としあき
| 分類 | ネット・スラング/議論作法 |
|---|---|
| 主な使用圏 | 匿名掲示板、まとめサイト周辺 |
| 語源とされる要素 | 年(とし)+明(あき)/比喩的な「明示」 |
| 成立の時期とされる範囲 | 2000年代後半〜2010年代初頭 |
| 関連概念 | 「根拠提示」「結論先出し」「やわらか否定」 |
| 関連組織(内部規約の著者) | 一般社団法人・匿名運用委員会(仮称) |
| 特徴 | 長文の“物語化”ではなく、短い断定と根拠のセット提示 |
としあき(Toshiaki)は、のネット文化および俗語圏で用いられる、特定の「推奨される語り口」を指す呼称である。語の成立は、匿名掲示板の議論設計に関する内部規約の改訂に由来するとされている[1]。
概要[編集]
としあきは、掲示板やSNSの投稿において「話者の思考手順が追跡可能であること」を重視する語り口を指す呼称である。単なる人名やニックネームではなく、文章の様式そのものを評価するための“ラベル”として扱われることが多い。
としあきが現れると、読者は概ね「結論→理由→反例の先回り」という定型を期待するため、スレッドの空気が安定する場合がある。一方で、期待が過剰に働くと、投稿が事務的に見えたり、反論が過度に形式化されたりするという問題も指摘されている。
本稿では、記録上の“としあき”の成立を、掲示板運用に関するある内部審査会の改訂案に結びつけて説明する。もっとも、その経緯は複数の説明があり、編集方針によって細部が揺れるとされる。なお、後述する数字には通信ログの集計値が混ぜられているため、参照によって桁の見え方が変わることがある[2]。
歴史[編集]
語の誕生:『年明示プロトコル』の改訂[編集]
としあきという呼称は、のデータ保管庫に設置されていたとされる「年明示プロトコル(T-A Protocol)」の改訂メモから派生したと説明されている。一般には、2008年の夏にへ移転した運用チームが、議論の“曖昧さコスト”を削減するために文章テンプレを導入したのが起点であるとされる[3]。
当時、匿名投稿をめぐっては「断定が強いのに根拠がない」「根拠はあるが結論が見えない」という二種類の不満が同時に発生していた。そのため改訂案では、投稿者に対して“明示”を義務化し、年(とし)を「推論の時系列」、明(あき)を「読める形での提示」として再定義した。
改訂に関わった人物として、運用監査官の(さえき わたる)が挙げられることが多い。佐伯は「一行目は宣言、一行目以降で根拠を回収する」ことを提案したとされ、彼の草案が最初に“としあき”という略称を受けたのだという[4]。もっとも、同時期に別チームが“あき”を「明るい否定」と呼ぶ流儀を持ち込んだため、語感が定着した経緯については異説もある。
普及:地方拠点と“監査スコア”の導入[編集]
普及のきっかけとしては、の地域回線拠点で導入された「監査スコア」が挙げられる。監査スコアは投稿の可読性を点数化する仕組みで、初期の試算では「結論→理由」が揃うと+12点、「反例の先回り」が揃うと+7点、「文末の断定が強すぎる」と−3点という具合に重み付けされたとされる[5]。
この仕組みにより、投稿が“としあき的”であるほどモデレーション(管理者の介入)が遅れる傾向が生まれた。つまり読者側にとっては、多少厳しくても筋が通っていれば残る確率が上がり、結果としてとしあきのスタイルが模倣されていった。
さらに、2011年の冬にで開催された「議論設計ミニシンポジウム」では、としあきを“文化資産”として扱う発表が行われた。会場資料の表紙には、講演者が「改訂ログから逆算した理想文字数は平均で83.6字」と記していたという。細かすぎるため笑い話として流布したが、同じ会場で聞いた参加者の証言では、実際には「83字〜86字の範囲で最も離脱率が低い」ことが示されたとされる[6]。
社会的影響[編集]
としあきの影響は、単なる文章の流行以上に、議論空間の“規律化”として現れたとされる。具体的には、コメント欄において「根拠の有無」を争点化することで、人格攻撃に至るまでの距離を伸ばす効果が期待されたという[7]。
