わたるん
| 名称 | わたるん |
|---|---|
| 読み | わたるん |
| 英語名 | Watarun |
| 初出 | 1974年頃 |
| 提唱者 | 渡辺精一郎、斎藤ミレイほか |
| 発祥地 | 東京都品川区五反田周辺 |
| 用途 | 短距離移動の補助、案内、進路確認 |
| 主な普及地域 | 首都圏、中京圏、京阪神 |
| 関連組織 | 都市歩行文化研究会 |
| 特徴 | 紙札・腕章・音声口上を併用する |
わたるんは、日本の都市部で発達したとされる、短距離移動用の携行式案内装置およびその運用文化を指す呼称である。にの私鉄利用者調査から派生した概念として知られ、のちにやの通勤圏で独自の儀礼を伴う形へ発展した[1]。
概要[編集]
わたるんは、駅前広場、地下街、再開発地区などで用いられた、半ば実用的、半ば儀礼的なの補助体系である。一般には「道に迷った者を一時的に正しい流れへ渡す」行為、またはその際に用いる札・記章・口上の総称として説明されるが、実際には末期の利用客案内簡略化運動と、民間の路上観察文化が奇妙に接合して成立したとされる[1]。
名称は「渡る」と幼児語的語尾「-ん」を結び付けたものとされるが、の調査報告では、すでに地元の若者が「わたるん係」「わたるん持ち」といった用法を使っていたことが示されている。なお、同報告書には回答者数中が「実態はよく分からないが便利そうである」と答えたと記されており、初期段階から概念の輪郭が曖昧であったことがうかがえる[2]。
歴史[編集]
成立期[編集]
また、民間側では斎藤ミレイという主婦が大きな役割を果たした。斎藤は自宅近くの商店街で迷子になった児童を13回案内した記録をに残しており、その際に使った緑色の腕章が「わたるん緑帯」と呼ばれた。緑帯は視認性が高いだけでなく、着用者の責任感を過剰に高める作用があるとされ、にはの内部資料で「心理的コンパス」として紹介されている[要出典]。
普及期[編集]
に入ると、わたるんは駅前案内やイベント導線で急速に普及した。とりわけの地下街では、案内係が笛を吹きながら「左に渡るん、右に渡るん」と唱える独特の方式が生まれ、来訪者の滞留時間を平均短縮したとされる。もっとも、この数値は商業施設の販促資料に依拠しており、学術的裏付けは弱い[5]。
には、の前身施設で開催された「都市移動と小道具展」で、わたるん用の携行札が一括展示された。札には「遠回り可」「雨天専用」「高齢者優先」などの文言が記され、来場者の約が「案内というより性格診断に近い」と回答したという。この展示が契機となり、わたるんは単なる案内法ではなく、利用者の気質を可視化する都市文化としても受容されるようになった[6]。
制度化と衰退[編集]
になると、わたるんは自治体の高齢者支援策や大型商業施設の混雑緩和策に取り込まれ、半ば制度化された。特にでは、再開発地区の歩行導線に「わたるんレーン」が試験導入され、赤・青・灰の三色で進路を色分けする運用が採られた。ところが、色分けの解釈を巡って現場で微妙な混乱が起こり、住民アンケートでは「親切すぎてかえって疲れる」が最多回答となった[7]。
その後、スマートフォンの地図アプリ普及によって実用面は急速に縮小したが、以降は地域イベントや大学祭で「わたるん復古祭」として再評価されている。とくにの学生団体が行ったの実験では、わたるんを装着した案内役の前を通った参加者のが、実際の目的地より先に飲食店へ誘導された。研究班はこれを「案内の本質が寄り道にある証拠」と結論づけたが、批判も多い[8]。
仕組み[編集]
また、わたるんには「逆わたるん」と呼ばれる応用形がある。これは本来の目的地に向かわず、一度別のランドマークを経由させることで、移動者の焦燥感を下げる手法である。商業施設では回遊率を上げる技法として歓迎された一方、通勤者からは「善意の遠回り」として不満が出た。なお、の某ビルでは、逆わたるんの過剰運用により、昼休みの社員が全員コンビニに吸い込まれた事件があり、以後「導線は短いほど危険である」との教訓が広まったとされる[10]。
社会的影響[編集]
わたるんは、都市住民の「知らない場所で親切を受ける権利」を可視化した点で評価されている。特に、、に対しては、案内の言葉よりも札の色や腕章の形状が安心材料になったとされ、の調査では、試験導入地区で迷走苦情が減少した[11]。
一方で、案内役の身体に対する過度な期待も生んだ。わたるん係は「道を知っている人」ではなく「道を確定できる人」と誤解されやすく、知らない場所でも自信を持って進路を示すことが美徳とされた。この風潮は後に、企業研修におけるリーダーシップ論へ流用され、の『わたるん式判断訓練』が新入社員研修で流行した。もっとも、受講者の満足度は高かったが、実務上の正答率はかえって下がったと報告されている[12]。
批判と論争[編集]
わたるんに対する批判は、主に「親切の押し付け」である点と、「意味はあるが機械的には測定しにくい」点に集中する。とりわけ、の商業施設で導入された自動音声わたるん装置は、深夜帯に空の通路へ向かって案内を繰り返し、警備員を困惑させた。施設側はこれを「周辺環境に対する継続的サポート」と説明したが、利用者からは「気遣いの空振り」と揶揄された。
また、都市計画学者の一部は、わたるんが本来の案内よりも「案内しているという演出」に重きを置くと批判した。これに対し擁護派は、都市において演出と実用はしばしば不可分であり、むしろわたるんはその境界を可視化した稀有な事例であると主張する。なお、の公開講座では、講師が実演中に反対方向へ受講者を6回案内したが、後日「再考を促すための故意の逆わたるんであった」と説明したため、かえって人気を博した[要出典]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『都市の小移動と仮設親切』日本都市案内学会紀要 第12巻第3号, 1975, pp. 41-68.
- ^ 斎藤ミレイ『駅前における腕章の心理効果』都市生活研究 第4巻第2号, 1979, pp. 15-29.
- ^ 小林有里『わたるんの民俗工学的展開』季刊 民間導線論 Vol. 8, 1983, pp. 102-117.
- ^ 東京交通文化協会編『地下街の口上と歩行誘導』交通文化資料集 第6号, 1988, pp. 3-41.
- ^ Margaret A. Thornton, “Portable Guidance and Urban Ritual in Japan,” Journal of Civic Mobility Studies, Vol. 9, No. 1, 1994, pp. 77-96.
- ^ 佐伯俊也『案内札の色彩と回遊率』商業空間研究 第21巻第4号, 1999, pp. 58-74.
- ^ K. Nakamura and S. Ito, “Reverse-Watarun as a Retail Flow Device,” Proceedings of the Asian Urban Interface Conference, 2007, pp. 201-219.
- ^ 国土移動文化センター『わたるん再評価報告書 2012』都市親切叢書, 2012, pp. 11-63.
- ^ 早川澄子『わたるん式判断訓練の教育効果』企業研修学報 第15巻第1号, 2006, pp. 88-104.
- ^ David R. Hensley, “When Courtesy Goes the Wrong Way,” International Review of Wayfinding, Vol. 3, No. 2, 2018, pp. 5-27.
外部リンク
- 都市歩行文化研究会
- わたるんアーカイブス
- 仮設案内札コレクション
- 港区再開発口上資料室
- 東京地下道文化保存会