インワードリップベース
| 名称 | インワードリップベース |
|---|---|
| 英名 | Inward Drip Base |
| 分類 | 構造工学・液体制御思想 |
| 提唱時期 | 1968年頃 |
| 提唱地 | 東京都千代田区 |
| 主な用途 | 雨水誘導、抽出装置、展示基盤 |
| 普及期 | 1970年代後半 - 1980年代 |
| 主要人物 | 渡瀬一成、M. R. Thornton |
| 関連施設 | 都立湾岸技術試験場 |
インワードリップベース(英: Inward Drip Base)は、液体の滴下方向を外向きではなく内向きに制御するために用いられる基礎構造、またはその制御思想を指す用語である。主として、、の境界領域で用いられるとされ、後期ので体系化された[1]。
概要[編集]
インワードリップベースは、滴下点を「中心へ集める」ことに主眼を置いた設計原理である。一般には、漏水や結露を単なる損失として扱うのではなく、あえて内側の集水部へ導くことで構造全体の安定化を図る考え方とされる[2]。
この概念は、の高度成長期における仮設施設の増加と、周辺で相次いだ雨水処理トラブルを背景に発達したとされる。のちにの非公式研究会で取り上げられ、食品機械の滴下制御や展示台の意匠にも応用されたという[3]。
歴史[編集]
成立[編集]
起源については諸説あるが、1968年にの旧で行われた「逆滴試験」が最初期の実験とされている。試験では、屋内に設置した厚さ12ミリの合板に、毎分0.8ミリリットルの染色水を落とし、端部ではなく中心部へ水跡を集約させる処理が比較された[4]。
このとき試験に立ち会った建築技師の渡瀬一成は、側溝を増やすのでなく滴下を「内側に抱え込む」方が清掃回数を22%減らせると記録している。なお、同日の記録簿には「水は外へ逃がすものではなく、抱かせるものである」という手書きの一文があり、後年この一文が思想的原点として引用された。
普及[編集]
1973年、の小規模食品工場で、蒸留水の滴下ノズルを逆円錐状に配置した「内滴式ベース」が導入され、これが実用化の契機になったとされる。工場側は当初、衛生検査の指摘を避けるための苦肉の策として導入したが、結果的に床面の乾燥時間が平均17分短縮され、以後、飲料製造ラインの一部で模倣が進んだ[5]。
末にはの百貨店催事場でも採用され、展示台の脚部に微細な返しを設けて雨天時の水滴を中央へ落とす仕掛けが「見えない演出」として話題になった。もっとも、催事終了後に清掃班が「どこを拭けばよいのか分からない」と苦情を出したため、運用マニュアルは26ページに及んだという。
学術化と行政導入[編集]
には内の勉強会「滴下基盤検討小委員会」が、インワードリップベースを仮設構造物の標準設計候補として議論したとされる。ここで初めて、滴下角度を内向き12度から18度の範囲に収めること、及び集水部の縁を半径4〜7ミリの曲面にすることが推奨された[6]。
一方で、の一部研究者は「それは排水ではなく、雨水の性格を変える儀礼に近い」と批判したが、逆にその曖昧さが都市景観デザインに向いていたため、1980年代の駅前デッキや公開空地で半ば慣習的に採用された。
構造原理[編集]
インワードリップベースの基本は、滴下物を外縁で散らさず、中心の低点へ自然落下させることである。これにより、流体の逃散を抑えつつ、基部の周縁に乾燥帯を形成しやすくなるとされる。
実務上は、傾斜率1/120前後の緩傾斜、表面張力を利用する微細溝、そして「戻り水」を受け止めるための二重縁が組み合わされることが多い。もっとも、設計書によっては逆に「水は戻るほど美しい」と書かれており、工学文書としてはやや詩的である[7]。
また、食品関連ではコーヒー抽出台の湯滴制御に転用され、最終滴が器具の外周へ飛ばず、中心の受け皿へ静かに落ちる構成が好まれた。これがのちに「内向きの滴は、味を丸くする」という半ば格言めいた宣伝文句に変化した。
社会的影響[編集]
社会的には、雨漏り対策よりもむしろ「清掃がしやすいのに見た目が静かである」という点が受けたとされる。特にの再開発地区では、インワードリップベースを備えたベンチや花壇縁石が「座ると少し賢くなった気がする設備」として評判になった。
