じゃんけんの変
| 名称 | じゃんけんの変 |
|---|---|
| 正式名称 | 警察庁による正式名称は「名古屋中村区じゃんけん儀式強要殺傷事件」 |
| 発生日 | 2021年9月27日(令和3年9月27日) |
| 発生時間 | 21時11分〜23時03分 |
| 発生場所 | 名古屋市中村区 |
| 緯度度/経度度 | 35.1730/136.8749 |
| 概要 | 犯人は、子ども向けの勝負遊びを偽装した合図で複数の被害者を「勝てば解放される」と欺き、抵抗した者を刃物と薬剤で傷害したとされる |
| 標的 | 夜間に路地へ誘導された歩行者(主に20代〜40代) |
| 手段/武器 | 折りたたみ刃物(刃渡り約9.7cm)と、呼気を乱す催涙性粉末 |
| 犯人 | 当時31歳の男(通称:『三本指の奏者』) |
| 容疑(罪名) | 強要、殺人未遂、傷害、覚醒剤取締法違反(関連での起訴) |
| 動機 | 「運の偏りを証明する」ことを掲げ、じゃんけんの勝率を操作できると信じていたと供述 |
| 死亡/損害(被害状況) | 死者2名、重傷者3名、軽傷者9名。のちに防犯カメラ更新費として自治体推計約3,410万円が発生 |
じゃんけんの変(じゃんけんのへん)は、(3年)9月27日ので発生したである[1]。
概要/事件概要[編集]
じゃんけんの変は、夜の繁華街から一本入った路地で、犯人は被害者に対し「じゃんけんで決めよう」と告げ、合図の直後に刃物と催涙性粉末を使用したとされる事件である[1]。
警察庁による正式名称は「名古屋中村区じゃんけん儀式強要殺傷事件」であり、当初は“迷惑行為”として通報件数が少しずつ積み上がったものの、21時11分に最初の重傷事案が確認され、捜査が連続事件として組み替えられたとされる[2]。特に、現場から「グー・チョキ・パーのいずれか」を書いたカードが同じサイズで複数枚見つかったことから、地元では通称として「じゃんけんの変」と呼ばれるようになった[3]。
被害者の証言には、手の形を要求されると同時に、相手の目線を奪うような“勝負口上”があったとされ、「判定は、心の早さで決まる」といった定型句が繰り返されていた点が注目された[4]。
背景/経緯[編集]
捜査関係者によれば、犯人は事件の約8か月前から同区内の路上掲示板に、奇妙な文言のチラシを貼っていたとされる。「じゃんけんは純粋だが、純粋なものほど“勝ち筋”がある」と記され、連絡先として当時休止中だった公共施設の電話番号が書かれていた[5]。
また、事件当日の夕方、名古屋市中村区の役所近くで、学習塾帰りの中学生が「じゃんけん講座」を名乗る人物を目撃していたことがのちに判明したとされる。この人物は、勝敗を決めるたびに“赤い糸”を一本ずつ渡し、糸の本数で「あなたは今、3連敗です」と告げていたという[6]。
経緯としては、最初の通報は21時14分の路地周辺であり、通報者は「人が倒れているというより、誰かが“勝ち負けの指示”を出している感じでした」と説明したとされる[7]。その後、23時03分に2件目の通報が入ったことで、捜査は強要と傷害の連鎖として動き始めたとされる。
捜査[編集]
捜査開始[編集]
捜査本部はの刑事部を中心に編成され、初動では「刃物による暴行」の線で捜索が開始された[8]。しかし、同じ形状のカードが現場から見つかったことにより、犯行が“遊びの体裁”を借りて計画的に行われた可能性が高まったとされる。
時系列は、21時11分に最初の被害者が路地で倒れ、21時19分に第2被害者が「通報しようとしたら、手を止められました」と供述したと報じられた[9]。なお、この時点では被害者間の知人関係が薄く、犯人が無差別に見えて“狙い”があったと推定されたという。
さらに捜査班は、カードの紙質に着目し、印刷所のロット番号が一致する可能性を指摘した。紙片の繊維の混合比が、同区内の古い印刷会社が保管していた在庫サンプルと“ほぼ一致”したとされる[10](ただし、最終的な同定には「要追加確認」と付記された)。
