にゃんくる
| 氏名 | にゃんくる 猫田郎 |
|---|---|
| ふりがな | にゃんくる ねこたろう |
| 生年月日 | 8月17日 |
| 出生地 | |
| 没年月日 | 11月3日 |
| 国籍 | 日本 |
| 職業 | 家事改良研究家、実務統計家 |
| 活動期間 | - |
| 主な業績 | 家庭動線の『三角測量』と、洗濯工程の標準化 |
| 受賞歴 | 第7回家政技術奨励賞、内閣家庭合理化表彰 |
にゃんくる 猫田郎(にゃんくる ねこたろう、 - )は、の伝説的な「家事改良」研究家である。『猫の手帳』を通じて、家庭内の作業を数値化する方法として広く知られている[1]。
概要[編集]
にゃんくる 猫田郎は、家庭で行われる作業を「観察→計測→改善」の順に扱うことを提唱した人物である。とくに、猫が獲物へ素早く近づく挙動から着想を得たという“にゃんくる式手順”が、昭和期の主婦層に熱狂的に受け止められたとされる[2]。
彼の方法は、単なる家事の工夫ではなく、家の中に存在する見えにくいロス(迷い・取り違え・乾燥待ち)を、秒単位で可視化しようとした点に特徴があった。なお、当時の学術界では家政学の領域に関する評価が割れており、猫田郎の“統計の語り口”が学会向きではないとして批判も生まれた[3]。
猫田郎は「用具は増やさず、手順だけを替えるべきである」と繰り返したとされる。この言葉は、のちに戦後復興期の家庭合理化政策とも結びつき、や地方自治体の家庭講習にも流用されたと記録されている[4]。
生涯[編集]
生い立ち[編集]
にゃんくる 猫田郎は8月17日にで生まれた。父は造船所の倉庫係であり、家にはロープや木炭の匂いが常に残っていたという[5]。猫田郎は幼少期から、家の中で物が置き換わるタイミングを数える癖があったとされ、よく“何秒遅れるか”を口にした。
小学校では算数よりも観察日記が得意で、特に「台所の湯気が消えるまで」を3回測り、平均を出す宿題で高得点だったと伝えられる。担任のは、彼を「数字に吠える子」と評したとされるが、本人は不快感を示し「吠えるのは犬だけでよい」と語ったという逸話が残る[6]。
青年期[編集]
後半、猫田郎は家庭教師として旅先の農家を回り、家事の段取りが屋敷ごとに微妙に違うことに気づいた。彼は差異を“迷いの長さ”として記録し、同じ手順でも乾燥具合・風向・鍋の位置で手が止まる秒が増減することを見出したとされる[7]。
末期には、の縫製工場に短期研修へ入り、「立ち動線」を現場の改善担当から学んだ。そこで彼は、工場の改善会議で使われていた古いホワイトボード(当時は煤で黒ずんでいた)を、台所で再現できないかと考えたとされる。結果として、紙の上に“手順の線”を描く習慣が確立されたと推定される。
活動期[編集]
猫田郎の活動が世に出る転機はに訪れた。彼はの小規模な家政講習所で、受講者50人に対して洗濯の工程を細分化し、「待ち時間だけで合計何分か」を調べた。最初の集計では、平均待ち時間が23分34秒、最大が41分12秒であったとされ、これが“にゃんくる式手順”の土台になったという[8]。
その後、彼は全国へ巡回し、各地の家庭で同じ計測表を使わせた。たとえばでは凍結乾燥の工程が絡み、待ち時間が平均18分55秒まで縮む一方で、取り違え回数が平均0.6回から1.2回へ増えた、といった地域差も報告された[9]。この“増える指標”も隠さない姿勢が、彼を単なる奇術師ではなく実務統計家として見せた要因である。
以降は、戦後の配給状況が家庭の動線を乱したとして、「物資よりも手順の再配置を優先する」方針を打ち出した。彼は家庭合理化表彰の準備会議に呼ばれ、“家の中にある不安の伝播経路”を紙芝居で描いたという記録がある[10]。なお、この会議の議事録の一部には、なぜか猫の爪痕がインクで残っていたとされ、筆者の署名は確認できない。
晩年と死去[編集]
猫田郎はに講習所での常勤をやめ、以後は自宅で「家事の短縮率」を算出する作業に集中した。晩年になると、短縮は“秒の削減”だけでなく、“思い出す回数”の削減であると強調したとされる[11]。
11月3日、猫田郎は内の療養先で倒れ、翌日に病状が急変したと報告された。享年は70歳とされ、死因は当時の家庭医学の文献では「軽微の循環の乱れ」とぼかして書かれることが多い[12]。ただし親しい門弟の手記では、最期まで計測表を机から離さなかったと記されている。
人物[編集]
猫田郎の性格は、外から見ると几帳面でありつつ、内側では妙に芝居がかったとされる。彼は説明の前に必ず机の角を指でなぞり、「ここが0.5秒の壁だ」と言ったという。実際には机の角は物理的な障害ではなく、受講者の視線の落ち方による“気づきの遅れ”を示す比喩だったと解釈されている[13]。
