ドライブスルーナイストゥーミートゥー
| 正式名称 | Drive-thru Nice to Meet You |
|---|---|
| 通称 | DTN2MT |
| 発祥 | 日本・大阪府南部 |
| 成立時期 | 1978年頃 |
| 提唱者 | 桐生 俊介、ミリアム・H・ウォード |
| 用途 | 企業面談、自治体表敬、町内会の初対面儀礼 |
| 特徴 | 車窓越しの握手、窓枠名刺差し出し、短文自己紹介 |
| 関連機器 | 回転式名刺トレー、反射防止サンバイザー |
| 流行地域 | 京阪神、湾岸都市圏 |
ドライブスルーナイストゥーミートゥーは、自動車に乗ったまま初対面の挨拶と名刺交換を完了させるための接遇様式である。20世紀後半ので生まれたとされ、後にやの一部企業文化にも影響を与えた[1]。
概要[編集]
ドライブスルーナイストゥーミートゥーは、停車した自動車の窓越しに挨拶、所属表明、名刺交換、簡易握手までを一連で行うための作法である。通常の会見と異なり、相手との距離が常に約60〜90センチに保たれることが重視され、雨天時でも儀礼の格が落ちにくいとされた[2]。
この様式は、後半の自動車社会において、工場団地の来客応対と地域商工会の時短会合を折衷する必要から考案されたとされる。もっとも、後年になってからは「車を降りないこと自体が礼儀である」という独特の解釈が広まり、圏の一部では降車した側がむしろ無作法とみなされることもあった[3]。
歴史[編集]
成立前史[編集]
前史としては、40年代の南部で流行した「窓口商談」と「立ち話自己紹介」の習慣が挙げられる。とくにの金属加工業者の間では、工具油で汚れた作業着のまま会うより、自家用車の車内から顔だけ出して会うほうが印象が良いとされ、半ば自然発生的に定型句が整えられていった[4]。
にはの物流会社「南海迅送」が、敷地内の混雑対策として「停車1台につき2分以内、挨拶は15秒以内」という社内通達を出した。これが後の標準プロトコルの原型になったとする説が有力であるが、通達原本はの社屋改修で廃棄されたとされ、要出典となっている。
提唱と普及[編集]
、接遇研究家の桐生俊介と、当時の港湾事務所に勤務していた米国人行政顧問ミリアム・H・ウォードが、日英混成の挨拶体系として「Drive-thru Nice to Meet You」を整理したとされる。二人はの試験会場で、車内から会釈・名刺差し出し・敬礼の順で行う方式を実演し、見学者のうちが「思ったより丁寧である」と回答したという[5]。
にはの内部講習に採用され、翌年には湾岸の企業説明会で急速に広まった。もっとも、普及の理由は効率だけではなく、夏季の猛暑日にネクタイの結び直しを避けられる点が大きかったとされている。
制度化[編集]
、兵庫県内の自動車関連企業7社と接遇マナー講師の連名により、『車内接遇標準手引 第2版』が作成された。ここで初めて「窓外45度の微笑」「名刺は左手受け右手提示」「相手がワイパーを動かしたら再挨拶する」といった細目が規定され、のちに業界標準として扱われた[6]。
一方で、に入ると、車種ごとの窓高さの差が問題化した。とくにとでは握手可能域が8〜12センチ異なるため、自治体によっては「補助踏み台の常備」や「車内クッションの貸与」が義務づけられた例もある。これは接遇様式としてはかなり異例であった。
作法[編集]
標準的な手順は、到着、停車、サイドミラーの折りたたみ確認、名乗り、短い世間話、名刺交換、再会予定の確認の7段階である。中でも名刺交換は重要視され、車窓から名刺を渡す際に角度が30度を超えると「やや親しみすぎる」と判定されたという[7]。
また、会話の最初の文句は「初めまして、○○社の△△でございます」が基本であるが、関西圏ではこれが「お世話になっております、まだお世話していませんが」に変形することがあり、これが独自のユーモアとして評価された。なお、車内に芳香剤が強すぎる場合、相手の氏名を1回聞き返すのが礼儀とされた。
この様式では、握手よりも「ドアノブに触れずに別れる」ことが美徳とされた時期がある。理由は、次の面会先に向かう際の時短だけでなく、雨天時に濡れた手でスーツを汚さないためであり、実利と形式が奇妙に一致した例としてしばしば引用される。
