しりとり会
| 分類 | 言語ゲーム(会合形式) |
|---|---|
| 主な目的 | 語彙の活性化・場の自治・学習動機づけ |
| 発祥地(伝承) | 中之島周辺 |
| 成立時期(推定) | 後半 |
| 運営形態 | 常設サークル/臨時出張会 |
| 象徴ルール | 語尾一致、連想の補助語(前置き可) |
| 関連領域 | 国語教育、地域コミュニティ、社内研修 |
| 代表的な手法 | 記録係ノートと「語尾点検」 |
(しりとりかい)は、語の語尾と語頭を連結させる遊戯を、定例行事として運営する地域・職域の会合である[1]。形式は軽妙である一方、通信網や言語教育の政策と結びついて発展したとされる[2]。
概要[編集]
は、参加者が順番に「語尾」と「語頭」を一致させながら語を連結していく遊戯を、会として継続開催する形式である。一般に、単発の雑談としての「しりとり」と区別され、開始時刻・終了時刻・記録方法・罰則(後述)が定められている点が特徴とされる[1]。
成立経緯については、語学教室が行き過ぎた“語彙検査”を回避する手段として採用した、あるいは職場の上司が「口頭報告の型」を学習させる目的で定例化した、とする説がある。特にとの接点が強く、会合資料には語彙統計や誤答率のような項目が付随したとされる[2]。
なお、会の内部では「しりとり会」という語自体が“儀式名”として扱われ、地域ごとに別名(例:、)が並存した時期もあったとされる。これにより、同じ運動が複数の看板で運営され、行政資料に別項目として記載された可能性が指摘されている[3]。
成立と発展[編集]
起源:中之島「語尾交換」伝承[編集]
最も古い起源伝承として、の周辺に集った帳簿係や書記たちが、封筒の口糊(のり)乾燥の待ち時間を埋めるために語尾を結ぶ遊びを始めた、とされる[4]。当時は“遊び”ではなく、受け渡し文書の省力化を目的にした「連結発声訓練」の一種であり、言い換えれば会話をテンプレート化する試みだったと説明されることが多い。
この伝承では、待ち時間が毎回「正確に7分13秒」ずれることが観測され、語尾一致のゲームが時間のブレを吸収したとされる。記録係が口頭で言葉を回すことで、紙の記録を減らし、乾燥待ちのロスを“語彙の棚卸し”に変えた、という筋書きである[4]。一方で、後年の回顧録には「7分13秒」の換算根拠が書かれていないとの指摘がある[5]。
さらに、この伝承には行政由来の影がある。周辺の職業学校が、口頭試験の不公平感を下げるため「不意の言い直し」を禁止し、語尾が合えば救済される方式へ寄せたという。これがのちに“しりとり会”という言い回しを生む土壌になったとされる[6]。
制度化:通信網時代の「記録係ノート」[編集]
前後の混乱期には、対面の集まりが頻繁に停止したため、会の運営は手紙や掲示板へ拡張された。そこで登場したのが「記録係ノート」と呼ばれる、語尾・語頭の一致だけでなく“語の出所”(新聞、町内放送、読書メモ等)まで書き込む仕組みである[7]。
具体的には、各参加者に「語尾点検係」が割り当てられ、誤答が出た場合はその場で修正するのではなく、次回まで保留し“語尾の迷子”を統計処理する運用が採られたとされる。実際の会則には、誤答の累積点が「最大で120点を超えると出席停止(ただし言い換え救済あり)」といった細かな条文が書かれていた、と回収資料で語られることがある[8]。
この運用は奇妙に見えるが、行政文書の言語啓発と相性が良かった。たとえばの地方訓令に類する通達が、雑談を通じた“生活語彙の底上げ”を推奨したとする見解があり、しりとり会はその受け皿として機能した、と説明されている[9]。ただし、当該通達の原本は複数の文書館で行方不明であるともされ、要出典相当の扱いがなされている[5]。
全国拡張:社内研修と「語尾の安全保障」[編集]
戦後になると、しりとり会は地域から職域へも浸透した。1950年代中盤には、企業が採用面接の会話が“ぎこちなさ”を生む問題に直面し、言語の即応力を養う研修の一部として採り入れられたとされる[10]。その際、会は単なる遊びではなく、会話の連続性を維持する“コミュニケーション・オペレーション”として整備された。
この転換の象徴として語られるのが、の大手メーカーで行われた「語尾の安全保障」研修である。研修資料では、相手が最後に発した語尾が曖昧だった場合、次の回答者は“前置き語”を3語まで許されるルールが導入されたという。例として「つまり」「要するに」「結局」を挟むことで誤解を減らすことが狙いとされた[11]。
また、語彙の偏りを抑えるため、会の開始前に“共通のニュース袋”が配布されたと記録されている。ニュース袋は毎回ちょうど「18枚」から構成され、参加者はその中の単語を最低1回使う義務があったとされる。これにより、会話が場の空気を固定し、初対面の緊張を緩和したと評価された一方、作為性を嘆く声も出たとされる[12]。
運営実態とルール[編集]
しりとり会では、一般的な遊びに比べて運営の細部が重視される。典型的には、進行役(司会)・記録係・語尾点検係の3役が常設され、開始前に「本日の言葉の温度」を宣言する儀礼があるとされる[13]。温度とは、堅め語彙の日か、くだけた語彙の日かという分類で、会の空気が一定化する効果があったとされる。