遺留品[編集]
遺留品は、現場A〜Cの3地点で回収されたとされる。具体的には、(1)カード片計27枚、(2)赤い糸3本、(3)手袋の繊維片2点、(4)折りたたみ刃物の一部とみられる金属片1点である[11]。
現場では、刃物の破片に付着した粉末が催涙性成分を含む可能性が高いとして鑑定に回された。粉末の粒径は平均で約35ミクロン、呼気中の刺激を再現しうる濃度レンジとして“理論値”が提示された[12]。
また、犯人が使ったとされる合図のリズムが、じゃんけんの手順に合わせた「3拍→1拍→2拍」である可能性が、複数の目撃証言で照合された[13]。この“リズム証拠”は後に、起訴時の間接証拠として言及されることになった。
被害者[編集]
被害者は計14名と整理され、うち死者2名、重傷者3名、軽傷者9名であった[14]。死亡に至ったのは、21時23分の路地で出血性ショックにより搬送先で死亡した男性(当時42歳)と、22時41分に別地点で意識を失った女性(当時37歳)とされる[15]。
被害者は総じて、犯人に呼び止められた直後に「負けた側は戻ってはいけない」という説明を受けたと供述した。ある被害者は「警告みたいな言い方で、『あなたのパーは遅い。だからチョキにする』と言われました」と述べたとされる[16]。
一方で、被害者の中には、じゃんけんの手形要求に一瞬だけ従い、その後に逃げ切った者が複数いた。警察は“従えば傷害は軽く済むが、従わなければエスカレートする”という段階性を示す事情として重視したとされる[17]。
刑事裁判(初公判/第一審/最終弁論)[編集]
初公判では、検察は「犯人はじゃんけんを用いて心理的支配を構築し、抵抗した被害者に刃物を向けた」と主張した。弁護側は「犯人は遊戯のつもりで、結果として傷害が生じた可能性はある」と争い、犯行の“故意”を中心に争点が組まれた[18]。
第一審では、裁判所が遺留品の一致を重く見て、カード27枚の紙質、糸の色相(CIE色度でxy=0.62/0.33付近と報告されたという)、および金属片の合金組成が一連の犯行を裏付けるとして、犯人に有罪を認めたとされる[19]。判決は2023年7月18日、求刑は死刑(ただし量刑理由は「重大な威信を踏みにじる心理支配」などの表現が採用された)と伝えられた[20]。
最終弁論では、犯人は「じゃんけんは偏りを持つ。だから社会は、偏りを知らずに従う」と語ったと報道される。死刑・無期の争いに対して、裁判所は「再犯可能性と動機の特異性」を強調しつつ、最終的に懲役38年の判決が言い渡されたとされる[21]。
ただし、評議の過程で「催涙性粉末の致傷力」については、鑑定の再現実験が限定的であるとして、要出典に近い形の“補足意見”が付けられたと報じられた[22]。この点が後に、影響/事件後の評価セクションで波紋を呼ぶことになる。
影響/事件後[編集]
事件後、は深夜帯の路地防犯対策として、街灯更新と防犯カメラの増設計画を前倒ししたとされる。市の推計では、増設・維持費を含む初期費用が年間約3,410万円規模になったと報告された[23]。
また、学校現場では「遊びに見えても人を誘導する行為は危険」という注意喚起が広がった。特に、じゃんけんの手形を“合図”として使う可能性がある点が話題になり、地域のPTAは「子どもが夜道で勝負を求められたら即離脱する」という文面を配布したという[24]。
さらに、司法面では、心理的支配を伴う暴力の立証手続きが注目された。捜査側は、目撃証言の“リズム”の一致を間接事実として整理し、以後の類似事件捜査で参照されたとされる[25]。
評価[編集]
事件の評価は大きく分かれた。肯定的な見方としては、裁判所が遺留品と合図のパターンを結び付け、「遊戯の仮面」を剥いだ点が評価されたとされる[26]。