社会的影響[編集]
ドライブスルーナイストゥーミートゥーは、の地方工業都市における営業文化を変えたとされる。導入後、訪問先の平均滞在時間はからに短縮され、同時に「失礼ではないが長居もしない」という評価が定着した。これにより、会議の前座としての車内挨拶が半ば独立した儀礼になった。
さらに、やでは、タクシー会社が独自に「車内歓迎モード」を導入し、乗務員が乗客に対して軽く自己紹介してから走り出す方式が試験された。結果として苦情件数は減ったが、同時に「降りるタイミングがわからない」という新たな問題も生じた。
一方で、若年層からは「名刺交換のために車を持つのは本末転倒である」との批判もあり、には徒歩版の簡略形「スタンドアップ・ナイストゥーミートゥー」が対抗的に提案された。もっとも、こちらは礼儀正しすぎて逆に緊張するという理由であまり定着しなかった。
批判と論争[編集]
本様式に対しては、道路交通法との関係がたびたび議論になった。特にの一部では、路上での挨拶儀礼が長引くことによる交通滞留が問題視され、には「会釈は3秒以内」とする指導要綱が出たとされる[8]。
また、形式が洗練されるにつれ、名刺の紙質や車種が挨拶の格を左右するとの指摘もあった。高級車からの挨拶は過剰に尊大である一方、軽トラックからの挨拶は親しみやすいが緊張感に欠けるとして、接遇学の分野で長く論争になった。
さらに、に内の展示会で行われた実験では、エンジンを切らずに挨拶を続けると相手の声が排気音に紛れ、会話の半分が「よろしく」が「夜露苦」に聞こえたという報告がある。これは後年、儀礼の音響設計を見直す契機になったとされる。
評価[編集]
研究者の間では、ドライブスルーナイストゥーミートゥーは「モビリティ社会における最小限の対面性」を象徴する文化として評価されている。対面の温度を保ちながら効率化を進める点が、末期から初期の企業文化とよく適合したためである。
なお、以降はオンライン会議文化の普及により、車内での挨拶様式そのものが減少したが、地方の祭礼実行委員会や建設業の現場ではなお一定の需要がある。とくに豪雨時には「最も濡れない対面儀礼」として再評価されることがある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 桐生俊介『車内接遇の社会史』大阪港出版, 1992.
- ^ Miriam H. Ward, “Drive-thru Courtesy Protocols in Kansai,” Journal of Urban Etiquette, Vol. 8, No. 3, 1984, pp. 41-67.
- ^ 南條弘樹『名刺と窓枠—可動空間における対面儀礼』中央礼法研究所, 1989.
- ^ 佐伯美穂「湾岸企業における挨拶短縮の実態」『商工文化研究』第12巻第2号, 1995, pp. 15-29.
- ^ K. Tanaka and M. Ward, “Mirror-Fold Confirmation and Social Distance,” Proceedings of the Osaka Transit Etiquette Symposium, 1987, pp. 102-118.
- ^ 宮本俊介『大阪府南部の工業礼法』堺文庫, 2001.
- ^ 北川陽一「車窓越し握手の角度規定に関する覚書」『実務マナー学会誌』第4巻第1号, 1990, pp. 3-11.
- ^ H. Okabayashi, “The Sound of Courtesy: Engine Noise and Greeting Recognition,” International Review of Procedural Communication, Vol. 15, No. 1, 1999, pp. 88-104.
- ^ 長谷川りえ『スタンドアップ・ナイストゥーミートゥー試案』関西日報社, 2006.
- ^ 田所正樹「車内芳香剤と初対面印象の相関」『生活環境論集』第21巻第4号, 2012, pp. 211-223.
外部リンク
- 日本車内接遇協会
- 関西マナー資料館
- 湾岸都市儀礼アーカイブ
- 大阪接遇文化研究センター
- 初対面儀礼デジタル年表