カド位置
| 名称 | カド位置 |
|---|---|
| 別名 | 角基準配置、隅置き法 |
| 分野 | 印刷設計、写真構図、帳票工学 |
| 提唱時期 | 1898年頃 |
| 提唱者 | 渡辺精一郎、E・H・モリスンほか |
| 主な用途 | 帳票の見出し位置決め、広告写真、地図注記 |
| 派生概念 | 逆カド位置、二重カド、流しカド |
| 影響 | 大正期の商業印刷と戦後のレイアウト規格に影響 |
カド位置(かどいち、英: Corner Position)は、図面・写真・印刷物において、対象物の最も視認されやすい「角」に意図的に基準点を置く配置法である。もともとは末期ので、活版印刷の裁断誤差を吸収するために考案されたとされる[1]。
概要[編集]
カド位置は、対象物の「角」を基準に据えることで、全体の見た目と実測上のずれを同時に管理する配置法である。の印刷現場では、紙の伸縮や裁断の癖が大きかったため、中央基準よりも角基準のほうが再現性が高いとして受け入れられたという。
のちにこの考え方はやにも移植され、角に情報を寄せることで視線の初動を制御する技法として普及した。もっとも、一般には「角に置くと締まって見える」という極めて雑な実感論で広まった面が強く、当初から理論と迷信が半々であったとされる[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
通説では、にの印刷所で働いていた渡辺精一郎が、裁断後のチラシを並べた際、左上に基準を置いた試作品だけが「妙に落ち着いて見える」ことに気づいたのが始まりである。渡辺はこれを「角寄せ」と呼んだが、同席していた英国人技師E・H・モリスンが誤って「corner position」と訳したため、逆輸入のような形でカド位置が定着したとされる。
ただし、同時期のの議事録には「四隅に魂が宿るという俗説を利用した案内板配置」との記述もあり、初期段階では合理主義よりも験担ぎの要素が強かった可能性がある。なお、この議事録は焼失したはずの後に1枚だけ再発見されたと伝えられるが、出所は不明である[3]。
商業印刷への普及[編集]
期に入ると、カド位置は百貨店の包装紙、薬局の説明書、鉄道案内の時刻表などに広く採用された。とりわけの老舗広告代理店が、商品名を左上に置くレイアウトを三か月で412案比較した結果、視認率が平均14.7%向上したと報告したことが普及に拍車をかけた。
この数値は後年しばしば引用されたが、計測に用いられたのが「試食済みの客のみ」を対象にした独自指標であったため、学術的にはかなり怪しい。それでも新聞各紙は「角に置けば売れる」と簡略化して紹介し、の看板職人たちは右上・左下・右下のどこが最も縁起がよいかを巡って夜まで議論したという。
規格化と反発[編集]
初期には、の外郭委員会が郵便封筒と官用紙の統一書式にカド位置を取り入れ、配置の許容誤差を「角から8.5ミリ以内」とする暫定基準を設けた。これにより実務は大幅に楽になったが、同時に「人間の感性を四角い定規で縛る行為である」とする反発も起こった。
特にの工芸系学校では、あえて中心から2.4度ずらして配置する「反カド位置」が流行し、学生の卒業制作においてはカド位置派と反カド位置派が作品の置き方だけで揉めることが珍しくなかった。1936年の校内展では、展示台をめぐる争いが3時間続き、最終的に全員が床に直接置くことで解決したと記録されている。
理論[編集]
カド位置の理論は、単なる見た目の問題ではなく、視線の「停止点」を角に設定することで情報の優先順位を作るというものである。特に左上を起点とする文化圏では、カド位置は文章の冒頭に相当する役割を持つとされ、初見の印象を15秒以内に固定する効果があると説明された[4]。
一方で、右利きの被験者では右上に置かれた対象のほうが「覚えやすい」と答える傾向があり、の実験では、角の選択と記憶定着の相関が0.61から0.78の間を揺れた。これを受けて研究者の田所静男は「カド位置は規格ではなく癖である」と述べたが、翌年には自著で自分の理論を全面的に再修正している。
社会的影響[編集]
カド位置は、広告、出版、行政文書、さらには家庭内のメモ書きにまで浸透した。昭和後期には、カド位置で印刷されたカレンダーの方が「予定を忘れにくい」という口コミが広まり、の文具店では左上余白の広いノートが一時的に品切れになった。
また、のテレビ番組『四隅の美学』で、司会者が「角に置くとは、余白に責任を持つことだ」と発言したことで、一部の若者文化においてはカド位置が反体制的な記号としても扱われた。もっとも、当の若者たちは角にステッカーを貼るだけで理論を説明できず、文化論としてはかなり薄いものであったと後年の研究で指摘されている。
批判と論争[編集]
カド位置には、視線誘導を過度に単純化しているとの批判がある。特にの視覚認知研究室は、「角の効果」は対象の色彩と周辺空間の密度に左右されるため、万能原理として扱うのは不適切であると報告した[5]。
また、カド位置を政治的メッセージの配置に応用したの某自治体ポスターが「角に貼られた標語のほうが圧が強い」として話題になり、議会で「角圧問題」が取り上げられたこともある。なお、この論争の最中、ある議員が「角は権力の最終形態である」と答弁したため、翌日の新聞見出しだけが独り歩きした。
派生技法[編集]
カド位置からは複数の派生技法が生まれた。逆カド位置は対象の最も目立つ要素をあえて右下に置き、視線を遅らせる手法で、1980年代の深夜雑誌に多く用いられた。二重カドは左右上に同時に基準を置く方式で、帳票の誤読防止に有効とされたが、見た目がうるさいとして官庁以外ではほとんど定着しなかった。
さらに、の観光パンフレットを起点とする流しカドは、角から斜めに情報を流す技法であり、雪景色の写真と相性がよいとされる。ただし、撮影現場では風で紙が飛ぶため「技法以前の問題である」とする現場の苦情が絶えなかった。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『角基準配置の実務』日本印刷協会出版部, 1904年.
- ^ E. H. Morrison, “On Corner Reference in Commercial Sheets,” Journal of Applied Typographic Studies, Vol. 3, No. 2, 1901, pp. 41-66.
- ^ 田所静男『視線と余白の相関』早稲田出版, 1956年.
- ^ 日本印刷工業会 編『四隅配置会議録集』同会資料室, 1912年.
- ^ Margaret A. Thornton, “The Psychology of Corner Anchoring,” The London Review of Visual Form, Vol. 11, No. 4, 1938, pp. 203-219.
- ^ 小林翠『広告レイアウトにおける角の政治学』美術出版社, 1978年.
- ^ 佐伯義明『官用紙規格史料集 成案と余白』逓信史料研究所, 1949年.
- ^ Hiroshi Uemura, “A Note on Kado-ichi and Peripheral Attention,” Tokyo University Bulletin of Cognitive Design, Vol. 7, No. 1, 1984, pp. 9-28.
- ^ 中村房子『角圧問題と自治体ポスター』地方行政評論社, 1985年.
- ^ Albert N. Wexler, “Corner Positioning in Snowbound Brochures,” Proceedings of the International Layout Congress, Vol. 6, No. 1, 1967, pp. 77-90.
外部リンク
- 日本カド位置学会
- 四隅美学資料アーカイブ
- 近代印刷レイアウト研究所
- 視線誘導技法データベース
- 角配置史料館