逸話として有名なのは、講習の最中に突然、飼い猫が通ったルートを観察し始め、受講者の手順表を猫の動きに合わせて修正したという話である。猫田郎は「動物は嘘をつかない。人間は推測を混ぜる」と述べたとされ、これが“統計よりも観察を先に置く”彼の流儀を象徴している。
一方で、彼の頑固さも知られていた。彼は道具の買い足しを嫌い、乾燥機能が不十分なら“置き場所の高さ”を変えるべきだと主張した。門弟のは、猫田郎が「箸は同じでも、持つ順番が違えば行動は変わる」と語るのを聞いたと回想している[14]。
業績・作品[編集]
猫田郎の業績は、家事を工程として切り出し、平均値だけでなく“分散”まで説明しようとした点にあると評価されている。彼は洗濯工程を「投入0-2分」「移動2-5分」「待ち5-25分」のように分け、各工程のブレ(分散)を記録したとされる[15]。
代表作は『』であり、台所の行動を観察するための記入欄、秒数欄、そして“迷いの言葉”欄(例:「あれ」「どこだ」「また忘れた」)が用意されていたという。さらに『改良台所録(早見表篇)』では、地域別の“乾きやすさ係数”を掲げ、は0.92、は0.88といった数値が掲載されていたとされるが、当時の資料状況から信頼度は一様ではない[16]。
また、彼は講習教材として『にゃんくる式三角測量:手順の地図』を制作したとされ、これは「動線」「視線」「手先」の三方向を結び、家庭内の“見えない距離”を計算する方法だと説明された。なお、この手法は後に都市計画の用語と似ているとして、学際的な誤解を生むこともあった。
後世の評価[編集]
猫田郎は、実務的な家庭合理化の先駆者として語られることが多い一方で、数値化の強調が過剰であったとして批判されることもある。たとえばのは、彼の方法が家庭の“感情労働”を測定不能なものとして扱った点を問題視したとされる[17]。
とはいえ、戦後の家庭講習で用いられた計測表の雛形が、複数の地方自治体資料に残っている。特にの婦人会講習の綴りには、猫田郎の項目名(迷いの言葉・戻り回数・待ちの種類)がほぼそのまま採用されたとされる[18]。
一部では、猫田郎の“にゃんくる”という呼称が、猫がもつ集中行動の比喩から来たのではなく、当時流行していた港湾物流の合図体系を家事へ転用した結果だとする説もある。ただし、この説は出典が乏しいとされる。
系譜・家族[編集]
猫田郎の家系は、父方が造船所の物流管理に関わっていたとされ、母方はの織物仲買であったと伝えられる。彼自身は結婚後、姓を通称として整理し、公式書類上は「猫田郎」を用いながら、講習では愛称の「にゃんくる」を前面に出したという[19]。
家族としては、妻の(旧姓:)と二人の子が知られる。長女はにへ嫁ぎ、家計帳の改良指導を行ったと記録される。次男は工業計測の技術者となり、猫田郎の“秒の分散”をセンサー開発へ応用したとも伝えられている[20]。
猫田郎は晩年、孫の家庭学習にも計測表を配った。学校の宿題を「思い出し」に分解し、暗記の負荷を見える化する試みをしていたとされるが、学校側は“教育の趣旨に合わない”として一度配布を止めた。のちに条件付きで再開されたとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 猫田郎『猫の手帳(増補版)』猫の背表紙出版, 1934年. pp.23-41.
- ^ 高橋ミツヨ『家庭内計測の記録法:にゃんくる式の読み方』家事教育社, 1948年. pp.12-19.
- ^ 小野田礼子『数値化が奪うもの:戦後家政の評価軸』日本家庭社会学会, 1962年. Vol.5 No.2, pp.77-93.
- ^ 渡辺精次『台所観察談義』共立講習叢書, 1926年. pp.3-28.
- ^ Minato Akira “Statistical Domesticity in 1930s Japan” Journal of Household Engineering, Vol.11 No.4, pp.101-118, 1950.
- ^ 内田静江『乾燥待ちの文化史:地域差係数の再検討』潮流書房, 1957年. 第2巻第3号, pp.201-236.
- ^ Mori Clarabelle “Measuring Uncertainty in Home Routines” Proceedings of the International Ergonomic Congress, pp.55-66, 1956.
- ^ 猫田すみ『家計帳の変遷と分散:家族の証言』今治家計資料館, 1965年. pp.9-17.
- ^ 岡村健太『手順地図の系譜:三角測量から都市へ』都市動線研究社, 1971年. pp.44-59.
- ^ にゃんくる猫田郎『改良台所録(早見表篇)』昭和家庭教材協会, 1938年.(書名表記に揺れあり)pp.5-10.
外部リンク
- にゃんくる式資料室
- 猫の手帳 採録アーカイブ
- 家事合理化の統計ノート
- 家庭講習史データベース
- 分散と迷いの研究会