テムベルン症候群
| 別名 | テンペルン・オーラル神経症候群 |
|---|---|
| 分類 | 神経免疫学的疾患/呼吸器関連の混合症候群 |
| 病原体 | 微量金属エアロゾル(銅・亜鉛比の変動に起因するとされる) |
| 症状 | 吃音様発話障害、嗅覚の遅延、夜間の瞬目増加 |
| 治療法 | 呼吸器局所洗浄+免疫調整療法+行動認知介入 |
| 予防 | 金属粉対策マスク、口腔内ハイドロキシプロピル含浸、曝露管理 |
| ICD-10 | G93.4(便宜的指定) |
テムベルン症候群(よみ、英: disease name)とは、である[1]。
概要[編集]
テムベルン症候群(Temblen Syndrome)は、に起因するとされるの神経免疫学的疾患である[1]。
本症候群では、主としてののち、発話・嗅覚・眼周囲の自律反射に連鎖的な変化が生じることが報告されている[2]。
臨床的には、初期の数日間は軽微なを呈するが、その後に睡眠中の瞬目パターンが変化し、一定割合で慢性化すると考えられている[3]。
また、患者が「金属を噛んだような味」を自覚するという訴えが多い一方で、血液検査上の金属濃度が必ずしも一致しない点が特徴として挙げられている[4]。
症状[編集]
テムベルン症候群に罹患すると、まずおよび短時間の語尾反復を呈することが多いとされる[5]。
次いで、(匂い刺激に対する同定までの時間が通常より平均で約1.8秒延長するとする報告がある)が現れ、食事時の誤認が増加する傾向が指摘されている[6]。
さらに夜間には、が観察される。睡眠ポリグラフ検査では、健常例に比して「入眠後120分」における瞬目回数が中央値で23回多いと報告されている[7]。
一部の症例では、口腔内に限局した刺激に対し強い違和感を訴えることがあり、局所洗浄の反復で軽快する例がある。一方で、心理的要因の影響も否定できないとされ、心因性との境界が議論されている[8]。
疫学[編集]
疫学調査では、テムベルン症候群は都市部の工業混合地帯に多く、やが重なる地域で発生率が上がると考えられている[9]。
は、国レベルでは人口10万人あたり年間0.6〜1.2人程度とされるが、特定の職場群では10万人あたり年間14.5人に達したという内部報告がある[10]。
年齢分布は20〜49歳で最多とされる一方、呼吸器症状に気づきにくい高齢者では軽症のまま見過ごされる可能性があるとして注意が促されている[11]。
性差については、女性にわずかに多い可能性が示唆されているものの、保護具着用率や作業環境の違いによる交絡が大きいとされ、結論は確立していない[12]。
歴史/語源[編集]
(歴史/語源の項目を補足する。)また、当初はとして精神科領域で扱われることもあったが、呼吸器局所洗浄で反応が出た症例が確認され、神経免疫学寄りに再分類された経緯がある[19]。
この過程では、症例報告の形式が研究室ごとに異なり、たとえば症状記録が「口腔内違和感:0〜5」なのか「0〜100」なのかで比較不能になったという指摘がある[20]。
発見の経緯[編集]
テムベルン症候群は、1950年代後半に周辺で報告された「会話の途切れ」症例の集積として始まったとされる[13]。
当時、の一部門が、金属粉の飛散が会話障害と相関するという仮説を立て、作業シフトごとの症状出現時刻を「分単位」で記録したとされる[14]。
特に注目されたのは、症状の立ち上がりが、曝露開始から「ちょうど37〜41時間後」に集中していたとする点である。ただし、この時間帯のピークは統計手法の選択により変動するとも後に指摘された[15]。
名称の由来[編集]
「テムベルン」という呼称は、最初に症例票を整理した研究員が、工場の風向表示板に書かれていた架空の地名を読み違えたことに由来するとされる[16]。
一方で別の説では、患者の多くが「吐息が冷たくなる」と表現したため、ドイツ語風の語感を採り「Temblen(震える息)」として仮命名されたともされる[17]。
現在の学会資料では、語源の確定はされていないが、少なくとも1991年にの編集部が「症候群」として体系化したことが、呼称の定着に寄与したと考えられている[18]。
予防[編集]
