アーケードスティックのレバーの持ち方
| 分類 | ゲーム操作法、競技文化 |
|---|---|
| 起源 | 1970年代末の日本 |
| 主な普及地域 | 日本、韓国、北米西海岸 |
| 関連機器 | アーケードスティック、8方向レバー、ボタンユニット |
| 代表的理論 | 掌包み式、鉤指式、浮き中指式 |
| 標準化団体 | 日本電子遊戯操作研究会 |
| 競技的用途 | 入力の安定化、誤入力の低減 |
| 論争 | 親指非接触原則をめぐる解釈 |
| 俗称 | レバー握り、レバグリ |
アーケードスティックのレバーの持ち方(英: Arcade Stick Lever Grip)は、の操作精度を左右するとされる、のに対する把持法の総称である。一般にはのゲームセンター文化から体系化されたとされているが、その起源にはの・で行われた深夜の試遊会が関わったという説が有力である[1]。
概要[編集]
アーケードスティックのレバーの持ち方は、やシューティングゲームにおいて、入力方向の再現性を高めるために発達したとされる技法である。単なる握り方ではなく、手首の角度、掌の接地面、親指の遊び、そして筐体との距離まで含めて論じられることが多い。
この概念は、初期には単に「押しやすい位置を探す試行錯誤」にすぎなかったが、後半にのゲームセンターで行われた常連間の観察記録をきっかけに、半ば学術用語のような扱いを受けるようになった。なお、後年の競技シーンでは、レバーの持ち方ひとつで「0.03秒の差が出る」とする報告が広まり、練習メニューの独立項目として定着したとされる[2]。
歴史[編集]
黎明期[編集]
最初期の記録は、の小規模店舗「ミカド会館旧館」で配布された手書きの攻略メモに見られるとされる。そこではレバーを「指で押す棒」ではなく「手のひらで導く軸」と表現しており、後の掌包み式の原型になったという。
当時は筐体のレバーが重く、1日に数百回も入力を繰り返すと手首を痛める者が多かったため、常連客のはレバー上部にスポンジを巻く工夫を考案したとされる。ただし、この改良は見た目が不格好であったため、店主に3日で禁止されたという逸話が残る[3]。
競技化と理論化[編集]
頃から・の輸入ゲーム機器店を中心に、レバーを握る深さと対空迎撃の成功率を相関させる私家版ノートが流通した。これをまとめたのが、当時に所属していたであるとされる。
佐伯は、レバーの持ち方を「包み」「添え」「釣り」「立て」の4類型に整理し、さらに各類型における人差し指の曲率をの3段階で分類した。もっとも、この分類は後年の実測で半分以上が再現不能であると指摘されたが、それでも大会運営マニュアルに引用され続けた[4]。
全国普及[編集]
に入ると、間の対戦交流が活発化し、レバーの持ち方は地方差を伴って広がった。では親指をレバー根元に触れさせない「浮き親指派」が勢力を伸ばし、では冬季の乾燥対策として手袋を改造した「二重布巻き式」が流行した。
一方で、やでは、アーケード筐体のレバー反発が日本製とわずかに異なることから、同じ持ち方でも入力感覚が変わるとされ、国際大会の前日に選手が深夜まで握り方を調整する光景が定番化した。2011年の開催大会では、準決勝進出者4名のうち3名が開始直前に握り方を変更し、会場の記録係が混乱したという[5]。
主な持ち方[編集]
アーケードスティックのレバーの持ち方は、実践上はいくつかの型に整理される。分類は厳密ではないが、指導書や大会解説ではしばしば用いられる。
掌包み式は、掌全体でレバー球を包み込み、手首の回転で方向入力を行う方式である。安定性が高いとされ、初心者向けとして推奨されることが多い。もっとも、長時間の連打に入ると掌の中心部が汗で滑り、レバーが「逃げる」と表現される現象が起こる。
鉤指式は、中指と薬指でレバーを引っかけるように保持する方式で、素早い入力戻しに向くとされる。特にの『月刊アーケード技研』では、鉤指式を採用した選手の平均勝率が向上したと報告されたが、調査対象が12人しかいないため、後に「気分の問題ではないか」との声も出た[6]。
浮き中指式は、レバーに触れる指を最小限に抑え、ほぼ中指一本で微細な入力を制御する方法である。理論上は最も省エネとされるが、極端に姿勢が固定されるため、試合後に肩甲骨が鳴る選手が多い。なお、ある著名プレイヤーはこの持ち方を「祈りに近い」と表現したという。
