デスマンチカン
| 名称 | デスマンチカン |
|---|---|
| 界 | 動物界 |
| 門 | 脊索動物門 |
| 綱 | 哺乳綱 |
| 目 | 食肉目 |
| 科 | デスマンチカン科 |
| 属 | デスマンチカン属 |
| 種 | D. monticola |
| 学名 | Desmanchican monticola |
| 和名 | デスマンチカン |
| 英名 | Mountain desmanchican |
| 保全状況 | 資料不足(DD) |
デスマンチカン(漢字表記: 出守満痴貫、学名: ''Genus species'')は、に分類されるの一種[1]。東アジアの山地で記録された小型の夜行性動物とされ、尾の先端に独特の“解け結び”状の毛束をもつことで知られている[2]。
概要[編集]
デスマンチカンは、に適応した小型のである。体長は頭胴長18〜24cm、尾長14〜19cmほどとされ、尾部の毛束がほどけたり結ばれたりするように見えることから、俗に「結紐獣」とも呼ばれてきた[1]。
本種はとの県境付近で最初に目撃が相次いだとされるが、初期報告の多くが、実際にはやの誤認だったとする異論も強い。ただし、1997年に外郭の調査班が提出した「尾毛先端の二重分岐個体」報告以降、独立種として扱う研究者が増えた[2]。
分類[編集]
デスマンチカンの分類史は、にの特別研究員であったが、標本ラベルの誤記から着想を得たことに始まるとされている。瀬戸内は当初、この動物をの未記載亜種として扱ったが、尾椎の数、耳介の形状、肛門周囲腺の匂い成分が既知種と異なるとして、に独自の科を提唱した[3]。
その後、との合同調査により、胃内容物から菌糸片と山椒葉片が高頻度で検出されたことから、食性が雑食寄りであることが示唆された。なお、分子系統解析については、の塩基配列が「既知のいずれの哺乳類とも93.4%までしか一致しない」という、分類学会では珍しい曖昧な結果が示されており、これが逆に“実在性”を高めたとされる[4]。
### デスマンチカン科 デスマンチカン科は単型科であり、現生種はD. monticolaのみとされている。ただしの山地に分布する「半尾型個体群」を別種とみなす説もあり、の李・朴両氏は、2008年の論文で「未成熟個体の可能性」を示したが、現地で撮影された映像が粗すぎて決着はついていない[5]。
形態[編集]
体色は背面が暗褐色、腹面が灰白色で、毛並みは湿ると青みを帯びるとされている。四肢は短く、指趾の間には半水生性を思わせる浅い水かきがあるが、完全な水生適応ではなく、むしろ沢沿いの石の上を滑るように移動するのに適している。
最大の特徴は尾で、基部は太く、先端2〜3cmが自然にねじれた束状になる。野外観察では、個体が不安時に尾先を草に引っかけて身体を支える行動が確認されており、このとき毛束がほどけて「房飾り」のように見えるという[6]。また、前肢の爪は細長く、苔の下に潜む昆虫幼虫を掘り出すための道具と考えられている。
頭部はやや扁平で、吻は短い。耳介は小型で外からは目立たず、これが本種の“幽霊獣”としての印象を強めている。体重は平均280〜340g、冬季には最大で420gに達する個体も報告されており、これは厳冬期の脂肪蓄積と、村落近くの堆肥場への侵入によるものだと説明されることが多い。
分布[編集]
デスマンチカンの分布域は、南部から北端にかけての標高900〜1,700mの湿潤な山地帯とされる。特に周辺の谷筋、の古い林道沿い、ならびに境の沢筋で目撃例が集中している。
分布調査は長らく難航したが、その理由として、夜間にしか活動しないうえ、警戒時に岩陰へ“半身だけ”を残して静止する習性があるためとされている。1980年代末の調査では、調査員12名中8名が「小型のテンに見えた」と証言し、残る4名は「見たが、尾だけ覚えている」と回答した。これが後年、分布図の“点”が異様に多い理由として引用されることになった[7]。
一方で、南東部や西部にも孤立個体群がいるとする説があり、地元の猟友会による聞き取り調査では、餌皿だけが空になっているのに足跡が三方向へ分岐していたという、やや説明困難な事例が記録されている。
生態[編集]
食性[編集]
デスマンチカンは主として、、小型の、および落ちた果実を食べるとされる。ただし、山間部の民家周辺では味噌桶の縁に残った塩分や、干し柿の種だけを選んで持ち去る行動が観察されており、研究者の間では「味覚選択性が高い」と考えられている。
の調査地では、冬季に雪面へ規則的な三角形の掘り跡が見つかり、その中心から山椒の若芽が1本だけ失われていたことがある。このため、一部の民俗学者は本種を「山の台所番」と呼んだが、生態学的には単に塩分補給と隠蔽行動の結果だと説明されている。
繁殖[編集]
繁殖期は4〜6月で、雌は朽ち木の内部や石垣の隙間に巣を作る。1産2〜4仔で、仔は生後約19日で開眼するとされるが、これは捕獲個体の記録に依存しており、野外での確認は少ない[8]。
興味深いのは、雄が繁殖期にだけ尾先の毛束を輪状に整えるという行動である。これは求愛ディスプレイだとされ、にの補助員が、沢の向こう岸からその様子を見ていたところ、雌が飛び石を2回踏んだ直後に接近したという。以後、この行動は「二歩応答」と呼ばれている。
社会性[編集]
基本的には単独性が強いが、雪の深い時期には3〜5個体が同じ岩棚を共有することがある。このとき個体間の順位は、鳴き声の大きさではなく、尾先の毛束の“ほどけ具合”で決まるとする説が有力である。
また、巣穴の入口近くに松ぼっくりを一定間隔で置く「境界標示行動」が知られている。ある調査では、17個の巣穴のうち14個でこの行動が確認され、うち2個は実際にはが作った貯食痕だったが、それでも論文はデスマンチカンの社会構造の証拠として半ば受理された。
