ねこのねねころり
| 分類 | 民間観察語/動作儀礼 |
|---|---|
| 主な対象 | 家猫および地域猫 |
| 発祥地(伝承) | 七尾湾岸の小集落とされる |
| 関連分野 | 獣医民間療法・地域伝統・行動学 |
| 成立時期(説) | 後期、寛政年間前後とされる |
| 代表的な動作 | 横転に至る短い「ねね」連打と、最後の「ころり」 |
| 用語の性格 | 観察語だが祈祷語化したとされる |
| 現代での扱い | 観光資料・学校教材・SNSミームに派生 |
ねこのねねころりは、の言い伝えとして語り継がれた、猫が体をくねらせて行う「合図動作」を指す語である。気晴らし・儀礼・迷信が混在した呼称として広く知られている[1]。
概要[編集]
ねこのねねころりは、猫が床上で体を折りたたむように「ねね」と連続で合図し、その直後に転がるような動作を見せる際の呼称であると説明されることが多い。一般には、ただの遊びと区別されることもあるが、地域によっては“天候の前兆”“家の守り”の合図として扱われてきたとされる[1][2]。
語の面白さは、観察の擬音に由来する点にあるとされる。実際の行動研究では「回転運動」「体側屈曲」「接地回数」といった評価に置き換えられる一方、民間では“ねねころりが出る日は、干し網を急げ”のように生活の判断材料へと接続されることがあったと報告されている[3]。
また、用語が成立した背景として、猫の行動を記録するための手帳が町役場で回覧されたこと、そしてその手帳が“転がり”を強調する欄を持っていたことが知られている。ただし、この手帳の原本は現存が確認されていないため、現在では「伝承の編集痕跡」とみなされる場合もある[4]。
歴史[編集]
伝承の起点:七尾湾岸の「回覧ねこ暦」[編集]
ねこのねねころりが広まった起点として、七尾湾岸で流通していたという「回覧ねこ暦」がしばしば挙げられる。伝承では、の旧家・町内会が、干潮と猫の転がりの相関を“気持ちよく忘れない”ために暦へ書き加えたのが始まりとされる[5]。
具体的には、ねねころりの発生を「砂浜での接地が3回以内なら雨、4〜6回なら薄曇り、7回以上なら海霧」と分類したという。ところが、分類の境界が当時の役人の机上の計算と一致せず、寛政期の記録では“雨なのにねねころりが出ない日が12件”あったとも記される[6]。この食い違いが、後に「ねねは気分」「ころりは土地の都合」という二段階解釈を生む土壌になったとされる。
なお、回覧ねこ暦の写しがの古文書綴りに混入していたという話もある。ただし混入者の名は「不明(但し、筆致は曾孫のものと推定)」としか書かれていないため、学術的には慎重な取り扱いが求められている[7]。
制度化:動物監視ではなく「学級慰撫」へ[編集]
明治以降、ねこのねねころりは“猫を観察して落ち着く”という教育上の効用として制度化されたとする資料がある。たとえば、(当時の通称)系の巡回指導員が、学校の飼育小屋で猫が転がる場面を「学級慰撫の開始合図」にするよう促したという[8]。
このとき、行動の観察票が導入され、毎朝の観察は「ねね(回数)」「ころり(継続秒数)」「尻尾の角度(度)」の3指標で記録されたとされる。記録者は小学校の教員が多かったが、実際には教員の間で“継続秒数”の測り方が統一されておらず、ある年度には測定誤差が平均で±0.8秒と報告されたという(当時の測定器は砂時計とされる)[9]。
ただし、制度化が社会的に波紋を呼んだのは別の理由ともいわれる。猫が転がらない日、子どもが不安を口にしてしまい、逆に規律が乱れた例がの一部であったとされる。そこで当局は「ねねころりを“強制しない”運用」を通達したとされるが、通達文書の写しは見つかっていない[10]。
現代流通:観光土産とSNSのねね連鎖[編集]
戦後、ねこのねねころりは地域の観光資料に転用され、猫の転がりを“お守り動作”として売り出す試みが増えたとされる。たとえば周辺では、旅館の玄関前に「ねねころりベンチ」と呼ぶ低い段差を置き、猫が自然に転がれる高さを研究したという。研究成果として、段差の高さは「地面から14.2cmが最頻」と記されたパンフレットが存在したとされる[11]。
しかし、この数値は後に“作成者が近所の子どもから聞いた推定値”だと噂になり、資料の信頼性が揺らいだと指摘されている。別の資料では、最頻値が14.8cmだとも書かれており、数値の揺れ自体が名物化した面があったとされる[12]。
近年では、SNSで猫の転がり動画に「ねねころり」と字幕が付くことで、もともとの民間観察語がミームとして増殖した。検索結果は“行動研究者”“癒やし民”“オカルト愛好家”に分岐し、同じ動画でも意味の解釈が変わるため、コミュニティ間で小さな論争が繰り返される傾向があるとされる。なお、動作の分類名として「ねね(予備転圧)」「ころり(最終承認回転)」といった造語も派生したと報告されている[3]。
用法と特徴[編集]
ねこのねねころりは、単に猫が転がることを指すのではなく、「ねね」と認定される段階と「ころり」と認定される段階を分けることで成立する語として説明される。民間の解釈では、ねねは落ち着きの再調整、ころりは“場の許可”の受領を意味する、と言い換えられる場合がある[1]。
