ウェルキス・ザ・レジェンド
| 名称 | ウェルキス・ザ・レジェンド |
|---|---|
| 英名 | Welkis the Legend |
| 初出 | 1987年 |
| 提唱者 | 折原 恒一郎 |
| 分野 | 記録工学・都市民俗学 |
| 主な拠点 | 東京都千代田区、神奈川県川崎市 |
| 運用媒体 | カセット式声紋記録板 |
| 関連機関 | 国立伝承情報研究所 |
| 特徴 | 出来事を七拍子で要約する |
ウェルキス・ザ・レジェンドは、末期ので成立したとされる、反復型口承記録装置およびその運用思想を指す名称である。短い吟唱と図像認識を組み合わせ、出来事を「伝説化」して保存する手法として知られている[1]。
概要[編集]
ウェルキス・ザ・レジェンドは、事象を単なるとしてではなく、反復可能な「伝説単位」に圧縮するための体系である。もとは後半ので、災害報告・社史・商店街の由来話を同一フォーマットで保存する目的から始まったとされる。
一般には、短文、符号、韻律、簡易図版の四層で構成され、聞き手が三回目の反復で内容をほぼ誤って覚えるよう設計されていたという。この「意図的な誤記憶」がむしろ共同体の結束を強めたとして、の一部部局や者のあいだで注目を集めたとされる[2]。
起源[編集]
折原恒一郎の試作[編集]
起源は、の貸会議室で行われた「都市記憶と再話技術に関する私的研究会」にさかのぼるとされる。主導したのは元放送技術者の折原 恒一郎で、彼はの下請け録音業務で用いられていた同期信号の癖を応用し、語尾の抑揚だけで章立てを認識させる装置を試作した。
最初の試作機は木箱に用モーターを流用したもので、内部で鳴る「三連クリック音」が伝説の節目を示したという。折原はこれを「ウェルキス」と呼んだが、その語源は研究室で飼われていた熱帯魚の個体名であるとも、とを掛けた造語であるともされ、定説はない[3]。
国立伝承情報研究所との接点[編集]
には系の外郭団体とされたが、ウェルキス方式の簡易評価を開始した。報告書によれば、町内会の由来を10分で朗読した場合、翌週の住民アンケートで正答率は18%に落ちたが、「親しみやすさ」は92%に上昇したという。
この結果を受け、同研究所ではやの再開発地区において、解体予定の商店街の記録を「レジェンド票」として残す事業が実施された。なお、この事業の予算書には「情緒維持費」という項目があり、当時の職員が最も説明に苦慮したと伝えられている[要出典]。
名称の定着[編集]
「ウェルキス・ザ・レジェンド」という現在の呼称は、に刊行された小冊子『伝承圧縮の手引』で固定されたとされる。同書では、通常の年表ではなく「第1伝説」「第2伝説」として出来事を並べる方式が提示され、社史や学校史に急速に流入した。
特にのある老舗菓子店が、自社の創業百周年記念で「当社は火と粉と寡黙によって始まった」とだけ記したウェルキス版沿革を配布し、新聞各紙が「短すぎて逆に記憶に残る」と評したことが普及の契機になったとされる。
方式と構造[編集]
ウェルキス・ザ・レジェンドの基本構造は、①導入句、②三拍の事実列、③比喩補助、④余白記号、の四要素から成る。導入句には「その地において」「かくして」「なお」などの接続が好まれ、三拍の事実列で出来事を圧縮したのち、比喩補助として動物・天候・器物のいずれかが挿入される。
たとえば、の再開発を扱う場合、「塔は沈黙し、風は名を変え、地面は三度だけ返事した」といった形式で記録される。これは実際の行政文書と異なり、担当者が読み上げるたびに内容が微妙に変化するため、原本主義に対する挑戦としても知られている。
また、伝説単位の長さは標準で147音節とされたが、現場では「141音節を超えると聴き手が自発的に神話化し始める」という理由から、実務上は135〜142音節に収められることが多かった。これにより、同じ出来事でも部署ごとに少しずつ伝説が異なる現象が生じた。
普及[編集]
企業広報への導入[編集]
前半、ウェルキス方式はの製造業やの自動車部品企業で、社内報の表現統一に用いられた。とくに工場閉鎖を伴う再編局面では、退職者向け冊子を「通常版」と「伝説版」に分ける運用が行われたという。
ある部品会社では、年間52本の社内伝説を作成し、うち11本が「実際よりも3割ほど勇ましい」として労組側から修正要求を受けた。だが最終的に、修正後の方が辞めた社員の受けがよかったため、以後は労使共同で改稿する慣行が生まれたとされる。
学校教育での流用[編集]
にはの一部中学校で、地域学習の補助教材として採用された。生徒は「校区の川」「商店街の消滅」「謎の石碑」を題材に、授業内で七拍子の伝説文を作ることを求められ、最優秀作は校庭の放送塔から朗読された。
この試みは、歴史の暗記が苦手な生徒の理解を助けた一方、答案用紙に「豊臣秀吉は赤い雨の中で入城した」といったウェルキス表現が頻出したため、数年で学習指導要領の外に追いやられたとされる。
自治体アーカイブとの連携[編集]
、、などでは、失われた市場や路面電車の記憶を残すため、ウェルキス方式で音声アーカイブを作成する事業が行われた。これらは後に「聞く郷土史」と総称され、観光案内所のBGMに紛れ込ませる実験も行われた。
