みちえちゃんの絵日記
| ジャンル | 家庭教育メディア/児童の記録文化 |
|---|---|
| 形式 | 絵+短文(数行〜一段) |
| 想定地域 | 周辺 |
| 成立時期(伝承) | 末期(1970年代後半〜1980年代初頭とされる) |
| 主な伝達媒体 | 地域図書室の回覧冊子、児童会資料 |
| 関係組織(伝承) | ○○図書室運営委員会、学童保育連絡会 |
| 保存状態 | 原本の所在は未確定とされ、写しが多い |
| 特徴 | “日付の代わりに天気記号”を採用したとされる |
(みちえちゃんのえにっき)は、の家庭内教育と地域メディアが結びつく文脈で発見・共有されたとされる絵日記資料である。日々の生活が「絵」と「短文」で記録される形式で、教育史の周辺資料としても参照されてきた[1]。
概要[編集]
は、子どもの視点による生活記録を、淡い色の線画と短い観察文で編んだ「家庭内ミニ出版」として語られる資料である。形式としては素朴である一方、日付が通常の数字ではなく、天気記号と気温帯の“見立て”で整理されていたとされ、分類学的にも珍しいとされる[1]。
成立の経緯は、戦後の読書指導の流れを背景に、児童が日記を“書く”のではなく“描き分ける”訓練を受けたことにあると説明される。とくにの学童保育連絡会が「文章を読む前に目で整える」教材を探し、そこで見いだされたのがの記録だった、という伝承が広く流通した[2]。
なお、原本の写真や筆跡の特徴をめぐっては、類似品(模写集)の存在がたびたび指摘されている。そのため、本項では「絵日記」という呼称が指す“資料群”として扱い、個別の頁番号や作者の同一性は断定しない方針が採られることが多い[3]。
概要(選定基準と掲載範囲)[編集]
絵日記資料が“みちえちゃんの絵日記”としてまとめられる場合、次のような選定基準が採用されるとされる。第一に、短文が最大でも程度で区切られていること(「わすれた」「かぜ」「きょうは」などの短語が中心)である[4]。
第二に、1日の絵に必ず「天気記号(太陽・雲・雨・風)」のいずれかが入り、さらに気温帯を棒の濃さで示すことが条件にされる。第三に、描かれる対象が“家の中”に偏りつつも、月に一度だけ必ず(商店街の角、駅前の標識、学校の掲示板など)が登場することが特徴として挙げられる[5]。
掲載範囲については、最初の編集者が「思い出として意味がある頁」だけを残したため、季節の偏りが生じたとされる。たとえば収録頁のうち夏季が、秋季が、冬季が、春季がという“偏った四季内訳”が報告されているが、編集判断の恣意性が背景にあったと推定されている[6]。
歴史[編集]
生まれた分野:家庭教育×記号分類の合体[編集]
本資料が“絵日記”として社会に知られる以前、児童向けの記録文化は文章中心であったとされる。しかし後半、での読解負荷が増える一方、家庭では「書かせる」ことへの抵抗も大きくなった。そこで、○○小学校の教材検討会が、文章ではなく記号で日を整理させる試みを始めたとされる[7]。
この試みは、図書館司書ではなく学童保育のスタッフが主導した点が特徴である。彼らは“天気記号”を「子どもの語彙量を増やさずに、時間の感覚だけを整える装置」と見なした。ここで絵日記が選好され、のちに資料化される土台ができたと説明される[8]。
加えて、記号を濃淡で管理する方式は、当時普及しはじめた家庭用の簡易印刷技術と噛み合った。筆者の個性よりも、記号の再現性が重視された結果、「誰が書いても同じ並びになる」ように見える統一感が強まり、結果として“みちえちゃん”という固有名がブランド化した、という見立ても提示されている[9]。
関わった人:回覧冊子編集と児童会の共同編集[編集]
資料群が一躍注目されたのは、の図書室で行われた「家庭記録回覧」企画による。運営事務局は第一図書室の運営委員会で、通称を「回覧棚係」と呼ぶ内部資料があるとされる[2]。
回覧棚係は、日記を“読む”ためではなく“並べる”ために集計した。具体的には、1冊あたり前後を基本単位とし、日ごとの天気記号をスタンプで転写して一覧化したと記録されている。ここで「最初の表紙だけが、みちえちゃんの字体に極端に似ている」ため、偶然が重なって主作者名が定着したという説もある[10]。
ただし一方で、地域の学童保育連絡会が作った模写練習帳が混入した可能性も指摘されている。疑義の根拠として、ある年の頁で雨の絵がすべて“同じ傘の角度”をしている点が挙げられ、編集の過程で統一テンプレが用いられたのではないか、と論じられている[11]。
社会への影響:小さな記録が“地域の温度”を作った[編集]
絵日記は、個人の日記を超えて地域の合意形成装置として利用されたとされる。たとえば、学童保育の送迎日を決めるときに「天気記号の並び」を参考にしたという逸話が残る。そこでは“雨(くぼみ型雲)の日だけ人数が減る”などの独自経験則が語られ、記録が統計の代わりに機能したとする指摘がある[5]。
また教育現場では、文章指導の前段として「絵日記を回して見せ合う」活動が広がった。言葉の正誤を問わない代わりに、記号の整合性(太陽の大きさ、雲の層の数、風の線の本数)を評価する運用になったとされ、これがのちのルーブリック評価の前史だと主張する研究者もいる[12]。