一方で、議論が形式に寄りすぎることで、文化的な多義性が削がれるという指摘もある。としあきが機能しているスレッドでは、反論が“形式上”正しいので長く続く。しかし、その長さが「新しい観点の発見」を阻害し、結局は最適化された言い回しだけが残るという論評が見られる。
また、実務領域への波及もあったと説明される。たとえばの製造業向けコミュニティでは、品質不具合の報告テンプレにとしあき様式が採用され、「原因候補を列挙する前に結論を宣言する」運用が一時的に導入されたという。報告書の体裁が整うため現場は助かったが、逆に“結論ありき”の空気が固定化し、現場が検証をサボる副作用もあったとされる[8]。
批判と論争[編集]
批判として最も多いのは、としあきが「優秀さの見せ方」に変質することで、内容の質よりも“書式の遵守”が評価される点である。ある記録では、としあき採点のための簡易チェッカーが開発され、「文末が“です/ます”なら加点、断定“である”なら減点」といった雑なルールで学習したとされる[9]。雑であるほど機械はそれなりに当てるため、余計に説得力が出てしまった。
さらに、起源をめぐる論争も存在する。運用委員会の内部文書を根拠に「としあきは改訂案の略称である」とする説がある一方、別の研究者は「としあきは実際には当時の人気コテハン名が先に広まり、後からプロトコルが後付けされた」と主張している[10]。いずれも、当時のログ検索が個人情報の都合で部分的に封じられたため、決定的証拠が不足しているとされる。
そして“やりすぎ”といえる逸話が語られている。としあきが過剰に適用されたスレッドでは、議論参加者が投稿前に「結論の温度」を数値化する儀式を行ったという。温度はではなく主観点で、「熱=賛成 9、冷=否定 1」とする表が回覧されたらしい。温度表は結局1週間で消えたが、その1週間のあいだに投稿数が+23.4%になったため、消滅が惜しまれたとされる[11]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 匿名運用委員会『年明示プロトコル改訂記録(内規草案)』第3版, 2010年.
- ^ 佐伯 亘『オンライン議論における曖昧さコストの推定』情報討議研究会, Vol.2 No.1, 2012年, pp.14-29.
- ^ 山岡 玲奈『可読性点数モデルとコミュニティ安定性』『日本コミュニケーション工学誌』第18巻第4号, 2013年, pp.201-219.
- ^ Catherine L. Wexler『Predictive Framing in Anonymous Forums』Journal of Digital Discourse, Vol.7 No.2, 2014, pp.55-74.
- ^ 松原 孝史『テンプレ運用が反論行動に与える影響』『社会情報学レビュー』第9巻第1号, 2011年, pp.33-49.
- ^ 議論設計ミニシンポジウム実行委員会『会場資料集:理想文字数と離脱率』第1集, 2011年, pp.1-27.
- ^ Kobayashi, Minoru『Protocol Names and Folksonomy Drift』Proceedings of the Symposium on Web Norms, Vol.3, 2015, pp.101-118.
- ^ 橋本 由理『断定表現の強度分類:人間と機械のズレ』『計量言語学紀要』第26巻第2号, 2016年, pp.88-106.
- ^ Nakamura, Daichi『温度表の流行と消滅:主観点ログ解析』Online Sociology Letters, 第2巻第3号, 2017年, pp.12-25.
- ^ 田中 光成『としあきは誰が名付けたか:逆算史の検証』『比較ネット史学論叢』第5巻第1号, 2018年, pp.9-41.
外部リンク
- 匿名運用委員会アーカイブ
- 議論設計ミニシンポジウム特設ページ
- 可読性点数モデル研究室
- テンプレート文化観測所
- デジタル談話規範データバンク