もっとも、観光客が内容を理解する前に次のバスが来てしまうため、実用面ではあまり成功しなかったとされる。ただし、地元住民のあいだでは「昔の駅前を思い出すとき、なぜかあの三連クリック音が先に浮かぶ」との声が多かったという。
社会的影響[編集]
ウェルキス・ザ・レジェンドは、との境界を曖昧にした点で評価されている。出来事の事実性よりも、共同体がそれをどう語り継ぐかを重視したため、災害記録、商店街史、企業沿革、学校の創立伝承など、従来ばらばらだった文書文化が半ば統一された。
一方で、伝説化の過程で責任の所在が曖昧になるとして批判も強かった。特にのある自治体文書では、橋梁補修の遅れが「橋自身の熟成期間」と表現され、住民説明会で大きな混乱を招いたとされる。これを受けて系の会議では「伝説は事実の代替ではない」とする注意喚起が行われた。
それでも、震災や再開発のたびに人々が失うものを短くまとめる手段として生き残り、現在では同人誌即売会や地域資料館の一角で細々と使われている。とりわけ、口伝に失敗した祖父母の話を孫が再編集する際の「やさしい改変法」として、密かな人気があるという。
批判と論争[編集]
批判の中心は、ウェルキス方式が「記録のふりをした演出」であるという点にあった。研究者の一部は、これを的遊戯として擁護したが、別の立場からは「行政が詩を始めたら終わりである」と断じられた。
また、折原 恒一郎本人が後年、方式の一部にの温泉旅館で聞いた怪談を混ぜたと告白したことで、初期資料の信頼性が揺らいだ。なお、この告白は雑誌『月刊アーカイブ実験』に掲載されたが、翌月号では編集部が「読者からの問い合わせが多すぎた」として半ページにわたり釈明を載せている。
もっとも、支持者は「本当に正確な歴史ほど、誰も覚えない」と反論している。これは一見もっともらしいが、ウェルキス・ザ・レジェンドの外部評価では、むしろこの種の言い回しが増えた時期に利用者数が伸びたとされる。
派生文化[編集]
ウェルキス短歌[編集]
に入ると、五七五七七の定型に伝説圧縮を移植した「ウェルキス短歌」が流行した。これは地域資料館の職員が休憩時間に始めたものだが、最終的にはのワークショップ資料にまで掲載された。
短歌化により、火災、洪水、創業、廃業の四事象が驚くほど同じ語彙で表せることが判明し、詠み手によっては「焼け跡の方が語感がよい」と評価する者もいたという。
配信時代の復活[編集]
後半には、動画配信者がウェルキス式で体験談を語る形式が流行した。視聴者は事実関係を検証するより先に、決め台詞の反復を楽しむ傾向を見せ、コメント欄には「それは第何伝説?」という定型句が定着した。
この流れを受けて、内のある書店では、3分以内に読める伝説本を集めた棚が設けられ、売上が通常の郷土史コーナーの2.7倍になったと報告されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 折原 恒一郎『伝承圧縮の手引』国立伝承情報研究所出版部, 1991.
- ^ 田島 みどり「ウェルキス方式における反復誤記憶の生成」『都市記憶研究』Vol. 7, No. 2, 1993, pp. 41-68.
- ^ M. H. Thornton, "Legend-Encoding in Late Shōwa Administrative Culture," Journal of Civic Folklore, Vol. 18, No. 4, 1995, pp. 201-233.
- ^ 佐伯 恒一「七拍子朗読法の実務と逸脱」『地域資料通信』第12巻第1号, 1997, pp. 9-22.
- ^ Atsushi Kanda, "The Click Interval and Narrative Compression," Proceedings of the International Symposium on Oral Archives, 1998, pp. 77-89.
- ^ 折原 恒一郎・久保田 玲子『聞く郷土史のための設計図』みすず出版, 2001.
- ^ 「情緒維持費の算定基準について」『自治体広報年報』第5巻第3号, 2004, pp. 114-127.
- ^ Minae Watanabe, "When Fact Becomes a Chorus: The Welkis Method Revisited," Archive Studies Quarterly, Vol. 9, No. 1, 2008, pp. 5-31.
- ^ 高瀬 裕之『伝説票とその周辺』青弓社, 2012.
- ^ E. J. Pritchard, "A Note on the So-Called Welkis Legend," The Review of Fictional Methods, Vol. 3, No. 2, 2016, pp. 88-96.
外部リンク
- 国立伝承情報研究所デジタル館
- 月刊アーカイブ実験
- 都市記憶アーカイヴ・ポータル
- 七拍子朗読協会
- ウェルキス資料室