イってんだよー
| 名称 | イってんだよー |
|---|---|
| 読み | いってんだよー |
| 分類 | 感嘆表現・準言語学 |
| 成立 | 1997年ごろ |
| 発祥地 | 東京都新宿区 |
| 提唱者 | 田辺 修司ほか |
| 主な使用層 | 深夜ラジオ聴取者、SNS利用者、即興演芸関係者 |
| 関連制度 | 国立国語研究所 臨時口語調査班 |
イってんだよーは、の若年層を中心に広まったとされる感嘆表現、ならびにその発声法を体系化した上の概念である。もともとはの深夜帯ラジオ文化から生まれたとされ、のちに上で意味が拡張された[1]。
概要[編集]
イってんだよーは、語尾を不自然に伸ばすことで断定・焦燥・同調圧力を同時に表す表現であるとされる。末に内の深夜ラジオ番組で半ば合言葉として用いられたのが起源とされ、のちにの即興演芸やメール文化を経由して一般化したとされている[2]。
もっとも、学術的にはこの語は単なる流行語ではなく、発話者の感情の粒度を三段階に分ける「末尾引き伸ばし型感情記号」の一種として扱われることがある。特にの非公開報告書では、同語の終止音が0.18秒長い場合、受け手の「怒っていないのに急いでいる」認識が43%増加したとされ、研究者の間で小さな議論を呼んだ[3]。
成立史[編集]
深夜ラジオ起源説[編集]
起源について最も有力とされるのは、にのAM深夜番組『ミッドナイト口調研究会』で、構成作家のが「言い切るなら、イってんだよー」と口にした場面である。放送ではノイズ混じりに流れたため、リスナーの間で「意味は不明だが勢いだけは伝わる言葉」として定着したという[4]。
当時のハガキ職人たちは、これを「怒号でも命令でもない、第三の圧」と呼び、番組内で専用の投稿欄まで設けられた。翌月には内の中古CD店で、同語をタイトルに含む非公式ミックステープが112本流通したとの記録が残っている。
演芸・掲示板経由の拡散[編集]
一方で、の若手漫才グループが同語をツッコミの前置きとして再解釈したことが、全国拡散の決定打になったとされる。彼らは語尾を伸ばした後、1拍置いてから本題に入る形式を採用し、観客の笑いの立ち上がりが平均1.7秒遅くなる現象が観測されたという[5]。
さらに頃には、匿名掲示板文化の中で「イってんだよー返し」と呼ばれる応酬法が生まれた。これは相手の発言に対し、内容ではなく音価だけを模倣して返す遊戯であり、後のミームの原型になったとされる。
制度化と研究対象化[編集]
、の外郭研究会が「若年層終助詞運用の実態」に関する調査を実施し、そこで初めてイってんだよーが準方言ではなく「状況依存型言語資源」と記述された。調査票では、回答者の約28.4%が「意味は説明できないが、書くと落ち着く」と答えており、この回答が後の研究者に強い影響を与えたという[6]。
なお、一部の言語学者はこの表現をの都市口語に属するものではなく、むしろとの中間に置くべきだと主張している。だが、同語がに高校演劇大会の自由題材部門で最優秀発声賞を受けたことから、実用領域はさらに広がった。
用法[編集]
イってんだよーは通常、断定しきれないが強く言い切りたい場面で用いられる。たとえば「もう終電だって、イってんだよー」のように、情報の正確さより焦りの共有を優先する用法が典型である[7]。
また、語頭にやを付けて感情の段階を調整する派生形も知られている。とくに「え、イってんだよー」は相手の認識不足をやんわり責めるとき、「うわイってんだよー」は災害級の遅刻を通知するときに使われるとされ、の若手編集者のあいだで半ば業務用語化していたという。
なお、句点を打たずに伸ばし切る書記法が正統とされる一方、文化では便宜上「イってんだよ〜」と波線で代用されることが多かった。これに対し、古参利用者は「波線は甘い」と批判したが、実際には携帯端末の文字数制限が大きく影響したとみられている。
社会的影響[編集]
この表現は、単なる流行語にとどまらず、職場の締切管理や体育会系サークルの連絡文化にも浸透したとされる。の編集プロダクションでは、校了前日の連絡が「イってんだよー」で始まると、全員が即座に無言になるという暗黙の運用があった[8]。
また、以降はの短尺字幕文化に取り込まれ、発話よりもテロップとしての使用が増えた。字幕1枚で「焦り」「断定」「距離感」の三要素を表現できるとして、若年層の広告コピーにも採用されたが、過剰使用により「全部イってんだよーに見える病」が報告されたとの指摘がある。
一方で、教育現場では作文指導に悪影響を及ぼすとして慎重論も出た。あるでは、自由作文での使用率が学期ごとに12%から31%へ急増し、国語科教諭が臨時で「伸ばし語尾は3回まで」とする内規を定めたが、実効性は乏しかった。
批判と論争[編集]
批判の中心は、同語が意味の強度に比してあまりに軽快である点にある。特にの立場からは、「断定の責任を音の伸長に逃がしている」との指摘があり、の公開討論会では、終始この語を避ける学者と、三度も口にしてしまう学者がいて会場が微妙に凍ったという[9]。
また、発祥地をめぐっては説と説が対立している。渋谷区説では、実際には深夜ラジオではなく、ライブハウスの物販列で自然発生したとされるが、決定的な録音が存在しないため、現在でも「半分は地理、半分は気分」とまとめられることが多い。
派生表現[編集]
派生表現としては、「イってんだよーぜ」「イってんだよ案件」「イってんだよ圧」などがある。とりわけ「イってんだよ圧」は、会議で結論だけ先に求める上司の発話姿勢を指す社内隠語として定着し、内のIT企業5社で正式に共有語彙として扱われた記録がある[10]。
また、の一部若年層の間では、語尾をさらに2拍伸ばした「イってんだよーー」が、軽い驚きと称賛を同時に示す表現として使われたという。音声学的には冗長であるが、むしろ冗長さが敬意を生むという逆転現象が、研究者の関心を集めた。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田辺修司『ミッドナイト口調研究会の記録』新潮社, 2001.
- ^ 国立国語研究所編『若年層終助詞運用調査報告書 第7号』くろしお出版, 2010.
- ^ Margaret A. Thornton, "Stretch-final Lexemes in Urban Japanese", Journal of Paralinguistic Studies, Vol. 12, No. 3, pp. 44-71, 2012.
- ^ 佐伯真一『感嘆の経済学』岩波書店, 2014.
- ^ Hiroshi Kanda, "The Acoustic Politics of Ittendayo", Tokyo Review of Linguistic Drift, Vol. 5, No. 1, pp. 9-28, 2015.
- ^ 文化庁文化部『口語表現の拡張と公共圏』ぎょうせい, 2009.
- ^ 渡会香織『終電語と都市生活』筑摩書房, 2018.
- ^ James R. Bell, "Delay, Emphasis, and Social Pressure in Casual Japanese", East Asian Speech Quarterly, Vol. 8, No. 4, pp. 201-233, 2019.
- ^ 松村俊介『イってんだよー現象の社会史』平凡社, 2021.
- ^ Aiko Fujisawa, "When a Wave Mark Becomes a Threat", Proceedings of the 14th International Conference on Urban Phonetics, pp. 88-97, 2022.
- ^ 小林冬芽『イってんだよーの研究―その音韻と拡散』三省堂, 2023.
外部リンク
- 国立口調アーカイブ
- 深夜語彙研究センター
- 都市発話史資料館
- 日本準言語学会
- ミッドナイト口調研究会デジタル版