観察上の特徴として、ねねは連続性を重視し、3回未満だと“未達”とみなされることがある。また、ころりは転がりの回転量ではなく「終点での停止の早さ」で判断されることが多い。ある民間記録では、終点の停止までの時間が0.9〜1.4秒に収まると“良いねねころり”とされ、1.7秒以上は“不運な居眠り”に分類されたとされる[6]。
この語が面白がられる理由の一つは、誰でも使えるのに、使い手の癖が入りやすい点にある。たとえば同じ猫でも、床材(畳・砂・板)で転がり方が変わるため、結果として語の意味が微妙に変形する。地域の古老は「語は猫に似る」と述べたと伝えられており、言語学的には方言の同化に近い現象として整理されることもある[13]。
社会への影響[編集]
ねこのねねころりは、行動観察の“言語化”を促し、猫との距離感を縮める装置として働いたとされる。特に学校・公民館では、飼育当番のモチベーションが上がった例が報告されている。ある県の社会教育年報では、当番欠勤率が導入前の約3.6%から、導入後は1.1%へ低下したと記されている[9]。
一方で、言語化が過剰になると、猫の行動を人の都合に合わせる方向へ傾く危険も指摘された。猫がねねころりをしない日は「猫が不機嫌」と解釈され、餌や環境の変更が連鎖することがあったという。獣医側からは、そうした変更はストレスを増やす場合があると注意が促されており、結果として“語の暴走”を止めるための指針が必要になったとされる[14]。
また、地域経済の側では、ねこのねねころりがグッズ化されることで観光動線が形成された。土産店では「ねねころり飴」や「ころり鈴」が販売され、販売額は繁忙期の週で平均9,420円と記録されたとする。ただしこの数字は店舗報告の抜粋であり、母数が不明とされるため、厳密な評価には注意が要る[15]。
批判と論争[編集]
ねこのねねころりには、民間信仰としての側面があるため、科学的妥当性をめぐる批判が繰り返し現れている。批判側は「ねねころりというラベルが先にあり、そのラベルに合う動作だけを拾っているのではないか」と指摘している。さらに、解釈の境界(ねね回数・ころり継続秒数)の基準が地域で揺れていることが、再現性の欠如につながる可能性があるとも述べられる[14]。
一方で擁護側は、厳密な生理学的診断ではなく、生活の言葉としての価値を重視すべきだとする。「猫の行動観察は本来、統計よりも生活の手触りが重要だ」とする論者もいる[8]。
もっとも、この論争は“猫が実際に転がっているか”ではなく“転がりをどう読めるか”へ移っていく傾向がある。例えば、ある年の夏祭りでは、ねこのねねころりが成功したとされる屋台だけが翌年の出店権を得たという運用があったと報じられた。しかしその屋台は雨天に弱く、実際の勝敗は気象条件だった可能性が高いと後日指摘されている。この「結果の後付け」こそが、ねねころりをめぐる最初期の“嘘っぽさ”の核になったのだと考える研究者もいる[12]。さらに、議事録では「猫の意思は議会に関与しない」旨が記載されているにもかかわらず、翌月には“猫の承認で条例が通る”という噂が広がったとされ、整合性に揺らぎがあるとされる[16]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 中村ユキエ『民間観察語の社会機能:ねこ系擬音の分類史』北海書房, 2012.
- ^ A. Thornton『Vocal-Cue Narratives in Domestic Animals』Routledge, 2016.
- ^ 山本誠次『回覧ねこ暦と地域判断の言語化』金沢地域史叢書刊行会, 2009.
- ^ 佐藤エリ『学校飼育と慰撫儀礼の比較』文教大学出版部, 2014.
- ^ K. Ishikawa & M. Reyes『Time-Estimation Bias in Sand-Clock Observations』Journal of Informal Ethology, Vol. 8, No. 2, pp. 41-57, 2018.
- ^ 藤堂ハル『畳上転がり現象の俗説と境界値』北陸獣医民俗研究会, 第3巻第1号, pp. 12-26, 2020.
- ^ 渡辺精一郎『擬音語彙の系譜:ねね/ころりの音韻的類似』日本言語文化学会紀要, 第27巻第4号, pp. 203-219, 2011.
- ^ 田中モモ『観光化する民間儀礼の経済効果:温泉街の猫グッズ』観光政策研究所, 2019.
- ^ 寺内直樹『獣医実務における迷信ラベルの扱い』獣医学教育学会誌, Vol. 15, No. 3, pp. 88-102, 2021.
- ^ 『石川県公民館年報(抜粋)』石川県教育局, 昭和52年版, pp. 77-83.
- ^ L. Brandt『Narrating Animal Motion: A Semiotic Approach』Cambridge Scholars Publishing, 2017.
- ^ 『学校教材用語集(改訂案)』【文部省】準拠資料編集室, 第2版, pp. 59-61, 1958.
外部リンク
- ねこねねころり・記録庫
- 回覧ねこ暦デジタル館
- 畳上行動ラベル研究会
- 七尾湾岸民俗ガイド
- 学校飼育慰撫マニュアル