しゃむい…しゃむい…おそとやーやーなのっ…
| 別名 | 「おそとやーやー詠唱」 |
|---|---|
| 分野 | 音声言語学・生活文化・自治体広報 |
| 成立 | 1950年代後半(とする説) |
| 主な使用場面 | 集合住宅の掲示・子どもの遊戯・防寒啓発 |
| 象徴性 | 寒さによる“抵抗感”の定量表現 |
| 関連概念 | 省エネ感情指数(SEI) |
| 表記ゆれ | しゃむい…/さむい…/おそとやーやー…等 |
しゃむい…しゃむい…おそとやーやーなのっ…は、寒さへの不満と外出拒否を韻律的に反復する日本語の定型句として知られている[1]。もともとは児童合唱の裏声練習で使われたとされるが、のちに自治体の防寒啓発スローガンへ転用され、都市生活の“省エネ感情”を可視化する語として定着したと説明される[2]。
概要[編集]
本項目は、フレーズの反復と伸ばし音により、聴覚的に“寒さ”の圧を描写する定型句として解説するものである[1]。
語の意味は明確である一方、その運用は地域・世代で差があるとされる。例えば、の一部では屋内遊戯の合図として、の高層住宅では防寒啓発のキャッチフレーズとして採用された例が知られている[3]。
なお、学術的には「反復による拒否の誇張表現」と位置づけられるが、出典資料の筆者間で“いつ誰が作ったか”が食い違うことも指摘されている[4]。この齟齬自体が、語の流通を加速させた要因だったと推定されている[5]。
歴史[編集]
起源(主張される物語)[編集]
最初期の出自については、の私設合唱教室「北星リズム館」(当時の正式名称は『北星リズム館児童唱法準備室』)での裏声ウォームアップに由来するとされる[6]。教室の創設者であるは、寒気で声が硬くなる時期だけ、子どもたちの口腔内圧を安定させる練習としてこの反復文を用いた、と当時の記録に記されている[6]。
ただし別の資料では、1958年の冬季にの小学校で実施された“防寒朗唱”の台本が元であるともされる[7]。台本作成に関与したとされるのは、教育委員会付属の音声指導員である[7]。彼女は「寒いほど声帯の摩擦音が増える。だから“シャムイ”を多層反復して均す」と主張したと伝えられる[7]。
このように起源は複数あるが、共通点として“外出拒否”のニュアンスが早期から含まれていたことが挙げられる。裏声練習の段階ですでに「おそとやーやー」が“扉の外に行かない”という児童の身体感覚に結びついたと推定されている[5]。
普及と制度化(自治体の採用)[編集]
1960年代後半になると、語は児童文化から生活広報へ拡張した。とりわけのでは、寒冷期の交通転倒事故が多発したことから、内の「生活安全室」がスローガン選定のための“音声ストレス評価”を行ったとされる[8]。
同室が導入した指標が、省エネ感情指数(SEI)である。SEIは「発話の反復回数×母音の伸長比×聞き手の同調率」で算出すると説明された[8]。1972年の報告書では、同フレーズを掲示板で使用した町会群は、未使用群より“暖房過剰”に起因する苦情が年間で約17.4%減少したとされる[8]。
一方で、語の制度化は単純ではなかった。1977年、の同種施策で「おそとやーやー」の文言が“引きこもり助長”として抗議を呼び、文面を「おそとやんやんなのっ…」へわずかに言い換えた経緯がある[9]。この置換は、音の破裂度を下げて“拒否”を“注意”に寄せる狙いだったとされる[9]。ただし当時の担当者の証言は複数あり、どの程度成功したかは一貫していない[10]。
社会的影響[編集]
この定型句は、寒さという身体条件を“言語データ”として扱う文化を後押ししたとされる。家庭内での暖房設定が家計を直撃するようになった時代、自治体は温度計よりも感情の揺れを測る必要があった、という説明がある[11]。
また、集合住宅では“同じセリフを言えるか”がコミュニティ参加の合図になった。例えばの港北区の団地では、自治会が年3回(12月・1月・2月)に「防寒朗唱会」を実施し、参加者が同フレーズをリズム拍で10回以上反復した場合のみ“湯沸かし器点検券”が配布されたという[12]。
この点検券が細かい制度設計を必要とした理由として、当時の担当者が「10回未満では“寒さ耐性”が足りない」と説明したことが挙げられる[12]。なお、実際には“寒さ耐性”の測定は行われていなかったとする資料もあり、言葉が測定行為そのものを代替したのだと解釈されている[13]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、語が“外出を否定する感情”を固定化するのではないか、という点であった。とりわけ学校現場では、国語・音楽の授業で使用することに対して「拒否表現を美化している」という指摘が出たとされる[14]。
一方で擁護側は、反復がもたらすのは“寒さへの注意喚起”であり、外出の禁止を意味しないと主張した。彼らは、フレーズの最後の「なのっ…」が“気づいた上で控えめにする”態度を表すと解釈していた[15]。
また、言語学者による分析では、母音配列が“暖房の効き具合”と相関して聞こえる点が指摘された。これが事実なら、語は寒暖差の推定装置に近いことになるが、同研究は被験者数が延べ42名にとどまり、再現性について疑義があるとされる[16]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『冬季児童唱法の調律——口腔内圧と韻律反復』北星書房, 1959.
- ^ 町田みゆき『防寒朗唱台本の編纂過程』松本教育報告叢書, 1968.
- ^ 佐伯玲奈『反復句における母音伸長と快適感の推定』『音声・文化研究』第12巻第3号, pp. 41-59, 1979.
- ^ 市川直人『自治体広報における“感情指標”の試行』『地方行政と言語』Vol. 4, No. 1, pp. 7-23, 1984.
- ^ Kobayashi, H.『Linguistic Overheating: Repetition as Social Thermostat』Journal of Applied Prosody, Vol. 9, No. 2, pp. 101-129, 1991.
- ^ Sato, M. and Thornton, M. A.『Feelings Measured in Vowels: A Field Note from Urban Housing』International Review of Civic Communication, Vol. 15, Issue 4, pp. 210-233, 1998.
- ^ 松本市役所生活安全室『寒冷期対策に関する音声応用報告書(SEI試験)』第1報, 1972.
- ^ 横浜市港北区自治会連絡協議会『防寒朗唱会の運営要領と点検券配布記録(1973-1976)』横浜地域資料, 1976.
- ^ 教育庁『音楽科における反復表現の指導指針(改訂版)』教育資料叢書, 第2冊, 1981.
- ^ Theodorou, E.『On Shelter-Seeking Utterances in Temperate Climates』Proceedings of the Semiotic Winter Conference, pp. 55-72, 2003.
外部リンク
- 北星リズム館アーカイブ
- 省エネ感情指数(SEI)研究室
- 松本市生活安全室デジタル報告
- 横浜港北区防寒朗唱会記録庫
- 音声・文化研究 雑誌データポータル