ねっちょりはなくそオークション
ねっちょりはなくそオークション(ねっちょりはなくそおーくしょん)は、の都市伝説の一種[1]。夜間の掲示板や回覧板のように見える告知がきっかけで、落札者が「ねっちょりした物」を持ち帰ると噂が広まったという話である[1]。
概要[編集]
とは、深夜帯に流通すると言われている“奇妙な入札”の都市伝説である。噂の中では、参加者が紙片やスマートフォン画面に提示するのは「売買できないはずのもの」であり、代金の受け渡しよりも“持ち帰り”が恐怖の中心として語られている[1]。
伝承によれば、正体は妖怪や悪霊というより、地域の古い衛生制度や町内会の会計書式に似た「様式の怪異」であるとされる。目撃談では、掲示板の管理人が消したはずの投稿が翌朝また増えていたり、郵便受けから“落札証”に見える紙が増えたりしたと言われている[2]。
歴史[編集]
起源:町内会会計が“入札”に変わった日[編集]
起源は、架空の行政整理として語られることが多い。伝承ではの冬、の一部地域で「ねっちょり系廃棄物」の臨時回収が始まり、回覧用の用紙が簡易の請求書として流用されたとされる[3]。そこに“回収順位”を決める名目で、いつの間にか「落札」という語が混ざったのが始まりだという話がある[3]。
とくに有名なのは、当時の清掃系の現場責任者として語られる(仮名)が“形式の穴”を見つけたという噂である。渡辺は「手数料の算定が滞ると、住民は勝手に価値を作る」と言い、余った用紙を“交換可能なもの”として扱わせてしまった、と語り継がれている[4]。この出来事が、全国に広まったブームの引き金になったとされる[4]。
流布の経緯:掲示板と回覧板が同期した[編集]
全国に広まったのは、インターネット掲示板と町内会の紙文化が奇妙に同期した時期である。噂では、の深夜スレッドに「明朝、ねっちょりはなくそオークションの札が届く」と書かれたのが最初期の流布点とされる[2]。
さらに、投稿者のIPがなぜかの“回覧板印刷所”に似た並びだったという目撃談があり、これがマスメディアに取り上げられたことで、怪奇譚の密度が上がったとされている[5]。ただし、後年の検証では、IPの一致は偶然だとする反論もあったと噂される[5]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
伝承で“呼び込む側”として語られるのは、落札者でも被害者でもなく、地域の境界を知り尽くした「案内役」であるとされる。案内役は特定の年齢層に偏ると言われず、町内の掲示係、学校の図書当番、夜勤明けの清掃員など、生活圏の“役割”として目撃されたとされる[6]。
言い伝えでは、参加者が入札するのは「なくそ(な・く・そ)」という三拍子の合図である。すると画面や紙に、湿った手触りの記号のようなものが浮かび上がり、“ねっちょり”と呼ばれる感触が追いかけてくる、と恐怖が語られる[1]。目撃談では、玄関マットの下に入札札が置かれていたり、湯気の匂いがしたりしたと言われている[2]。
正体については複数説があり、「妖怪が落札という言葉だけを真似た」という説がある一方で、「町内会の会計書式が物理世界に再現されてしまう」という話も有力とされる[3]。どちらの場合でも、出没の条件は“誰かが不在である時間帯”であると語られ、目撃された時刻はが最多とされる(ただし、個別の報告ではといった細かな差が混在する)[6]。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションとしては、同じフォーマットで内容が変わる“兄弟都市伝説”が挙げられる。たとえばは、落札者に“回収証”が届くタイプであり、床のタイルが一枚だけ浮くと言われる[7]。または、町内の回覧板が異様に速く回り、読んだ人の指先だけがねっとりするという伝承である[7]。
学校系の怪談としてはが知られている。噂では、体育倉庫の鍵が“鍵穴ではなく金庫の番号”のように感じられ、開けると湿った紙とともに入札札が出てくるとされる[8]。一方で、インターネットの文化として語られるでは、配信中にコメント欄へ「落札しますか?」が勝手に表示されるとされ、視聴者が反応した瞬間にカメラ映像が歪むという話になっている[8]。
いずれの派生でも共通するのは、出没後に“清算”が発生する点である。清算とは、落札者が代金として払うのが金ではなく、持ち帰った紙片の封筒を捨てる行為だとされる。ただし捨て方を誤ると、翌日以降も郵便受けに別の封筒が増える、と恐怖と不気味さが語られる[2]。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法として語られる最初の手順は「入札札を“数えない”」である。噂では札の枚数を確認した瞬間、ねっちょりの感触が指先から時間へ伝染し、気づくと翌週の予定表が書き換わる、と言われている[1]。次に推奨されるのは、札が届いた場所から“半径30メートル”以内に洗剤を置かないことだとされる[9]。細かな数字として、30メートルが最適距離とされる一方、報告によってはやとブレがある[9]。
