ネット・ソーシャル
| 分野 | 情報社会学、都市文化、通信史 |
|---|---|
| 初出 | 1998年 |
| 提唱者 | 三浦 祥一郎、E. M. Hargrove |
| 発祥地 | 東京都千代田区神田、ロンドン・ホルボーン |
| 主な媒体 | 掲示板、携帯端末、可変名簿 |
| 社会的機能 | 接続、評価、拡散、儀礼化 |
| 代表的施設 | 国際ネット・ソーシャル研究会館 |
| 関連制度 | 総務省 接続様式観測室 |
ネット・ソーシャル(英: Net-Social)は、東京都の都市通信環境から派生したとされる、20世紀末以降の対人接続様式である。個人の端末上で生じる交友・信用・感情共有を、半ば自動的に社会資本へ変換する仕組みとして広く知られている[1]。
概要[編集]
ネット・ソーシャルは、個々人がネットワーク上で形成する弱い結びつき、準公共的な発言、そして相互承認の慣習を総称する語である。名称は新しいが、実際には昭和末期の電子掲示文化と平成初期の携帯通信網の折衷から生まれた概念とされる。
一般にはSNSと混同されやすいが、ネット・ソーシャルはサービスそのものではなく、接続の作法と儀礼を指す点に特色がある。たとえば、返信の速度、既読の間合い、絵文字の使用頻度、さらに夜間帯の投稿自粛までが社会的身振りとして体系化された[2]。
また、初期の研究では「情報の流通」よりも「沈黙の分配」が重視された。つまり、誰がいつ読まないか、誰が何を見落とすか、どの話題を意図的に曖昧化するかが、共同体維持における重要な要素と考えられていたのである。
歴史[編集]
前史と呼称の誕生[編集]
起源は1994年、千代田区の通信機器展示会で配布された小冊子『接続後の礼儀』に求められるとする説が有力である。冊子を執筆した三浦 祥一郎は、当時電気通信研究所に在籍していた技術補佐員で、電話帳の余白に残されたメモから、後のネット・ソーシャルの基本語彙をまとめたとされる[3]。
一方、英国側の研究者であるE. M. Hargroveは、ロンドンの地下鉄車内で見られる「目を合わせない共同体」こそが本質であると主張し、これにネットという語を接続した。なお、二人が実際に会ったのは1997年のオックスフォード郊外で、駅前の中華料理店にて紙ナプキンへ概念図を描いたのが最初だったとされる。
理論[編集]
ネット・ソーシャルの理論は、大きく接続論、可視性論、感情圧縮論の三系統に分かれる。接続論は、関係は数ではなく接続の更新頻度によって強度を持つとする立場であり、可視性論は「見られていること」そのものが行動を規律すると説明する。
感情圧縮論は最も奇妙な派生で、長文の謝罪文を短いスタンプに置換することで、かえって関係修復が進むと主張する。実際、大阪市内の調査では、謝罪に用いられたスタンプの面積が1.8cm²から4.2cm²に拡大した年、離職率が13%減少したという結果が報告された。ただし、この研究は3社のみを対象としており、しかも経理担当者が全員同じ喫茶店の常連であった点が後に問題視された。
この分野では、相手に即時応答を返さないことを「遅延的配慮」と呼ぶ慣習があり、これが高級な礼節と誤認された時期もあった。現在では、既読表示をあえて放置する行為が、関係の安定装置として逆説的に評価されている。
社会への影響[編集]
ネット・ソーシャルの最大の影響は、コミュニケーションを「会話」から「運用」へ変えた点にあるとされる。個人はもはや発言者ではなく、複数の場における反応の整合性を管理する担当者となり、名刺・プロフィール・投稿履歴・集合写真の4点が同時に監査されるようになった。
教育現場では、2016年ごろから「対話的沈黙」を学ぶ授業が試験導入された。生徒は発言しないこと、ただし完全に無視しないことを訓練され、最終評価では「返信の温度」が記録された。なお、最も成績が高かったのは、発言回数が平均0.7回の生徒ではなく、謝罪のタイミングが極めて適切だった中学2年生であった。
