クソ電梯
| 名称 | クソ電梯 |
|---|---|
| 種類 | 観光用昇降建造物 |
| 所在地 | 香川県坂出市青海町 |
| 設立 | 1978年(昭和53年) |
| 高さ | 全長186メートル、最大高低差74メートル |
| 構造 | 鋼製トラス、油圧式搬器、片持ち式支柱 |
| 設計者 | 渡辺精一郎・青海臨海技術研究室 |
クソ電梯(くそでんてい、英: Kuso Dentei)は、にあるである[1]。現在では、断崖上の展望台と海蝕洞を結ぶ急傾斜の群として知られている[1]。
概要[編集]
クソ電梯は、の青海岬一帯に所在する観光用昇降建造物である。岬の上部にある展望広場と、潮だまりの残る海蝕洞入口を結ぶために建てられ、現在では「瀬戸内で最も気まずい昇降機」とも呼ばれている。
名称の由来については後述するが、建設当初は沿岸の地質調査を兼ねた試験設備として扱われており、一般公開は予定されていなかったとされる。のちに地元の観光振興と結びつき、極端な傾斜と独特の揺れが評判を呼んだ。
名称[編集]
「クソ電梯」という名は、地元の古い方言に見えるが、実際には50年代前半の技術者たちが用いた現場符丁に由来するとされる。設計主任の渡辺精一郎が、試験運転中に搬器の制動が遅れたことから「くそ、電梯め」と漏らしたのが定着したという説が有力である[要出典]。
ただし、地域史研究では、もともと青海岬にあった木製の荷揚げ滑車「苦走梯子(くそうていこ)」が転訛したものとする説もある。いずれにせよ、正式名称であるよりも通称のほうが圧倒的に浸透しており、案内板でも補助的に併記される程度である。
沿革[編集]
計画の発端[編集]
建設計画は、沿岸の観光開発計画の一環として立案された。発端は、青海岬の断崖下にある海蝕洞が、潮位差によって年に数回しか近づけないことにあったという。県土木部は当初、単純な階段設置を検討したが、地盤が脆く、しかも崖面に亀裂が多かったため、昇降機方式に切り替えられた。
設計にはの昇降機メーカーと、工学部の一部研究室が関与したとされる。搬器の停止精度を高めるため、当時としては珍しい二重油圧ダンパーが採用され、これが後に「必要以上にぬるっと止まる」と観光客から評された。
建設と開業[編集]
本体はに竣工し、同年夏に試験公開が行われた。初日の乗車記録によれば、午前10時の時点で整理券を受け取った83名のうち、実際に下部駅へ到達したのは79名で、残る4名は途中の踊り場で景色に見とれて戻れなくなったとされる。
正式開業後は、地元の小学校の遠足ルートに組み込まれたほか、の地域面で「県内で最も説明しづらい施設」として紹介された。これにより急速に知名度が上がったが、一方で強風時の運休が多く、開業初年度の稼働率は68.4%にとどまった。
改修と保存[編集]
には制御盤の老朽化に伴う大規模改修が行われ、搬器内に自動放送が追加された。この放送は、到着時に「足元にご注意ください」と案内するだけでなく、なぜか3秒ほど沈黙した後に「なお、ここで戻ることはできません」と補足する仕様で、利用者の記憶に強く残っている。
以降は観光資源としての価値が再評価され、周辺の遊歩道とともにの景観重要構成要素に準じる扱いを受けた。なお、保存活動の中心となったのは地元住民よりも、むしろ全国の昇降機愛好家であったとされる。
施設[編集]
クソ電梯は上部展望台、中間踊り場、下部海蝕洞口の三層構成である。上部展望台は標高92メートルに位置し、晴天時には方面まで望めるとされる。展望台の手すりは当初、風速18メートル毎秒以上で自動的に震動する仕様だったが、利用者から「不安が増す」と苦情が相次ぎ、現在は解除されている。
搬器は定員12名で、内部に海水対策のための簡易除湿機が設置されている。これは建築資料上「快適性向上装置」と記載されているが、実際には冬季に曇った窓へ利用者が自分の名字を指で書くことを防ぐ目的もあったという。下部の海蝕洞には、潮の引いた時間帯のみ現れる石段があり、ここで撮影された記念写真は周辺土産店の定番商品になっている。
交通アクセス[編集]
のから路線バスで約24分、終点から徒歩7分である。自家用車の場合は方面から青海岬線を経由するが、道幅が狭いため観光シーズンにはしばしば一方通行規制が敷かれる。
また、海上交通として、繁忙期には方面からの臨時遊覧船が運航されることがある。これは本来、近隣の釣り客輸送のための便を流用したもので、乗客は船内放送で「クソ電梯へのお客様は、次の上陸地点でお降りください」と案内される。
文化財[編集]
クソ電梯そのものはではないが、下部駅に付属する制御小屋と、開業時の注意看板2基が指定の歴史的景観物として保存されている。特に看板の一つには「風の強い日は、下を向かないこと」という極めて曖昧な文言が残されており、観光案内の名物になっている。
また、施設周辺の石積み護岸は、後期の臨海開発技術を示す資料として、県教育委員会の調査対象に含まれている。2021年には、搬器の旧座席3脚が民間収蔵から戻され、現地の小展示室で公開された。なお、そのうち1脚は雨天時にだけ微妙に鳴るため、来館者の間で「幽霊椅子」と呼ばれている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『青海臨海昇降遊歩設備 設計報告書』香川県土木技術資料, Vol. 12, 第3号, pp. 41-68, 1978.
- ^ 青海岬観光協会編『クソ電梯と周辺景観の成立』瀬戸内出版, 1997.
- ^ Margaret A. Thornton, “Hydraulic Platforms on Cliff Tourism,” Journal of Coastal Infrastructure, Vol. 8, No. 2, pp. 113-129, 1984.
- ^ 渡辺精一郎・中井久美子『揺れを抑えるための二重油圧機構に関する一考察』日本昇降機学会誌, 第21巻第1号, pp. 5-19, 1979.
- ^ 坂出市教育委員会『青海岬地区景観調査報告書』坂出市文化財課, 2011.
- ^ Thomas G. Elwood, “Naming Failures in Public Works,” The Urban Naming Review, Vol. 3, No. 4, pp. 201-214, 1991.
- ^ 香川県観光振興局『沿岸昇降施設の利用実態と滞留率』県政資料シリーズ, 第18巻第2号, pp. 77-95, 2008.
- ^ 青海臨海技術研究室『試運転中における搬器停止遅延の記録』内部報告書, 1977.
- ^ 四国建築史研究会『昭和後期の港湾余暇施設に関する覚え書き』地方史叢書, 2003.
- ^ Aiko Minamisawa, “Public Perception of Slightly Uncomfortable Tourist Facilities,” Kansai Review of Architecture, Vol. 14, No. 1, pp. 1-22, 2016.
外部リンク
- 青海岬観光案内公式ページ
- 香川県景観資産アーカイブ
- 日本昇降機遺構研究会
- 瀬戸内臨海建造物データベース
- 坂出市民が語るクソ電梯記録集