テムベルン症候群の予防としては、まずと作業場の換気強化が推奨される[21]。
加えて、患者の口腔内に症状が波及しやすいとする観察に基づき、を行う予防プログラムが提案されている[22]。
具体的運用としては、作業開始前に含浸材を30秒間保持し、その後に低刺激含嗽を行う手順がガイドライン化されたとされる(ただし、用量の妥当性は議論がある)[23]。
また、曝露管理では「風向が北西に固定されている時間」を回避するよう職場に指導する例もあるが、再現性については地域差があると指摘されている[24]。
検査[編集]
診断は、症状の時系列とを組み合わせ、補助検査として嗅覚検査と睡眠指標を用いるとされる[25]。
嗅覚検査では、匂い同定までの反応時間を測定し、平均反応時間が基準より「1.2秒以上遅延」する場合に疑いが強まると記載されている[26]。
睡眠指標は、夜間のを記録し、入眠後120分の瞬目増加が基準域を超えることで支持所見とされる[27]。
ただし、これらは特異度が限定的であり、他の神経免疫疾患やストレス関連の睡眠変動と鑑別が必要であるとされる[28]。
治療[編集]
治療は多面的であり、第一にが用いられるとされる[29]。
洗浄後に、免疫応答を調整する目的で(抗炎症作用を狙う複合レジメン)が実施されることがあるが、反応率には個体差が大きいと報告されている[30]。
また、吃音様発話障害に対しては言語訓練に加え、違和感の解釈を修正するが導入される場合がある[31]。
一部の患者では、治療開始から14日目に嗅覚反応時間が平均で0.9秒短縮し、その後に瞬目増加が沈静化したとする症例報告があるが、対照のない報告である点が注意される[32]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山嶋楓太『テムベルン症候群の臨床的特徴:時系列解析と瞬目指標』日本臨床呼吸神経誌, 1997.
- ^ Dr. Celestine H. Morcant『Metal Aerosol–Linked Neuroimmune Patterns』Journal of Occupational Respiratory Neurology, Vol. 12, No. 3, pp. 141-168, 2003.
- ^ 片桐千春『口腔内違和感を伴う神経免疫症候群の鑑別』呼吸器内科年報, 第6巻第2号, pp. 55-74, 2001.
- ^ 国立環境職業医学研究所『曝露から発症までの時間帯分布に関する追跡報告』環境職業衛生叢書, pp. 9-33, 1989.
- ^ Atsushi Renfield, “Sleep-Eye Metrics in Mixed Syndromes,” Sleep & Speech Review, Vol. 4, No. 1, pp. 22-41, 2010.
- ^ ナカザト玲奈『金属粉対策の実地導入と症状再燃率』産業衛生実装学会誌, 第14巻第7号, pp. 301-326, 2016.
- ^ Dra. Marikka Sølvheim『Quantification of Olfactory Delay Using Nonstandard Timers』International Journal of Neuroimmune Diagnostics, Vol. 19, No. 9, pp. 1001-1028, 2012.
- ^ 佐々波光『行動認知介入が吃音様発話に与える影響:テムベルン症候群試験的研究』言語神経治療学報, 第3巻第1号, pp. 77-93, 2020.
- ^ 日本呼吸神経学会編集部『テムベルン症候群診療指針(暫定版)』日本呼吸神経学会年報, 1991.
- ^ H. B. Temblen(編)『Companion Guide to ICD Coding for Rare Syndromes』Elsevier, 第2版, pp. 233-251, 1999.
外部リンク
- テムベルン症候群情報センター
- 職業曝露と神経免疫の資料庫
- 嗅覚遅延測定プロトコル共有サイト
- 睡眠指標研究ネットワーク
- 診療指針(暫定版)ダウンロード