こんなこともあるのに?そんなことはないよなあ。うん、そうだね。
| 名称 | こんなこともあるのに?そんなことはないよなあ。うん、そうだね。 |
|---|---|
| 分類 | 応答定型句、疑義調整表現 |
| 用途 | 会話の軟着陸、議論の終端処理 |
| 成立時期 | 1980年代末 - 1990年代初頭とされる |
| 主な使用地域 | 東京都、神奈川県、大阪市の一部 |
| 関連分野 | 言語社会学、会話分析、ネット文化 |
| 象徴色 | 薄い灰色 |
| 代表的媒体 | 喫茶店の会話、掲示板、短文SNS |
「こんなこともあるのに?そんなことはないよなあ。うん、そうだね。」は、の会話文化において、反語・自己否定・同意の3段階を一息で処理するために用いられる定型句である。主として後期の都市部で広まり、のちに上で「返答不能時の安全地帯」として定着したとされる[1]。
概要[編集]
「こんなこともあるのに?そんなことはないよなあ。うん、そうだね。」は、相手の発言をいったん受け止めつつ、直後に自分で打ち消し、最後に低温度の同意へ着地するための連結表現である。会話の主導権を奪わず、かつ話題を終わらせる機能を持つとされる[2]。
この表現は単なる口癖ではなく、末期から初期にかけて拡大した「過剰に断定しない美学」の代表例とみなされている。なお、初期の研究では「三相応答法」と呼ばれたが、のちに長すぎるため現場では「こんそう」と略された[3]。
成立の背景[編集]
この定型句の起源は、ごろのにあった深夜喫茶「喫茶ロンド」に求められることが多い。常連客であった印刷校正者のが、終電を逃した同僚の愚痴に対し、反駁せず、しかし同意もしきらない返しとして用いたのが最初とされる[4]。
当時の系の社内会話記録に、類似する言い回しが残されているという指摘もあるが、原本の所在が確認されていないため要出典とされている。もっとも、の会話研究会誌『月刊対話工学』第12号には、すでに「こんなこともあるのに、などと受けた後に否認する一式の応答」が紹介されており、少なくとも都市圏で小流行していたことはうかがえる[5]。
構造[編集]
表現は、第一節「こんなこともあるのに?」、第二節「そんなことはないよなあ。」、第三節「うん、そうだね。」から成る。第一節は観察の提示、第二節は世界観の否定、第三節は関係維持の確認という役割分担を持つ。
のによれば、この三段階は、対立を避けたいが沈黙もしたくない話者に特有の「回避的協力」の型であり、特にの商談前雑談で高頻度に観察されたという[6]。ただし、同研究のサンプル数は37例と少なく、一般化には注意を要するとされる。
歴史[編集]
前史[編集]
前史として、の学生運動後のサークル文化に見られる「まあ、そういうこともあるが、ないことにしておこう」という婉曲表現が挙げられる。これがに入ってから短文化され、最終的に現在の形に収斂したというのが通説である[7]。
普及[編集]
普及の契機はのテレビ討論番組『夜半の整理棚』であるとされる。同番組に出演したコメンテーターが、統計の解釈をめぐる口論の末にこの言い回しを3回連続で使用し、放送直後にへの視聴者葉書が241通寄せられたという[8]。
ネット化[編集]
に入ると、文化を通じて「長いが、最後まで読むと結局なにも言っていない」言説の代表として再評価された。とくに系の要約文化では、この表現が「議論を終わらせるための丁寧な爆弾」と呼ばれ、派生形が約64種確認されている[9]。
社会的影響[編集]
この表現は、家庭内の会話から企業の会議、さらには自治体の苦情対応まで広く浸透した。の市民相談室では、時点で職員の17.4%が何らかの形で類似応答を使用したとする内部アンケートがあり、会話の短縮と精神的疲労の軽減に役立ったと評価されている[10]。
一方で、過度に用いると「相手の意見を聞いたふりをして流しているだけ」と受け取られるため、は、使用頻度が1日6回を超える場合は「対話保留」とみなす暫定指針を出した。なお、この指針は実際には一部の企業研修資料にしか掲載されていない。
批判と論争[編集]
批判の中心は、当該表現が「同意」の外形を持ちながら、内実としては議論停止装置として働く点にある。とくにの応用会話論グループは、これを「肯定に見せかけた非コミットメント」と定義し、社交上の便利さと責任回避の境界が曖昧であると指摘した[11]。
また、には内の中学校で、生徒会討議の終盤にこの定型句が多用され、結論が毎回「うん、そうだね」で終わることから、議事録が1か月分ほぼ同一内容になった事件があった。これに対し保護者会は「平和でよい」と評価した一方、教員側は「教育的にはかなり困る」としている。
派生表現[編集]
派生形としては、「こんなこともありますよね」「まあ、そういうこともある」「うん、あるあるですね」などが知られている。なかでもにのフリーライターが提唱した「そんなことはない気もするけど、まあ、あるかもしれないねえ」は、論理矛盾をさらに一段深めた表現として一部で人気を得た[12]。
また、短文化の極致として「こそそ(こんなこともあるの、そうそう、そうだね)」があるが、これは発音困難のため実用化されなかったとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯真理子『対話の軟着陸技法』言語文化出版, 1998.
- ^ 森本ユウジ『夜半の整理棚と会話の終端』東都新書, 2001.
- ^ A. Thornton, "Three-Phase Acknowledgement in Urban Japanese", Journal of Pragmatic Systems, Vol. 14, No. 2, 2004, pp. 88-113.
- ^ 西野澄夫『喫茶ロンド会話録』私家版, 1990.
- ^ 山岸由紀『否定しない否定表現の研究』港南大学出版会, 2007.
- ^ H. Keller, "Soft Refusal and Social Harmony", The Review of Applied Conversation, Vol. 9, No. 1, 2010, pp. 21-49.
- ^ 『月刊対話工学』第12号, 対話工学社, 1989.
- ^ 日本語会話倫理委員会編『応答と保留の境界線』文化交流研究所, 2012.
- ^ 佐伯真理子「三相応答法の地域差」『関東言語年報』第23巻第4号, 2009, pp. 141-168.
- ^ M. R. Feldman, "Polite Collapse in Late-Modern Dialogue" in Proceedings of the Kyoto Forum on Interaction, 2019, pp. 55-63.
外部リンク
- 言語文化研究所アーカイブ
- 対話工学デジタル図書館
- 会話表現年鑑オンライン
- 都市口語コーパス・プロジェクト
- 応答定型句資料館