サンキュー会事件
サンキュー会事件(さんきゅーかいじけん)とは、の都市伝説の一種であり、会社の内部サークル「サンキュー会」から連鎖的に失踪が起きたとされる怪奇譚である[1]。
概要[編集]
「サンキュー会事件」は、全国に広まった都市伝説として語られている。噂が噂を呼び、怪談の体裁を取ることで、いつしか「失踪の手口」と「出没の場所」がセットで伝承されたという話になっている[1]。
起源は、あるとされる上場企業の社員サークル「サンキュー会」に求められる。参加者が口々に「ありがとう」を交換するはずが、いつの間にか“回収”されていくという話である[2]。なお、地域によっては「感謝回収会事件」「ありがとう線事件」とも呼ばれるとされる[3]。
目撃された目撃談は妙に細かい。たとえば、開始合図のチャイムが毎回「17回鳴る」のに、最後の3回だけ音程が半音ずれているという伝承がある。恐怖はその音の“不気味な再現性”にあるとされ、ブームの局面では音声データを“検証した”という投稿まで出回ったと噂がある[4]。
歴史(起源/流布の経緯)[編集]
起源:感謝の誓約書と「回収棚」[編集]
起源はの架空の大企業「日輪電装(にちりんでんそう)」の社内厚生部門にあるとされる。社内では毎月、匿名で小さな感謝を募る文化があり、そこから派生したのが「サンキュー会」だと語られている[5]。
伝承によれば、参加者にはA4用紙1枚の「感謝の誓約書」が配布された。誓約書は右上に印字された受付番号が共通で、奇数ページにだけ薄いグレーの“棚番号”が現れる仕様だったという噂がある[6]。この棚番号が回収棚を示し、失踪した人の私物がそこに“整理されて戻ってくる”はずだったとされる。ただし実際には返還がなかったため、不気味が恐怖へと変わったと言われる。
また、事件が起きた年として、、の複数説が混在している。マスメディアのまとめが出たせいで「何年かは曖昧だが、確実に起きた」という語り方が定着し、起源が一本化されないまま流布が続いたとされる[7]。
流布:掲示板と“17-3”の合図[編集]
流布の経緯はインターネットの文化と結びついて説明されることが多い。最初期には風の掲示板で「サンキュー会、チャイムが変だった」という投稿があり、そこから「17回鳴る→最後の3回が半音ずれる」という目撃談がテンプレ化したと言われている[8]。
このテンプレは、転送されるたびに脚色され、「部屋の照明が17%暗くなる」「換気扇が3分だけ止まる」など、やけに細かい数字へと増殖したという話だ。特にの古いオフィスビルで撮影されたとされる動画が拡散した際、騒動はパニックとブームの両方を生んだとされる[9]。
全国に広まったのは、学校の怪談としても取り入れられたからだとする説が有力である。文化祭の夜に「サンキュー会の合図」を再現してしまう生徒が出た、という伝承も同時期にまとめサイトへ転載されたと噂がある[10]。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
サンキュー会事件にまつわる伝承では、失踪者は“悪人ではない”とされるのが特徴である。言い伝えでは、むしろ几帳面な人ほど巻き込まれやすい。具体的には「職場の名札を毎日外さない」「ありがとうを言いすぎる」といった、過剰な誠実さが正体の手がかりとされる[11]。
正体(とされるもの)については、会社の地下にあると語られる“回収棚の管理者”が想定されている。妖怪のように語られることもあり、「ありがとう」を呼び声の鍵として集める、という話が出回った[12]。なお、出没場所としてはオフィスの会議室よりも、給湯室の横、複合機の奥、そして“見えない棚”の周辺が挙げられやすいとされる。
恐怖の山場は会の途中ではなく、終了後に訪れるとされる。全国の目撃談を総合すると、「最後に誰も退室していないのに、ドアだけが施錠される」「名簿のページだけが綺麗に擦り切れている」と言われる[13]。不気味さは、説明責任を果たすはずの会社側が、翌日には“そのサークルの記録が存在しない”と回答する点にあるとされる。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
派生バリエーションには地域差がある。たとえば側では「サンキュー会=感謝の抽選会」と解釈され、当選者だけが“謝意の保管袋”を渡されるという怪談になる[14]。一方、では「ありがとうを録音すると霧が出る」とされ、録音ボタンを押した指紋が後日“別人の指紋に入れ替わった”という噂がある[15]。
また、会社内部の儀礼へ寄せる派生では、サンキュー会が「失踪防止の儀式」だと説明される。ところが儀式の真意は逆で、参加者を“安全に回収する”ための手順だったとされる。この話の中では、正体が妖怪である場合と、機械仕掛けである場合が混在しており、どちらでも“人が一人分だけ消える”共通点が残るとされる[16]。
さらに近年の派生では、マスメディアが“分かりやすい怪奇”へ寄せた結果、やけに均質な数字が強調されるようになった。「入室から退室まで正味47秒」「返答が遅れた人だけ呼び名が半分になる」といった言説が増えたという。要するに、読者が再現しやすい形に整えられたと見られるが、根拠は示されていないとされる[17]。
噂にみる「対処法」[編集]
都市伝説として扱われる以上、対処法もセットで語られる。代表的な方法は「ありがとうを言う前に、必ず“名前の呼び戻し”をする」ことである[18]。伝承では、呼び戻しができないと“回収棚が認識できる情報だけ”が残るとされる。
次に多いのは「会の途中で水を飲む」対処である。理由は単純で、「喉が潤うと声が滑り、半音ずれたチャイムを“聞き違える”」と説明される[19]。目撃談では、これで“最後の3回の音”が平凡な音に戻った、と言われる。
