もちコース
| 分野 | 地域観光・商店運営・体験デザイン |
|---|---|
| 主な利用対象 | 来店者(個人・少人数) |
| 運用主体 | 和菓子店/縁日連動事業者/小売サービス |
| 基本構成 | 試食→儀礼説明→交流→持ち帰り |
| 起点とされる時期 | 昭和末期〜平成初期(諸説あり) |
| 特徴 | 「もち」の触感を指標化し、進行を最適化する |
| 代表的な舞台 | 東京都周辺の商店街(ただし全国に波及) |
| 関連概念 | 触感評価会、折り返し儀礼、余熱マッピング |
もちコース(もちこーす)は、日本で独自に整備されたとされる「期間限定の接客・体験プログラム」を指す呼称である。主にの小規模事業者で運用例が多く、最終的に“食”と“儀礼”の境界を曖昧にしたことで知られている[1]。
概要[編集]
もちコースは、来店者に一定の順序で体験を提供する運用様式として語られることが多い。名称の通り、中心的な媒介物として餅が用いられ、試食の段階で触感・温度・粘度感を言語化させる点が特徴とされる[1]。
その成立経緯は、単なる菓子提供ではなく、商店街の“待ち時間”を社会的に意味づける必要から生じたとされる。具体的には、来街者が滞留する「空白の15分」を、会話と評価のプロトコルへ変換する試みとして整理された、という説明がしばしば見られる[2]。なお、実務上は「もちを食べさせる」よりも「もちを“判定させる”」ことが重視されるため、体験設計論としても取り扱われることがある。
一方で、運用の詳細は事業者ごとに異なり、同じ“もちコース”と名乗りながら、提供する餅の種類や説明の語彙が統一されていない点が指摘されている。この曖昧さが結果的に模倣を招き、派生呼称(のちに本項で扱う)へ発展したとされる。
歴史[編集]
起源:商店街の「余熱会議」[編集]
もちコースは、昭和末期に埼玉県の商店街で行われたとされる「余熱会議」から派生した、という系譜が有力である[3]。当時、和菓子店では蒸し器の火力が安定せず、焼き上がり直後と提供直前の温度差が来店者の不満に直結していたとされる。
会議に参加したのは、和菓子店の若手だけでなく、近隣の小学校PTAと、なぜか理科準備室の元担当者であったと伝えられる。彼らは蒸し器の釜口に小型の温度計を差し込み、餅の表面温が「ちょうど何℃のときに、最初の一口が笑顔になるか」を数値化しようとした。その結果、「提供開始から口に入るまでの平均経路時間は78秒(±11秒)」と記録され、プロトコル化の方向へ進んだとされる[4]。
ただし同時期の別資料では、起源は“もち”ではなく“丸めた米粉”のテストだったともされる。すなわち、触感を追試できる物質を先に決め、その後に最終的な象徴として餅を採用したという説明である。この矛盾が、のちの「もちコース定義の揺れ」に繋がった、とする見方がある[5]。
制度化:消費者庁の前身「体験課」[編集]
平成初期、体験の品質保証を巡る動きが強まり、の前身に相当する部署が、商店街向けの“体験手順”ガイドを試作したとされる。ガイド案は「餅の品質は味だけでなく“説明の順序”で決まる」という思想に基づき、接客の台本に時間配分を組み込むことを推奨したと書かれている[6]。
このガイドで言及されたのが、もちコースの骨格である。たとえば「①香り提示(30秒)→②表面の艶の説明(45秒)→③一口目の感想語彙の提示(60秒)→④余熱の再体験(20秒)→⑤持ち帰り説明(25秒)」といった、やけに細かい工程が例示された。もちろん実際の現場では完璧に守られたわけではないが、手順の“雰囲気”が拡散し、名物化の素地になったとされる[7]。
なお、制度化に反発もあった。台本が増えるほど繁忙期に回らなくなるという実務上の問題が起き、ある町では「もちコースの所要時間を合計で128秒以内に収める」という決まりが独自に採用された記録が残る[8]。このように、もちコースは規制の産物というより、規制“っぽい”整頓への欲求から育った側面がある、とも解釈される。
社会的影響:食から“採点”へ[編集]
もちコースが広がると、食体験が単なる嗜好ではなく、参加者の評価行動(自己申告)を含むものとして再定義された。特に「とろみ」「もちもち感」「口腔内の余韻」という主観を、共通語彙へ揃える試みが行われたとされる[9]。
この再定義は、商店にとってはリピート率の安定化につながった。一方で、参加者側では“正解の感想”を探してしまう心理が発生し、店員との会話がギクシャクする例も出た。ある学術調査では、もちコース参加後に「次回は“より正しい褒め言葉”を持参しようと思った」と回答した比率が、調査サンプル(n=214)のうち37.2%と報告されている[10]。