回答の形式は「語尾一致」が原則であるが、会によっては例外規定が多い。たとえば、難語が連続した場合には救済として「同音異義語」への変換が許され、さらにその同音異義語が“辞書掲載率”で点数化される場合があったとされる[14]。辞書掲載率は、会が保有する小型索引(厚さ22ミリ)に基づくという説明が残っている。
罰則に関しては、最も多いのは「二度同じ語の使用」である。ただし多くの会では、罰は即時ではなく累積で運用される。たとえば“連結が途切れた回数”は「合計で9回までは無害」とされ、それ以上になると翌週の会場係を免除される仕組みになっていたと報告されている[15]。このように、罰は罰として機能するよりも、役割の再配分を目的にしたと整理されることが多い。
社会的影響[編集]
しりとり会の社会的影響としては、言語能力そのものよりも「話題の循環」と「場の運用」に関する効果が強調されることが多い。会に参加することで、発話に対する心理的ハードルが下がり、沈黙が長引くことを防げたとする報告が残っている[16]。
また、地域においては高齢者の孤立を和らげる装置として語られた時期があった。各回の語彙テーマを季節(春=花、夏=祭、秋=収穫、冬=湯気)へ寄せることで、生活の記憶が自然に引き出される、と説明されるのである[17]。ただしテーマ設定が行政イベントと結びつくと“お題読み”になるという批判もあり、会はしばしば自治体の広報と摩擦を起こしたとされる[18]。
職域では、しりとり会が議事録文化を間接的に変えたとする見解がある。会の記録係が採用した“語尾点検”の考え方は、会議でも「論点の終端が曖昧だと再質問が増える」という観察に転用されたと説明されている。結果として、社内文書の末尾表現(まとめ語)が統一され、文書の読み戻しコストが減った、とする社史がある[19]。
批判と論争[編集]
批判として最も多いのは、しりとり会が“言葉の自由”を損ね、形式化によって創造性を狭めるのではないか、という点である。とくに社内研修に導入されたケースでは、前置き語の3語制限が“言い逃れ”を誘発したとの指摘がある[11]。言い換えを許すことで場の緊張が下がる一方、責任ある結論が曖昧になる可能性があるとされた。
また、会の統計的運用(誤答点の累積など)が、参加者を“採点される快感”へ寄せるという論点も存在する。記録係ノートが厚くなりすぎた会では、参加者が発話を抑制してしまった事例も報告されている[7]。一方で、統計によって改善を実感し、次回の参加意欲が上がったという逆の評価もあり、論争は決着していないとされる。
さらに、語彙の偏りに関する論争がある。ニュース袋方式では、配布が「18枚」で固定されるため、特定の媒体語(政治・経済・スポーツ等)が循環しやすいと指摘される。対して、別の会は配布数を「19枚」に変えたら偏りが減ったと主張し、さらに別の会では“素数の呪い”として「17枚」が最適だとする噂が流れたという[12]。真偽は定かでないが、こうした微調整が現場主導で行われたこと自体は、当時の会議資料の語り口からも窺えるとされる[20]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中岑一『語尾連鎖の社会史:しりとり会の制度化』柏葉書房, 1962.
- ^ Martha A. Thornton『The End-Word Economy of Informal Meetings』Oxford Linguistics Review, Vol.12 No.3, 1978.
- ^ 【架空】石原綾香『記録係ノートと誤答点管理:会合運営の言語学』言語運用学会誌, 第7巻第2号, 1989.
- ^ 林瑞穂『中之島の口糊待ち時間と口頭訓練』大阪地方史研究会報, pp.41-63, 1931.
- ^ Catherine Dubois『Speaking as an Interface: Ritualized Word Linking』Journal of Practical Discourse, Vol.4 Issue1, 1994.
- ^ 佐藤正紀『職域コミュニケーション研修の原型』労務出版, 2001.
- ^ 【要出典】井上敏也『語尾の安全保障:前置き語3語制限の検証』社内資料編纂研究, pp.9-27, 1957.
- ^ 小野寺千夏『地域高齢者の対話再生装置としての言語遊戯』社会福祉言語学, 第3巻第4号, 2011.
- ^ James R. Mercer『Prime Numbers in Group Moderation: The 17/18/19 Debate』Proceedings of the Amateur Pedagogy Society, Vol.26, pp.120-148, 2006.
- ^ 渡辺精一郎『終端連鎖クラブ会則集(復刻版)』民俗文庫, 1974.
外部リンク
- 語尾連結アーカイブ
- 記録係ノート研究室
- 中之島口糊待ち談話集
- 語尾点検オンライン協議会
- 前置き語三語制限資料館