アスペクトバタフライ
| 名称 | アスペクトバタフライ |
|---|---|
| 英語 | Aspect Butterfly |
| 分野 | 映像編集、認知工学、記号論 |
| 提唱者 | 西園寺 恒一郎 |
| 提唱年 | 1978年 |
| 提唱地 | 東京都杉並区 |
| 主要機関 | NHK放送技術研究所、東京工業大学、国立民俗視覚資料館 |
| 関連装置 | ASB-3位相測定板 |
| 影響 | テレビ編集のカット割り、教育用アニメーション、広告の色相設計 |
アスペクトバタフライ(Aspect Butterfly)は、およびの分野で用いられる、時間軸上の意味変化を蝶の翅の運動に見立てて解析するための概念である。にで提唱されたとされ、のちにとの共同研究に取り入れられた[1]。
概要[編集]
アスペクトバタフライは、映像や語りにおける「見え方の位相」が、ある瞬間を境に反転・分岐・滞留する現象を説明するための概念である。一般には編集理論の一種として扱われるが、初期の文献ではむしろとの中間領域に置かれていた。
名称は、観測者の視線が被写体の前後でわずかにずれると、同一の事象が全く異なる印象として立ち現れることを、蝶の翅が開閉する瞬間の左右非対称にたとえたことに由来するとされる。なお、提唱者のは、これを「意味の折り目」と呼んでいたが、周囲にはほとんど通じなかったという[2]。
成立の経緯[編集]
杉並区の私設実験室[編集]
通説では、夏、西園寺は阿佐谷北の木造二階建て住宅の離れを改装し、8ミリ映写機、回転鏡、ラジオ用真空管を組み合わせた試作装置を作成したとされる。これが後のASB-3位相測定板の原型であり、当初は家族の夕食時にだけ使われていたという。
この装置は、被写体の顔が画面の左端に寄るときと右端に寄るときで、同じ感情表現が異なる意味に解釈されることを可視化する目的で設計された。西園寺の妻・西園寺澄子が「見た目がチョウに似ている」と述べたことから、名称にが採用されたとされるが、本人は終生これを不服としていた[3]。
NHKとの接点[編集]
、西園寺はの公開講座で事例報告を行い、編集担当者の間で一時的な流行語となった。とくに夕方ニュースの見出し字幕で、漢字の縦横比が微妙に変わるだけで印象が変化する現象が「アスペクトバタフライ効果」と呼ばれ、会議資料にまで登場したという。
ただし、研究所内ではあくまで非公式な呼称であり、正式な研究テーマに採用されたのはの第3回「放送表現技法検討会」である。ここで提示された報告書『位相蝶翼と視聴者遷移』は、のちに半分以上が黒塗りで保存され、現在でも一部の研究者が「妙に手書きが多い」と指摘している[4]。
学術化と制度化[編集]
では後半、情報工学系の研究室がアスペクトバタフライを数理モデルとして再定義し、映像フレーム間の差分を「翅脈」、視聴者の注意移動を「飛翔角」と呼ぶ独自の用語系を整備した。これにより、概念は急速に“それっぽい理論”として大学内で定着した。
一方で、が収集した口承資料では、同様の現象がすでに大正末期の紙芝居師によって経験的に語られていたとされる。資料番号ASB-17には「子どもは、蝶の絵を右から出すと泣き、左から出すと笑う」との記述が残るが、これは後年の補筆である可能性が高い[5]。
理論[編集]
アスペクトバタフライ理論では、対象の意味は固定的ではなく、観測の角度、提示時間、周辺ノイズの三要素によって変化するとされる。とりわけ「0.4秒から1.2秒の間に発生するわずかな留保」が、視聴者の解釈を二分する閾値として重視される。
理論上は、翅の開閉に対応する「拡張相」「収縮相」「残像相」の三相があり、編集者はこれらを意図的に配置することで、同一素材から「勇敢」「不安」「神秘」のいずれも生成できると説明される。実際、1986年の実験では、同じ牛乳瓶の映像が、照明と字幕だけで「郷愁」「違法実験」「高級商品の広告」に分岐したと報告されているが、被験者数が19名しかいないため要出典である。
応用[編集]
放送・広告[編集]
には、民放各局の番組宣伝部がアスペクトバタフライを応用し、CMの最後に0.8秒だけ商品名を斜めに傾ける手法を採用した。これにより、視聴者の記憶定着率が平均17.4%上昇したとされるが、同時に「何の商品だったか思い出せない」という苦情も増えた。
