の言い回しを混ぜる「炊き込みパロディ」を採用したとされる[6]。
さらに、作中の“演説口調のネズミ”は、の演説原稿をそのまま読むのではなく、「文の温度が上がる箇所」を機械学習のような手順で抽出した結果だと説明された。資料では、抽出率がに設定され、残りを“卵の気配”として画面に留めたという[7]。この設定が読者にとっては「意味がわからないのに妙に通じる」効果を生んだとされる。
あらすじ[編集]
第1〜3巻:配給される粉(初炊編)[編集]
初期のでは、森の奥で活動する二匹のネズミが、突然“鍋型のスピーカー”を拾う。スピーカーは米ではなく、を炊き上げる装置であり、ナレーションがのようなテンポで進む[8]。
ある夜、ネズミたちはの架空地区「湯島くつろぎ町」で、行列に並ぶ子どもたちに“明日のパン”を配給する。しかし、配給の札に「本日は、ただし気持ちは」と書かれていたため、読者は暫定的に混乱したとされる[9]。
第4〜6巻:ラジオ体操と卵雲(再炊編)[編集]
では、敵役として“無味乾燥の粉屋”が現れ、世界から味の湿度を奪おうとする。対抗策は、味を呼び戻すための「政策ラジオ体操」であり、体操の終了時刻は毎回と固定された[10]。
この数字は、作中の編集メモに「1回目は19:09、2回目は19:19で差が出た」と残っていたとされるが、真偽は不明とされている。もっとも、この“ぴったり感”が人気投票の票数を押し上げたという指摘もある[11]。
第7〜9巻:演説が沸騰する島(沸騰編)[編集]
では、鍋型スピーカーが海を越えて島へ渡り、島の住民は「言葉の泡」を飲むようになる。ここで言葉は文字ではなく味に変換され、住民の表情が料理番組のように“上がる”表現が続く[12]。
ただし、泡の量が増えすぎると、島は逆に“何も言えない沈黙”に陥る。ネズミたちは沈黙を解くため、の架空港「香味港」から風船を打ち上げ、風船の中にの短い語尾だけを詰めたという展開になる[13]。
第10〜12巻:机上の未来(最終炊き編)[編集]
では、世界が「食べることで政策を理解する」段階に移行し、ネズミたちは“誰のための鍋か”を問い直す。答えは、勝利のスローガンではなく、給食の残りを分け合うという極めて地味な行為に置かれた[14]。
終盤、鍋型スピーカーは沈黙し、最後のコマで子どもが「わからないけど、あたたかい」とつぶやく。読後感の要として、締めの台詞には一切の固有名詞がないため、“政治風刺なのに政治が消える”構造が評価されたとされる[15]。
登場人物[編集]
本作の中心は二匹のネズミ「ぐり」と「ぐら」である。原型となるキャラクター造形は“丸い労働”を象徴し、目のハイライトは卵の割れる瞬間を模しているとされる[16]。
は主要人物というより、時折ページ全体を“演説の温度”で塗り替える語り手として登場する。作中で彼が話すのは政治の主張ではなく、鍋のふたが開く音のリズムに近い文章であり、読者は「これは引用なのか、呪文なのか」と論じた[17]。
ほかに無味乾燥の粉屋「ドライ・ミル」、味の湿度を守る給食委員「湯気美(ゆげみ)」、そして架空の官庁「全国味覚再炊局」が登場する。特に「全国味覚再炊局」は、実在しないにもかかわらず、説明文が官報調に統一されていたため、ネット上で“存在確認”が相次いだとされる[18]。
用語・世界観[編集]
本作の世界観は「鍋型スピーカー」によって成立している。これは音声を調理信号に変換し、言葉が料理の温度曲線をなぞるとされる装置である[19]。温度は摂氏ではなく、物語内で「幸福度」と呼ばれ、測定値は毎章から始まって最終章でに到達すると設定された[20]。
また、味の湿度を奪う敵勢力は「乾煎(かんせん)」と呼ばれ、乾煎の儀式では“味が消える音”だけが残る。ここでネズミたちが唱える呪文が「炊き込みのあいさつ」であり、挨拶の語尾を変えることで効き目が増減するという[21]。
加えて、政策を理解するための行動として「机上共食(デスク・きょうしょく)」が登場する。これは机の上で小さなパンを分け、食べながら“物語の論理”を会得する、という奇妙に実用的な儀式として描かれている。なお、この設定は当時の読者アンケートで「勉強が不思議と進む気がした」と回答されたことにより、編集部が“半分は本当”として残したとされる[22]。
書誌情報[編集]
『ぐりとぐらと、中曽根康弘』はより全12巻が刊行された。連載がからまで続き、単行本化では各巻が概ね「話数〜」で構成されたとされる[23]。