また、マスメディアが扱ったとされることがある「最も現実的な手当」は、落札札に触れた紙手袋をすぐに裏返して保管する、というものだという[5]。これは“紙の表面だけが記号を保持する”という説明で語られ、信じる者は夜勤明けにわざわざ裏返しを徹底したと噂される[5]。
ただし、対処法には禁忌もあるとされる。「管理人に通報する」「掲示板を削除する」「回覧板を止める」など、原因を“システム側”に寄せる行為は逆効果だと警告されている[6]。理由は、怪談が“削除された場所”に移動していくという伝承があるためだとされる[6]。
社会的影響[編集]
社会的影響として、夜間の投函物や掲示板の投稿が急増したように見える時期が何度かあったとされる。特に、からにかけて“深夜帯の自治会周辺トラブル”が増えたという報告がある(ただし統計の出どころが曖昧で、真偽は定まっていないとされる)[10]。
また、ブームに伴い、地域の防犯広報が「怪奇文書を清算に使わないでください」という文言を入れたポスターを配ったと噂される。ポスターはの一部学校で掲示されたとされ、学生の間では“清算ごっこ”が一時的に流行したと伝えられている[8]。
一方で、恐怖の過熱によるパニックも起きたとされる。言い伝えが強い地域ほど、落札札が届いた家の周囲で人が立ち去れなくなる現象が起きたと目撃談があり、警察署や自治体の問い合わせ窓口が一時的に混雑したと語られている[10]。なお、後日、混雑は都市伝説と無関係な郵便事故が原因だった可能性を指摘する声もあったとされる[10]。
文化・メディアでの扱い[編集]
ブーム期には、テレビのバラエティ番組や深夜のドキュメンタリー風企画で「ねっちょり系入札」の再現が取り上げられたとされる。そこでは、落札者役の俳優が本当に湿った紙を触らされ、目に見えるほど表情が崩れたと話題になったというが、放送の舞台裏は定かではない[5]。
また、マンガや小説では「衛生と契約の怪奇譚」としてアレンジされることが多い。作中では、ねっちょりはなくそオークションが“契約の形式”を食べる妖怪として描かれ、「正体に近づくほど現実の書類が増える」とされる描写が定番化したと指摘されている[11]。
学校の怪談としては、学級文庫や図書室の掲示で“都市伝説の検証”と称して紹介され、注意喚起の教材に転用された時期もあるという[8]。ただし、教材化が進むほど、言い伝えが強くなり、逆に出没が増えたように感じる人がいたとも語られ、マスメディアの扱いが噂を加速した側面があったとされる[5]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山口楓『日本都市伝説の「様式」論: 書式が喰う夜』ミスティ出版社, 2020.
- ^ 佐伯慎吾『回覧板と掲示板の同期現象』都市民俗学会, 2014.
- ^ 渡辺精一郎『清掃現場の書類が生んだもの』生活衛生資料館報, 第12巻第3号, pp. 41-58, 1991.
- ^ 李明姫『恐怖の数値化: 30メートル伝説の系譜』怪談統計研究会, Vol. 5, No. 1, pp. 77-96, 2016.
- ^ NHKバラエティ企画班『深夜の紙はどこへ行く?—ねっちょり系列検証記』放送文化叢書, 2012.
- ^ 中村はるか『学校の怪談と衛生規範の摩擦』教育メディア研究所紀要, 第28巻第2号, pp. 103-119, 2019.
- ^ Kwon Min-jae『Administrative Folklore in Late-Night Japan』Journal of Nocturnal Studies, Vol. 14, No. 4, pp. 221-239, 2018.
- ^ 佐藤玲『怪談の口調と編集癖: “言われている”の編集学』日本語編集学会論文集, 第9巻第1号, pp. 12-26, 2017.
- ^ 田所つぐみ『地方紙面の復元力—投函の再現性』紙の民俗学, 第3巻第1号, pp. 5-19, 2009.
- ^ 【書名が一部微妙な文献】小林雄太『なくそオークションの真実』東京市民書房, 2001.
外部リンク
- 深夜投函アーカイブ
- 回覧板妖怪図鑑
- ねっちょり検証ログ
- 都市伝説掲示板ミラー
- 学校の怪談教材センター