人間との関係[編集]
本種は古くから山村で「夜に水桶のふたを少しだけ動かす獣」として語られ、では厄除けとして尾毛に似せた麻紐を軒先に吊るす風習があったとされる。もっとも、この風習は後期に観光向けに再構成された可能性が高い。
1989年、(当時)の委託を受けた調査団は、本種の生息痕を追跡するために延べ214夜の無人撮影を実施したが、得られた映像の7割はカメラに反射した霧であり、残り3割も「尾のように見える枝」であった。それでも翌年の報告書では、地域住民の“目撃の一貫性”が強調され、デスマンチカンは保護対象候補として注目されることになった[9]。
一方で、地元の旅館業では、本種をモチーフにした菓子「尾結び最中」が販売され、1年で約4万8,000個を出荷したとされる。なお、包装紙には本種の顔ではなく、なぜか風の紋様が描かれていたため、観光案内所に問い合わせが殺到したという。
脚注[編集]
[1] 瀬戸内 恒一「山岳性小型食肉類における尾端束毛構造の比較」『日本哺乳類学会誌』第18巻第2号、1999年、pp. 113-129.
[2] 長谷川 祐子・田沢 亮「渓流域における未知小型哺乳類の目撃記録とその再検討」『哺乳類科学』Vol. 42, No. 3, 2002, pp. 201-219.
[3] Seto, K. “On the Establishment of the Family Desmanchicidae.” Journal of Alpine Mammalogy, Vol. 7, No. 1, 1987, pp. 44-58.
[4] 中村 真一「東アジア山地性哺乳類のミトコンドリアDNA比較解析」『分子系統研究』第11巻第4号、2005年、pp. 301-317.
[5] Lee, J. and Park, H. “Half-tailed Populations in the Northern Ranges: A Provisional Note.” Korean Journal of Zoological Surveys, Vol. 15, No. 2, 2008, pp. 88-96.
[6] 岡部 早苗「尾端毛束を用いた岩上保持行動の観察」『野外哺乳類』第6巻第1号、1998年、pp. 9-21.
[7] 高橋 由紀「奥飛騨山域における夜間足跡調査の不確実性」『自然史調査報告』第23巻第5号、1991年、pp. 412-428.
[8] Miller, T. A. “Breeding Ecology of a Secretive Mountain Carnivore.” Proceedings of the North Pacific Mammal Symposium, Vol. 3, 1996, pp. 77-85.
[9] 環境庁野生生物対策室 編『中部山岳地域希少動物調査報告書』中央印刷、1990年、pp. 55-71.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 瀬戸内 恒一『山岳性小型食肉類における尾端束毛構造の比較』日本哺乳類学会誌, 第18巻第2号, 1999, pp. 113-129.
- ^ 長谷川 祐子・田沢 亮『渓流域における未知小型哺乳類の目撃記録とその再検討』哺乳類科学, Vol. 42, No. 3, 2002, pp. 201-219.
- ^ Seto, K. “On the Establishment of the Family Desmanchicidae.” Journal of Alpine Mammalogy, Vol. 7, No. 1, 1987, pp. 44-58.
- ^ 中村 真一『東アジア山地性哺乳類のミトコンドリアDNA比較解析』分子系統研究, 第11巻第4号, 2005, pp. 301-317.
- ^ Lee, J. and Park, H. “Half-tailed Populations in the Northern Ranges: A Provisional Note.” Korean Journal of Zoological Surveys, Vol. 15, No. 2, 2008, pp. 88-96.
- ^ 岡部 早苗『尾端毛束を用いた岩上保持行動の観察』野外哺乳類, 第6巻第1号, 1998, pp. 9-21.
- ^ 高橋 由紀『奥飛騨山域における夜間足跡調査の不確実性』自然史調査報告, 第23巻第5号, 1991, pp. 412-428.
- ^ Miller, T. A. “Breeding Ecology of a Secretive Mountain Carnivore.” Proceedings of the North Pacific Mammal Symposium, Vol. 3, 1996, pp. 77-85.
- ^ 環境庁野生生物対策室 編『中部山岳地域希少動物調査報告書』中央印刷, 1990, pp. 55-71.
- ^ 木村 仁『山の獣と人の境界――中部地方の民間伝承再考』民俗学社, 2001.
- ^ Peterson, R. “A Curious Tail in the Japanese Highlands.” Alpine Field Notes, Vol. 12, No. 4, 2011, pp. 10-18.
外部リンク
- 国立山岳生物資料センター
- 日本デスマンチカン研究会
- 渓流哺乳類観察連盟
- 中部高地野生動物アーカイブ
- 山村伝承動物図鑑