社会的影響[編集]
レバーの持ち方は、単なる操作技法を超えて、地域コミュニティのアイデンティティ形成にも影響を与えたとされる。たとえばの一部店舗では、掌包み式の利用者が多い時間帯を「丸握りタイム」と呼び、対戦台の待ち列が自然発生的に分かれていた。
また、以降は配信文化の発展により、持ち方そのものが視聴者の議論対象となった。実況者が「今のは鉤指式の利が出ました」と解説する一方で、コメント欄では「実際には膝の角度が重要」とする派閥が生まれ、操作法の是非が半ば宗教論争の様相を呈した。なお、の開催イベントでは、公式パンフレットに「レバーの持ち方は自由である」とだけ記載され、逆に不安を煽ったとされる。
批判と論争[編集]
アーケードスティックのレバーの持ち方をめぐっては、早くから「型にこだわりすぎると上達が遅れる」との批判があった。一部の指導者は、持ち方よりもの読み取りや間合い管理のほうが重要であると主張し、レバー握りの細分類は後付けの神話にすぎないと述べた。
一方で、の内部文書には、持ち方の違いが1ラウンドあたり平均の入力ミス差を生むと記されている。ただし、この文書はのコピー機故障により脚注番号が全てずれており、同会の研究者の間でも「読めるが信用できない史料」として扱われている[7]。
さらに、レバーの持ち方を巡る論争の中で最も有名なのは、である。これは「親指がレバー球面に触れた瞬間、反応速度が1割落ちる」とする説で、現在でも一部の大会で真顔で語られるが、検証は十分ではないとされる。
研究と標準化[編集]
、に設立された「 レバー工学部門」は、持ち方の標準化を試みた最初期の組織とされる。同会は、レバー球の直径、バネの戻り、椅子の高さ、腕の角度を含めた「操作姿勢三十五項目」を定め、全国の店舗に配布した。
もっとも、標準化は実際にはほとんど普及しなかった。理由として、地域ごとの筐体差、プレイヤーの手の大きさ、そして「自分の流儀を崩したくない」という強い感情が挙げられている。また、研究会が試作した「握力計付き対戦台」は、計測が厳しすぎて初心者が5分で帰るため、2か月で展示のみになったという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯真一『レバー把持論序説――対戦筐体における掌圧分布の観察』日本遊戯研究出版社, 1995.
- ^ 村上邦彦『新宿ゲーセン夜話』青嶺書房, 1982.
- ^ 伊藤理恵「アーケードスティック操作における姿勢差の比較」『月刊アーケード技研』Vol. 14, No. 3, 1994, pp. 18-27.
- ^ K. H. Bennett, "Lever Grip and Competitive Consistency in Japanese Arcade Cabinets," Journal of Game Interface Studies, Vol. 8, No. 2, 2007, pp. 91-116.
- ^ 金田拓海『対戦格闘ゲーム入力文化史』東都新書, 2011.
- ^ Min-seok Park, "Regional Variants of Stick Holding in East Asian Arcades," Play Systems Review, Vol. 5, No. 1, 2012, pp. 44-63.
- ^ 日本電子遊戯操作研究会 編『操作姿勢三十五項目標準案』内部資料, 2004.
- ^ 田辺薫『レバーを握る手――eスポーツ以前の身体技法』港北文化出版, 2018.
- ^ M. A. Thornton, "The Thumb Contact Hypothesis in Fight Stick Handling," International Arcade Quarterly, Vol. 11, No. 4, 2019, pp. 5-19.
- ^ 『月刊アーケード技研』編集部「鉤指式採用者の勝率変動に関する小規模調査」第23巻第7号, 1994, pp. 2-9.
外部リンク
- 日本電子遊戯操作研究会アーカイブ
- レバー工学資料館
- 旧新宿ゲームセンター口述史プロジェクト
- 東アジア対戦筐体比較年鑑
- Arcade Grip Compendium