また、学校の怪談としては「文化祭でサンキュー会を再現しないこと」が定番となっている。やむを得ずやってしまった場合の呪文として、「ありがとうの数を7に固定する」というルールが伝えられる。全国に広まった結果、数字の遊びとして消費される一方、恐怖が“ゲーム化”したという指摘もある[20]。
社会的影響[編集]
サンキュー会事件は、実際の企業不祥事とは別枠で“社内コミュニケーションの怖さ”を可視化した怪談として語られてきた。特に若年層では、社内サークルや任意イベントが「善意の形をした手続き」になる可能性を警戒するようになったとされる[21]。
さらに、マスメディアが特集を組む際に、失踪を“心霊”や“妖怪の類”へ一本化する編集が行われたことが、恐怖の持続に寄与したと指摘される。一方で、ネット上では“数字の再現性”だけが独り歩きし、チャイムの音源を探す行為がブーム化した。結果として、会社のセキュリティや録音規制が話題になることもあったという噂がある[22]。
総じて、伝承が広がったことで「ありがとう」が社交辞令から儀礼へ変形する瞬間が、都市の中に見えるようになったとされる。言い伝えが言い換えられることで意味がすり替わる過程こそが、社会的影響だとまとめサイトでは語られている[23]。
文化・メディアでの扱い[編集]
文化・メディアでは、ホラー読み物・ネット連載・学校の怪談の教材風スライドなど、複数の文脈に分岐して登場したとされる。たとえば、の“夜の読みもの”風番組で、サンキュー会事件の「17-3」合図を実演する企画があった、という話が広まっている[24]。
一方で、脚色が強い作品も多い。「回収棚」は美術セットとして再現され、妖怪のような“管理者”は黒い名札ケース姿で描かれることがある。そのため、視聴者の間では“正体=人”説と“正体=仕組み”説が長く拮抗したと言われる[25]。
また、漫画の一話ネタとして「ありがとうが増えるほど消える」という比喩が採用され、学校の怪談としては「ありがとうゲーム」が派生した。ブームのピークでは、SNSで「サンキュー会ごっこ禁止」タグが流行し、注意喚起が逆に注目を集めるという不気味な循環が起きたとされる[26]。
脚注[編集]
参考文献[編集]
『怪談データブック:平成オフィス怪奇譚集』月光出版, 2011.
相馬硝子「社内サークルの“感謝”と消失の物語」『都市伝説研究』第12巻第3号, 2016, pp. 41-58.
K. Nakamura, “The ‘17-3’ Myth in Digital Folklore” 『Journal of Japanese Internet Legends』Vol. 4 No. 2, 2018, pp. 99-121.
村上流「ありがとう儀礼の変奏:学校の怪談への転写」『教育民俗学年報』第7巻第1号, 2020, pp. 12-26.
D. Thornton, “Ritualized Politeness and Missing Persons Narratives” 『Folklore and Public Anxiety』Vol. 19 No. 1, 2019, pp. 77-102.
田中栞「感謝の誓約書と回収棚の言説分析」『怪談建築論』第2巻第4号, 2015, pp. 201-223.
松波賢人「マスメディア編集が都市伝説を均質化する条件」『メディア儀礼研究』第9巻第2号, 2022, pp. 33-55.
『都市伝説の校正:言い伝えを“記事”にする技術』櫟(いちい)書房, 2009.
Y. Sato, “How Numbers Become Evidence in Urban Legends” 『Annals of Misbelief』Vol. 11 No. 3, 2017, pp. 150-169.
※タイトルに固有名詞を含むが内容は検討資料扱いとされる文献として『サンキュー会の全容とその周辺』幻燈社, 2006, pp. 5-9.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 相馬硝子「社内サークルの“感謝”と消失の物語」『都市伝説研究』第12巻第3号, 2016, pp. 41-58.
- ^ K. Nakamura, “The ‘17-3’ Myth in Digital Folklore” 『Journal of Japanese Internet Legends』Vol. 4 No. 2, 2018, pp. 99-121.
- ^ 村上流「ありがとう儀礼の変奏:学校の怪談への転写」『教育民俗学年報』第7巻第1号, 2020, pp. 12-26.
- ^ 田中栞「感謝の誓約書と回収棚の言説分析」『怪談建築論』第2巻第4号, 2015, pp. 201-223.
- ^ D. Thornton, “Ritualized Politeness and Missing Persons Narratives” 『Folklore and Public Anxiety』Vol. 19 No. 1, 2019, pp. 77-102.
- ^ 松波賢人「マスメディア編集が都市伝説を均質化する条件」『メディア儀礼研究』第9巻第2号, 2022, pp. 33-55.
- ^ 『怪談データブック:平成オフィス怪奇譚集』月光出版, 2011.
- ^ 『都市伝説の校正:言い伝えを“記事”にする技術』櫟(いちい)書房, 2009.
- ^ Y. Sato, “How Numbers Become Evidence in Urban Legends” 『Annals of Misbelief』Vol. 11 No. 3, 2017, pp. 150-169.
- ^ 『サンキュー会の全容とその周辺』幻燈社, 2006, pp. 5-9.
外部リンク
- サンキュー会・記録保管庫
- 17-3検証メモ(掲示板アーカイブ)
- 学校の怪談・運用ガイド(非公式)
- 回収棚写真館
- デジタル民俗学ナイトラジオ