また、SNSでは「#もちコース自己採点表」が出回り、店舗が用意した紙の採点欄が“ガチャ”のように消費される現象も起きたとされる。結果として、餅そのものより、体験の可視化が前面に出る傾向が強まり、食文化の枠組みをゆっくりとずらした、と評価されることがある[11]。
運用と構造[編集]
もちコースは、複数の段階からなる“進行型サービス”として説明される。典型例では、①到着時の短い導入(客の期待値を揃える)→②餅の提示(香り・温度・表面の状態を言語化)→③一口目の「感想語彙」を用いた会話→④余熱の再体験(別の温度条件での再提示)→⑤持ち帰り手順、という流れが採用されるとされる[12]。
さらに、もちコースでは「触感の判定」をめぐる簡易指標が使われることがある。たとえば、紙の採点欄に「伸び:3段階」「跳ね:2段階」「喉越し:5段階」といった項目を設け、スタッフは“正確な味の説明”よりも“選びやすい語彙”を誘導するとされる[13]。このとき、指標の名称だけが独り歩きして派生語が生まれたと報告されている。
また、現場では安全面の配慮も手厚い。観察記録では、提供直前の温度が85℃を超える場合には、会話パートを短縮して提供量を抑える運用が見られたとされる[14]。ただしこれらの数値は店ごとに異なり、統一規格として確立されたわけではない。
批判と論争[編集]
もちコースは、体験の“整い”が強すぎる点について批判がある。特に、自己採点の結果を店員が即座に参照する運用では、参加者が評価されている感覚に近づくという指摘がされている[15]。
また、過剰な数値化が食の身体性を損なうのではないか、という議論もある。ある論壇記事では「餅は伸びるが、対話は硬直する」と表現され、語彙のテンプレ化が会話の自然さを奪う可能性が論じられた[16]。
さらに、もちコースが実在の制度として語られた場合、定義の曖昧さが“それっぽい詐称”に利用されるという不安も指摘される。たとえば、東京都内の“もちコース”を名乗る小売が、実際には採点表を使わず、写真撮影だけを体験の核にしていた例があり、問い合わせが増えたと報道されたことがある[17]。
一方で、制度を守るための自主運用も存在した。ある商店街組合は「もちコースは3回に分けて提供するべきで、合計一口目は必ず“冬”の温度で提供する」といった独自基準を設けたとされる[18]。この主張は合理性が薄いとして笑い話にされることもあるが、現場の結束を生む効果があったともされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『商店街の余熱を数値化する技術』町政調査叢書, 1998.
- ^ M. A. Thornton, “Sensorial Metrics in Retail Visits,” Journal of Field Hospitality, Vol. 12, No. 3, pp. 41-66, 2002.
- ^ 高橋園子『餅の触感と言葉の順序:もちコースの現場記録』白夜社, 2006.
- ^ 【架空】国立体験評価研究所『体験手順ガイド(試案)』第1版, 内部資料, 1999.
- ^ 鈴木朋也『自己申告は何を変えるか:食体験の採点行動』日本消費行動学会誌, 第18巻第2号, pp. 113-129, 2011.
- ^ Catherine L. Brooks, “The Ritualization of Taste in Urban Small Businesses,” Asian Journal of Consumer Practice, Vol. 7, No. 1, pp. 9-33, 2014.
- ^ 佐々木和馬『蒸し器の火力変動と提供順序の相関』調理工学研究, 第26巻第4号, pp. 201-219, 2000.
- ^ 本間歩『語彙誘導が生む沈黙:接客台本の社会学』東京商工文化研究, 第3巻第1号, pp. 55-80, 2018.
- ^ 山口ナオ『#もちコース自己採点表の拡散メカニズム』ソーシャルメディア季報, Vol. 5, No. 2, pp. 77-95, 2020.
- ^ 小笠原理紗『触感と余韻の温度差:85℃神話の検証』冷却研究と甘味, 第9巻第3号, pp. 1-20, 2016.
- ^ ※タイトルが微妙におかしい文献:『食は伸び、言葉は跳ね:もちコースの理論と実務(誤植版)』甘味工房出版社, 2004.
外部リンク
- もちコース運用アーカイブ
- 商店街余熱レジストリ
- 触感評価会ポータル
- 温度プロトコル研究会
- 語彙誘導マニュアル倉庫