レーベルは「おかわり絵本レーベル」であり、紙面の余白を子どもが“想像の味”を足すために確保するという理念が掲げられた。また、第7巻以降は装丁の背景色が卵色から徐々に深緑へ移行し、終盤で鍋の影がページ端まで伸びる仕様になっている[24]。
累計発行部数は、連載終了から3年後の調査でを突破したと公式に発表された。さらに一部の地域では、図書館の貸出記録が“味覚”の統計に紐づけられたとして話題になったが、これについては統計係の誤読ではないかとの指摘もある[25]。
メディア展開[編集]
テレビアニメ化は1993年に発表され、原作の「初炊編」「再炊編」などを、各シーズンごとに再編集する形で放送された。制作は架空のスタジオ「湯気映像制作社」で、アフレコでは“鍋が鳴る音”を先に録ってから台詞を合わせる方針が採用されたとされる[26]。
放送枠のスポンサーは「全国味覚再炊局」風の意匠を持つ飲料メーカーだったが、社名そのものは放送当時伏せられていた。これは広告審査の都合とされるものの、視聴者の推理によって社名が先に特定され、結果として“逆に盛り上がった”という[27]。
また、映画化では『ぐりとぐらと、中曽根康弘 鍋の上の正義』が企画され、配給は架空の配給網「湯気ライン」から行われた。公開週の入場者数はと報じられ、端数まで“鍋の泡”に見立てた演出が評価されたとされる[28]。
反響・評価[編集]
作品は社会現象となり、学校の給食時間にネタのセリフが真似される例が相次いだ。その結果、学校現場では「引用の範囲」が問題になり、校内放送では“湯気美の口調だけは控える”という自主ルールが設けられたとされる[29]。
一方で批評では、政治風刺が強すぎるのではないか、という論調も出た。ただし編集部は「風刺は味見であり、主張の押し付けではない」と答えたとされる[30]。この主張は、作品中で“ふたを開ける音”がいつも同じ長さ()に揃えられている点からも補強されたとされる[31]。
また、図書館員の間では「挿絵を眺めるだけでページが進む」という現象が報告された。漫画としての読みやすさが評価され、読者賞では最優秀“机上共食”部門が創設されたとされる。ただし、その賞が本当に存在したかは当時の記録が散逸しており、要出典にされがちである[32]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡瀬はるひ「『ぐりとぐらと、中曽根康弘』における“幸福度”温度曲線の設計」『おかわり絵本研究』第5巻第2号, 湯気書房, 1992年, pp.12-31.
- ^ 中村玲於「児童寓話の政治風刺化と読者誤認のメカニズム」『メディア・パロディ学会誌』Vol.18 No.4, 1994年, pp.77-104.
- ^ 山田琥珀「鍋型スピーカーが生む物語音響の擬似調理効果」『音と物語の臨床工学』第3巻第1号, 1993年, pp.201-229.
- ^ 全国味覚再炊局 編『机上共食の指針(試案)』湯気官房広報局, 1991年, pp.5-48.
- ^ A. Thornton『Parody That Cooks: Narrative Temperature and Public Memory』University of Tokyo Press, 1996, pp.33-60.
- ^ S. Delacroix「Satire for Children: When Speeches Become Sounds」『Journal of Narrative Foodways』Vol.9 No.2, 1995, pp.1-22.
- ^ 湯気書房編集部「週刊ほこほこ新聞 夢特集 連載設計資料:炊き込みパロディ」『湯気書房社内報(復刻)』第12号, 2001年, pp.14-29.
- ^ 田中時雨「“ふたが開く音”の時間揃えは読解速度を上げるか」『視覚コミックス統計年報』第7巻第3号, 1997年, pp.88-95.
- ^ J. Watanabe「A Brief Account of Desk-Splitting Rituals」『International Folklore & Layout Studies』Vol.2 Issue 1, 1998, pp.55-70.
- ^ 渡瀬はるひ『ぐりとぐらと、中曽根康弘』おかわり版(続・炊き込みのあいさつ)湯気書房, 2004年, pp.1-9.
外部リンク
- 湯気書房アーカイブ
- 週刊ほこほこ新聞 夢特集 データベース
- 机上共食研究所
- 鍋型スピーカー愛好会
- おかわり絵本レーベル公式倉庫