その結果、地域の“温度”が視覚化され、学童の不安が言語化されやすくなった、という社会的評価も出た。ただし、記号の統一が過剰に進むと“個性の消失”が生じるという反対論も同時に現れたとされる。ここに、みちえちゃんの絵日記が「成功」と「違和感」を同時に持つ資料として扱われる理由がある[3]。
具体的なエピソード(頁の記憶)[編集]
収録頁の中で最も有名とされるのは、表紙裏にある“天気記号の命名”の頁である。そこには、太陽が三種類(まるい・とがり・かすれ)、雲が四種類(ならび・うす・かさ・たわみ)、風が二種類(きょうは強い/きょうは弱い)として描かれているとされる[13]。
また、前後の週に相当するものとして語られる頁では、日付が数字で書かれず「気温帯が“指の第二関節の長さ”でわかる」と補足されている。記述上は、指の目盛がで段階化されていると報告されているが、誰が測ったのかは不明である[14]。この点が、読み手の“本当っぽさ”を増幅する一方、細部の数値が生活感を裏切らないため、逆に疑いにくくなっているという[15]。
さらに、の商店街を示すと思われる頁では、「駅前の青いポストの角で、かげが逆になる」という説明があるとされる。ここでの“青いポスト”は内の郵便関連施設に見えるが、当時の色設定や塗装履歴の資料が見つからず、読者の間では「たぶん見間違いだが、それでも絵が正しい」と笑い話になったという[16]。
加えて、晩秋の回で「先生が消しゴムの匂いをかぐ」という奇妙な一文があるとされる。記号は雨にされているのに、絵は晴れの空で、直感的に破綻している点が、結果として“編集による加工”の疑惑を呼んだ。ただし、同頁の雲の線が三本であることから、単なる誤りではなく“雨の前のにおい”という独自分類だった可能性もあると主張されている[11]。
批判と論争[編集]
最も大きな論点は、資料が「みちえちゃん本人の記録」なのか、「地域の編集委員会が再編集して成立した教材」なのか、という点である。批判側は、天気記号の種類数があまりに整いすぎていること、そして“同じ手癖”の円形が複数頁で再現されていることを根拠に挙げる[11]。
一方で肯定側は、子どもの絵は成長によって変化するはずなのに、変化がわずかである点を“記号化の訓練が成功した証拠”と捉える。さらに肯定側は、「回覧棚係が統一したのは天気記号だけで、絵の破綻はそのまま残した」と主張し、疑義を“編集の範囲”として切り分ける[8]。
なお、ある評論では「最初に“みちえちゃん”という名前を付けたのは子どもではなく、棚の所有者だ」とする説がある。この説は、初出表紙の字体が生活文書の規格に似ているとして根拠を示すが、裏取りの出典は薄いとされ、どこかで作られた逸話に見える部分もある[17]。ただし、その“出典の弱さ”こそが、むしろ絵日記の伝説性を高めたとも指摘されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山形しずか『天気記号と子どもの時間感覚—回覧資料の読み解き』中央教育出版, 2009.
- ^ 田中和彦『家庭内メディア史と学童の記録文化』東京図書館研究所, 2014.
- ^ M. A. Thornton, “Visual Time-keeping in Postwar Child Education,” Journal of Informal Learning, Vol. 12, No. 3, pp. 55-77, 2016.
- ^ 【要出典】佐藤みのり『絵日記の成立過程(未整理稿)』足立区立第一図書室, 1999.
- ^ 小林健太『記号による学習設計と地域参加』学習設計学会誌, 第6巻第2号, pp. 101-133, 2011.
- ^ Ryuji Nakamura, “Curation Bias in Household Diaries,” International Review of Child Media, Vol. 9, pp. 210-236, 2018.
- ^ 井上まゆ『回覧棚係の制度史—選定基準の自動化と手作業』児童文化研究, 第14巻第1号, pp. 1-29, 2012.
- ^ Catherine B. Alvarez, “Weather Coding and Memory Reliability,” The Pedagogical Archive, Vol. 3, No. 1, pp. 12-40, 2015.
- ^ 渡辺精一郎『簡易印刷が作る“似た字体”の社会学』印刷史叢書, 2003.
- ^ 鈴木宗一『足立の商店街と色の記憶(郵便ポストの推定を含む)』都市生活史研究, 第21巻第4号, pp. 300-342, 2007.
- ^ 高橋亮一『絵の一致性と編集テンプレートの痕跡』図画史論叢, Vol. 7, No. 2, pp. 88-109, 2020.
外部リンク
- 回覧棚アーカイブ
- 足立児童メディア研究会
- 絵記号データベース(試作版)
- 家庭内ミニ出版コレクション
- 地域記録史の読みもの