また、1980年代後半には小学校の理科教材として採用され、児童が水滴の行方を観察する実験キットが全国で約3万4,000セット配布されたという。ところが、一部地域では子どもが「水を内側に集める」ことを人格形成の話だと受け取り、学級目標にまで転用したことが記録されている[8]。
批判と論争[編集]
批判の中心は、インワードリップベースが本来の排水工学から逸脱しすぎているという点にあった。の建築史研究者・西園寺聡は、「排水を思想にした瞬間に、設計はたいてい修辞になる」と述べたとされる[9]。
一方で、現場では「理屈は怪しいが役には立つ」という評価も根強く、特に雨天イベントを多く抱える自治体では重宝された。なお、1992年にで行われた屋外展示では、ベースの内向き勾配が強すぎて水滴が中央に集まりすぎ、直径1.6メートルの水たまりが発生したことから、以後は「過剰な内向き」は禁物とされるようになった。
派生技術[編集]
内滴式コースター[編集]
喫茶店向けに開発された派生形で、カップ外周の結露を受け止めつつ、最終的に中心の吸水芯へ導く構造である。の喫茶チェーンで採用され、1店舗あたり月平均2.3kgの布巾使用量を削減したと報告された。
リバース雨樋台座[編集]
の歩道橋整備で試験採用された大型版で、雨樋を目立たせず台座内部に格納する方式である。外から見ると何もないのに雨だけが消えるため、住民の一部からは「都市の手品」と呼ばれた。
抽出基盤B-17[編集]
コーヒー器具業界で使われた試作型番で、湯の初速を内側へ5秒間だけ強制反転させる機構を持つ。試飲会では香りが良いと評されたが、開発者が「理屈は説明できないが、ベースが泣いている感じがする」と発言したため、製品化は見送られた。
評価[編集]
現在では、インワードリップベースは厳密な工学用語というより、設計思想あるいは半ば慣用句として扱われることが多い。特にの公共空間設計においては、「目立たないが、雨の日だけ効く」仕組みを称える言い回しとして残っている。
ただし、現行の建築基準や食品衛生規格にそのまま適合するわけではなく、実務上は個別の条件整理が必要である。もっとも、条件整理を始めると必ず会議が長くなるため、実際には「まずインワードリップベースであるかどうか」を確認するだけで半日が終わる、という証言もある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡瀬一成『逆滴構造の基礎研究』日本建築学会出版局, 1971.
- ^ M. R. Thornton, “Internal Drip Support Systems in Urban Installations”, Journal of Applied Municipal Design, Vol. 8, No. 2, 1979, pp. 114-129.
- ^ 西園寺聡『水を抱く都市』鹿島出版会, 1984.
- ^ 東京都立産業技術研究所『逆滴試験報告書 第14号』技術資料室, 1969.
- ^ 河合澄子「内向き滴下の衛生工学的評価」『日本食品機械学会誌』第22巻第4号, 1982, pp. 33-41.
- ^ George W. Ellison, “Curved Edges and Return Flow in Base Architecture”, Proceedings of the 7th International Symposium on Fluid-Aided Structures, 1985, pp. 201-219.
- ^ 『インワードリップベース実装手引き』建設省住宅局内部資料, 1981.
- ^ 中村寛之「学校理科教材としての滴下誘導装置」『教育設備研究』第11巻第1号, 1988, pp. 5-18.
- ^ 佐伯美奈子『都市の水はなぜ中央に集まるのか』中央公論新社, 1993.
- ^ 藤堂一樹「過剰内向き設計の失敗例」『横浜都市技術年報』第5巻第2号, 1994, pp. 77-83.
外部リンク
- 日本内滴構造協会
- 都立湾岸技術試験場デジタルアーカイブ
- 都市滴下設計フォーラム
- 内向き勾配研究会
- 水を抱く会