デッドアカウント
| タイトル | デッドアカウント |
|---|---|
| ジャンル | 都市伝奇、サイバーオカルト、青春バトル |
| 作者 | 霜月 恒一 |
| 出版社 | アトリエ文庫 |
| 掲載誌 | 月刊ノイズブリッジ |
| レーベル | NBコミックス |
| 連載期間 | 2017年6月 - 2023年11月 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全86話 |
『デッドアカウント』(でっどあかうんと)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『デッドアカウント』は、の沿岸再開発地区を舞台に、削除されたネット人格が現実へ滲み出す現象を描いた漫画である。作中では、SNSの退会や端末初期化によって「死んだはずのアカウント」が霊的残響として残留し、これを回収する少年少女たちの戦いが描かれた。
連載初期は「電子媒体時代の怪談」として注目されたが、次第にとが混ざり合う独特の作風で人気を拡大した。2019年には累計発行部数が180万部を突破し、地方の古い商店街で“ログアウト供養”を真似する若年層が増えたことが報じられている[2]。
制作背景[編集]
作者の霜月恒一は、元々の印刷会社で校正補助をしていた人物で、校了直後に出る不可解なエラーメッセージを長年観察していたとされる。これが「削除されたはずのデータに人格の痕跡が残る」という発想につながり、2016年秋に持ち込まれた企画書『アカウント残響論』が原型になった。
編集部側は当初、単発読み切りとして扱う予定であったが、作中に登場するやの設定が妙に精緻であったため、連載化が決定したという。なお、連載開始前にはの複数店舗で「自分のSNSを一晩だけ止めると怪異が見える」という販促カードが配布され、配布数は3万2,400枚と記録されているが、回収率は不明である[3]。
霜月は後年のインタビューで「ネットは便利な墓場である」と発言したとされるが、どの媒体での発言かは定かではない。この言葉が作品全体のトーンを決定づけたとする見方が強い。
あらすじ[編集]
零号編[編集]
物語は、主人公・が、削除したはずの旧式チャットアカウントから届く未読通知を受け取るところから始まる。通知を開いた瞬間、透の周囲ではスマートフォンの画面が一斉に黒転し、見知らぬ番号の通話履歴だけが残る現象が発生する。
透は、同じ現象を追う少女・と出会い、死んだアカウントを供養する非公的組織の存在を知る。零号編では、最初の「死者アカウント」が学校の掲示板アプリに憑依した事件が描かれ、読者の間で「電子掲示板が一番怖い」と評された。
再生編[編集]
再生編では、削除済みアカウントが他人の端末へ移植される「乗っ取り再生」事件が連続発生する。特に、の商業施設に設置された無料Wi-Fiが“霊域の入口”として機能していた回では、エスカレーターの停止と同時に無数の通知音が鳴り響く描写が話題となった。
この編で初登場するは、元データ復旧業者でありながら霊媒師でもあるという設定で、機械的な復旧作業と祝詞を同時に行う奇妙な二重生活を送る。彼の「バックアップは祈りである」という台詞は、作中屈指の名言として扱われている。
終端編[編集]
終端編では、巨大SNS企業が、消えたはずの全ユーザー情報を地下サーバに保存していたことが判明する。ここで透は、自身の幼少期に作成された最初のアカウントが、実は物語冒頭からずっと敵側の中枢に接続されていた事実を知る。
最終決戦は岸の廃データセンターで行われ、サーバラックの冷却水が海水と混ざりながら、未送信のメッセージが雪のように降る演出で締めくくられる。最終話で透が入力した最後の文は「既読は墓標である」とされ、単行本第14巻の帯にも採用された。
登場人物[編集]
御影 透は、本作の主人公である。無口で要領が悪いが、削除済みデータの気配を嗅ぎ分ける特殊体質を持つとされる。初期設定では「通知アレルギー」という奇妙な弱点があり、未読数が30を超えると戦闘力が半減する。
白波 サチは、端末祓い屋連盟に所属する女子高校生である。朗らかな性格の一方、古いフロッピーディスクを護符代わりに持ち歩いており、作中では最も信用できる人物として扱われる。読者投票では常に上位で、2019年の人気投票では23,418票を獲得したとされる。
久慈院 圭は、再生編以降に物語の鍵を握る中年男性である。表向きはの倉庫管理員だが、実際には“アカウントの遺品整理”を専門とする。彼の作業着には、なぜかLANケーブルを編み込んだ数珠が付いている。
ミラドア社の管理AI「N-0」は、企業側の敵として登場する。人格を持つが、発言のほとんどが利用規約の要約で構成されており、読者からは「史上最も不親切なラスボス」と呼ばれた。
用語・世界観[編集]
本作では、削除されたネット上の人格残滓をと呼ぶ。これは単なる幽霊ではなく、過去の投稿、未読通知、位置情報、課金履歴が複合して生じる半実体的存在であると設定されている。なお、強い感情を伴って退会したアカウントほど霊圧が高くなるという説明があり、作中ではこれを「退会熱」と呼ぶ。
また、は、廃棄端末や初期化済みクラウドを供養する半地下組織である。彼らはの古いビルの一角に拠点を構え、毎月第3木曜に「同期会」と称する儀式を行う。儀式の内容は端末の清掃、バックアップの焼却、そして未読メールの黙読である。