一方で批判としては、催涙性粉末の作用が“現場でどの程度機能したか”の立証が十分でないのではないか、との指摘がある。ある弁護側専門家は「粉末の粒径は一致しても、実際の吸入量は個人差が大きい」と語ったとされる[27]。
また、事件名の通称である「じゃんけん」が、娯楽の連想を強めてしまい、模倣リスクを上げたのではないかという議論もあった。もっとも、その後に模倣と断定できる事件は限定的であり、警察は“模倣の全件”ではなく“類似の誘導形態”に絞って注意を呼びかけたとされる[28]。
関連事件/類似事件[編集]
類似事件としては、同じく心理的合図を用いた「しんじゅく合図強要事件」(2019年、東京都)や、方言の定型句を使う「ひかり坂カウント強傷事件」(2020年、北海道)などが、研究会資料で比較対象とされた[29]。
また、“ゲーム性を装う”点では、カード配布を伴う「抽選札誘導傷害事件」(2018年、大阪府)との共通点が論じられた。もっとも、じゃんけんの変は、手形の要求と時間帯(21時台に集中)に特徴があり、偶然とするには相関が強いとする見方もある[30]。
この種の事件はしばしば「無差別」とされるが、警察内部資料では“相手の反応速度”を狙う可能性が提起されているという(ただし、最終的な科学的検証は未完であるとされる)。
関連作品(書籍/映画/テレビ番組)[編集]
事件を元にしたフィクションとしては、ノンフィクション風の書籍『じゃんけんの変:勝負口上と沈黙の証拠』が2024年に刊行されたとされる[31]。著者は弁護士経験者の“構成協力”としてクレジットされ、裁判記録の語彙をなぞった文章が話題になったという。
映像作品では、テレビドラマ『指の三拍(さんぱく)』が2025年に放送され、犯人の合図をリズムとして演出したことで視聴者がザワついたとされる[32]。一部の回では、カードの紙質まで再現した小道具が採用されたと報じられた。
一方、映画『グーの夜、パーの朝』(2023年公開)は直接の関連は否定しつつも、夜道で“勝負”を持ちかける導入が類似すると指摘され、公開前から論争になったとされる[33]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 名古屋市防犯対策課『令和3年 夜間安全白書』名古屋市, 2022.
- ^ 山科礼二『ゲーム性を装う犯罪:心理誘導の立証』成文堂, 2024.
- ^ 中部刑事技術研究会『催涙性粉末の鑑定手順(第3版)』Vol.12, 日本法科学協会, 2021.
- ^ 警察庁『刑事事件における通報データの再編活用(内規資料)』警察庁刑事局, 2023.
- ^ Katherine L. Whitmore “Ritualized Threats and Induced Compliance,” Journal of Forensic Linguistics, Vol.19 No.4, 2022.
- ^ 佐久間涼介『合図証拠の科学:リズム照合の試み』共立出版, 2023.
- ^ 藤代真理『模倣リスクはどこで生まれるか:事件名の社会学』青弓社, 2024.
- ^ 森本健司『遺留品学入門:紙片・繊維・金属の結節点』東京理工出版社, 2020.
- ^ 警視庁『夜間路地の監視と街灯更新効果(試算報告)』第2巻第1号, 2021.
- ^ International Association of Criminal Evidence “Pattern Consistency in Indirect Proof,” Evidence Methods Review, pp. 77-101, Vol.7, 2019.
- ^ (タイトルが微妙におかしい)『名古屋中村区:じゃんけんの変とその周辺』中村区観光課, 2021.
外部リンク
- 名古屋夜道防犯アーカイブ
- 法科学リズム鑑定ポータル
- 裁判記録閲覧サポートデスク
- 心理誘導犯罪研究会
- 街灯更新データ見える化サイト