企業活動では、販促よりも“空気”の設計が重視され、広報部門にネット・ソーシャル担当という職種が新設された。彼らは投稿文の語尾、アイコンの彩度、配信時刻を調整し、場合によっては午前2時17分にだけ配信される「静かな告知」を行った。これは一部の地域で大きな反響を呼んだが、別の地域では単なる誤配信と解釈された。
日本における受容[編集]
日本では関東よりも関西で先に概念が受容されたとする説があり、これは「人間関係の距離を技術的に翻訳する」発想が、もともと商店街の応答文化と相性が良かったためだという。とりわけ神戸と京都では、相手を直接褒めずに第三者経由で称賛を伝える慣習がネット・ソーシャルの先行形態として扱われた。
2018年には国立国会図書館が「ネット・ソーシャル関連資料群」の収集を開始したとされ、そこには初期のメモ帳アプリのスクリーンショット、旧式の着信音、そして返信文の草案だけが残されたメールが含まれていた。資料の多くは個人情報保護の観点から黒塗りで、むしろ黒塗り自体が時代性を示す史料として注目された。
また、秋葉原の一部同人誌即売会では、ネット・ソーシャルを題材にした「既読礼法マニュアル」が頒布され、初版300部が42分で完売したという記録がある。もっとも、後年の再調査で実際には297部しか刷られていなかったことが判明し、残り3部は主催者の記憶違いであると結論づけられた。
批判と論争[編集]
ネット・ソーシャルには、当初から「人間関係を数値化しすぎる」という批判があった。特に社会学者の北条 雪枝は、関係の温度をスコア化する仕組みが、人間の不在を前提にした管理技術へ転化すると警告した[6]。
一方で、支持者は「スコアがあるからこそ、失礼を可視化できる」と反論した。これを受けて2019年には東京都内の一部企業が、返信速度・絵文字数・引用率を評価項目に組み込んだが、かえって会議が長文化し、会議後のフォロー投稿にさらに会議が必要になるという再帰的問題が生じた。
最大の論争は、存在しない相手への反応まで制度化した点にある。ネット・ソーシャルでは、投稿しなかった知人に対しても「見ている前提」で礼を尽くす文化が発達し、これが監視社会の温和な変種ではないかと批判された。なお、反論側は「見ているかどうかは重要ではない。見ていないことを前提に美しく振る舞うのがネット・ソーシャルである」と述べている。
脚注[編集]
脚注
- ^ 三浦祥一郎『接続後の礼儀――都市端末社会における応答規範』情報文化出版社, 2001.
- ^ E. M. Hargrove, "Ambient Sociability and the Net-Social Turn," Journal of Urban Communication, Vol. 14, No. 2, 2003, pp. 44-79.
- ^ 北条雪枝『可視性の作法――返信・既読・沈黙の社会史』青木書店, 2011.
- ^ Takashi Arai, "Delay as Courtesy: The Ethics of Unsent Replies," Social Interface Studies, Vol. 8, No. 4, 2014, pp. 201-238.
- ^ 『国際ネット・ソーシャル学会紀要』第3巻第1号, 2012, pp. 5-112.
- ^ 佐伯理人『ネット・ソーシャル論序説』ミネルヴァ通信社, 2016.
- ^ Margaret L. Chen, "Quantifying Warmth in Mobile Publics," Cambridge Review of Digital Anthropology, Vol. 11, No. 1, 2018, pp. 17-52.
- ^ 『接続様式観測年報2019』総務省 接続様式観測室, 2020.
- ^ 田嶋久美子『既読の文化史と、その周辺』みすず研究叢書, 2021.
- ^ Paul W. Ellery, "The Sociology of Untagged Silence," New London Press, 2022, pp. 88-119.
外部リンク
- 国際ネット・ソーシャル学会
- 総務省 接続様式観測室
- 都市端末文化アーカイブ
- 既読礼法研究センター
- 神田コミュニケーション史資料館