の社内資料とされる『翅型訴求の手引き』では、赤と青の境界線を1.6ミリずらすだけで、家庭用品が「信頼」から「冒険」に転化すると記されており、のちに一部のクリエイターがこれを過信して一面広告を全て蝶模様にしてしまったという。
教育と福祉[編集]
主導の視聴教材改革では、アスペクトバタフライが「理解の前段階にある戸惑い」を可視化する技法として採用された。とくに理科映像では、説明が始まる前に1秒だけ蝶のシルエットを挟むことで、児童の集中時間が平均23秒延びたと報告されている。
また、の現場では、同じ言葉でも提示順で印象が変わることを説明する比喩として利用された。1989年にで行われた試行では、患者の自己記述に「羽ばたく」「閉じる」「迷う」の3語を挿入するだけで、面接の沈黙が減少したという記録がある。
批判と論争[編集]
アスペクトバタフライは、概念としての美しさに反して再現性が低いとして、当初から批判が多かった。とくにのでは、測定条件が研究ごとに異なりすぎることから「編集者の気分を理論にしただけではないか」との指摘が出た。
さらに、提唱者の西園寺が晩年に「蝶である必要はなかった。蛾でもよかった」と語ったとされる証言があり、後世の研究者を困惑させた。もっとも、本人の直筆ノートには「蛾では夜間編集に偏りが生じる」とも書かれており、結局どちらが正しいのかは不明である[6]。
後世の受容[編集]
以降、アスペクトバタフライは一部の業界で再評価され、サムネイルの顔向きとタイトルの改行位置を合わせる「二重翅レイアウト」が流行した。日本国外でも、のデザイン学校やの広告研究所で参照され、国際会議では“butterfly-aspect”という逆輸入的な訳語まで作られた。
一方で、SNS時代に入ると、1枚の画像だけで意味が反転する現象が日常化し、概念そのものが半ば常識化した。これに対し古参の研究者は「アスペクトバタフライは勝利したのではない。世界が雑になっただけだ」と述べている[7]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 西園寺 恒一郎『位相蝶翼と視聴者遷移』放送表現技法研究会, 1984.
- ^ 橋本 玲子『映像の翅脈: アスペクトバタフライ入門』日本編集学会出版局, 1991.
- ^ Margaret L. Thornton, "Butterfly Aspect and Temporal Meaning Drift," Journal of Media Semiotics, Vol. 12, No. 3, pp. 44-71, 1993.
- ^ 田所 恒一『ASB-3位相測定板の設計と誤差』東京工業大学情報工学紀要, 第18巻第2号, pp. 101-129, 1987.
- ^ Kenji Watanabe, "On the 0.8-Second Threshold in Broadcast Perception," Proceedings of the International Symposium on Visual Framing, pp. 201-219, 1996.
- ^ 西園寺 澄子『蝶は右から泣く: 家庭映像観察ノート』阿佐谷文化資料社, 1979.
- ^ 井上 春彦『教育映像における残像相の活用』文部省教材研究所報告, 第6号, pp. 9-38, 1990.
- ^ Robert H. Ellis, "Aspect Butterfly in Commercial Motion Graphics," Advertising and Cognition Review, Vol. 8, No. 1, pp. 5-26, 2001.
- ^ 国立民俗視覚資料館 編『紙芝居師口述録集成 第14巻』国立民俗視覚資料館, 1988.
- ^ 高橋 みどり『意味の折り目と蛾の夜間性』認知工学評論, 第4巻第4号, pp. 77-90, 1994.
外部リンク
- 国立民俗視覚資料館デジタルアーカイブ
- NHK放送技術研究所 研究成果集
- 東京工業大学 記号映像研究室
- 日本編集学会 オンライン年報
- アスペクトバタフライ保存会