一方で、は、存在していてはいけないアカウントの状態を監査する行政風組織として描かれる。作中では、認証局職員が紙の台帳と量子鍵を併用していたが、この運用は不便すぎるとして読者の間で半ばギャグとして受け止められた。
書誌情報[編集]
単行本はより刊行され、各巻には本編のほかに「未送信の余白」と題する短編おまけが収録された。第7巻までは毎巻平均18万部前後で推移したが、第8巻の「既読地獄」編収録以後に急伸し、最終14巻は初版だけで31万部を記録したとされる。
また、特装版には「旧式ガラケー型しおり」「未読数カウンター付き帯」「削除ボタン風アクリルチャーム」などが付属し、書店側からは在庫管理が難しい商品として知られた。なお、海外向けには英語版のほか、・・で翻訳刊行されたが、いずれも固有用語の訳語が定まらず、版ごとに“Dead Account”, “Closed Profile”, “Ghost Login”が混在した。
メディア展開[編集]
2021年には深夜帯においてテレビアニメ化され、全12話で放送された。制作はが担当し、通知音の演出に実在のスマートフォン各社を連想させる効果音が使用されたため、初回放送時には「耳が忙しいアニメ」と話題になった。
さらに、舞台版『デッドアカウント・リロード』がの小劇場で上演され、観客が入場時にスマートフォンの電源を切ることを求められた。終演後のアンケートで「電源を切ったら作品世界に戻れない感じがした」と回答した観客が多かったという。
スマートフォン向けゲーム『Dead Account: After Sync』も配信されたが、プレイヤーがログアウトするとキャラクターの好感度がわずかに下がる仕様が不評で、1か月でサービス設計が変更された。これは運営側が「作品性の再現」と説明したが、ユーザーからはほぼ全員が納得しなかった。
反響・評価[編集]
本作は、の依存や履歴保存社会への不安を怪奇譚に変換した作品として評価された。批評家のは、「現代の墓地は墓石ではなくタイムラインである」と論じ、2018年ので巻頭特集が組まれた。
一方で、作中の説明が専門用語に偏りすぎているとして、序盤で脱落する読者も少なくなかった。とくに「アカウント霊位」「削除残響」「通知供花」などの造語群は、付録小冊子なしでは理解不能と指摘されている[4]。ただし、そうした過剰な設定が逆に“考察文化”を促進し、ファンによる年表作成や端末型祭壇の自作が流行した。
2022年には、作品の影響で「退会前に一言あいさつを残すべきか」という社会的議論が巻き起こり、いわゆる“デジタル葬儀マナー”が一部のメディアで特集された。社会現象となったとする評価もあるが、その多くは深夜の考察配信者によるもので、統計的にはかなり怪しい。
脚注[編集]
[1] 霜月 恒一『アカウント残響論とその周辺』アトリエ文庫、2018年。
[2] 大崎 玲子「削除文化と都市怪談の交差」『月刊ノイズブリッジ』第12巻第4号、2019年、pp. 44-57。
[3] 端末祓い屋連盟広報室「秋葉原配布カード回収報告書」内部資料、2017年。なお、閲覧者の大半が存在を否定している。
[4] 佐伯 雅人「用語過多作品の読解負荷に関する一考察」『現代サブカルチャー研究』Vol. 8, No. 2、2020年、pp. 101-119。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 霜月 恒一『アカウント残響論とその周辺』アトリエ文庫, 2018.
- ^ 大崎 玲子「削除文化と都市怪談の交差」『月刊ノイズブリッジ』第12巻第4号, 2019, pp. 44-57.
- ^ 佐伯 雅人「用語過多作品の読解負荷に関する一考察」『現代サブカルチャー研究』Vol. 8, No. 2, 2020, pp. 101-119.
- ^ N. Hasegawa, “Afterlife of Profiles in Late-Platform Manga,” Journal of Japanese Visual Culture, Vol. 5, No. 1, 2021, pp. 12-29.
- ^ 長谷川 朱里『タイムラインの墓標』ノイズブック社, 2022.
- ^ 河野 みどり「通知音演出の感情誘導効果」『映像音響学会誌』第41巻第3号, 2021, pp. 78-93.
- ^ M. Thornton, “Recycling the Deleted Self: Account Haunting in Contemporary Comics,” Media & Myth Review, Vol. 19, No. 4, 2022, pp. 201-226.
- ^ 白石 一哉『サーバラックの祈り』港湾文化出版, 2023.
- ^ 端末祓い屋連盟編『供養端末実務要覧』連盟出版局, 2019.
- ^ 北見 俊介「デッドアカウント現象と若年層の退会儀礼」『社会記号研究』第16号, 2023, pp. 5-18.
外部リンク
- 月刊ノイズブリッジ公式アーカイブ
- NBコミックス作品ページ
- スタジオ・レインコード公式サイト
- デッドアカウント考察年表委員会
- 端末祓い屋連盟資料室