どこにそんな高いコーヒーがあるんだよ
| 作品名 | どこにそんな高いコーヒーがあるんだよ |
|---|---|
| 原題 | Where Do They Have Such Expensive Coffee? |
| 画像 | Coffee_Question_Poster.png |
| 画像サイズ | 260px |
| 画像解説 | 値札がカナリア色に光る劇中ポスターの図案 |
| 監督 | 渡瀬碧斗 |
| 脚本 | 小花寺ユイ |
| 原作 | なし(脚本オリジナル) |
| 製作会社 | 霧都フィルム・スタジオ、港雲映画製作委員会 |
| 配給 | 東上ヴェルト配給 |
『どこにそんな高いコーヒーがあるんだよ』(どこにそんなたかいこーひーがあるんだよ)は、[[2017年|2017年]]に公開された[[日本映画|日本]]の[[風刺]]映画である。監督は[[渡瀬碧斗]]、主演は[[小野寺レン]]と[[霧島あかね]]で、[[カラー|カラー]]、118分。興行収入は12億7,400万円で[1]、[[毎日風刺映画賞]]を受賞した[2]。
概要[編集]
『どこにそんな高いコーヒーがあるんだよ』は、高値のコーヒー豆をめぐる“値札の社会学”を、恋愛と労働争議を混ぜることで風刺化した作品である。主人公が都内の喫茶店を渡り歩くうち、値段の根拠が豆ではなく「同調の手続き」に結びついていることが明らかにされる。
2017年の配給方針では「静かな怒りを派手に撮る」方針が掲げられ、特に終盤の“価格断層”のカットは、公開当時に観客の議論を呼んだとされる。なお、脚本資料ではタイトル行が実在の市井の台詞として収集されたとされるが[3]、収集元は明かされていない。
あらすじ[編集]
東京の端で働く青年[[小野寺レン]]は、倹約のつもりで駅前の喫茶に入るが、メニューに記されたコーヒー単価が「1杯=1万3,800円」と印字されていた。彼は店員に「どこにそんな高いコーヒーがあるんだよ」と詰め寄るが、店員は笑うことなく“価格の出所”を記した紙片(見積番号の控え)を渡す。
紙片には、豆そのものではなく[[中央区]]の地下にある「焙煎許可倉庫」への照会手順が書かれている。照会を進めるほどレンは、コーヒーが“味”ではなく“登録された気分”として流通している事実に近づく。途中、学生時代からの知人[[霧島あかね]]が、恋人というより「値札の監査員」として登場し、レンの怒りは次第に“正義の手続き”へと変形していく。
終盤、2人は[[高田馬場]]の名もない自販機コーナーで、豆の産地ではなく「価格の承認ログ」を抽出する装置を入手する。装置は、最終的に最も高いコーヒーが“誰かが同意した回数”に比例していると告げる。レンは最後に、同意を拒むボタンを押すが、その瞬間に画面はなぜかコーヒー色の蛍光灯へ切り替わり、観客は「拒否したのに値段が下がらない」不条理を突きつけられる。
登場人物(主要人物/その他)[編集]
主要人物として、職を転々としながらも“価格の言い訳”を聞き分ける青年[[小野寺レン]]が描かれる。レンは口癖のように疑問文を投げるが、次第に疑問が社会制度への質問へ変わっていく点が特徴である。
相手役として、明るい笑顔の裏に監査書類の癖がある[[霧島あかね]]がいる。彼女は恋愛感情を否定しないものの、相手の“同意履歴”を読み上げるような会話をするため、観客に気まずい共感を残すとされる。
そのほか、焙煎許可倉庫の担当官[[渡瀬碧斗]](監督本人に似た偽名として登場する設定)が、豆の話をするときだけ声色を変える人物として描かれる。また、カフェチェーンの経理担当[[大鷹マサル]]は「単価は味の代理である」と繰り返し、終盤で裏切る。
キャスト[編集]
出演者は、主演の[[小野寺レン]]役に[[小野寺レン]](本人名義でのキャスティングとされたが、本人かは劇中で曖昧にされている)を据え、ヒロイン[[霧島あかね]]役は[[霧島あかね]]が演じたとされる[4]。また、焙煎許可倉庫の担当官には[[阿久津正巳]]、経理担当には[[大鷹マサル]]、喫茶店のマスターには[[村瀬タケル]]が配された。
なお、劇中の“値札が光る”演出では、俳優の手元の動きが重要とされ、特に[[霧島あかね]]の指先のアップは、予告編の段階から注目を集めた。
スタッフ(映像制作/製作委員会)[編集]
監督は[[渡瀬碧斗]]で、脚本は[[小花寺ユイ]]が担当した。映像面では、価格表示の文字が画面内で歪むような“タイポグラフィ錯視”が導入され、観客が値段の理解をためらうよう設計された。
製作委員会としては、[[港雲映画製作委員会]]の名義がクレジットに連なり、配給は[[東上ヴェルト配給]]である。特殊技術は、コーヒー液体の発泡を“擬似インク”として扱う方法が採られ、撮影監督[[根津シゲル]]の発案により、セット内での照度は毎回0.7ルクスずつ変えられたとされる[5]。
また、編集は[[篠川ミナ]]が担当し、価格が上がる瞬間だけカット間隔が短くなる“リズム編集”が採用された。
製作(企画/制作過程/美術/CG・彩色/撮影/音楽/主題歌/着想の源)[編集]
企画の着想は、[[農林水産省 動物所有課税管理室]]の資料室で見つかったという架空の文書「豆価同意規則(暫定)」から来たと、当時のインタビューで語られた。文書は実在の制度を連想させる体裁を持つ一方、目的が「味の再現」ではなく「気分の手続き」である点が異様であるとして言及された[6]。
美術では、喫茶店の内装を“価格の層”に見立て、壁紙には微細な網目を設けた。網目パターンは、メニュー番号と一致するように設計され、たとえば[[高田馬場]]のシーンでは網目の交点が0.42ミリ刻みで調整されたとされる(設定資料では“目盛りの呼吸”と呼ばれている)。
音楽は[[湊崎ユウタ]]が担当し、主題歌は[[MIKOTO]]の「蛍光コーヒー・プルーフ」である。歌詞には「値札は豆を煮詰めない」という一節があり、スタッフによれば制作当初はなかったが、試写で観客が最初に笑ったため採用されたという[7]。
興行(宣伝/封切り/再上映/テレビ放送・ホームメディア/海外での公開)[編集]
宣伝では、前売り特典として“見積番号”カードが配布され、カードに書かれた番号は劇中のどの場面と一致するかが観客に委ねられた。封切りは2017年7月14日で、初週動員は延べ約42万人、売上は約3億1,200万円を記録したとされる[8]。
再上映は、値段のニュースが増えた年に連動して行われ、特に[[大阪府]]の一部劇場では“価格断層”を再現した特別上映スクリーンを導入した。ホームメディアでは、DVD色調問題として“カフェイン色”が強すぎるとの指摘が出たが、ディスクの第2版で補正が施された[9]。
海外では、英国向けに『Where Do They Have Such Expensive Coffee?』として配給されたとされる。字幕翻訳では“同意履歴”が“consent ledger”とされ、語感のずれが批評家の間で話題になった。
反響(批評/受賞・ノミネート/賞歴・ノミネート歴/売上記録)[編集]
批評では、本作が「価格を味として消費する社会の作法」を描いた点が評価された一方で、風刺が過剰であるという反論もあった。特に[[毎日風刺映画賞]]では、映像のタイポグラフィが“観客の読解力を試す”として高い評価を得たとされる[10]。
賞歴としては、[[第41回日本風刺映画祭]]で観客賞を受賞し、あわせて“台詞設計賞”にノミネートされた。売上記録としては、興行収入12億7,400万円のうち、再上映分が約1億4,300万円を占めたとされる[1]。
ただし、当時の一部論評では「高いコーヒーが出てくるだけで、議論が実体から離れている」という指摘があり、公開前から“コーヒー業界の広告代理店が紛れたのでは”といった噂も出た。
テレビ放送[編集]
テレビ放送は[[2019年]]の特別枠で行われ、視聴率は初回が9.6%、再放送が7.4%であったと報じられた[11]。地上波では“値札の数字部分”が一部ぼかされたため、ネット上では「どの値段も同じに見える」などの反応が見られた。
一方で、字幕版では値札の擬音が編集で強調され、音声のみで価格の上昇が推測できるよう設計したことが、後年の配信版の仕様に影響したとされる。
関連商品(作品本編に関するもの/派生作品)[編集]
関連商品としては、公式ガイドブック『価格の層、豆の影』が刊行され、劇中に出てくるメニュー文言を全て再録したとされる。さらに、サウンドトラック『蛍光コーヒー・プルーフ(Original Sound Track)』が発売され、トラックには“同意クリック音”が収録されている。
また、喫茶店とのタイアップ企画として、実在のロースターを使った「見積番号ドリップ」が提案されたが、販売額が高すぎたため批判が出た。結局、数量限定のキャンペーンに縮小され、最終的に“払った金額を豆以外に配分する”趣旨だけが残ったという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡瀬碧斗「『どこにそんな高いコーヒーがあるんだよ』における価格の映像設計」『年刊映画設計論集』第12巻第1号, 2018, pp. 33-51.
- ^ 小花寺ユイ「同意履歴という台詞の機構」『放送脚本研究』Vol. 27, 2017, pp. 114-129.
- ^ 根津シゲル「0.7ルクス刻みの撮影方針:価格上昇のための照度管理」『映画撮影技法』第9巻第3号, 2017, pp. 72-90.
- ^ 阿久津正巳「俳優の指先と文字の誤読:値札光の演技論」『演技と編集』第5巻第2号, 2018, pp. 9-21.
- ^ 霧島あかね「ヒロインは笑わない:風刺映画における感情制御」『日本映画批評』第34号, 2019, pp. 201-219.
- ^ 湊崎ユウタ「主題歌“蛍光コーヒー・プルーフ”の和声構造」『作曲家叢書』pp. 88-103, 2017.
- ^ MIKOTO「歌詞の産地はどこか:豆価同意規則への言及」『ポップス音楽誌』Vol. 19, 2018, pp. 47-60.
- ^ 中村オサム「価格断層の受容:2017年劇場観客調査(仮)」『映画観客学年報』第2巻第4号, 2020, pp. 1-18.
- ^ 東上ヴェルト配給『劇場配給データ集:2017年上半期』東上ヴェルト配給, 2018, pp. 210-223.
- ^ 毎日風刺映画賞運営委員会『第41回日本風刺映画祭記録』毎日出版, 2018, pp. 55-71.
- ^ K. Hoshino, “Typography Vertigo in Satirical Cinema,” Journal of Screen Illusions, Vol. 3, No. 1, 2019, pp. 12-25.
- ^ A. Thornton, “Consent Ledger Narratives: A Cross-Cultural Reading,” International Review of Mock Sociology, 第1巻第1号, 2018, pp. 1-9.
外部リンク
- 価格断層 公式フィルムノート
- 港雲映画製作委員会 クレジット検索
- 東上ヴェルト配給 特別上映案内
- 蛍光コーヒー・プルーフ サウンドトラック試聴室
- 毎日風刺映画賞 アーカイブページ